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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 先天性疾患

遺伝性フルクトース不耐症

Hereditary fructose intolerance

別名
HFIアルドラーゼB欠損症
臓器系
内分泌・代謝肝胆膵小児
科目
Biochemistry
トピック
生化学 4/5:フルクトース・ガラクトース・ラクトースの代謝(病的側面);グリコーゲンの代謝
上位概念
先天代謝異常症
鑑別疾患
古典型ガラクトース血症糖原病
合併症
Fanconi症候群肝硬変成長不良
症状
嘔吐肝腫大
検査値
低血糖

🧠 全体像は、B欠損により-1-リン酸が代謝されずに蓄積し、細胞内のを消費し尽くす(——この一本の機序がすべての症状を説明する。リン酸が枯渇すればATPも枯渇し、ATPを要する糖新生とが同時に止まって低血糖に陥る。臨床像・禁忌・治療はすべてこの因果の延長線上にある。

病態:リン酸トラップという一点から全身像へ

は正常経路ではフルクトキナーゼにより-1-リン酸となり、続いてB(肝・腎・小腸に発現)がこれをジヒドロキシアセトンリン酸とグリセルアルデヒドに分解してに合流させる。Bが欠損すると、この一段階だけが止まり、-1-リン酸だけが下流に進めず蓄積する。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fructose'>フルクトース</span>摂取(果汁・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sucrose'>スクロース</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sorbitol'>ソルビトール</span>)"] --> B["フルクトキナーゼ<br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='fructose'>フルクトース</span>-1-リン酸"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aldolase'>アルドラーゼ</span>Bは働くか"}
    C -->|"正常"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycolysis'>解糖系</span>へ合流"]
    C -->|"欠損(本症)"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fructose'>フルクトース</span>-1-リン酸が蓄積"]
    E --> F["細胞内の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inorganic phosphate'>無機リン酸</span>(Pi)を捕捉<br>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phosphate trapping'>リン酸トラップ</span>"]
    F --> G["ATP再生が追いつかずATP枯渇"]
    G --> H["糖新生の阻害"]
    G --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycogenolysis'>グリコーゲン分解</span>の阻害"]
    H --> J["グルカゴンに反応しない<br>重度の低血糖"]
    I --> J
    E --> K["肝・腎の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parenchymal cell'>実質細胞</span>障害<br>(ALT/AST上昇、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proximal tubular injury'>近位尿細管障害</span>)"]

💡 低血糖がグルカゴン抵抗性である理由はここにある。 糖新生・という血糖を上げる2つの経路が、どちらもATP依存の反応を含むためATP枯渇で同時に止まる。グルカゴンは「肝がグリコーゲンを分解し糖新生を進める」よう指令するホルモンだが、指令を受け取る側の代謝装置自体が動けなくなっているため、グルカゴン投与では低血糖が改善しない1

臨床像

発症は離乳食でを含む食品を導入した時点から始まる。 母乳のみの間は無症状だが、果汁・調製粉乳(成分を含むもの)・離乳食の開始とともに、嘔吐、低血糖、が出現する1

患者は経験的に甘い食品を避けるようになり、が極端に少ないという特徴的なエピソードを示す。 摂取のたびに低血糖・腹部症状という不快な経験をするため、多くの患者がのうちに糖分の多い食品を忌避するようになり、結果としての発生が少ないというな所見につながる2

⚠️ 含有輸液・薬剤のは致死的でありうる。 経口摂取なら早期に嘔吐・不快感で摂取が止まるが、静注では防御機序が働かず、急激なとATP枯渇により重篤な低血糖・肝不全・死亡に至りうる。過去に医原性の輸液による死亡例が報告されており、入院時は含有輸液(一部の栄養輸液・を含む製剤を含む)を避ける必要がある1

慢性に摂取が続くと、肝硬変)に進行しうる。診断・除去食開始が遅れるほど、この慢性障害とが進む。

本態性フルクトース尿症との対比

同じ経路の酵素欠損でも、どの酵素が欠けるかで臨床的な重みがまったく違う。

項目 本態性尿症
欠損酵素 B フルクトキナーゼ
蓄積物質 -1-リン酸(Piトラップを起こす) (無害、そのまま尿中に排泄)
症状 嘔吐・低血糖・肝腎障害・ 無症候、良性
負荷への反応 致死的になりうる(は禁忌) 無害
治療 生涯にわたる除去食が必須 治療不要

⚠️ 尿症」という名前だけで安心しない。 本態性尿症はフルクトキナーゼ欠損による良性所見にすぎないが、B欠損による致死的になりうる疾患である。両者は蓄積する物質が違う(そのものか、リン酸化された-1-リン酸か)という一点で重症度が決定的に分かれる。

診断

が第一選択の確定検査である。 高感度・非侵襲的であり、侵襲的なB活性測定)に代わる位置づけになっている12

⚠️ は行わない。 重篤な低血糖・死亡例が報告されており、診断目的でを投与することは禁忌である12

低血糖+という組み合わせでは、も鑑別に挙がる。いずれも〜乳児期に・低血糖で発症しうるが、発症契機(導入 vs 乳糖〈授乳〉開始 vs 空腹時)と特異的な酵素検査・で鑑別する。

治療

を含む食品の生涯にわたる除去食が治療の基本である1。多くの果物・野菜・加工食品にが含まれるため、栄養士と連携した具体的な食品指導が必要になる。早期に除去食を開始し順守できれば、は消失し、正常な成長・発達を遂げることができる——この点は、除去食を継続しても慢性合併症が残るとは対照的である。

まとめ

  • B欠損により、-1-リン酸が蓄積して細胞内リン酸を消費し尽くす()ため、ATP枯渇→糖新生・の同時停止→低血糖という一本の機序で理解する。
  • 離乳食でを導入した時点から嘔吐・低血糖・を来し、患者はを避けるためが少ないという特徴的なエピソードを示す。
  • 含有輸液・薬剤のは致死的になりうるため、入院時は特に注意する。
  • 診断はALDOBが第一選択で、危険なは行わない。
  • 治療は生涯の除去食のみで、早期に開始・順守できれば正常な生活を送れる点がと対照的である。
  • 本態性尿症(フルクトキナーゼ欠損)は無症候・良性で、本症とは重症度がまったく異なる。

出典

  1. 1.Hereditary Fructose Intolerance(GeneReviews(University of Washington, Seattle)・2021)アルドラーゼBが欠損するとフルクトース-1-リン酸が蓄積し、糖新生・グリコーゲン分解を阻害してATPの過剰消費と再生障害を来すこと(Molecular Pathogenesis節)、離乳食で果糖・スクロースを導入する時期に発症するが乳児用調製粉乳への果糖成分添加により生後5〜6か月より早期に発症しうること(Clinical Description節)、フルクトース負荷試験は死亡例があり実施すべきでないこと、ALDOB遺伝子検査の感度の高さから肝生検に代わる第一選択の確定検査になっていること(Establishing the Diagnosis節)、入院時はフルクトース含有輸液の使用を避けるべきで過去に医原性のフルクトース輸液による死亡例が本症への注意喚起につながったこと、治療の基本がフルクトース・スクロース・ソルビトールの除去食であることを確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.Hereditary Fructose Intolerance(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)有病率が1万人に1人から6万人に1人まで報告に幅があること、常染色体劣性遺伝で性差がないこと、患者の一部が糖含有食品への強い忌避(aversion)を示すこと(Newbrun 1980の食習慣・歯科健康調査を引用し、糖摂取制限によるう蝕減少を示唆)、アルドラーゼB分子遺伝学的検査が非侵襲的で高感度なため第一選択の確定検査であること、フルクトース負荷試験は重篤な低血糖を誘発しうるため日常的には行われないことを確認した閲覧 2026-08-11