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Disease Atlas · 全身 · 病態

成長不良

Failure to thrive (faltering growth)

別名
FTT体重増加不良発育不良
臓器系
全身
科目
Pediatrics
トピック
小児科 1-26:乳幼児・小児の成長不良小児科 2-08:栄養不良の定義・原因・評価
続発疾患
くる病・骨軟化症
関連疾患
小児虐待・非事故性外傷
元疾患
遺伝性フルクトース不耐症
原因となる疾患
セリアック病摂食症(神経性やせ症・過食症)乳糖不耐症嚢胞性線維症

🧠 全体像は病名ではなく「期待される体重増加が得られていない」という所見であり、最終的な機序は例外なくエネルギー・栄養素の負のバランスに帰着する。診断の骨格は3点——(1) 単一時点のではなくをどれだけ下方に横切ったかで判断する、(2) 機序は摂取不足・吸収不良・需要増大の3つに整理でき、圧倒的多数は摂取不足である、(3) したがって病歴と授乳・食事場面の観察が網羅的な検査に勝る

用語の変遷

⭐ この領域で最も問われるのは「なぜ failure to thrive という呼称を避けるのか」である。理由は2つある。

  • 原因帰属的・非難的な響き:failure(失敗)という語は、養育者に「育て方が失敗した」という含意を突きつける。実際には疾患が背景にある例も、貧困やが背景にある例も多く、非難的な枠組みは家族を医療から遠ざけ、その後の栄養介入を難しくする。
  • 明確な単一定義がない:どの指標がどれだけ低ければ該当するのかについて統一基準が存在せず、施設ごとに別々の閾値が使われてきた。

英国の NICE ガイドライン(NG75)は faltering growth を、2026年に公表された米国小児科学会(AAP)と NASPGHAN の共同ガイドラインは faltering weight を採用した。いずれも「成長(体重)が失速している」という現象の記述に徹し、原因の含意を排した語である。では「」「体重増加不良」がこれに対応する。

定義

重要なのは、ある1点の測定値が低いこと自体ではない。両親とも小柄な児が2の線に沿って正常な速度で伸びていればではなく、逆に90から25へ落ちてきた児は、なお平均以上でもである。

基準 内容
NICE(NG75):出生体重別の下方交差 出生体重が9未満なら1本、9〜91なら2本、91超なら3本以上の曲線を下方に横切ることを懸念の閾値とする
NICE(NG75):静的な閾値 出生体重にかかわらず、現在の年齢別体重が2未満
AAP/NASPGHAN 2026 次のいずれか:身長別体重または年齢別BMIが−1.65 z未満(5)/2歳未満で体重増−2 z未満/体重・身長別体重・BMIの1 z以上の低下

💡 出生体重が大きいほど必要な交差本数が多いのは、大きく生まれた児が遺伝的に定まった自分の曲線へ下りてくること(後述の)が生理的だからであり、これを病的と誤認しないための設計である。

病態

flowchart TD
    A["成長に必要なエネルギー・栄養素が不足"] --> B["摂取不足"]
    A --> C["吸収不良・喪失"]
    A --> D["需要増大・利用障害"]
    B --> E["授乳手技・調乳の誤り、食料不安、口腔・嚥下の問題、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neglect'>ネグレクト</span>"]
    C --> F["セリアック病、嚢胞性線維症、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cow&#39;s milk protein allergy'>牛乳蛋白アレルギー</span>、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic diarrhea'>慢性下痢</span>"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='congenital heart disease (CHD)'>先天性心疾患</span>、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic lung disease'>慢性肺疾患</span>、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic infection'>慢性感染</span>症、甲状腺機能亢進症"]
    E --> H["エネルギーの負のバランス"]
    F --> H
    G --> H
    H --> I["まず体重が停滞・減少する"]
    I --> J["遷延すると身長の伸びが鈍化する"]
    J --> K["重症・長期では<span class='jp-term jp-term-diagram' title='head circumference'>頭囲</span>の増加も障害される"]

⚠️ かつて用いられた「」のは現在推奨されない。両者は実際にはしばしば併存し、混合型が最も多いためである。の児は需要が増大するうえ易疲労で哺乳量も落ち(摂取不足)、慢性疾患をもつ児の育児負担は家庭をさせて養育環境そのものを悪化させる。「が否定されたから養育の問題」という排他的推論は誤りである。

原因

機序 代表的な原因 手がかり
摂取不足(最多) 授乳手技の問題・母乳分泌不足、調乳の誤り(希釈しすぎ・濃すぎ)、貧困・食料不安、など口腔の問題、等による嚥下障害、 食事歴と授乳・食事の観察で判明する。まず体重が停滞する
吸収不良・喪失 セリアック病嚢胞性線維症 ・腹部膨満・浮腫。食欲は保たれることが多い
需要増大・利用障害 (非チアノーゼ性・チアノーゼ性))、症(HIV・結核)、甲状腺機能亢進症、 頻呼吸・多汗・発熱・慢性炎症所見。摂取量は十分でも増えない

臨床像

  • 栄養不足では体重 → 身長 → の順に影響が及ぶ。この順序が崩れている場合は別の機序を疑う。
  • 体重より身長が先に・強く障害される場合は、内分泌疾患(症)やを考える。栄養性のと異なり、こうした児はしばしばに比して「ふっくら」して見える。
  • 出生時からも小さい場合は、、遺伝疾患、中枢神経の一次的異常を疑う。
  • 遷延すると易感染性、創傷治癒遅延、発達の遅れに加え、微量栄養素欠乏(くる病・)を伴う。

鑑別すべき正常変異

病態 の経過 最終身長
乳幼児期に曲線を下方に外れた後、低い曲線に沿って正常速度で伸びる。思春期発来も遅い 暦年齢より遅れる 正常
出生時から一貫して低い曲線に沿う 暦年齢と一致 低い(両親の身長に見合う)
生後数か月〜18か月頃に遺伝的に定まった曲線まで下方移動し、以後は安定する 正常 正常

💡 いずれもそのものは正常で、児は活発・機嫌良好で発達も順調である。両親の身長からの目標身長の算出と、下方移動が「停止して新しい曲線に沿う」かの確認が鑑別の要になる。

診断

⭐ 評価の中心は病歴と、実際の授乳・食事場面の観察である。網羅的なをルーチンに行うことは推奨されない。古典的な検討では、施行された検査のうち診断に寄与したのは約1.4%にすぎず、しかも陽性であった症例はすべて病歴・診察から疾患が既に示唆されていた。AAP/NASPGHAN 2026も初期評価でのルーチンの検査と内視鏡を強く非推奨とし、特定疾患を疑う所見があるとき、または栄養介入に反応しないときに限って仮説に沿った検査を行うとした。

  • 測定の確認:器差、脱衣の有無、記録ミスは頻繁に起こる。異常値を見たらまず測り直す。
  • の正しい使用:0〜2歳はWHO成長基準(母乳栄養児を基準集団とする)、以降は各国の成長基準を用いる。早産児は2歳頃まで在胎週数で補正したでプロットする。
  • 食事歴:24時間思い出し法、調乳の濃度と回数、1回の授乳時間、の内容と開始時期、食事環境・回数。
  • 授乳・食事の観察と嚥下の協調、むせ、途中での疲労、姿勢、養育者と児の相互作用。
  • 全身の診察:発達、口腔、心肺、腹部、皮膚、筋緊張、浮腫、および虐待を示唆する所見。
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth chart'>成長曲線</span>で体重増加不良に気づく"] --> B["測定値を再確認し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corrected age'>修正月齢</span>で再プロット"]
    B --> C{"正常変異で説明できるか"}
    C -->|"はい:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth velocity'>成長速度</span>は正常"| D["保護者へ説明し経過観察"]
    C -->|"いいえ"| E["詳細な食事歴と授乳・食事場面の観察"]
    E --> F{"特定疾患を示唆する所見があるか"}
    F -->|"あり"| G["仮説に沿った検査:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-tissue transglutaminase (TG2) antibody'>抗TG2抗体</span>、汗Cl、便中脂肪など"]
    F -->|"なし"| H["栄養強化と多職種介入を開始"]
    H --> I{"期待した体重増加が得られるか"}
    I -->|"いいえ"| G
    I -->|"はい"| J["間隔を空けて経過観察を継続"]

⚠️ AAP/NASPGHAN 2026は、社会経済的状態そのものを診断上のリスク因子として用いないことを条件付きで推奨している。食料不安は介入すべき決定要因だが、「貧困だから」という短絡は評価を歪め、貧困でない家庭の疾患を見逃す。

治療

  • 栄養強化が中心。AAP/NASPGHAN 2026は摂取エネルギーの増量()を強く推奨し、経口の追加を条件付きで推奨する。母乳栄養児ではまず授乳支援(姿勢・頻度・分泌量の評価)を行い、安易に母乳を中止しない。
  • 原因疾患の治療:セリアック病の除去食、嚢胞性線維症のなど。
  • 多職種介入:栄養士、授乳支援(助産師・支援者)、保健師、摂食嚥下を診るが関わる。養育者が摂食の困難を訴える場合は摂食に対する介入を検討する(条件付き推奨)。
  • 経過観察の頻度:頻回すぎる体重測定はかえって保護者の不安を煽るため、NICEは月齢に応じた体重測定頻度の上限を定め、身長・体長の測定は3か月に1回を超えない頻度とするよう勧めている。
  • 入院の適応:重度脱水・低血糖・電解質異常、急速な体重減少、医学的な不安定、外来での介入がしない場合、または養育環境の安全が確保できない場合。

⚠️ :重度の児にエネルギーを再投与すると、の再開により P・K・Mg が急速に細胞内へ移動し、を中心に不整脈・心不全・呼吸不全・意識障害・溶血を来す。ASPEN 2020の合意基準では、栄養再開後5日以内に血清 P・K・Mg のいずれかが10〜20%低下=軽症、20〜30%=中等症、30%超または臓器障害・を伴う=重症とする。エネルギーは低量から漸増し、開始前と開始後に電解質を繰り返し測定・補正し、を補充する。

虐待・ネグレクトの位置づけ

⚠️ を含む虐待はの重要な原因であり、常に鑑別に置く。同時に、=虐待ではないことを明確に理解しておく必要がある。

  • 疑いを強める所見:定期受診やの欠落、養育者の説明と実際の食事内容の乖離、入院・環境変更で速やかに体重が増える、他の所見(説明のつかない・骨折)、養育者の抑うつ・物質使用。詳細はを参照。
  • 一方、疾患、母乳分泌不足、調乳の知識不足、食料不安はいずれも虐待ではなく、非難ではなく支援を要する状況である。誤った判断は家族との信頼を破壊し、その後の栄養介入を不可能にする。
  • 判断は単独の所見ではなく、医学的評価・評価を統合し、多職種で行う。

まとめ

  • failure to thrive という旧称は非難的であり単一の明確な定義を欠くため、faltering growth(NICE)や faltering weight(AAP/NASPGHAN)という現象記述的な呼称へ置き換えられつつある。
  • 診断は単一時点のではなく下方交差の程度で行う。NICEは出生体重が9未満/9〜91/91超に応じて1本・2本・3本の交差を閾値とし、AAP/NASPGHAN 2026は z スコアに基づく基準を採用した。
  • 機序は摂取不足・吸収不良・需要増大の3つに整理する。/非は併存が常であるため推奨されない。
  • 網羅的なは診断が極めて低い。病歴と授乳・食事の観察を尽くし、検査は仮説に沿って選択する。
  • が正常な正常変異であり、と区別する。
  • 治療は栄養強化と原因疾患の治療を多職種で並行して行う。重度ではに備える。
  • を含む虐待は常に鑑別に置くが、を虐待と同一視してはならない。