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Disease Atlas · 消化器 · 疾患

セリアック病

Celiac disease

別名
セリアックスプルーグルテン過敏性腸症
臓器系
消化器免疫・膠原病
科目
PathologyInternal MedicinePediatrics
トピック
病理学 C/37:吸収不良症候群内科学 G-02:小腸疾患・吸収不良・消化不良小児科 3-42:吸収不良:セリアック病・乳糖不耐・果糖吸収不良
鑑別疾患
Whipple病クローン病顕微鏡的大腸炎小腸内細菌異常増殖短腸症候群熱帯性スプルー膵外分泌不全
続発疾患
非ホジキンリンパ腫骨粗鬆症自己免疫性水疱症(天疱瘡・水疱性類天疱瘡)成長不良くる病・骨軟化症乳糖不耐症
関連疾患
1型糖尿病Williams症候群ダウン症候群(21トリソミー)甲状腺機能低下症自己免疫性肝炎食物アレルギー
治療薬
ブデソニドダプソン
症状
下痢倦怠感小水疱掻痒体重減少頭痛皮疹
検査値
抗体価
組織像
セリアック病
下位分類
疱疹状皮膚炎

🧠 全体像:セリアック病は「+環境因子()+免疫応答(を介した)」の3点セットで発症する全身性自己免疫疾患である。診断は摂取を続けたまま行う血清学(tTG-IgA+総IgA)を起点とし、成人はで確定する一方、小児では高力価と条件を満たせば無生検診断が選べる。唯一の治療は生涯厳格な除去食で、それ以外の薬物療法はない。

疫学・遺伝的背景

セリアック病は先進国で人口の約1%が罹患する頻度の高い自己免疫疾患で、女性にやや多い。

因子 要点
HLA関連 患者のほぼ全例HLA-DQ2またはHLA-DQ8を保有する。ただし一般人口の30〜40%もこれらの遺伝子を持つため、陽性だけでは診断できない(陰性であれば発症をほぼ除外できる点が臨床的に有用)
家族歴 第1度近親者では約10%に上昇する
合併しやすい自己免疫疾患 1型糖尿病、自己免疫性肝疾患
合併しやすい染色体異常 、Turner症候群、Williams症候群
環境因子 乳児期の導入時期・間との関連は研究により一貫しないが、やウイルス感染(等)が発症の引き金になりうるとする報告がある

⭐ 第1度近親者、1型糖尿病、、Down/Turner/Williams症候群はいずれも無症候でも血清学スクリーニングを検討すべき高リスク群である。

病態

flowchart TD
    A["小麦・大麦・ライ麦由来の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gluten'>グルテン</span>摂取"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='digestive enzyme'>消化酵素</span>に抵抗性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gliadin'>グリアジン</span>ペプチドが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal lumen'>腸管腔</span>内に残存"]
    B --> C["上皮を透過し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lamina propria'>粘膜固有層</span>へ到達"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tTG'>組織トランスグルタミナーゼ</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gliadin'>グリアジン</span>を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deamidation'>脱アミド化</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deamidation'>脱アミド化</span>ペプチドがHLA-DQ2/DQ8を持つ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antigen-presenting cell (APC)'>抗原提示細胞</span>に結合"]
    E --> F["CD4陽性T細胞が活性化し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory cytokine'>炎症性サイトカイン</span>を産生"]
    F --> G["上皮内<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CD8-positive T cell'>CD8陽性T細胞</span>が細胞傷害性に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal epithelial cell'>腸上皮細胞</span>を破壊"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='villous atrophy'>絨毛萎縮</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='crypt hyperplasia'>陰窩過形成</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraepithelial lymphocyte'>上皮内リンパ球</span>増加"]
    H --> I["小腸吸収面積の減少 → 吸収不良"]

💡 そのものではなく、されたがHLA-DQ2/DQ8へのを高めることが免疫応答のスイッチとなる。は単なるではなく、それ自体が抗tTG抗体(tTG-IgA)の標的抗原でもあり、診断的血清学の根拠になっている。

⚠️ 「=セリアック病」と早合点しない。、感染症、、薬剤性腸症(オルメサルタン等)、コモン・バリ(CVID)関連腸症などでも同様の組織像を来しうるため、血清学・臨床像・除去食への反応を統合して診断する。

臨床像

セリアック病の臨床像は「(吸収不良症状が前景)」「非(消化管外症状が前景)」「(血清学陽性のみ)」に大別され、いずれも組織学的には同程度の腸管障害を伴いうる。

病型 主な症候
(吸収不良型) 、腹部膨満、体重減少、小児では
(消化管外型) (治療抵抗性のことが多い)、骨量低下・症、、末梢神経障害・失調、頭痛、、不妊・習慣流産、歯の、反復性
症状を欠くが血清学陽性+を認める。高リスク群のスクリーニングで発見される
セリアック病の皮膚型ともいえる病型。肘・膝・に左右対称の強いを伴う小水疱が生じ、皮膚生検のIgA沈着を認める。ほとんどの症例で(消化器症状の有無にかかわらず)小腸生検でを伴う。皮疹は除去食で軽快するが、初期にはを制御することが多い。詳細はノートを参照

⭐ 現在はより多く診断される。や骨量低下の精査でセリアック病が発見される頻度は、下痢・に受診する頻度より高い。

診断

診断はを含む食事を続けたまま行う。除去食を先に始めると血清学・組織所見がともに偽陰性化しうる。

flowchart TD
    A["症状または高リスク背景<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='gluten'>グルテン</span>摂取中に検査"] --> B["tTG-IgA+総IgAを測定"]
    B --> C{"総IgAが欠乏か?"}
    C -->|"はい"| D["DGP-IgGまたはtTG-IgGで再評価"]
    C -->|"いいえ"| E{"tTG-IgAの結果は?"}
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper gastrointestinal endoscopy'>上部消化管内視鏡</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='duodenal biopsy'>十二指腸生検</span>"]
    E -->|"陰性"| G["セリアック病の可能性は低い"]
    E -->|"陽性・10×ULN未満"| F
    E -->|"≥10×ULN"| H["別検体でEMA-IgAを確認"]
    H -->|"陽性"| I{"小児か成人か?"}
    I -->|"小児"| J["専門医・保護者との<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='shared decision-making'>共同意思決定</span>で無生検診断が可能"]
    I -->|"成人"| F
    H -->|"陰性"| F
    F --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Marsh-Oberhuber classification'>Marsh-Oberhuber分類</span>で組織学的重症度を評価"]
    K --> L["血清学・組織・臨床像を統合して確定"]

血清学

検査 位置づけ
tTG-IgA(IgA抗体) 第一選択の。感度・特異度ともに高い
総IgA tTG-IgAと同時に測定必須。(一般人口の約100人に1人だがセリアック病患者ではより高頻度)ではtTG-IgAが偽陰性になるため
DGP-IgG/tTG-IgG(ペプチドIgG抗体) IgA欠損例や2歳未満の乳児で使用する代替検査
EMA-IgA(抗endomysium抗体) 特異度が最も高いがが高く高コスト。無生検診断パスウェイのとして、また血清学と組織所見が乖離する場合の補助に用いる

十二指腸生検とMarsh-Oberhuber分類

⭐ 成人では摂取下での+十二指腸多部位生検(球部1個以上+下行部以遠4個以上)が診断確定のである。ACG 2023年版ガイドラインでも、内視鏡を希望しない・施行できない成人に限り、tTG-IgA≥10×ULN+別検体でのEMA-IgA陽性という血清学のみで「確からしいセリアック病」と判断する運用を許容しているが、これは生検を代替するものではなく、可能な限りEGDでの確定を推奨する立場である。

組織像
Type 0 正常粘膜
Type 1(浸潤期) 絨毛構造は正常、のみ増加
Type 2(浸潤・過形成期) 増加+、絨毛はまだ保たれる
Type 3a〜3c(平坦・破壊期) (3a:軽度/3b:中等度/3c:完全消失)+増加

小児の無生検診断(ESPGHAN基準)

⭐ ESPGHAN(欧州小児消化器肝臓栄養学会)2020年改訂ガイドラインでは、症候の有無を問わず、①tTG-IgAがの10倍以上、②別の血液検体でEMA-IgAが陽性、の2条件を満たす小児は、専門医と保護者ののもとでを省略して診断確定してよい。2012年版で必須とされていたHLA-DQ2/DQ8検査は、この無生検パスウェイにおいて現行版では不要となった点に注意する。

⚠️ 「無生検診断は成人にも適用できる」と単純化しない。ACGは血清学のみでの「確からしい」診断を成人の一部(内視鏡が困難な例)に限定的に許容するにとどまり、ESPGHANの無生検パスウェイは小児に限定した基準である。

HLA-DQ2/DQ8検査の使いどころ

HLA検査そのものは診断確定に使わない(前述の通り陽性率が高すぎる)。陰性所見によりセリアック病をほぼ除外できるため、①既に除去食を開始した後で診断を遡って検討する場合、②血清学と組織所見が乖離する場合、③無生検診断パスウェイで血清学的にHLA確認が不要となった後も残る個別の除外目的、などに限定して用いる。

治療とモニタリング

生涯のグルテン除去食

治療の中心は生涯にわたる厳格な除去食であり、小麦・大麦・ライ麦とそれらを含む加工食品(ブルグル、クスクス、麦芽など)を完全に避け、交差汚染にも注意する。純粋な非汚染オーツ麦は多くの患者でされるが、通常の流通品は小麦との交差汚染リスクがあるため「フリー」表示品を選ぶ。

  • 管理栄養士による食事指導を受けることが継続的な遵守率向上につながる。
  • 診断時に鉄、葉酸、ビタミンB12、カルシウム、ビタミンDなどの欠乏を評価し補充する。
  • 評価、を伴う例への接種など、長期合併症への対応を個別に検討する。
  • 経過観察では症状の改善に加え、tTG-IgAの低下を遵守の指標として追跡する。より先行して低下することが多い。

反応不良例への対応

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gluten'>グルテン</span>除去食開始後も症状・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antibody titer'>抗体価</span>が改善しない"] --> B["食事の遵守状況と交差汚染を再確認"]
    B --> C{"遵守は良好か?"}
    C -->|"いいえ"| D["管理栄養士による再指導"]
    C -->|"はい"| E["診断の再検討(他疾患の除外)"]
    E --> F{"他疾患・二次性乳糖不耐・SIBOなどを除外できたか?"}
    F -->|"いいえ"| G["該当する合併病態を治療"]
    F -->|"はい"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='refractory celiac disease'>難治性セリアック病</span>を疑う"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flow cytometry'>フローサイトメトリー</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immunohistochemistry (IHC)'>免疫組織化学</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='T-cell receptor gene rearrangement'>T細胞受容体遺伝子再構成</span>で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraepithelial lymphocyte'>上皮内リンパ球</span>の性状を評価"]
    I --> J{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraepithelial lymphocyte'>上皮内リンパ球</span>は正常表現型か?"}
    J -->|"はい(1型)"| K["経口<span class='jp-term jp-term-diagram' title='budesonide'>ブデソニド</span>などのステロイドを第一選択とする"]
    J -->|"いいえ・異常クローン集団(2型)"| L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enteropathy-associated T-cell lymphoma'>腸管関連T細胞リンパ腫</span>(EATL)を<br>画像・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capsule endoscopy'>カプセル内視鏡</span>で除外しつつ専門施設で管理"]

⚠️ 除去食を開始しても症状が持続する最多の原因は意図しない・不十分な曝露であり、いきなりを疑う前に食事内容を丁寧に見直す。

  • は、厳格な除去食を12か月以上継続しても症状・組織所見が改善しない状態と定義される。
  • 1型が正常表現型)と2型(異常なクローン性集団を伴う、に近い病態)に分類され、いずれも第一選択治療は経口(またはなどの全身性ステロイド)である。
  • 2型は(EATL)へ進展するリスクが高く、初期評価として・CTまたはMRやリンパ腫を除外する。ステロイドに反応しない例は専門施設への紹介や組み入れを検討する。

まとめ

  • セリアック病はHLA-DQ2/DQ8を背景に、中のされて免疫応答を引き起こし、・吸収不良を来す全身性自己免疫疾患である。
  • 臨床像は古典的な吸収不良型だけでなく、・骨量低下などの非、皮膚型()まで幅広い。
  • 診断は摂取中にtTG-IgA+総IgAで開始し、IgA欠損例ではDGP-IgG/tTG-IgGを用いる。成人はで評価)が診断のである。
  • ESPGHAN 2020年改訂基準では、tTG-IgA≥10×ULN+別検体でのEMA-IgA陽性を満たす小児に限り、HLA検査を要さず生検を省略した診断が可能である。
  • 治療は生涯の除去食のみで、薬物治療の主役はない。反応不良例ではまず食事遵守を確認し、(1型・2型)を疑う場合はの性状評価とEATL除外を行い、ステロイド()を第一選択とする。