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Disease Atlas · 消化器 · 疾患

ストレス潰瘍

Stress ulcer

別名
ストレス関連粘膜病変Curling潰瘍Cushing潰瘍stress-related mucosal diseaseSRMD
臓器系
消化器
科目
AnesthesiologyInternal Medicine
トピック
麻酔科学 A-09:敗血症・敗血症性ショック・多臓器障害麻酔科学 A-13:急性呼吸窮迫症候群の病態・症状・診断・治療内科学 L-71:敗血症
上位概念
胃炎
鑑別疾患
消化性潰瘍
続発疾患
消化管出血(上部・下部)
治療薬
エスオメプラゾールファモチジンスクラルファート
症状
吐血下血出血性ショック
検査値
血算

🧠 全体像は、重症患者の粘膜防御能そのものが破綻して生じる急性びらん性胃炎の重症型で、が主因の消化性潰瘍とは機序が異なる。診療の幹は、①人工呼吸・凝固異常という古典的な二大危険因子を覚える、②これらを持つ重症患者にはPPIまたはH₂受容体拮抗薬で予防投与する、③予防投与が死亡率を改善するという確たる証拠はなく、肺炎など見落とされがちなコストとの兼ね合いで「誰に予防するか」を絞り込む方向へ議論が進んでいる、の3段階である。

病態

消化性潰瘍が酸・というの相対的過剰で説明されるのに対し、は重症病態そのものによる粘膜防御の破綻が主因である。

flowchart TD
    A["重症病態<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='septic shock'>敗血症性ショック</span>・重症熱傷・頭蓋内病変・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multitrauma (multiple trauma)'>多発外傷</span>など)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='splanchnic circulation'>内臓循環</span>の低灌流"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastric mucosa'>胃粘膜</span>の虚血"]
    C --> D["粘液・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bicarbonate'>重炭酸</span>分泌の低下"]
    C --> E["上皮修復能の低下"]
    A --> F["頭蓋内病変では<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vagal stimulation (vagal maneuver)'>迷走神経刺激</span>を介し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acid secretion'>酸分泌</span>が亢進"]
    D --> G["酸・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pepsin'>ペプシン</span>に対する粘膜防御の破綻"]
    E --> G
    F --> G
    G --> H["胃・十二指腸の急性びらん性病変"]
    H --> I["無痛性に進行し、出血で初めて気づかれることが多い"]

💡 が強い」のではなく「が壊れる」ことが本態である。 重症患者では循環が生命維持に必須の臓器へ再分配され、への血流は後回しにされる。粘膜血流という防御の土台そのものが失われる点が、が主因の消化性潰瘍と根本的に異なる。

原因となる背景で呼び名が変わる。 広範囲熱傷に伴うものを、頭蓋内圧亢進・・脳外科術後に伴いによる亢進を機序に持つものをと呼ぶが、いずれも重症病態下の急性びらん性胃炎という同じ病態の一部である。

臨床像

多くは無痛性で、や貧血の進行で初めて気づかれる。 重症患者は鎮静・人工呼吸下にあることが多く、を訴えられないため、・原因不明のヘモグロビン低下・といった出血の徴候で発見される。

内視鏡ではびらん・多発性の浅い潰瘍として部・部を含む広い範囲に分布することが多く、優位のことが多い消化性潰瘍とは分布の傾向が異なる。

予防:誰に予防投与するか

人工呼吸と凝固異常が、臨床的に重要な出血の主要な独立危険因子として長く教えられてきた。 重症治療領域の古典的なでは、48時間を超える15.6)と凝固異常(4.3)が独立危険因子として同定され、この2因子のいずれか、または両方を持つ847例の出血頻度は3.7%だったのに対し、いずれも持たない患者では0.1%にとどまった1

flowchart TD
    A["ICU入室中の重症患者"] --> B{"凝固異常・ショック・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic liver disease'>慢性肝疾患</span>などの危険因子があるか"}
    B -->|"あり"| C["PPIまたは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='H2 receptor antagonist'>H2受容体拮抗薬</span>で予防投与"]
    B -->|"なし"| D["ルーチンの予防投与は行わない"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enteral nutrition, EN'>経腸栄養</span>併用時は肺炎リスクとの兼ね合いを考慮"]

⚠️ 近年のガイドラインは、危険因子の定義を古典的な基準から更新している。 現行の2024年版ガイドラインは凝固異常・ショック・を予防投与の適応となる危険因子とし、人工呼吸単独では確実な危険因子とは位置づけていない2

予防をめぐる議論

予防投与が臨床的に重要な出血を減らすことは確立しているが、死亡率を改善するという確たる証拠はない。 3,298例を対象としたSUP-ICU試験では、予防投与群と非投与群で90日死亡率に有意差はなかった(31.1% vs 30.4%)一方、臨床的に重要な出血は予防投与群で相対的に41%低下した(2.5% vs 4.2%)1

⚠️ 予防投与にはコストもある。 PPIはH₂受容体拮抗薬と比較して出血予防効果に優れる一方、死亡率への影響は不確実であり、との同時投与は肺炎リスクを高める可能性が指摘されている2。別の(PEPTIC試験)ではPPI使用によるClostridioides difficile感染・肺炎の明確な増加は認められておらず、この点は今も議論が続く1

💡 「全員に予防する」から「危険因子を持つ患者に絞る」への転換が近年の潮流である。 敗血症される患者であっても、凝固異常やショックを伴わなければルーチンの予防投与を見直す施設が増えている。

治療

出血例では消化性潰瘍の出血と同様に、循環の安定化と高用量PPIの静注、を組み合わせる。予防目的ではエスなどのPPI、などのH₂受容体拮抗薬、作用を持つ(胃内pHを変えないためリスクの観点で歴史的に好まれてきたが、現在はエビデンスの蓄積からPPIが優先されることが多い)のいずれかを用いる。

ストレス潰瘍 vs 消化性潰瘍

項目 消化性潰瘍
主因 重症病態による粘膜防御の破綻(虚血が中心) H. pylori感染、NSAIDs/アスピリンによる過剰
発症の場 ICUなど重症患者 外来・一般病棟を含む幅広い患者層
症状 無痛性、出血で気づかれることが多い ・鈍痛を伴うことが多い
分布 部・部を含む広い範囲 に多い
対応 危険因子に応じた予防投与、原疾患の治療 、NSAID中止、PPI

まとめ

  • は重症患者の粘膜防御能が破綻して生じる急性びらん性胃炎の重症型で、が主因の消化性潰瘍とは機序が異なる。
  • 熱傷に伴うものを、頭蓋内病変に伴うものをと呼ぶが、いずれも同じ病態の一部である。
  • 多くは無痛性で、など出血の徴候で発見される。
  • 古典的には48時間超の人工呼吸(15.6)と凝固異常(4.3)が主要な独立危険因子とされてきたが、現行ガイドラインは凝固異常・ショック・を重視し人工呼吸単独は確実な危険因子と位置づけていない。
  • 予防投与は臨床的に重要な出血を減らすが死亡率改善の確たる証拠はなく、危険因子を持つ患者に絞って予防投与する方向へ議論が進んでいる。

出典

  1. 1.Which ICU patients need stress ulcer prophylaxis?(Cleveland Clinic Journal of Medicine・2022)カナダ重症治療研究グループによる2,252例のコホート研究で48時間超の陽圧換気(オッズ比15.6)と凝固異常(オッズ比4.3)が臨床的に重要な消化管出血の主要な独立危険因子と同定され、この2因子の**いずれか、または両方**を持つ847例の出血頻度は3.7%(無い患者は0.1%)であったこと、SUP-ICU試験(3,298例)では予防投与群と非投与群で90日死亡率に有意差がなく(31.1% vs 30.4%)臨床的に重要な出血は予防投与群で41%相対的に低下したこと(2.5% vs 4.2%)、PEPTIC試験ではPPI使用群でClostridioides difficile感染・肺炎の増加は認めなかったことを確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.SCCM and ASHP Guideline for the Prevention of Stress-Related Gastrointestinal Bleeding in Critically Ill Adults(Society of Critical Care Medicine / American Society of Health-System Pharmacists・2024)現行の2024年版ガイドラインが凝固異常・ショック・慢性肝疾患を予防投与適応の危険因子とし人工呼吸単独を確実な危険因子とは位置づけていないこと、PPIはH2受容体拮抗薬と比較し臨床的に重要な上部消化管出血を減らす一方で死亡率への影響には不確実性が残ること、経腸栄養との同時投与が肺炎リスクを高める可能性があることを確認した閲覧 2026-08-11