疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 消化器 · 症候群

消化管出血(上部・下部)

Gastrointestinal bleeding (upper and lower)

臓器系
消化器
科目
Surgery
トピック
外科学 S-27:上部消化管出血外科学 S-28:下部消化管出血
続発疾患
鉄欠乏性貧血循環性ショック特発性細菌性腹膜炎
治療薬
パントプラゾールオクトレオチドセフトリアキソン(エス)オメプラゾール
原因薬剤
アセクロフェナクアセチルサリチル酸アピキサバンセレコキシブダビガトランエテキシラート(デクス)イブプロフェン(デクス)ケトプロフェンデキサメタゾンジクロフェナクインドメタシンケトロラクメロキシカムナプロキセンニメスリドプレドニゾロンリバロキサバンワルファリン
症状
意識障害下血急性出血血行動態不安定血便失神出血消化管出血吐血乏尿
検査値
フィブリノゲン血算プロトロンビン時間
原因となる疾患
ストレス潰瘍肝硬変憩室症・憩室炎血管異形成消化性潰瘍大腸癌腸間膜虚血(急性・慢性、虚血性大腸炎を含む)
禁忌薬
メロキシカム

🧠 全体像:消化管出血は「どこから出ているか」を突き止める前に、まず気道・循環を安定させる症候群である。を境に上部・下部に分け、出血源の詳細な診断・治療は各原因疾患(消化性潰瘍、静脈瘤、憩室、、大腸癌など)に委ねるが、①循環蘇生と輸血戦略、②リスクスコアによる層別化、③CTA・内視鏡による出血源の局在と止血、という共通の骨格は原因を問わず同じである。でもショックを伴えば、大量の上部出血が下部から出ているように見えているだけという可能性を常に念頭に置く。

分類と原因

よりから、は主に大腸・直腸からの出血を指す。

部位 主な原因 特徴
上部 消化性潰瘍H. pylori、NSAIDs、 上部出血の主要原因。
上部 食道・肝硬変・門脈圧亢進) 大量出血しやすく、致死率が高い
上部 、びらん性胃炎・食道炎、、腫瘍 嘔吐後の粘膜、NSAID・アルコール・逆流、太い動脈からの出血など機序は多様
下部 突然の無痛性大量出血、自然止血と再出血を繰り返す
下部 高齢、右側大腸、間欠性・無痛性。と関連
下部 急なに続く血性下痢
下部 、IBD・、腫瘍・ポリープ(大腸癌 排便時、腹痛・発熱を伴う血性下痢、による鉄欠乏など

慢性・感、として顕在化する。肛門病変を認めても、それだけで大量出血・貧血を説明できない場合は近位病変を検索する。

臨床像と初期評価

  • 、黒色は上部出血を、色〜暗赤色便は下部出血を示唆するが、大量で通過が速い上部出血はとして現れうる。
  • 頻脈、、失神、乏尿、意識変容はを示す所見であり、初期Hbが正常でもを否定できない。
  • 気道・呼吸・循環・意識を評価し、太い2本、血算、電解質、腎肝機能、PT/INR・aPTT・フィブリノゲン、、輸液を直ちに行う。大量・意識障害・誤嚥リスクでは内視鏡前挿管を検討する。
  • で血液・腫瘤・肛門病変を確認し、と循環不安定の組み合わせでは上部内視鏡を含め大量上部出血を除外する。

⚠️ を伴う消化管出血は、出血源の特定より先に蘇生を優先する。

治療の共通原則

輸血戦略とリスク層別化

  • 多くの患者ではHb 7 g/dL前後を目安とするを用いるが、持続性出血、活動性、重い心血管疾患では個別化する。
  • 上部出血では(GBS)0〜1の超低リスク例が、確実なフォローを条件に外来管理できる場合がある。
  • 抗凝固薬・は出血重症度とを同時に評価し、拮抗・中断・早期再開を個別化する。心血管のアスピリンは安易に長期中断せず、止血後早期に再開する。

⚠️ はHALT-IT試験(2020年)で消化管出血への有用性が示されず、むしろを増やす可能性があるため、消化管出血に対するルーチン投与は推奨されない。

出血源の局在と初期対応

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hematemesis'>吐血</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='melena'>黒色便</span>・血便"] --> B["気道・呼吸・循環・輸液・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='crossmatch'>交差適合</span>"]
    B --> C{"上部出血が疑われるか"}
    C -->|"はい"| D{"静脈瘤を疑うか"}
    D -->|"はい"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasoactive drug'>血管作動薬</span>+短期抗菌薬を直ちに開始"]
    D -->|"いいえ"| F["内視鏡前PPIを検討"]
    E --> G["蘇生後12時間以内を目標に上部内視鏡"]
    F --> H["蘇生後24時間以内に上部内視鏡"]
    C -->|"いいえ(下部出血が疑われる)"| I{"循環不安定または活動性大量出血か"}
    I -->|"はい"| J["上部出血を評価しつつ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CT angiography'>CT血管造影</span>"]
    J --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extravasation'>血管外漏出</span>があれば選択的塞栓術"]
    I -->|"いいえ"| L["十分な腸管<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conditioning'>前処置</span>後、非緊急の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='colonoscopy'>大腸内視鏡</span>"]
  • を疑った時点でなどのを開始し、セフトリアキソンなど短期抗菌薬を早期投与する。詳細な治療(適応など)は肝硬変を参照。
  • 非静脈瘤性上部出血は循環を安定させて原則24時間以内に上部内視鏡を行い、高リスク潰瘍の止血成功後はなどの高用量PPIを投与する。詳細は消化性潰瘍を参照。
  • 循環不安定・活動性大量下部出血ではを優先し、陽性なら・選択的塞栓術へ進む。安定例はで十分にした後、非緊急ので診断と止血を行う。「入院患者へ一律24時間以内の緊急」は再出血・死亡を改善しないため推奨されない。
  • 再出血は上部・下部いずれも、→(不成功なら)→手術の順で段階的に進める。手術前には出血源を正確に局在し、盲目的な広範切除を避ける。
  • NSAIDsは特に潰瘍・憩室・出血の再発を増やすため、可能なら中止する。

まとめ

  • 消化管出血は出血源の診断より先に気道・循環の安定化と輸血戦略の決定を優先する症候群である。
  • を境に上部・下部に分け、GBSなどのリスクスコアで層別化しつつ、静脈瘤を疑えば内視鏡を待たず・抗菌薬を開始する。
  • 循環不安定な活動性大量出血では・塞栓術を、安定例では内視鏡(上部は24時間以内、下部は後の非緊急内視鏡)を軸に評価する。
  • のルーチン投与など有用性が否定された介入を漫然と続けない。
  • 出血源ごとの根治的な原因治療(H. pylori除菌、静脈瘤術・へのクリップ、の血流評価など)は各原因疾患のノートに委ねる。