疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 消化器 · 疾患

腸間膜虚血(急性・慢性、虚血性大腸炎を含む)

Mesenteric ischemia (acute and chronic, including ischemic colitis)

臓器系
消化器
科目
Internal MedicineSurgery
トピック
内科学 G-04:大腸疾患と機能性消化管疾患外科学 S-26:急性・慢性腸間膜虚血
鑑別疾患
憩室症・憩室炎血管異形成
続発疾患
消化管出血(上部・下部)腹膜炎・消化管穿孔
関連疾患
深部静脈血栓症
治療薬
未分画ヘパリンワルファリンアピキサバンアトルバスタチンクロピドグレルセフトリアキソンメトロニダゾール
症状
悪心圧痛下痢血便出血消化管出血浮腫腹痛嘔吐疝痛
検査値
Dダイマー乳酸白血球数
原因となる疾患
イレウス・腸閉塞心房細動末梢動脈疾患

🧠 全体像は「診察所見に不釣り合いな激痛」を見た時点で疑い、乳酸値の上昇を待たずに(CTA)を行うの救急疾患である。が出た時点では腸管壊死の可能性が高く、と壊死腸管切除を急ぐ。は食後痛・・体重減少を手掛かりにで対応し、は同じ「腸管への血流不足」というテーマの、より軽症で保存的治療が中心となる大腸として位置づけられる。

病型分類

には機序の異なる4つの病型がある。

病型 典型背景 病態・治療の軸
心房細動、心筋梗塞、弁膜症 突然発症。血栓除去・で再灌流
動脈血栓 )、の既往 血管起始部病変が多く、・バイパスなど再建
心不全、敗血症、低灌流、 開存血管でも攣縮・低流量。循環原因の是正が中心
、門脈圧亢進、癌、IBD、膵炎、術後 腹膜炎がなければ抗凝固が中心

💡 4病型のうち3つ(塞栓・血栓・NOMI)は動脈側の問題、1つ()だけが静脈側の問題。治療の軸が「再灌流」か「抗凝固」かで大きく分かれるのはこの違いによる。

臨床像

早期には激しい腹痛の割に圧痛が軽い(診察所見に不釣り合いな痛み)のが特徴で、悪心、嘔吐、下痢、血便を伴う。進行すると持続痛、、ショック、敗血症へ移行する。鎮静・人工呼吸中のNOMIでは症状を訴えられないため、腹部膨満、不耐、消化管出血、多臓器障害の悪化だけが手掛かりになることがある。

⚠️ 「痛みの強さと診察所見が釣り合わない」こと自体がである。圧痛が軽いからと軽症と判断してはならない。

診断

  • 疑った時点で・静脈相を含む(CTA)を遅滞なく行うがあっても、見逃しの害がのリスクを上回る。
  • 乳酸、白血球、、代謝性アシドーシスは補助所見にすぎない。正常値は早期虚血を除外せず、乳酸上昇だけで不可逆的な壊死とも断定できない。
  • 単純X線はには推奨されず、・遊離ガスは進行例の所見にとどまる。
  • CTAでは血栓・塞栓、腸壁造影低下、壁肥厚、腸間膜浮腫、腹水、を評価する。
flowchart TD
    A["不釣り合いな強い腹痛+高リスク背景"] --> B["直ちに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CT angiography'>CT血管造影</span>(CTA)"]
    B --> C["晶質液、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electrolyte correction'>電解質補正</span>、胃管減圧、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='broad-spectrum antibiotics'>広域抗菌薬</span>"]
    C --> D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peritoneal signs'>腹膜刺激徴候</span>・腸管壊死所見の有無"}
    D -->|"あり"| E["緊急開腹・腹腔鏡評価"]
    E --> F["可能なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='revascularization'>再血行再建</span>を先行"]
    F --> G["明らかな壊死腸管を切除、疑わしければ再観察"]
    D -->|"なし"| H{"病型は?"}
    H -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arterial embolism'>動脈塞栓</span>・血栓"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endovascular treatment'>血管内治療</span>または外科的再建"]
    H -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous thrombosis'>静脈血栓症</span>"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unfractionated heparin (UFH)'>未分画ヘパリン</span>を中心に抗凝固"]
    H -->|"NOMI"| K["低灌流是正・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasoconstrictor'>血管収縮薬</span>最小化±<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasodilator'>血管拡張薬</span>"]

急性期治療

  • 腸管灌流を改善するため輸液を開始するが、による腸管浮腫は避けは必要最小限にとどめる。
  • 破綻による細菌移行を想定し、セフトリアキソンメトロニダゾールなどを早期投与する。
  • 明らかな腹膜炎は壊死を強く示すため、手術を遅らせない。
  • 動脈閉塞では可能な限り再灌流して生存腸管を温存する。、塞栓除去、血栓除去、バイパスを施設・解剖に応じて選ぶ。
  • では腹膜炎がなければを中心とした抗凝固が治療の中心で、その後ワルファリンなどへ移行する。
  • 生存性が不明確な腸管では過剰切除を避け、24〜48時間後の手術)を検討する。

⭐ 「乳酸が正常だから否定的」「がないから待てる」という判断は誤りうる。CTAで疑いが晴れなければ、臨床像を優先して治療を進める。

慢性腸間膜虚血

食後15〜60分に増悪する腹痛、、体重減少が典型像である。を聴取することがある。従来の「主要3血管()中2血管の狭窄が必要」という説明は絶対条件ではなく、重症の単独病変でも症候性になり得る。

CTAまたはMRAでを評価し、はスクリーニング・フォローに用いる。症候性では栄養悪化と急性化を防ぐためを行う。

治療 位置づけ
血管内 多くの患者で低侵襲な第一選択。を追跡する
外科的バイパス 若年、長い閉塞、不適・失敗、耐久性重視で検討
内科的管理 禁煙、スタチン、糖尿病・の代替にはならない

虚血性大腸炎

は、大腸血流が一過性または持続性に不足してを起こす、の中でも大腸に限局し比較的軽症であることが多い病態である。低血圧・脱水、心不全、術後、血栓塞栓、、動脈硬化が原因となり、・直腸S状部移行部などのに好発する。

臨床像と診断

  • 突然の、便意、その後24時間以内の・暗赤色便が典型である。
  • 右側病変では出血が乏しく強い痛みを呈し、重症化リスクが高い(右側大腸は支配で、より近位のが絡むためとの鑑別も重要になる)。
  • 造影CTで壁肥厚、浮腫、周囲脂肪織変化、分布、合併症を評価する。
  • 症状や壊死所見がなければ、早期と生検で確定する(空気注入は最小限にする)。
  • 痛みが診察所見に比して著しく強い、乳酸上昇、心房細動、広範な小腸虚血を疑う場合は、としてCTAを急ぐ。

治療

軽症の多くは腸管安静、、原因薬中止、循環改善で軽快する。中等症〜重症では腸内細菌移行を考慮してを用いる。腹膜炎、壊疽、穿孔、制御不能な出血、臨床悪化があれば緊急手術を行う。

⚠️ 「血性便が止まったから改善」とは限らない。腸管壊死で蠕動が消失すると出血が減ることがあり、持続痛、症状、代謝性アシドーシス、ショックは重症徴候として扱う。

まとめ

  • ・動脈血栓・NOMI・の4病型に分かれ、CTAを待たせない救急である。乳酸正常でも否定できない。
  • 腹膜炎の出現は腸管壊死を示唆し、と壊死腸管切除を急ぐ。動脈閉塞は再灌流、は抗凝固、NOMIは低灌流の是正が治療の軸となる。
  • は食後痛・・体重減少を手掛かりに、症候性なら(血管内が多くの患者で第一選択)を行う。
  • に好発する比較的軽症の大腸で、多くは保存的治療で軽快するが、右側病変や不釣り合いな激痛はを疑わせるである。