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Disease Atlas · 消化器 · 疾患

消化性潰瘍

Peptic ulcer disease

別名
PUD胃潰瘍十二指腸潰瘍
臓器系
消化器
科目
Internal MedicinePathologySurgery
トピック
内科学 G-01:食道・胃疾患内科学 L-45:消化性潰瘍・Helicobacter pylori感染病理学 C/34:消化性潰瘍外科学 S-07:胃の良性疾患・胃十二指腸の検査と外科的側面
鑑別疾患
クローン病ストレス潰瘍胃癌機能性ディスペプシア
合併症
急性膵炎
続発疾患
消化管出血(上部・下部)腹膜炎・消化管穿孔鉄欠乏性貧血
関連疾患
胃炎
治療薬
パントプラゾールボノプラザンアモキシシリンメトロニダゾール次サリチル酸ビスマスミソプロストール(エス)オメプラゾールファモチジンラベプラゾールスクラルファート
原因薬剤
アセクロフェナクアセチルサリチル酸セレコキシブ(デクス)イブプロフェン(デクス)ケトプロフェンデキサメタゾンジクロフェナクヒドロコルチゾンインドメタシンケトロラクメロキシカムメチルプレドニゾロンナプロキセンニメスリドプレドニゾロン
原因微生物
ヘリコバクター・ピロリサイトメガロウイルス
症状
悪心下血失神灼熱痛出血体重減少吐血浮腫嘔吐
検査値
血算
画像所見
腹腔内遊離ガス
スコア
Glasgow-Blatchfordスコア
組織像
胃消化性潰瘍胃・十二指腸消化性潰瘍
適応薬
シメチジンパントプラゾールファモチジンボノプラザンラニチジンラベプラゾールリファブチン
禁忌薬
(デクス)イブプロフェン(デクス)ケトプロフェンアセクロフェナクアセチルサリチル酸イロプロストガランタミンカルバコールケトロラクジクロフェナクセレコキシブドネペジルナプロキセンニコチン酸(ナイアシン)ニメスリドフェニルブタゾンベタネコールメロキシカムレテプラーゼ

🧠 全体像:消化性潰瘍は、酸・の攻撃に対しての粘膜防御が破綻し、を越える欠損ができた状態である。診療の幹は、①出血・穿孔・閉塞を先に見抜く、②H. pyloriとNSAIDs/アスピリンを必ず調べる、③原因治療と抑制を行い、除菌後は必ず成功を確認する、の3段階である。

定義と分類

消化性潰瘍は、胃または十二指腸の粘膜欠損がを越えて以深へ達した病変である。粘膜内にとどまるびらんとは深さで区別し、直径だけでは定義しない。

病変 深さ・特徴 臨床上の要点
びらん を越えない表在性欠損 多発しやすく、治癒後の瘢痕は乏しい
から以深へ達する 胃癌のを除外するため内視鏡・生検が重要
多くは球部に生じる 悪性はまれだが、出血・穿孔・穿通を来し得る

胃酸は病変成立に必要なだが、「酸が多いだけ」が本態ではない。粘液・、上皮修復、粘膜血流、プロスタグランジンによる防御と、酸・、炎症、薬剤傷害との均衡で理解する。

原因と危険因子

二大原因はH. pylori感染とNSAIDsである。両者が併存すると潰瘍・出血リスクがさらに上がる。

原因・背景 病態と手掛かり
H. pylori を起こし、胃・と関連する
NSAIDs・アスピリン 全身性COX阻害と局所傷害により粘液・、血流、上皮修復を低下させる
など 抗凝固薬・は潰瘍の主因とは限らないが、存在する病変からの出血を重くする。副腎皮質ステロイド併用もNSAIDを高める
酸過分泌 など。多発、難治、再発、通常より遠位の潰瘍や下痢で疑う
その他 CMV、虚血、放射線、悪性腫瘍、重症病態に伴うなど

喫煙は治癒遅延と再発に関連する。香辛料、特定の性格、な心理ストレスを主要原因とみなさず、飲酒・食品は症状を悪化させる場合に個別調整する。

病態

flowchart TD
    A["H. pylori感染"] --> B["慢性炎症・上皮傷害<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='acid secretion'>酸分泌</span>調節の変化"]
    C["NSAIDs・アスピリン"] --> D["COX阻害・プロスタグランジン低下"]
    D --> E["粘液・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bicarbonate'>重炭酸</span>・血流・上皮修復の低下"]
    B --> F["酸・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pepsin'>ペプシン</span>と粘膜防御の不均衡"]
    E --> F
    G["喫煙・高<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acid secretion'>酸分泌</span>・重症病態"] --> F
    F --> H["胃・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='duodenal ulcer'>十二指腸潰瘍</span>"]
    H --> I["出血"]
    H --> J["穿孔・穿通"]
    H --> K["瘢痕性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastric outlet obstruction'>胃出口閉塞</span>"]

ピロリ感染

H. pyloriは鞭毛でを移動し、ウレアーゼで局所の酸性環境を緩衝して定着する。CagAなどの病原因子、、上皮傷害がを維持する。

  • ではソマトスタチン低下・上昇を介して十二指腸への酸負荷が増え、胃上皮化生部への菌定着と十二指腸炎を経てにつながる。
  • 部を含む胃炎・萎縮では粘膜防御低下が前面に出てにつながり、はむしろ低下することもある。
  • 胃癌リスクを高めるのは背景の、萎縮、などであり、「良性潰瘍そのものが癌へ変わる」と理解しない。胃癌が潰瘍として見えるため生検が必要である。

NSAID関連傷害

を中心とする阻害でプロスタグランジンが減ると、粘液・分泌、粘膜血流、細胞修復が低下する。腸溶製剤や注射薬でも全身性COX阻害は残るため、剤形変更だけでは予防にならない。

潰瘍・出血既往、高齢、複数または高用量NSAIDs、アスピリン・・副腎皮質ステロイド併用、重いは高リスクである。消化管リスクだけでなく心血管・腎リスクも同時に評価する。

臨床像

・鈍痛、悪心、膨満、を来し得るが、症状は非特異的である。食事で軽快するから、増悪するからと機械的に決めない。高齢者やNSAID使用者では痛みが乏しく、出血が初発となることがある。

合併症 手掛かり 解剖学的な学習点
出血 、貧血、失神、ショック 後壁、胃側潰瘍はを侵し得る
穿孔 突然の激痛、、敗血症 が典型で、を伴い得る
穿通 背部へ放散する持続痛、通常治療への反応不良 後壁が膵へ達しを来すことがある
反復する非胆汁性嘔吐、、体重減少 急性浮腫・攣縮または慢性を来し得る

⚠️ 循環不全を伴う、突然の症状、持続嘔吐は、通常の外来評価を中断して救急対応する徴候である。

診断

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epigastric'>心窩部</span>症状または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper gastrointestinal bleeding'>上部消化管出血</span>"] --> B{"出血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peritoneal signs'>腹膜刺激</span>・閉塞があるか"}
    B -->|"あり"| C["蘇生・血算/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='crossmatch (compatibility testing)'>交差適合試験</span>・緊急画像/内視鏡・外科相談"]
    B -->|"なし"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alarm feature'>警告徴候</span>・癌リスク・持続症状があるか"}
    D -->|"あり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper gastrointestinal endoscopy'>上部消化管内視鏡</span>"]
    D -->|"なし"| F["H. pylori非侵襲検査を検討"]
    E --> G["潰瘍の部位・形態・出血徴候を確認"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastric ulcer'>胃潰瘍</span>は生検<br>必要部位でH. pylori検査"]
    F --> I{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='active infection'>活動性感染</span>あり"}
    H --> I
    I -->|"はい"| J["耐性・既治療・地域指針に基づく除菌"]
    J --> K["治療後に必ず<span class='jp-term jp-term-diagram' title='test of cure'>除菌判定</span>"]

内視鏡

は潰瘍の確定、活動性出血の診断・止血、狭窄の評価、生検を同時に行える。出血、、体重減少、進行性嚥下障害、反復嘔吐、腫瘤、強い家族歴などがあれば早期に行う。

  • は形だけで良悪性を完全に区別できないため、病変辺縁・底などから適切に生検する。悪性を疑う、原因不明、症状が続く、治癒しない場合はを行う。
  • 典型的なは悪性が極めてまれで、ルーチンの潰瘍生検は不要である。非典型形態、遠位病変、難治例では別疾患を調べる。
  • 穿孔疑いでは造影CTを優先し、内視鏡を安易に先行させない。

ピロリ検査

検査 主な用途 注意点
の診断、 PPI/、抗菌薬、で偽陰性になり得る
の診断、 検体・測定法と薬剤休止を確認する
迅速ウレアーゼ・組織 内視鏡時の診断 PPI使用、萎縮、で感度が下がり得るため、陰性でも疑いが強ければ再検査する
血清抗体 未治療集団で補助的に使用 既感染とを区別しにくく、には使わない

は全例で、抗菌薬・終了から少なくとも4週、PPI/中止から少なくとも2週空け、、または適切な生検検査で行う1抑制が必要なら、そのはH₂受容体拮抗薬などへの一時的変更を検討できる。

治療

非合併潰瘍

  • PPIまたは適切なで治癒を促し、喫煙中止を支援する。PPIとH₂受容体拮抗薬の機械的な常用併用は標準ではない。
  • H. pylori陽性なら除菌する。レジメンは薬剤感受性、過去のマクロライド・キノロン曝露、ペニシリンアレルギー、地域の耐性・承認状況で選ぶ。
  • 感受性不明のとして、2024年ACG指針では14日間の最適化が中心で、・アモキシシリン二剤療法が選択肢となる。またはを含む治療は、原則として感受性が確認された場合に用いる1
  • 日本を含む各地域では採用レジメンが異なるため、最新の地域ガイドライン、承認、既治療を優先する。自己判断で一律のを固定しない。
  • H. pylori陰性かつNSAID非使用なら、検査偽陰性、アスピリンを含む隠れた薬剤、悪性、、CMV、虚血、を再評価する。

NSAID・アスピリン関連

状況 原則
NSAID関連潰瘍 可能なら中止し、PPIで治療する
NSAID継続が必要 最小、PPI併用、必要に応じCOX-2選択薬を検討し、心血管・腎リスクも評価する
潰瘍出血既往がありNSAID必須 非選択的NSAIDを避け、必要性を再確認する。高消化管リスクではCOX-2選択薬+PPIを含む強い予防を専門的に検討する
なら適応を再評価する。では原則継続し、中断した場合も確認日からの早期再開を含め循環器・消化器で決める

はNSAID潰瘍予防に有効だが、下痢・腹痛で継続しにくい。NSAID潰瘍予防目的では妊娠中に禁忌であり、妊娠可能な患者では原則避け、やむを得ず用いる場合も妊娠除外、確実な避妊、十分な説明が必要である。H. pylori除菌は感染者のリスクを下げるが、潰瘍既往がありNSAIDを継続する患者のPPI予防を置き換えない。

出血

  1. 気道・呼吸・循環を評価し、太い、血算、凝固、腎機能、を準備する。多くの患者では赤血球輸血をHb 7 g/dL前後から検討するを用いるが、持続出血、ショック、などで個別化する。
  2. 蘇生後、原則24時間以内に上部内視鏡を行う。活動性噴出・滲出出血または非出血性には内視鏡止血を行い、エピネフリン注入単独で完結させない。
  3. 高リスク潰瘍の止血後は高用量PPIを3日間投与し、その後は最初の2週間、経口PPIを1日2回用いる2
  4. 再出血は止血を優先し、不成功なら、さらに不成功・不適なら手術へ進む。

Glasgow–Blatchfordスコア0~1など、ごく低リスクで十分な外来がある場合は入院せず管理できることがある。スコアだけで循環不全やしない。

穿孔・穿通・胃出口閉塞

病態 初期対応と
穿孔 絶飲食、輸液、鎮痛、静注抑制、、緊急外科相談。安定例は腹腔鏡修復を検討し、非手術管理は漏出が封じ込められたごく選択的な例を厳重監視下で扱う
穿通 合併臓器・血管をCT等で評価し、原因治療と外科・内視鏡・画像下治療を個別化する
胃管減圧、輸液、K・Cl補正、PPI、H. pylori治療、悪性除外。炎症が落ち着いても狭窄が残れば内視鏡的、難治例では手術を検討する

単純な非合併潰瘍に、Billroth再建をルーチンに行わない。現在の手術は、穿孔、内視鏡・で制御できない出血、難治性閉塞、悪性を否定できない病変などが中心である。

治癒後の管理

  • 除菌成功を必ず確認し、を区別する。
  • NSAIDs、アスピリン、、抗凝固薬の適応と胃保護を定期的に見直す。
  • は病理、内視鏡形態、原因、症状、治癒経過に応じてを計画する。未治癒なら服薬、、NSAID曝露、高、悪性を再評価する。
  • 再発性・難治性潰瘍では空腹時を測る前に、によると、による危険を専門的に評価する。

まとめ

  • 消化性潰瘍はを越える欠損で、二大原因はH. pyloriとNSAIDs/アスピリンである。
  • は胃癌のを生検で除外し、良性潰瘍そのものの「」と混同しない。
  • H. pyloriは耐性・既治療・地域指針に合わせて除菌し、抗菌薬終了4週以降かつPPI/2週以降に全例でする。
  • 出血は蘇生→早期内視鏡→→塞栓→手術、穿孔は抗菌薬と迅速な外科評価を軸にする。
  • NSAID継続例ではPPIなどの胃保護を個別化し、消化管・心血管・腎リスクを同時に扱う。

出典

  1. 1.ACG Clinical Guideline: Treatment of Helicobacter pylori Infection(American College of Gastroenterology・2024)感受性不明の経験的治療では14日間の最適化ビスマス四剤療法が中心で、クラリスロマイシン・レボフロキサシンを含む治療は原則感受性確認例に用いること、除菌判定は抗菌薬終了4週・PPI/PCAB中止2週以降に行うこと閲覧 2026-08-03
  2. 2.ACG Clinical Guideline: Upper Gastrointestinal and Ulcer Bleeding(American College of Gastroenterology・2021)内視鏡止血後は高用量PPIを3日間投与し、その後は最初の2週間、経口PPIを1日2回用いること閲覧 2026-08-03