外科学

外科学 · S-07

胃の良性疾患・胃十二指腸の検査と外科的側面

Benign diseases of the stomach. Examination of the stomach and the duodenum, surgical aspects

前提:病態
消化性潰瘍カンピロバクター属とヘリコバクター・ピロリ
前提:正常
胃液分泌とその調節
疾患
消化性潰瘍

🧠 全体像:良性疾患の多くは酸分泌抑制、**除菌、中止で治る。外科・が必要なのは、穿孔、内視鏡止血不成功、、悪性を否定できない病変などに限られる。

消化性潰瘍

胃または十二指腸粘膜が酸・によりを越えて欠損する。二大原因はH. pylori感染とであり、喫煙は治癒遅延・再発に関連する。単なる心理的ストレスや飲酒を主要原因とみなさない。は多発・難治・遠位潰瘍で疑う。⚠️ 急性ではも鑑別に入れる。 小さな粘膜欠損から太い動脈が破綻する病変で、急性の1〜2%を占め、で約90%の出血を制御できる。外科は内視鏡・が不成功の場合に限られ、内視鏡の普及で死亡率は80%から8.6%へ低下したと報告されている1。

症候・合併症 所見
非合併潰瘍 、悪心、膨満。食事との関係だけで胃・十二指腸を確定できない
出血 、、貧血、循環不全
穿孔 突然の激痛、、、遊離ガス
、、体重減少、

で潰瘍、出血点、狭窄を評価する。は悪性を除外するため生検し、治癒確認内視鏡を病変・病理に応じて行う。H. pyloriは生検、尿素呼気、で検査する。

除菌治療の更新

「+抗菌薬2剤」を固定処方しない。を考慮し、地域指針に合うレジメンを選ぶ。米国の 2024は、未治療例で感受性が不明なら14日間のを推奨レジメンとし、ペニシリンアレルギーの無い例では14日間のまたは二剤療法を経験的な代替に挙げる2。の構成は・・テトラサイクリン・メトロニダゾールである3。欧州のMaastricht VI/Florence合意(2022)は、個別のが利用できない場合、率が高い(15%超)か不明の地域の一次治療をとし(治療WG Statement 2、合意率92%、Grade B1)、それも使えなければ非含有の併用四剤療法を考慮しうるとしている。(++アモキシシリン)を用いるのは、局所で有効性が示されているか感受性が判明している場合に限られる3。韓国の2025年版ガイドラインを解説した総説も、耐性率が30%を超えて一次治療に求められる intention-to-treat 除菌率80%に届かなくなったことを理由に、14日間の含有は低リスク例か感受性が確認された例に限って用いるべきだとしている4。

⚠️ がやを「感受性が確認された場合にのみ」としているのは救済レジメンについてであって、一次治療の話ではない2。一次治療からが外れる根拠は耐性率の側にある。

⚠️ ただし日本では今もが一次除菌の標準である。 日本ではが使用できないため四剤療法が選択される機会は限られており、日本ヘリコバクター学会2024年版はを行わない一次除菌に「+アモキシシリン+」または「+アモキシシリン+メトロニダゾール」を強く推奨している(合意率90.5%、エビデンスの確実性A)5。日本の率は30%以上でどの地域でも15%以上だが、メトロニダゾール耐性率が低いという地域特性がこの推奨を支えている5。「は退場した」は地域を限定せずに言える主張ではない。

すべての治療例でを行う2。日本ヘリコバクター学会のガイドラインは、判定を薬の内服終了後4週以降に行い、ウレアーゼ活性に影響する薬剤(・)は少なくとも2週間、抗菌薬は4週間以上中止することが望ましいとする。判定にはとモノクローナル抗体を用いた測定が有用である6。

flowchart TD
    A["消化性潰瘍"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proton pump inhibitor'>PPI</span>+原因評価"]
    B --> C["H. pylori陽性"]
    C --> D["耐性・既往を考慮した除菌"]
    D --> E["必ず<span class='jp-term jp-term-diagram' title='test of cure'>除菌判定</span>"]
    B --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonsteroidal anti-inflammatory drugs'>NSAIDs</span>関連"]
    F --> G["可能なら中止+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proton pump inhibitor'>PPI</span>"]
    A --> H["出血・穿孔・閉塞"]
    H --> I["内視鏡・血管内・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surgery'>外科治療</span>"]

合併症の外科的対応

合併症
潰瘍出血 蘇生→内視鏡止血→再出血ならまたは経カテーテル→不成功・不適なら手術
穿孔 蘇生、抗菌薬、緊急手術。小穿孔では充填・被覆を選択することが多い。は無作為化試験でより・疼痛・肺合併症の点で優れ、現在では標準的な選択肢の一つである7
良性 減圧、補液・、と原因治療→内視鏡拡張→難治例で手術
治癒しない ・悪性評価。疑いが残る場合は切除を検討

、、ドレナージ手術はと除菌以前の歴史的中心術式であり、現在は難治合併症などの限定例に行う。閉塞のバイパスにはを用いることがある。

胃炎と胃ポリープ

病態 評価・治療
・びらん 、アルコール、重症病態など原因除去と酸分泌抑制
H. pylori胃炎 感染確認後に除菌し、
鉄・ビタミンB12、萎縮・、リスクを評価
背景や家族性腺腫性を考慮。異型・大きさで切除判断
H. pylori・背景粘膜を評価し、大きさ・出血・異型で切除
腺腫 として内視鏡切除と周囲粘膜評価

胃・十二指腸の検査

  • 内視鏡:粘膜の直接観察、生検、止血、、狭窄拡張。
  • 造影CT:穿孔、腫瘤、壁外進展、膿瘍、閉塞原因。
  • :内視鏡でしにくい通過・形態の補助。
  • 検査:血算、鉄、肝腎機能、H. pylori検査。難治性多発潰瘍では空腹時を適切な条件で測定する。

まとめ

  • 潰瘍の中心原因はH. pyloriとである。
  • 除菌薬は耐性を考慮し、治療後は全例でする。
  • 出血は内視鏡→塞栓→手術、穿孔は迅速な外科評価が基本である。
  • などの酸減少手術は現在では歴史的・限定的である。

出典

  1. 1.Dieulafoy's lesion: current trends in diagnosis and management(Annals of the Royal College of Surgeons of England・2010)Dieulafoy病変は急性上部消化管出血の1〜2%を占め、内視鏡治療で90%の患者の出血を制御でき、外科的介入は内視鏡的・血管造影的治療が不成功の場合に限られること、内視鏡の進歩により死亡率が80%から8.6%へ低下したことを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.ACG Clinical Guideline: Treatment of Helicobacter pylori Infection(American College of Gastroenterology・2024)未治療例で抗菌薬感受性が不明な場合は14日間のビスマス四剤療法(BQT)が推奨レジメンであり、ペニシリンアレルギーの無い例では14日間のリファブチン三剤療法またはP-CAB二剤療法が経験的な代替になること。既治療の持続感染例では「最適化」BQTの14日間が優先されること。クラリスロマイシンまたはレボフロキサシンを含む救済レジメンは感受性が確認された場合にのみ用いるとされること。除菌後は全例で治癒確認を行う必要があるとされること。⚠️ 誌上版本文は取得できておらず、以上はいずれも抄録に記載された内容である。BQTの構成薬の内訳と除菌判定の待機期間の数値は抄録に無い閲覧 2026-08-26
  3. 3.Management of Helicobacter pylori infection: the Maastricht VI/Florence consensus report(Gut(European Helicobacter and Microbiota Study Group ほか、29か国41名の専門家)・2022)リポジトリ版(repositorio.uam.es)から全文PDFを取得して確認した。取得できたのは Gut 2022;0:1-39 と表記されるonline-first 版で、誌上版 71(9):1724-1762 とはページ番号が異なる。H. pylori 感染はICD-11で感染症として正式に位置づけられ、原則として感染者全員が治療対象になる。診断ワーキンググループのStatement 9は「Clarithromycin susceptibility testing, if available through molecular techniques or culture, is recommended before prescribing any clarithromycin containing therapy.」(合意率91%、Grade A1)で、分子生物学的手法または培養による感受性検査が利用できる場合という条件つきの推奨である。治療ワーキンググループのStatement 2(合意率92%、Grade B1)は、個別の感受性検査が利用できない場合、クラリスロマイシン耐性率が高い(15%超)か不明の地域の一次治療をビスマス四剤療法とし、それも利用できなければビスマス非含有の併用(concomitant)四剤療法を考慮しうるとする。図1の凡例はビスマス四剤療法をPPI・ビスマス・テトラサイクリン・メトロニダゾール、クラリスロマイシン三剤療法をPPI・クラリスロマイシン・アモキシシリンと定義し、後者は局所で有効性が示されているかクラリスロマイシン感受性が判明している場合にのみ用いるとする。治療Statement 1(Grade D2)は一次治療前でも感受性検査をルーチンに行うことを reasonable とするが、原文自身が「そのような感受性検査に基づく戦略を日常診療で一般的に用いることの妥当性はまだ確立されていない」と続けている。なおMethodsの定義により、Gradeの英字はエビデンスの質(A高〜D非常に低)、数字は推奨の強さ(1強い/2弱い)を表す閲覧 2026-09-08
  4. 4.Treatment of Helicobacter pylori Infection in Korea: An Evidence-Based Analysis of the Upcoming 2025 Guideline(The Korean Journal of Helicobacter and Upper Gastrointestinal Research・2026)国際ガイドラインは、クラリスロマイシン耐性率が15%を超える地域では感受性検査なしの三剤療法を一次治療として推奨していないこと。ビスマス四剤療法(BQT)の構成がPPI・ビスマス・テトラサイクリン・メトロニダゾールであること。14日間のクラリスロマイシン含有三剤療法は低リスク例か感受性が確認された例に限って用いるべきとされること閲覧 2026-08-26
  5. 5.H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024 第2章「治療」(日本ヘリコバクター学会・2024)第2章「治療」のPDF全文を確認した。総論は、本邦のクラリスロマイシンの耐性菌率は30%以上であり本邦のどの地域でも15%以上であることから、本来であればMaastricht VI/Florence consensus reportに基づくとビスマス製剤を含む4剤療法が適切な推奨レジメンとなるが、本邦ではビスマス製剤を使用することができないと述べる。CQ2-5は、本邦で一次除菌治療に感受性検査をしないときはボノプラザン+アモキシシリン+クラリスロマイシン、またはPPI+アモキシシリン+メトロニダゾールのいずれかを推奨する(推奨の強さ「強い」、合意率90.5%、エビデンスの確実性A)閲覧 2026-09-08
  6. 6.H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024 第1章「診断」(日本ヘリコバクター学会・2024)BQ1-7が、除菌判定は除菌治療薬の内服終了後4週以降に行うとし、除菌判定には尿素呼気試験とモノクローナル抗体を用いた便中H. pylori抗原測定が有用とすること。ウレアーゼ活性に影響する薬剤(PPI・P-CAB)は除菌判定の実施にあたり少なくとも2週間、抗菌薬は4週間以上の中止が望ましいとすること閲覧 2026-09-08
  7. 7.Laparoscopic repair for perforated peptic ulcer: a randomized controlled trial(Annals of Surgery・2002)穿孔性消化性潰瘍121例(香港)を対象とした無作為化試験で、腹腔鏡下修復は開腹修復に比べ手術時間が短く、術後鎮痛薬使用量・疼痛スコアが少なく、術後在院日数が短く(中央値6日対7日)、肺合併症が少なかったことを確認した。閲覧 2026-08-26