薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · B23 Antiulcer drugs / 抗潰瘍薬

ラニチジン

ranitidine

分類
Antiulcer drugs / 抗潰瘍薬
商品名(日本)
ザンタック
商品名(EU)
Zantac
科目
Pharmacology
トピック
B23: Drugs influencing gastric acid secretion, protective drugs of gastric mucosa
承認適応
消化性潰瘍GERD
副作用
めまい頭痛女性化乳房
対象疾患
アナフィラキシー
原因となる疾患
せん妄

🧠 全体像:はと同じ(H2RA)で、機序・適応はほぼ同一だった。両者を分けるのは薬理ではなく製造・保管中に(N-ニトロソジメチルアミン)が生成しうるという化学的な弱点で、これが2019〜2020年の相次ぐ出荷停止・販売停止・市場撤退につながった。現役の薬として扱わず、歴史的な位置づけとして押さえる。

ファモチジンとの違い

項目
機序 H2受容体をに遮断 同じ(H2受容体をに遮断)
適応 消化性潰瘍・GERD(への使用は外) かつては同じ適応だったが、⚠️ 措置の中身は国で違う——日本は出荷停止の指示(2019年)、は販売承認の停止(2020年)、米国は市場からの撤退要請(2020年)であって、「承認の撤回」で揃っているわけではない123
への影響 ほとんどなし わずかにあるが、ほどではない。米国添付文書は相互作用を阻害だけで説明せず、の競合・胃内pHの変化と合わせた3機序として記している4
まれな副作用 の報告はまれで、対照試験ではと発現率に差がない5 の報告はまれ。添付文書はを明確に否定しており、で知られるのはである(高分泌状態患者で約4%、他は0.3〜1%)46
現在の位置づけ H2RAの標準薬 2019〜2020年に日本・・米国で出荷停止/販売停止/市場撤退123。これらの国では処方対象にならない

適応・用法(歴史的)

消化性潰瘍、GERDに用いられていたが、2019年9月に(N-ニトロソジメチルアミン)混入が報告された。日本では同月に厚生労働省が国内メーカーへ分析・出荷停止を指示し1、欧州では2020年4月30日にEMA(CHMP)が全域での販売停止を勧告、同年11月に欧州委員会が最終決定した2。米国では2020年4月1日にがすべての製剤について直ちに市場から撤退するよう要請し、「処方・OTCのいずれでも米国内で入手できなくなる」と明言した3。これらの国では同じ適応がに置き換わっており、用法・用量の情報は歴史的参考にとどめる。

⚠️ 「全世界で販売中止」とまでは書かない。 出典で確認できるのは日本・・米国の措置であって、これら3者の文書はいずれも自国・自域内の流通についてしか述べていない。他国の流通状況はこの3文書からは決まらない。

💡 なぜが生成するのか。 分子中の基が「されうる基質」にあたり、など微量の剤と反応することでが生じる。この反応は保管時間・温度に依存して進むため、製造直後より有効期限に近い古いロットほど濃度が高くなることが確認されている7。体内(胃酸環境)での同様の生成は理論的な懸念にとどまり、確立された機序ではない。

禁忌・注意・副作用

⚠️ 混入問題により、現在は臨床使用の対象としない。 機序・プロファイル自体はとほぼ同じで、頭痛・めまいなどが報告されていた。可逆性の・興奮・抑うつ・は重症のに偏って報告されており、腎機能低下時の中枢性副作用(せん妄)のリスクはと共通する4。

⚠️ 禁忌は過敏症だけだが、禁忌欄の外に「避けるべき患者」が1つある。 米国添付文書の PRECAUTIONS は「まれにが急性患者の急性発作を誘発しうるとの報告があり、したがっての既往のある患者では避けるべきである」と記している4。禁忌欄だけを読むと拾えないという、添付文書の読み方そのものの例になっている。

💡 相互作用の機序が3つある点はと対照的である。 の相互作用が阻害にほぼ集約されるのに対し、の米国添付文書は「の競合」「胃内pHの変化」「阻害」の3つを並べる4。

機序 起きること
の競合 高用量(で使うような用量)でとのが低下する。通常用量では臨床的に問題になりにくいが、1日300mgを超えるときは中毒徴候を見る
胃内pHの上昇 吸収がpHに依存する薬の血中濃度が動く。・・は増え、・は減る
阻害 ワルファリン併用でが変動した報告があり、増加・低下のどちらもありうるため併用中は頻回に測る。⚠️ 添付文書は3つの機序をとして挙げたうえでこの報告を並べており、ワルファリンの変動を阻害によるものと名指ししてはいない

⭐ 「H2RAだから相互作用が無い」は誤り。 相互作用の少なさで選ばれるのはであって、H2RAというクラスに共通する性質ではない。

まとめ

  • と同じH2RA。機序・適応はほぼ同一だった。
  • 2019年の()混入報告を受け、日本(2019年の出荷停止指示)・(2020年の販売停止)・米国(2020年4月1日の市場撤退要請)で相次いで市場から外れた。「全世界で」とまでは、この3文書からは言えない。
  • 上記3地域では臨床で使われず、同じ適応はに置き換わっている。
  • 禁忌は過敏症のみだが、の既往では禁忌欄の外の注意として回避が求められていた。相互作用はの競合・胃内pHの変化・阻害の3機序で説明される。
  • 歴史的に重要な薬だが、現役薬として扱ってはならない。

出典

  1. 1.ラニチジン塩酸塩における発がん物質の検出に対する対応について(事務連絡)(厚生労働省医薬・生活衛生局・2019)日本では2019年9月にNDMA検出の発表を受け、厚生労働省が国内メーカーに分析・出荷停止を指示したことを確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.Ranitidine-containing medicinal products - referral(European Medicines Agency・2020)EMA(CHMP)が2020年4月30日にEU全域での販売停止を勧告し、同年11月24日に欧州委員会が最終決定したことを確認した閲覧 2026-08-03
  3. 3.FDA Requests Removal of All Ranitidine Products (Zantac) from the Market(U.S. Food and Drug Administration・2020)FDA が2020年4月1日付(ページの Content current as of も 04/01/2020)で、NDMA の量が保管時間と室温を超える保管温度に伴って増えると判断し、すべてのラニチジン製剤について直ちに市場からの撤退を要請したこと。「As a result of this immediate market withdrawal request, ranitidine products will not be available for new or existing prescriptions or OTC use in the U.S.」と、米国内で処方・OTCのいずれでも入手できなくなると明記していることを確認した(米国についての記述であり、他国の流通状況の根拠にはならない)閲覧 2026-09-14
  4. 4.RANITIDINE- ranitidine hydrochloride tablet (label)(U.S. National Library of Medicine DailyMed(FDA承認添付文書)・2012)WOCKHARDT LIMITED のラニチジン錠の米国添付文書の全文を取得して確認した。「Controlled studies in animals and man have shown no stimulation of any pituitary hormone by ranitidine and no antiandrogenic activity, and cimetidine-induced gynecomastia and impotence in hypersecretory patients have resolved when ranitidine has been substituted.」とあること。同じ節が「However, occasional cases of impotence and loss of libido have been reported in male patients receiving ranitidine, but the incidence did not differ from that in the general population.」と続き、女性化乳房・乳汁漏出もまれに報告されていること。PRECAUTIONS に「Rare reports suggest that ranitidine may precipitate acute porphyric attacks in patients with acute porphyria. Ranitidine should therefore be avoided in patients with a history of acute porphyria.」とあること。相互作用が「competition for renal tubular secretion, alteration of gastric pH, and inhibition of cytochrome P450 enzymes」の3機序で説明され、胃内pH上昇でトリアゾラム・ミダゾラム・グリピジドの吸収が増え、ケトコナゾール・アタザナビルの吸収が減ること、高用量でプロカインアミドの腎排泄が低下すること、ワルファリン併用でプロトロンビン時間が変動した報告があることを確認した。⚠️ この文書には印字された「Revised」の改訂表示が無い(全文に0回)。year は DailyMed が「the label revision date included in the SPL」と定義する更新日(2012年12月12日、版2が最新)から採った閲覧 2026-09-14
  5. 5.FAMOTIDINE tablet (label)(U.S. National Library of Medicine DailyMed(FDA承認添付文書)・2024)Alembic Pharmaceuticals Limited のファモチジン錠の米国添付文書(本文末尾の改訂表示は「Revised 10/2024」)。「no antiandrogenic effects were noted」と明記され、女性化乳房が「rare cases of impotence and rare cases of gynecomastia have been reported; however, in controlled clinical trials, the incidences were not greater than those seen with placebo.」とあることを全文取得のうえ確認した閲覧 2026-09-14
  6. 6.CIMETIDINE tablet, film coated (label)(U.S. National Library of Medicine DailyMed(FDA承認添付文書)・2026)Mylan Pharmaceuticals Inc.(Viatris)のシメチジン錠の米国添付文書(本文末尾の改訂表示は「Revised 7/2026」)。「Cimetidine has demonstrated a weak antiandrogenic effect.」と明記され、女性化乳房が「In patients being treated for pathological hypersecretory states, this occurred in about 4% of cases while in all others the incidence was 0.3% to 1% in various studies.」とあることを全文取得のうえ確認した(ラニチジンとの対比の根拠)閲覧 2026-09-14
  7. 7.N-nitrosodimethylamine (NDMA) contamination of ranitidine products: A review of recent findings(PMC(米国国立医学図書館)・2022)ラニチジン分子中の第三級アミン基がニトロソ化されうる基質であり、保管時間・温度に依存してNDMAが生成することを確認した閲覧 2026-08-03