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Disease Atlas · 消化器 · 疾患

胃食道逆流症

Gastroesophageal reflux disease

別名
GERD
臓器系
消化器
科目
SurgeryPediatrics
トピック
外科学 B/05:食道裂孔ヘルニアと胃食道逆流症(GERD)外科学 S-05:食道良性疾患の診断と治療(アカラシア・憩室・食道裂孔ヘルニア・胃食道逆流症)小児科 3-40:食道疾患:胃食道逆流症・好酸球性食道炎・食道閉鎖・狭窄
鑑別疾患
アカラシア機能性ディスペプシア好酸球性食道炎肥厚性幽門狭窄症
合併症
バレット食道
続発疾患
食道癌
関連疾患
腹壁ヘルニア(腹側・臍・瘢痕ヘルニア)
治療薬
(エソメプラゾール)パントプラゾールラベプラゾールボノプラザンファモチジンイトプリドメトクロプラミド
原因微生物
ヘリコバクター・ピロリ
症状
嚥下痛吃逆
スコア
Los Angeles分類
適応薬
シメチジンパントプラゾールファモチジンボノプラザンラニチジンラベプラゾール

🧠 全体像:GERDは「逆流バリア()が壊れて胃内容が食道に上がり、症状または食道傷害を起こす」機能的疾患である。は「裂孔が緩んで胃が胸腔にする」解剖学的異常で、両者は別物だが、ヘルニア(95%)はほぼ必ずGERDを伴う。診療の幹は、①の有無で内視鏡を先に行うかから始めるかを決める、②乳児の生理的なと、症状・合併症を伴うGERDを区別する、③内科的治療(+PPI)を軸に、薬物抵抗性・大きなヘルニア・合併症例だけをに進める、の3段階で理解する。

概要・定義

  • :胃内容物が食道へ逆流する生理現象そのもの。健常者にもに起こる。
  • :逆流が症状(、逆流感、嚥下障害など)や食道傷害・合併症を引き起こす状態。逆流の回数だけでは定義しない。
  • :胃の近位部()が横隔膜のを通ってへ脱出した状態。GERDとは別の解剖学的異常だが、は逆流バリアを直接損なうためGERDに直結しやすい。
  • 乳児ではを主体とする生理的なが非常に多く、通常は生後1年前後で自然軽快する。生活や成長を妨げる症状・合併症を伴って初めてGERDと呼ぶ。

💡 「逆流があること」と「GERDであること」は同義ではない。乳児のも、健常成人の食後の軽いも生理的な逆流であり、治療対象になるのは症状や合併症を伴う場合だけ。

病態

逆流バリアの解剖

  • は横隔膜レベルにあり、平時は収縮して胃内容の逆流を防ぐ。
  • を裂孔内に固定し、LESの機能を補強する「解剖学的括約筋」として働く。
  • 加齢・喫煙・肥満・(妊娠、腹水、慢性咳嗽、慢性便秘)はこの・裂孔を弛緩させ、の土台になる。
flowchart TD
    A["素因<br>加齢・喫煙・肥満・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic predisposition'>遺伝的素因</span>(稀)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='esophageal hiatus'>食道裂孔</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phreno-esophageal ligament'>横隔食道靱帯</span>の弛緩"]
    P["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intra-abdominal pressure'>腹腔内圧</span>の持続的上昇<br>妊娠・腹水・慢性咳嗽・慢性便秘"] --> B
    B --> C["相対的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrathoracic'>胸腔内</span>陰圧+緩んだ裂孔"]
    C --> D["腹腔内容物の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrathoracic'>胸腔内</span>への脱出(ヘルニア形成)"]
    D --> E["逆流バリアの喪失+遠位食道の排出障害"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='GERD'>胃食道逆流症</span>"]

食道裂孔ヘルニアの分類

Type 別名 頻度 機序 主な症状
I型( sliding 約95% GEJとへ滑り込む。部は横隔膜下に残る(“hourglass stomach”) 、仰臥位で増悪、酸性の逆流。GERDに直結しやすい
II型( rolling、non-sliding 少数 GEJは正常位置のまま、部のみが横隔膜を越えて脱出 、胸部圧迫感、、呼吸困難
III型(混合型) 少数 I型+II型の混合(GEJも部も脱出) 逆流症状と機械的症状の両方
IV型 胃のほぼ全体(時に大腸・脾臓も)がに脱出 大きな解剖学的異常

⚠️ II〜IV型()は嵌頓して閉塞やを起こしうる。ただし「絞扼するから無症候でも全例手術」ではなく、年齢・・臓器などの・本人の価値観を踏まえたで判断する。

GERDの病因

因子 内容
LES緊張低下 アルコール、薬剤、喫煙、既往手術
胃内圧上昇 肥満、咳嗽、妊娠、、歌手・アスリート
H. pylori感染
または部が横隔膜を越えて挙上(前述)
低下 蠕動異常、LESのの頻回化

💡 H. pyloriはGERDのにも消化性潰瘍にも関与しうる共通因子で、「酸が絡めばまずH. pyloriを疑う」という思考回路は両疾患で共有できる。

乳児の生理的逆流と病的GERDの違い

  • 乳児は低下、などにより逆流曝露が増えやすい。
  • 多くは哺乳後ののみで成長・全身状態は良好な生理的GERであり、生後1年前後で自然軽快する。
  • 体重増加不良、哺乳・摂食拒否、反復誤嚥、、胆汁性嘔吐、発熱、神経症状などを伴えば、生理的範囲を超えたGERDや他疾患を疑うである。

臨床像

成人・年長児

  • 典型症状:の灼熱感)、酸逆流感。夜間・大食後・仰臥位で増悪する。
  • 非典型・食道外症状:慢性咳嗽、症状()、はまず緊急性の高い心肺疾患を除外してから食道炎・運動障害を考える。
  • 潰瘍性狭窄を合併すると嚥下障害が出現する。

⚠️ 嚥下障害、消化管出血、貧血、体重減少、反復嘔吐、であり、単純なGERとしてだけで済ませず内視鏡評価に進む。

乳児

  • 、哺乳中・哺乳後の不機嫌などがみられる。多くは生理的GERで自然軽快する。
  • 体重増加不良、反復誤嚥、喘鳴・咳などの食道外症状のみを理由に、診断目的で安易にを開始しない。

好酸球性食道炎との鑑別

は、食道機能障害症状とへの好酸球優位の慢性炎症を特徴とし、GERDの主要なである。

項目 GERD
主な機序 逆流バリアの機能不全(LES緊張低下、など) への好酸球優位の慢性炎症
乳幼児 生理的逆流()が多い 哺乳・摂食拒否、嘔吐、
学童 、逆流感 腹痛、嘔吐、食事に時間がかかる、水分で流し込む
思春期・成人 、逆流、 固形物嚥下障害、
内視鏡所見 びらん・発赤・潰瘍・。正常でも否定できない 正常に見えることもある
確定診断 症状・内視鏡所見、必要に応じ逆流モニタリングで客観化 複数レベルの生検で通常15好酸球/以上(内視鏡が正常でも生検する)
治療の中心 生活調整+PPI、難治例は外科的 PPI、嚥下する局所ステロイド、。固定狭窄には拡張術を

⭐ 内視鏡が正常に見えてもGERD・EoEのいずれも否定できない点は試験で狙われやすい。EoEは複数部位からの生検が必須で、IgE検査だけでは原因食物を確実に同定できない。

合併症

)、

⚠️ である。慢性逆流→慢性炎症→粘膜変性→線維化・という経過をたどり、狭窄・嚥下障害の原因にもなる。(GERDによる狭窄)は他に、EoE、放射線、などでも生じ、進行性の固形物嚥下障害・を来す。

診断

食道裂孔ヘルニアの評価

検査 内容
造影剤嚥下下の胸部X線。狭窄・・拡張などの解剖学的異常を同定
内視鏡 の位置を確認。I型・III型→Z-lineが横隔膜裂孔より上方に偏位II型・IV型→Z-lineは裂孔下方のまま不変
横隔膜裂孔のレベルを同定し、ヘルニアのサイズを評価。術前には運動障害の除外にも用いる
CT 複雑なII〜IV型ヘルニアの緊急術前評価に推奨
胸部X線 のことが多い

⭐ Z-lineの位置で型を鑑別できる点は試験で狙われやすい:上方偏位=I型・III型、不変=II型・IV型。

成人GERDの診断アプローチ

flowchart TD
    A["典型的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heartburn'>胸やけ</span>・逆流症状"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alarm feature'>警告徴候</span><br>(嚥下障害・出血・貧血・体重減少)<br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Barrett esophagus'>バレット食道</span>の高リスクか"}
    B -->|"あり"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper gastrointestinal endoscopy'>上部消化管内視鏡</span>を先行"]
    B -->|"なし"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lifestyle advice'>生活指導</span>+PPI 1日1回・食前・8週間の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='empiric therapy'>経験的治療</span>"]
    D --> E{"症状は改善したか"}
    E -->|"改善"| F["最小<span class='jp-term jp-term-diagram' title='effective dose'>有効量</span>へ減量・中止を定期的に再評価"]
    E -->|"改善不良・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='relapse'>再燃</span>"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper gastrointestinal endoscopy'>上部消化管内視鏡</span>を実施"]
    C --> H{"食道炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Barrett esophagus'>バレット食道</span>など<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='diagnostic feature'>診断的所見</span>はあるか"}
    G --> H
    H -->|"あり"| I["GERDとして治療を継続・専門評価"]
    H -->|"なし・診断不確実"| J["PPI中止下の逆流モニタリングで客観化"]
    I --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antireflux surgery'>逆流防止手術</span>を検討する場合"]
    J --> K
    K --> L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-resolution esophageal manometry'>高解像度食道内圧検査</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='achalasia'>アカラシア</span>等の運動障害を除外"]
    L --> M["逆流の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='objective'>客観的</span>証拠を確認したうえで術式を選択"]
  • 典型症状でがなければ、とPPIの8週間から開始してよく、内視鏡を先行させる必要はない。
  • 嚥下障害・出血・貧血・体重減少などのの高リスク因子があれば内視鏡を先に行う。
  • 診断が不確実で内視鏡所見が正常なら、PPI中止下の外来逆流モニタリング(pHまたはpH-)で客観化する。は6%超でと確定し、4%未満は否定的所見とする1
  • 典型症状が確立していて治療抵抗性の場合は、PPI内服下のpH-検査で残存逆流を確認する。
  • の前には、内視鏡・逆流の客観化に加えてを行い、など主要な運動障害を除外する。術後嚥下障害のリスク評価として、を追加することもある。

乳児・小児のGERD診断

  • 乳児では病歴・診察と成長評価が中心で、や超音波をGERD確認目的でルーチンに行わない。
  • 上部内視鏡は、狭窄、、EoEなど粘膜疾患・を疑うときに用いる。正常内視鏡でもGERDは否定できない。
  • 24時間pH-検査は、症状と酸性・非酸性逆流との関連や治療抵抗例の評価に用いる。
  • 年長児の典型的には期間を限定したPPI試験治療を検討できるが、乳児の不機嫌・だけを理由に診断目的でPPIを開始しない。

治療(内科的→外科的)

治療 主な適応 要点
・体重管理 全例の基本 減量、就寝前2〜3時間の食事を避ける、夜間症状では頭側挙上、禁煙・、個々の増悪因子を避ける
PPI(第一選択の薬物治療) 典型症状、食道炎 食前1日1回、8週間のが基本。長期使用時は低Mg血症・骨折リスクなどを踏まえ、最小への減量・中止を定期的に再評価するが、と診断された患者では中止を試みない2
など) C/D)、PPI抵抗性の はPPIより速く強力な抑制が得られ治癒率でを示す報告があるが、コスト・入手性・データのから、現行ガイドラインは第一選択としての一律使用は推奨せずPPI不成功例などに限定する3
軽症・夜間症状、PPIの補助 が中心。はNDMA混入問題で多くの市場から回収され現在はほぼ使用されない
(Nissen・Toupet・Dor・Hillなど) 内科的治療の失敗・不耐、逆流、大きな、内視鏡での、良性狭窄、・癌を伴わない上皮化生 部を下部食道に巻き付けGEJの挙上を防ぐ。Nissen=360度、Toupet/Dorは部分形成で術後嚥下障害リスクが低い
(TIF)など 薬物抵抗性の逆流症状があり、大きなを伴わない選択例 従来のを避けたい患者向けの低侵襲な代替として、現行ガイドラインで位置づけられている
肥満患者、食道短縮の疑い・確定、非常に大きい・複雑なヘルニア(IV型など)、の既往が失敗した場合 アプローチが困難な状況の選択肢

食道裂孔ヘルニアの治療方針

病型・症状 方針
無症状のI型( 経過観察のみ
症状のあるI型 GERDに準じた内科的治療
無症状のII〜IV型 経過観察、個別化したうえで予防的手術を検討
症状のあるII〜IV型 または緊急手術(、制御不能出血、閉塞、絞扼、穿孔、がある場合)

⚠️ 無症候のを「絞扼するから全例手術」とはしない。年齢、、臓器など、本人の価値観をに組み込む。

手術適応と術前評価(GERD)

GERDの手術適応は、内科的治療の失敗・・PPIの副作用による中止希望、逆流、内視鏡での、良性狭窄、・癌を伴わない上皮化生、大きなである。術前には内視鏡・逆流の証拠に加え、など主要な運動障害を除外する。肥満合併例ではが選択肢になることもある。

小児の治療

flowchart TD
    A["逆流症状"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alarm feature'>警告徴候</span>・成長・基礎疾患を評価"]
    B --> C["合併症のない乳児の生理的逆流"]
    C --> D["過量哺乳を避ける<br>増粘・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cow&#39;s milk'>牛乳</span>蛋白除去を個別検討"]
    B --> E["年長児の典型症状・食道炎"]
    E --> F["生活調整+期間限定PPI"]
    B --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alarm feature'>警告徴候</span>・難治・再発"]
    G --> H["内視鏡・pH-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impedance'>インピーダンス</span>検査<br>解剖学的異常・EoEを評価"]
    H --> I["病因に応じた治療<br>選択例で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fundoplication'>噴門形成術</span>"]
  • 乳児は仰向け睡眠を守り、窒息予防のためを逆流対策として行わない。
  • 年長児では肥満是正、回避、就寝直前の食事回避。
  • PPIは症状緩和だけでなく酸関連食道炎を治癒しうるが、適応・期間を定めて減量・中止を再評価する。
  • 重い神経障害、反復誤嚥、薬物治療不応など選択例ではNissenを検討する。
  • EoEが疑われる・確認された場合は、PPI・嚥下する局所ステロイド・から患者と選択し、全身ステロイドの長期投与は避ける。

まとめ

  • は「裂孔・の弛緩+腹圧上昇」で生じる解剖学的異常。I型(、約95%)はGERDに直結しやすく、II〜IV型()は嵌頓・絞扼・のリスクがあるため、無症状でも個別化して手術適応を検討する。
  • Z-lineの位置(横隔膜裂孔より上方=I型・III型、不変=II型・IV型)は内視鏡診断の鍵。
  • GERDはLES緊張低下・胃内圧上昇・の複合病態で、逆流の回数ではなく症状・合併症の有無で定義する。
  • 乳児のは多くが自然軽快する生理的GERであり、成長・を評価してGERDと区別する。EoEはGERDの主要なで、内視鏡が正常でも複数部位生検で鑑別する。
  • 成人の診断はの有無で内視鏡先行かPPIかを分け、診断不には逆流モニタリングを、術前には内圧検査を行う。
  • 治療の柱は+PPI(食前1日1回)の内科的治療で、薬物抵抗性・合併症例には(Nissen=360度)や・TIFなどの低侵襲代替を検討する。
  • 慢性GERDの終着点は→腺癌の経路であり、長期フォローが重要。

出典

  1. 1.ACG Clinical Guideline for the Diagnosis and Management of Gastroesophageal Reflux Disease(American College of Gastroenterology・2022)典型的逆流症状で警告徴候が無ければ8週間のPPI経験的治療から開始してよいこと、バレット食道・びらん性食道炎と診断された患者ではPPIの中止を試みないこと閲覧 2026-08-02
  2. 2.Updates to the modern diagnosis of GERD: Lyon consensus 2.0(Gut(国際ワーキンググループ)・2024)pH-インピーダンス検査における酸曝露時間(AET)の診断閾値(6%超で病的逆流と確定、4%未満は否定的所見)閲覧 2026-08-02
  3. 3.AGA Clinical Practice Update on Integrating Potassium-Competitive Acid Blockers Into Clinical Practice: Expert Review(American Gastroenterological Association・2024)P-CAB(ボノプラザンなど)は高度食道炎・PPI抵抗例で有効性データがある一方、コスト・入手性・長期安全性データの制約から現行ガイドラインは第一選択としての一律使用を推奨していないこと閲覧 2026-08-02