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Symptoms · Published

胸やけ

Heartburn

別名
胸焼け
臓器系
消化器
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 G-01:食道・胃疾患内科学 L-44:胃食道逆流症・嚥下障害の鑑別
関連疾患
G細胞過形成胃食道逆流症

🧠 全体像:は「の灼熱感」という一つの感覚に、酸そのものが粘膜を刺激する場合・粘膜以外の異常で同じ感覚が生まれる場合・脳が正常な刺激を過敏に感じ取る場合という、機序の異なる複数の経路が合流してできている症状である。⚠️ 最大の落とし穴は「=GERD」という短絡で、次に危険なのは「だから消化器」という短絡である。 心臓のがとして訴えられることがあり、初診でまず除外すべきはであって、GERDではない。GERDが最も頻度の高い原因であることは事実だが、頻度の高さは診断の一番手であることを保証しない。

定義と用語の整理

は患者の症状であり、(正中)に生じる灼熱感・焼けるような不快感を指す。しばしば食後・臥位・で増悪し、夜間に睡眠を妨げることもある。(胃内容が咽頭・口腔へ逆流する感覚)と並んでGERDの2大典型症状とされるが、があること自体はGERDの診断を意味しない。健常者でも食後に軽いを経験することがあり、治療対象になるのは症状が頻回・持続し生活の質を損なう場合である。

💡 「」という一語は、患者によって「焼ける」「圧迫される」「締め付けられる」など表現の幅が広い。特に高齢者・糖尿病患者・女性ではのがな「胃の不快感」として語られることがあり、の言葉だけで消化器由来と決めつけないことが出発点になる。

病態生理:機序で分けると鑑別が整理される

を生む経路は一つではない。「粘膜が実際に傷んでいるか」「知覚が過敏になっているだけか」「そもそも食道の問題ではないか」という3つの軸で機序を整理すると、鑑別の優先順位が見えやすくなる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heartburn'>胸やけ</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retrosternal'>胸骨後部</span>の灼熱感)"] --> B["①酸逆流による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucosal irritation'>粘膜刺激</span>"]
    A --> C["②<span class='jp-term jp-term-diagram' title='esophageal motility disorder'>食道運動異常</span>"]
    A --> D["③慢性炎症性の食道傷害"]
    A --> E["④薬剤による直接的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucosal injury'>粘膜傷害</span>"]
    A --> F["⑤<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visceral hypersensitivity'>内臓知覚過敏</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucosal injury'>粘膜傷害</span>を伴わない)"]
    A --> G["⑥食道以外が原因<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='referred pain'>関連痛</span>)"]
    B --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lower esophageal sphincter, LES'>下部食道括約筋</span>の機能不全・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='transient relaxation (TLESR)'>一過性弛緩</span>の頻回化"]
    G --> I["心臓・縦隔由来の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='referred pain'>関連痛</span><br>(内臓<span class='jp-term jp-term-diagram' title='afferent pathway'>求心路</span>の重複)"]
機序 代表疾患 酸分泌抑制への反応
①酸逆流による (GERD) 良好
② 、 乏しい・的外れ
③慢性炎症性の食道傷害 部分反応あり(診断の切り分けには使えない)
④薬剤による直接的な 原因薬剤の中止が主体
⑤ 、 乏しい
⑥食道以外() 狭心症・、 無効(酸の問題ではない)

①酸逆流:(LES)の緊張低下やの頻回化により、酸性の胃内容がを直接刺激する。最も頻度が高く、典型的には食後・仰臥位・で増悪する。

②:のようなや、のような攣縮そのものが、酸とはに灼熱感・として知覚されることがある。嚥下障害を伴えば酸逆流だけでは説明しにくく、この機序を疑う手がかりになる。

③慢性炎症性の食道傷害:はへのの慢性で、思春期以降は嚥下障害・が前面に出やすいが、で発症することもある。⚠️ はEoEに対しても抗炎症作用を持つ肢であり、でが軽快したことはGERDを確定させず、EoEを除外もしない1。

④薬剤による直接的な:ドキシサイクリンなどのテトラサイクリン系、、、などは、少量の水で服用した直後に臥位をとると食道内に滞留し、粘膜を直接傷害して・を起こす()。で服薬状況と服用姿勢を確認することが診断の近道になる。

⑤:内視鏡・で異常な酸曝露が確認できないのにを訴える一群があり、機序としては食道のや中枢性の感作()が想定される。への反応は乏しい。

⑥食道以外が原因():食道と心臓はともに〜を通るで知覚されるため、のレベルで入力が重なり、心臓由来の痛みが「」として語られることがある。酸の問題ではないため、は無効である。

⚠️ 見逃してはいけないもの

危険度の高い順に並べる。

⚠️ :として語られるのは、特に高齢者・糖尿病患者・女性でになりやすい。労作との関連、(左肩・顎・腕)、・呼吸困難の随伴、の有無を必ず確認し、疑わしければ消化器評価より先に心電図・でACSを除外する。「やで軽快したから心臓ではない」とは判断できない——への反応は消化器疾患に特異的ではなく、診断的な除外根拠にならない。

⚠️ を伴う例:嚥下障害、体重減少、消化管出血(・・貧血)、嘔吐のいずれかを伴う場合は、単純なとしてだけで済ませず、を最初の検査とする。の危険因子を複数もつ患者でも同様に内視鏡を先行させる2。50歳以上での新規発症や症状パターンの変化も実地では内視鏡を考える契機になるが、これは 2022がとして挙げている項目には含まれていない。悪性腫瘍・・出血性食道炎を見逃さないためのである。

⚠️ の重症例:軽視されがちだが、・出血・狭窄を来すことがある。原因薬剤の中止と(十分な水量での服用、服用後すぐに臥位をとらない)が治療の中心になる。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heartburn'>胸やけ</span>の訴え"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiovascular risk factor'>心血管危険因子</span>・労作関連・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='radiating pain'>放散痛</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cold sweat'>冷汗</span>などACSを示唆する所見があるか"}
    B -->|"あり"| C["消化器評価に先行して<br>心電図・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='troponin'>トロポニン</span>でACSを評価"]
    B -->|"なし"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alarm feature'>警告徴候</span>(嚥下障害・体重減少・<br>出血・嘔吐・貧血)があるか<br>あるいは50歳以上の新規発症か"}
    D -->|"あり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper gastrointestinal endoscopy'>上部消化管内視鏡</span>を先行"]
    D -->|"なし"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medication history'>服薬歴</span>を確認:<br>原因になりうる薬剤・服用姿勢"]
    F -->|"該当あり"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='drug-induced esophagitis'>薬剤性食道炎</span>を疑い<br>原因薬剤の中止を検討"]
    F -->|"該当なし"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lifestyle advice'>生活指導</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proton pump inhibitor'>PPI</span> 1日1回・食前<br>8週間の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='empiric therapy'>経験的治療</span>"]
    H --> I{"症状は改善したか"}
    I -->|"改善"| J["GERDとして治療継続<br>最小<span class='jp-term jp-term-diagram' title='effective dose'>有効量</span>への減量を再評価"]
    I -->|"改善不良・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='relapse'>再燃</span>"| K["内視鏡・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pH-impedance monitoring'>pH-インピーダンス検査</span>で客観化<br>EoE・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='esophageal motility disorder'>食道運動異常</span>も評価"]
    E --> K
    C --> K
  • 最初の分岐は心臓か消化器かであり、ここを誤ると致死的疾患の診断が遅れる。
  • の有無で内視鏡先行かかを分ける流れはGERDと共通する。
  • の確認は簡便だが見落とされやすく、を疑うきっかけになる。
  • で改善しない・する例では、GERD以外の機序(、、)を積極的に検討する。

対症療法の考え方:PPI試験的治療の位置づけと限界

もACSを示唆する所見もない典型的なには、診断を確定させる前にを試すという「」が広く行われる2。この位置づけと限界を分けて理解する必要がある。

  • 位置づけ:内視鏡や pH モニタリングを全例に行うより低侵襲・低コストで、実地診療では合理的な初期対応である。
  • 限界:試験的治療の診断特性は、24時間を基準にした場合で感度0.78・特異度0.54にとどまるとするがあり、症状の改善だけでは現行の基準によるGERDの確定診断にはならない3。特異度が低いということは、GERD以外の原因(、、軽度のなど)でもに部分反応しうることを意味する。
  • ⚠️ 「が効いた=GERD」とづけない。 特には自体が肢の一つであるため、反応の有無だけでGERDとEoEを切り分けることはできない1。
  • 改善が乏しい・する場合は、を漫然と継続せず内視鏡・評価に進む。
  • 効いたあとの出口も最初に決めておく。 もも無く症状が消失した患者では、の中止、または症状が出たときだけ服用して治まれば止めるへの切り替えを試みる(条件付き推奨)。一方、C/Dのがある患者は無期限の維持療法またはの対象であり、中止を試みる推奨の対象ではない2。

まとめ

  • は「の灼熱感」という感覚に、酸逆流・・慢性炎症・薬剤性傷害・・心臓由来のという異なる機序が合流してできている症状である。「=GERD」と短絡しない。
  • ⚠️ 最優先で除外すべきはである。への反応は診断的な除外根拠にならない。
  • 嚥下障害・体重減少・出血・嘔吐・貧血はであり、内視鏡を最初の検査とする。50歳以上での新規発症・症状パターンの変化も実地では内視鏡を考える契機になる。
  • は合理的な初期対応だが、診断特性は感度0.78・特異度0.54程度にとどまり、確定診断の代わりにはならない。もに部分反応しうるため、反応の有無だけでGERDと切り分けられない。
  • (テトラサイクリン系・・・など、少量の水での服用や服用直後の臥位)はを疑う手がかりになる。

出典

  1. 1.ACG Clinical Guideline: Diagnosis and Management of Eosinophilic Esophagitis(American College of Gastroenterology・2025)好酸球性食道炎が食道機能障害症状と好酸球優位の組織所見(高倍率視野当たり好酸球15個以上)で診断されること、PPIは診断を切り分ける手段ではなく治療選択肢の一つ(局所ステロイド・除去食・生物学的製剤・拡張術と並ぶ)として位置づけられていること。抄録に加え、同ガイドラインの要約解説記事(gi.org掲載)で該当箇所の引用文を確認した。閲覧 2026-09-01
  2. 2.ACG Clinical Guideline for the Diagnosis and Management of Gastroesophageal Reflux Disease(American College of Gastroenterology・2022)全文(PMC8754510)で確認した。胸やけと呑酸という典型的なGERD症状があり警告徴候(嚥下障害・体重減少・消化管出血・嘔吐・貧血)が無い患者には、食前1日1回・8週間のPPI経験的治療から始めること(強い推奨、エビデンスの質は中)。嚥下障害その他の警告徴候がある患者と、バレット食道の危険因子を複数もつ患者では内視鏡を最初の検査とすること(強い推奨、エビデンスの質は低)。PPIの中止またはオンデマンド投与への切り替えを試みるという推奨は、びらん性食道炎もバレット食道も無く症状がPPIで消失した患者を対象とする条件付き推奨であること。LA分類C/Dの食道炎には無期限の維持PPI療法または逆流防止手術を行うこと(強い推奨、エビデンスの質は中)。閲覧 2026-09-17
  3. 3.Short-term treatment with proton-pump inhibitors as a test for gastroesophageal reflux disease: a meta-analysis of diagnostic test characteristics(Annals of Internal Medicine・2004)15研究のメタ解析で、24時間pHモニタリングを基準としたPPI試験的治療の診断特性は感度0.78(95%CI 0.66-0.86)・特異度0.54(CI 0.44-0.65)にとどまり、他の基準(内視鏡所見・症状質問票)ではさらに値が低かったこと。結論として、PPIへの症状改善だけでは現行の基準によるGERDの確定診断とはならないこと。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-01