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Disease Atlas · 消化器 · 疾患

遠位食道痙攣

Distal esophageal spasm

別名
びまん性食道痙攣DESdiffuse esophageal spasm
臓器系
消化器
科目
Internal MedicineSurgery
トピック
内科学 L-44:胃食道逆流症・嚥下障害の鑑別外科学 B/06:食道憩室とアカラシア
鑑別疾患
アカラシア過収縮性食道食道胃接合部流出障害無効食道運動
治療薬
イソソルビドモノニトラートニフェジピンシルデナフィルアミトリプチリンボツリヌス毒素
症状
嚥下障害胸痛
検査値
高解像度食道内圧検査
画像所見
コークスクリュー食道

🧠 全体像:(旧称:、DES)は、の遠位側で蠕動が早期・非協調性のに置き換わる稀なである。19世紀末の初期記載以来「diffuse(びまん性)」という語が定着していたが、収縮が実際には食道全体ではなくほぼ遠位食道に限局することが2003年の内圧検査研究で示され、以後「distal(遠位)」食道痙攣と呼ぶことが定着した1。診断は(HRM)による現行のv4.0(2021年改訂)が担い、臨床的に意味のある症状(嚥下障害・)を伴うことを前提に、の弛緩は正常という条件下で嚥下の20%以上に(4.5秒未満かつDCI 450 mmHg・s・cm以上)を認めることで確定する2。での様所見は間接的な示唆にとどまり、確定診断の代わりにはならない。

位置づけ・疫学

  • 稀な運動障害である。StatPearlsはをおよそ10万人あたり年1例とし、紹介施設(施設)から集めたデータでのを4〜7%としている3。⚠️ 後者は嚥下障害・胸痛の精査で紹介された集団を分母にした値であって、一般人口のではない。
  • 女性に多く、加齢とともにが増え、小児ではまれとされる3。
  • 病因は未確立だが、(を介する経路)の局所的な機能低下により、遠位食道の収縮が早期化・過剰協調不全を起こすと考えられている。

名称の変遷

⭐ 「diffuse(びまん性)」という語は、収縮が食道全体に及ぶという誤解を招く。2003年の内圧検査研究は、DES患者53例での大半(嚥下の37%)が遠位食道に集中し、近位食道にまで及ぶ例はごく一部(2%、53例中3例〔5.6%〕のみ)にとどまることを示し、「diffuse」ではなく「distal(遠位)」食道痙攣と呼ぶべきだとづけた1。現行のv4.0(2021年改訂)もこの語を用いており、本ノートでは「」を正式名称として扱う。

診断:Chicago分類v4.0

(HRM)は、内視鏡でを除外した後に行う生理学的検査であり、のの中では次のように位置づけられる(詳細はを参照)。

⚠️ 内圧基準だけで確定しない。 v4.0は「臨床的に意味のあるの診断には、臨床的に意味のある症状(嚥下障害・)と内圧所見の両方が必要」と明記している2。無症候の被検者に基準を満たす所見が見つかっても、と確定診断しない。

判定項目 基準2
嚥下障害またはなどの臨床的に意味のある症状を伴う
(IRP) 正常(・を除外)
の頻度 嚥下の20%以上
(DL) 4.5秒未満
(DCI) 450 mmHg・s・cm以上

⚠️ DCIの条件を満たさない弱い収縮()までに数えると過剰診断になる。IRP異常を伴う場合はではなくIII型(痙攣型)と判定され、が変わる2。

同じくIRP正常の枠組みで隣接するとも混同しやすい。は収縮のタイミングではなく強さ(DCI 8000 mmHg・s・cm超の嚥下が20%以上)で定義され、早期性(DL短縮)を問わない点でと区別される2。

⚠️ 「」はの同義語ではない。 はに3つの群——の性嚥下、反復性の遷延した収縮(とくに峰を過ぎた相)を伴うジャックハンマー型、強い後収縮を伴う型——があるとし、ジャックハンマー型はそのうちの1つである2。

💡 鑑別の順序は分類の階層で決まる。 は「またはの基準を満たさず、が慎重に除外されたときにのみ」診断できるとされており、が20%以上あっての基準を満たす症例は、DCIがどれだけ高くてもではなくと判定する2。

での様所見は、検査時点でたまたまが起きていれば描出されるが、陰性でもを否定できない間接所見にとどまる。

臨床像

  • 嚥下障害(固形物・液体いずれも)と非心臓性胸痛が主症状で、症状は間欠的・非進行性のことが多い。
  • 胸痛はのこともあり、心疾患の除外が先行することが多い。に生じ背部へ放散しうるが、の原因としての比率は10%未満とされる3。
  • (、喉に物が引っかかる感じ)を訴える患者もいる3。

治療

flowchart TD
    A["症候性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='distal esophageal spasm'>遠位食道痙攣</span>"] --> B["併存するGERDがあれば<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proton pump inhibitor'>PPI</span>で治療"]
    B --> C["第一選択:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='calcium channel blockers'>カルシウム拮抗薬</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nitrates'>硝酸薬</span>"]
    C --> D{"効果不十分か"}
    D -->|"はい"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tricyclic antidepressant'>三環系抗うつ薬</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='selective serotonin reuptake inhibitor'>SSRI</span>など<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='visceral sensation'>内臓知覚</span>を調整する薬剤を追加検討"]
    E --> F{"なお難治性か"}
    F -->|"はい"| G["第二選択:内視鏡的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='botulinum toxin'>ボツリヌス毒素</span>注入<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='pneumatic dilation, PD'>空気圧拡張術</span>"]
    G --> H{"反応不良・再発"}
    H -->|"はい"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Patient-Oriented Eczema Measure'>POEM</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peroral endoscopic myotomy, POEM'>経口内視鏡的筋層切開術</span>)"]
  • 第一選択はなどのとなどの(短時間作用型・長時間作用型のいずれも)で、とを減弱させる3。
  • (など)やは、を調整する薬剤として肢に挙げられる。不安・抑うつを併存する患者では食道症状と精神症状の双方が改善しうる3。⚠️ (など)は、この出典の治療段階には現れない——StatPearls 全文に sildenafil・phosphodiesterase・PDE はいずれも0件である。経路を介してを弱める機序は説明できるが、現行のに位置づける根拠を本ノートは持たない。
  • 内視鏡的な注入とは第二選択に位置づけられる。注入は短期の症状緩和に有効で低リスクな手技だが、通常は医学的にハイリスクな患者に限って選ばれる3。
  • 薬物療法に抵抗する例では、()が有効な選択肢となる3。
  • 併存するGERDの治療も症状緩和に寄与する。とくに食道内検査でが示された場合は治療対象で、を食前30分に開始し、反応があれば3か月継続する3。

まとめ

  • (旧称:、DES)は、遠位食道に限局した早期・非協調性のを特徴とする稀なである。
  • 「diffuse」という語は誤称で、が遠位食道に限局することが2003年の研究で示されたため、現行のは「distal(遠位)」食道痙攣という名称を用いる。
  • 確定診断は(HRM)とv4.0(2021年)が担い、嚥下障害・などの臨床的に意味のある症状を前提に、IRP正常+20%以上(DL4.5秒未満・DCI450 mmHg・s・cm以上)で診断する。内圧基準だけでは確定しない。
  • 収縮の強さ(DCI 8000 mmHg・s・cm超)で定義されるとは、早期性の有無で区別する。はの基準を満たさないときにのみ診断でき、「」は同義語ではなく3つの群のうちの1つである。
  • の様所見は間接的な示唆にとどまり、確定診断の代わりにはならない。
  • 治療は・を第一選択とし、無効例で・によるの調整を挟み、第二選択の内視鏡的注入・、抵抗例のへ段階的に進める。

出典

  1. 1.Diffuse esophageal spasm: not diffuse but distal esophageal spasm (DES)(Digestive Diseases and Sciences・2003)DES患者53例の内圧記録を解析し、同時収縮が遠位食道に集中し(嚥下の37%)近位食道に及ぶ例はごく一部(2%、患者の5.6%のみ)にとどまることを示し、「diffuse」は誤称であり「distal(遠位)」食道痙攣と呼ぶべきと結論づけたことをアブストラクトで確認した閲覧 2026-08-20
  2. 2.Esophageal motility disorders on high-resolution manometry: Chicago classification version 4.0(Neurogastroenterology & Motility・2021)遠位食道痙攣の現行の診断基準(統合弛緩圧IRPは正常、嚥下の20%以上で早期収縮、遠位潜時DL4.5秒未満かつ遠位収縮積分DCI 450 mmHg・s・cm以上)、臨床的に意味のある症状(嚥下障害・非心臓性胸痛)と内圧所見の両方を要すること、IRP異常を伴う場合はアカラシアIII型と判定されること、隣接する過収縮性食道との区別を全文で確認した。過収縮性食道の確定的な内圧診断は「過収縮性の仰臥位嚥下が20%以上」(過収縮性の嚥下=DCI 8000 mmHg・s・cm超)で早期性は問わず、原文は「A diagnosis of hypercontractile esophagus can only be made when criteria for achalasia or distal esophageal spasm are not met and a mechanical obstruction has been carefully ruled out」として遠位食道痙攣の基準を満たさないことを前提に置く。また原文は「There are three general sub-groups of hypercontractile esophagus: single-peaked hypercontractile swallows, jackhammer with repetitive prolonged contractions …, and hypercontractile swallows with a vigorous LES after-contraction」と述べており、ジャックハンマー型は過収縮性食道の同義語ではなく3つの下位群の1つである。なおDCI 450 mmHg・s・cmの閾値は、Table 2と指標の定義節が「450 mmHg•s•cm or greater(以上)」、遠位食道痙攣の節の散文のみ「greater than 450(超)」と書いており、本ノートは表側の記述に合わせている閲覧 2026-08-20
  3. 3.Diffuse Esophageal Spasm(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)NCBIのライブページ(Last Update 2023-07-02)の全文で次を確認した。疫学=発生率は10万人あたり年約1例、紹介施設のデータでは有病率4〜7%、女性に多く加齢とともに増え小児ではまれ。臨床像=固形・液体いずれの嚥下障害、Globus hystericus、胸骨後部で背部へ放散しうる非心臓性胸痛(非心臓性胸痛の原因としては10%未満)。治療=第一選択はカルシウム拮抗薬と硝酸薬(短時間・長時間作用型とも)、内視鏡的ボツリヌス毒素注入と空気圧拡張術が第二選択でボツリヌス毒素は短期の症状緩和に有効な低リスク手技だが通常は医学的にハイリスクな患者に限られる、三環系抗うつ薬/SSRIは内臓知覚を調整する薬剤として挙げられ不安・抑うつ併存例では両症状が改善しうる、併存GERDにはプロトンポンプ阻害薬を食前30分に投与し反応例は3か月継続、薬物抵抗例にはPOEM。予後=軽症〜中等度で死亡率は低い。⚠️ 全文にsildenafil・phosphodiesterase・PDE の語は0件で、PDE5阻害薬はこの出典が支持していない閲覧 2026-08-20