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Disease Atlas · 消化器 · 疾患

食道胃接合部流出障害

Esophagogastric junction outflow obstruction

別名
EGJOO
臓器系
消化器
科目
Internal MedicineSurgery
トピック
内科学 L-44:胃食道逆流症・嚥下障害の鑑別外科学 B/06:食道憩室とアカラシア内科学 G-01:食道・胃疾患
鑑別疾患
アカラシア遠位食道痙攣過収縮性食道食道癌無効食道運動
治療薬
ボツリヌス毒素
原因薬剤
モルヒネオキシコドンフェンタニル
症状
嚥下障害胸痛
検査値
高解像度食道内圧検査機能的内腔イメージング
画像所見
タイムドバリウム食道造影
原因となる疾患
胃食道逆流症好酸球性食道炎全身性強皮症

🧠 全体像:(EGJOO)は、(LES)のを示す内圧所見がありながら、の蠕動がの基準を満たすほどには壊れていない状態を指す。(2021年改訂)で最も扱いが変わった項目で、内圧所見だけでは「臨床的に不確定」と明記された1。つまりEGJOOは確定した病名というより、「まだ決まっていない」という保留の札である。ここで問うべきは治療法ではなく、①内圧所見は本物か(体位と機器)、②症状と結びついているか、③背後にや薬剤が隠れていないか——この3つの順序で、大半は別の答えに行き着く。

なぜv4.0で扱いが変わったか

v3.0では「LESがあり、蠕動はある程度保たれ、の基準を満たさないもの」という内圧所見だけの定義だったため、HRMを受けた患者の最大24%が該当すると報告されていた2。この頻度は「病気」としては明らかに多すぎる。

⭐ v4.0はここに症状の要件との要件を追加し、内圧所見だけの状態をに「行動を起こす根拠にならない所見」へ格下げした2。

flowchart TD
    A["内視鏡・画像で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mechanical obstruction'>機械的閉塞</span>を除外<br>(確認された時点で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Chicago Classification'>シカゴ分類</span>は適用外)"] --> B["HRMで仰臥位・座位ともIRPが異常高値"]
    B --> C["仰臥位で嚥下の20%以上に<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='bolus pressurization'>ボーラス内圧上昇</span>"]
    C --> D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='achalasia'>アカラシア</span>の基準を<br>満たすか"}
    D -->|"満たす"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='achalasia'>アカラシア</span>I〜III型として扱う"]
    D -->|"満たさない"| F["EGJOOの内圧診断<br>(この時点では臨床的に不確定)"]
    F --> G{"嚥下障害または<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='noncardiac chest pain'>非心臓性胸痛</span>があるか"}
    G -->|"無い"| H["治療しない。経過観察"]
    G -->|"ある"| I{"タイムド<span class='jp-term jp-term-diagram' title='barium esophagography'>バリウム食道造影</span>または<br>FLIPで閉塞を支持するか"}
    I -->|"しない"| H
    I -->|"する"| J["臨床的に意味のあるEGJOO"]

診断基準(シカゴ分類v4.0)

判定項目 基準1
(IRP) 仰臥位・座位のいずれでも異常高値
仰臥位の嚥下の20%以上で20 mmHgを超える食道内加圧
蠕動 I〜III型の基準を満たさない
症状 嚥下障害または
支持的検査 タイムド(錠の併用が望ましい)またはFLIPの少なくとも一方

⚠️ 両体位を要求するのが要点である。 仰臥位だけで判定すると偽陽性が多く、IRPの異常上限は機器(メーカー)ごとに違う。閾値の一覧はを参照し、施設の機器に対応する値を使う1。

支持的検査の中身も具体的に決まっている。

  • タイムド:立位・時間プロトコルで行い、236 mLを飲ませて1分後に5 cm超、または5分後に2 cm超の停滞が残れば異常とする3。💡 13 mmの錠を併用する意義は大きい——EGJ流出障害45例のうち48.9%では、液体の通過が正常なのにの通過が異常だった3。
  • FLIP:60 mLのEGJが2.0 mm²/mmHg未満であれば開大不良とする2。HRM所見が境界域の閉塞症状例で補助的に用いることが推奨されている3。
  • HRMの最中にも、や(立位で100〜200 mLを)といった負荷を加えて診断能を上げる3。

蠕動所見による亜型

v4.0はEGJOOをさらに蠕動パターンで細分する——痙攣性所見を伴う型・性所見を伴う型・を伴う型・蠕動異常を伴わない型の4つである1。亜型はを直接決めるものではないが、痙攣性・性の所見を伴う型はやと地続きの病態として読む手がかりになる。

⚠️ 内圧を読む前に潰しておくもの

⚠️ 内視鏡・画像でが確認された時点で、そのものが適用できない。 この分類は前腸の解剖が正常な患者を対象にしており、構造病変があれば内圧所見の解釈自体が成立しなくなる1。EGJOOは「除外の末に残る所見」であって、閉塞の原因を探す前に付ける札ではない。

背景 具体例2
(分類と治療はのノートにある)、、、ウェブ
術後 後の巻き過ぎ・すべり、などの後
悪性腫瘍 の腺癌。や胃癌による様の像
浸潤性・炎症性 、
薬剤 オピオイド(モルヒネ・・など)、抗精神病薬

⚠️ オピオイドは必ず確認する。 オピオイドはμ・κ受容体を介してを乱し、EGJ流出障害やIII型様のを作る。可能なら服用を中止した状態で検査するのが原則で、中止できないなら所見の解釈にその前提を付ける1。薬剤性であればは不要であり、ここを飛ばすと不可逆な治療に進んでしまう。

鑑別

鑑別 分かれ目
IRP異常は共通。蠕動が完全に消失していれば(I・II型)、有意な蠕動を欠きが20%以上ならIII型。EGJOOはこれらの基準を満たさない1
IRPは正常。(の短縮)で定義される
IRPは正常。収縮の強さ(DCI高値)で定義される
・ 内圧では区別できない。内視鏡と画像で先に潰す。高齢・短い病歴・急速な体重減少では特に疑う

💡 EGJOOは「早期」でありうる。 一部はのちにへ移行する。だからこそ、症状が続くのに支持的所見が揃わない例では打ち切りではなく再評価の予定を立てるのが正しい対応になる2。

経過と治療

単施設70例・追跡中央値28か月の後ろ向き解析では、23例が背景を持つEGJOO、47例が機能性EGJOOだった。機能性の47例では薬物療法で32例(68.09%)が改善し、無治療で自然に軽快した例が10例(21.28%)あった一方、を要した例は4例(8.51%)、は1例(2.13%)にとどまる。症状の改善が得られたのは70例中67例(機能性は47例全例、は23例中20例)で、そのうち15例(22.39%)が無治療の自然軽快だった。⚠️ この22.39%は症状が改善した67例を分母とする値であり、EGJOO全体に対する割合ではない(70例を分母にすれば15/70=21.4%)。著者らは「EGJOOのかなりの部分はの早期の現れでありうる」として、より精査と綿密な追跡を勧めている4。

⚠️ 無症状のEGJOOは治療しない。 支持的検査で閉塞が裏づけられ、症状が生活に支障を来している場合に限って、LESを開ける治療を段階的に検討する。報告されている症状改善率は次のとおりで、いずれも小規模研究に基づく2。

治療 報告されている症状改善2
薬物療法 3〜6か月時点で0〜75%と幅が大きい
内視鏡的注入 6か月未満の短期改善は最大100%、6か月以上の持続改善は最大67%
最大35%
約80%が最長5年間持続
外科的 12か月以上の時点で100%
71〜100%。ただし術後の逆流症状が最大40%に生じる

💡 数字の並びだけを見るとが最も良く見えるが、この比較は治療を受けた集団どうしの比較ではない。 自然軽快が2割ある病態で、対照を置かない症例集積の成功率をの根拠にはできない。注入は効果が一時的である代わりに侵襲が小さく、としての位置づけを持つ。

まとめ

  • EGJOOは、IRP高値がありながら蠕動がの基準を満たさない内圧所見であり、では単独では臨床的に不確定とされる。
  • 内圧診断には仰臥位・座位の両方でIRP異常と、仰臥位の嚥下20%以上でのが要る。IRPの異常上限は体位と機器で変わる。
  • 臨床的に意味のある診断には、嚥下障害またはに加え、タイムド(錠併用が望ましい)またはFLIPの支持的所見が必要。
  • ⚠️ 内視鏡・画像でが確認されれば自体が適用できない。・術後変化・悪性腫瘍・浸潤性疾患・オピオイドを先に潰す。
  • 蠕動所見で4亜型に細分されるが、亜型が治療を決めるわけではない。
  • 自然軽快が2割前後あり、の早期の現れであることも多い。無症状なら治療せず、支持的所見が揃った症候例に限って注入・・を段階的に検討する。

出典

  1. 1.Esophageal motility disorders on high-resolution manometry: Chicago classification version 4.0(Neurogastroenterology & Motility・2021)Table 1・Table 3と本文で、食道胃接合部流出障害の内圧基準(仰臥位・座位ともIRP異常+仰臥位で嚥下の20%以上にボーラス内圧上昇=20 mmHg等圧線+アカラシアの基準を満たさない)、IRPの異常上限が体位と機器で異なること、「EGJOOの内圧診断は常に臨床的に不確定とみなす」という強い推奨、臨床的に意味のある症状が嚥下障害・非心臓性胸痛であること、確定にはタイムドバリウム食道造影(できればバリウム錠を併用)またはFLIPの支持的所見を要すること、蠕動所見による4つの亜型(痙攣性・過収縮性・蠕動不全を伴う型/蠕動異常を伴わない型)、急速飲水負荷などの補助所見、内視鏡・画像で機械的閉塞が確認された時点でこの分類自体を適用できないこと、オピオイド使用と食道運動異常の関連を確認した閲覧 2026-08-20
  2. 2.Esophagogastric Junction Outflow Obstruction: A Diagnosis in Evolution(Gastroenterology & Hepatology (N Y)・2024)本文で、シカゴ分類v3.0ではHRM施行例の最大24%がEGJOOと報告されたのに対しv4.0が症状と確認検査を要件に加えて範囲を絞ったこと、FLIPでの閉塞の定義(60 mL充満時のEGJ拡張性指数が2.0 mm²/mmHg未満)、二次性の原因(食道裂孔ヘルニア・狭窄・輪・ウェブなどの機械的閉塞、噴門形成術や胃バンドなどの術後、悪性腫瘍、全身性強皮症や好酸球性食道炎などの浸潤性・炎症性疾患、オピオイドや抗精神病薬)、治療別の症状改善率(薬物療法は3〜6か月で0〜75%、ボツリヌス毒素は6か月未満の短期改善が最大100%・6か月以上の持続改善が最大67%、内視鏡的拡張は最大35%、空気圧拡張術は約80%が最長5年持続、外科的筋層切開は12か月以上で100%、POEMは71〜100%だが術後逆流症状が最大40%)を確認した閲覧 2026-08-20
  3. 3.ACG Clinical Guidelines: Clinical Use of Esophageal Physiologic Testing(American College of Gastroenterology・2020)閉塞症状の評価の節で、バリウム食道造影に13 mmのバリウム錠を併用することを提案する条件付き推奨(EGJ流出障害45例の48.9%で液体バリウムの通過が正常なまま13 mm錠の通過が異常だった。未治療アカラシア107例では74.8%で液体・錠剤とも異常、アカラシアでない132例では60.6%で両方が正常)、立位・時間計測プロトコル(バリウム236 mL、1分で5 cm超または5分で2 cm超を異常とする)、HRM所見が境界域の閉塞症状例でFLIPを補助的に用いる条件付き推奨、内圧検査にマルチラピッドスワロー(2 mL嚥下を3秒未満間隔で5回)と急速飲水負荷(100〜200 mLを立位で一気飲み)を追加する推奨を確認した閲覧 2026-08-20
  4. 4.Esophagogastric Junction Outflow Obstruction Is Likely to Be a Local Manifestation of Other Primary Diseases: Analysis of Single-Center 4-Year Follow-Up Data(Diagnostics (Basel)・2023)結果と考察の節で、EGJOO 70例のうち23例が器質的(anatomical)EGJOO・47例が機能性EGJOOであったこと、追跡期間の中央値が28か月(四分位22〜36)であったこと、機能性EGJOO 47例の転帰の内訳(薬物療法で症状改善32例〔68.09%〕、無治療で自然軽快10例〔21.28%〕、POEM後の改善4例〔8.51%〕、空気圧拡張術後の改善1例〔2.13%〕)、症状改善が得られたのが70例中67例(機能性47/47、器質的20/23)で、そのうち自然軽快が15/67(22.39%)・薬物療法後が37/67(55.22%)・原因の解消後が7/67(10.45%)であること(この22.39%の分母は症状が改善した67例であってEGJOO全体70例ではない)、著者らが「EGJOOのかなりの部分は器質疾患の早期の現れでありうる」として侵襲的治療より精査と綿密な追跡を勧めていることを確認した閲覧 2026-08-20