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Disease Atlas · 消化器 · 外傷

食道異物

Esophageal foreign body

別名
食道異物症食道内異物
臓器系
消化器耳鼻咽喉科小児
科目
OtorhinolaryngologySurgeryPediatrics
トピック
耳鼻咽喉科 60:食道の検査・疾患、嚥下障害、食道異物外科学 B/07:食道損傷小児科 2-25:小児に多い中毒の徴候と除染
鑑別疾患
気道異物
合併症
食道穿孔
関連疾患
好酸球性食道炎腐食性物質誤飲
症状
嚥下障害嚥下痛流涎胸痛嘔吐
画像所見
縦隔気腫
元疾患
食道輪

🧠 全体像:の判断は「何を飲んだか・どこにあるか・症状があるか・いつからか」の4つで決まり、このうち食道という場所そのものが最大の危険因子である。胃まで落ちた異物の大半は自然に排出されるのに対し、食道はに乏しく周囲に気管・大動脈・脊椎が密着しているため、同じ物でも滞在するだけで穿孔・瘻孔へ進みうる。したがって実務は「摘出するかどうか」ではなく「何時間以内に摘出するか」を決める作業になる。⚠️ 例外的に時間の桁が違うのがで、これは無症状でも2時間以内という別の時計で動く。

嵌頓する場所と、そこにある物

食道にはが3か所ある——による、とが交差する部位、である。異物はこのいずれかで止まり、最も多いのは最上部のである。中国の成人586例では嵌頓部位は食道が82.1%を占め、そのうち上部食道が全体の70.8%に達した(胃15.2%、十二指腸2.7%)1。

飲み込まれる物は年齢層と生活文化で大きく変わる。小児では・・玩具・が中心で、成人では・・・が中心になる。上記の中国の施設ではナツメの種が67.2%と際立って多く、以下9.2%、3.4%、3.4%、2.2%であった1。⚠️ この内訳はを反映しており、そのまま他地域へ持ち込めない。 覚えるべきは「地域ごとに最多の異物が違う」という一般則のほうである。

  • 背景疾患を持つ食道は詰まりやすい。 上記の研究で基礎疾患が確認されたのは16例(2.5%)と少数だが、その内訳は後のが最多で、次いでであった1。
  • 成人のの91.0%は偶発的で、な嚥下(精神疾患・受刑者・薬物の運搬)は少数である1。

症状——「無症状」が最も多い

⚠️ 症状の有無で異物の有無を判断しない。 成人586例のうち最も多かったのは、症状が無く歴だけがある群で42.8%を占めた。次いで嚥下障害・のが37.9%、胸痛が12.1%であった1。

典型的な訴えは頸部・の、嚥下障害、、、嘔吐である。唾液も飲み込めない状態はを意味する。

💡 と対にして覚える。 は突然のむせと咳・・が前景で、は嚥下系の症状が前景に立ち、呼吸器症状が出るとすれば気管を後ろからした二次的なものである。小児では両者の区別が病歴だけでは付かないことがあり、頸部から腹部までの撮影で位置を確かめる。

画像

正面・側面の2方向単純X線を、頸部・胸部・腹部の全体が入るように撮る2。X線不透過性の異物のが疑われるとき、あるいは異物の種類が不明なときは、存在・位置・大きさ・形状・個数を単純X線で評価する3。

検査 位置づけ
単純X線(2方向) 第一選択。⚠️ ・・木片・・多くの玩具は写らないので、陰性でも否定できない
穿孔その他の手術を要しうる合併症が疑われる全例に行う3。では・瘻孔・の検出に用いる2
⚠️ 行わない。 誤嚥の危険があり、内視鏡の視野を悪くする3
MRI ⚠️ 電池を摘出する前には絶対に行わない2
内視鏡 診断であり治療でもある。合併症のない非骨性のでは画像を省いて内視鏡へ進んでよい3

緊急度をどう決めるか

成人ではESGEが摘出の時間軸を3段階に分けている3。

目安 対象
緊急 できれば2時間以内、遅くとも6時間以内 食道のをきたす異物、食道内のな異物、食道内の電池
24時間以内 のないその他の/胃内のな異物・・電池・大きいまたは長い異物
非緊急 72時間以内 胃内の中等大の鈍な異物
経過観察 摘出しない 鈍で小さい異物を飲んだ無症状の患者(電池とを除く)。可能なら外来管理でよい

⭐ この表の骨格は「食道か、胃より下か」と「/電池/か、鈍か」の2軸である。 同じ物でも食道にあれば1段階上がり、胃まで落ちれば1段階下がる。

⚠️ 時間を守ることには実測の裏づけがある。 上記の中国の研究では、6時間を超えた非緊急内視鏡が全合併症の増加と、24時間を超える経過とな異物が重大合併症の増加と有意に関連した1。摘出成功率は99.5%と高い一方で、全合併症は17.9%、重大合併症は7.7%、穿孔は3.4%に生じている。「内視鏡なら安全」ではない。

⚠️ ボタン電池——別の時計で動く

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='button battery'>ボタン電池</span>が食道に嵌頓<br>両極が粘膜に密着する"] --> B["組織が回路の導体となり電流が流れる<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electrolysis'>電気分解</span>)"]
    B --> C["負極側で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hydroxide ion'>水酸化物イオン</span>が生成<br>局所pHが上昇"]
    C --> D["アルカリによる<span class='jp-term jp-term-diagram' title='liquefactive necrosis'>液状壊死</span><br>アルカリ性液体の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='accidental ingestion (of a foreign body)'>誤飲</span>と同じ型の損傷"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impaction (impacted fracture)'>嵌入</span>から2時間以内に高度の損傷が起こりうる"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transmural necrosis'>全層壊死</span>から周囲組織への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fistula formation'>瘻孔形成</span>"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='middle (thoracic) esophagus'>中部食道</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aortoesophageal fistula'>大動脈食道瘻</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subclavian artery-esophageal fistula'>鎖骨下動脈食道瘻</span><br>近位食道の前方:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tracheoesophageal fistula, TEF'>気管食道瘻</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid artery'>甲状腺動脈</span>損傷・声帯損傷<br>後方:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spondylodiscitis'>脊椎椎間板炎</span>"]

損傷の主役はでも内容物の漏出でもなくである。電池がに接すると組織が2極間の回路の導体となり、負極側でが生じてpHが上がり、組織がに陥る——アルカリ性液体をしたときの食道損傷と同じ型である2。胃や小腸では両極が同時に密着しないためこの現象は起こらず、食道を通過した電池はふつう問題なく排出される。

⭐ 負極がどちらを向いていたかで、後から起こる合併症が決まる。 の損傷は気管・血管の損傷を、後方の炎症はを、近位食道の前方損傷は損傷・・声帯損傷を、はを最も懸念させる2。内視鏡時には「+」刻印の無い側=負極がどこを向いていたかを必ず確認する。

  • ⚠️ 無症状でも待たない。 食道内の電池は可及的速やかに、可能ならから2時間以内に、全身麻酔・下で内視鏡的に摘出する。直前に食事をしていても遅らせない2。
  • X線でと見分ける。 正面像の()が電池を示し、側面像で厚みが一段変わる側が負極である。⚠️ ただし薄い電池ではリングが見えないことがあり、写り方の濃度でと区別しようとする試みは成功していない2。
  • 合併症は遅れて出る。 は2時間以内に起こりうるが、穿孔の診断はふつう2日以内(12時間以内はまれ)、瘻孔は摘出後4週まで、狭窄・・は数週から数か月かかりうる2。摘出できたことは経過観察の終わりではない。
  • 危険が高いのは直径20 mm超の電池と6歳未満の小児である2。

はちみつとスクラルファートは「内視鏡までのつなぎ」

内視鏡がすぐに使えない状況では、から12時間以内に限り、はちみつまたはのを考慮しうる。電池を被覆してを抑えることに加え、どちらもなので生成した水酸化物を中和するというのが想定される機序である。用量はいずれも1回10 mL(小さじ2)を10分毎、はちみつは最大6回、(1 g/10 mL)は最大3回まで2。

  • ⚠️ 1歳未満にはちみつを用いない(の危険)2。
  • ⚠️ 診断が遅れた例、穿孔・・敗血症が疑われる例、、はちみつ/へのアレルギーでは慎重を期す。
  • ⚠️ これを理由に内視鏡を遅らせてはならない。 最も重要な介入は常に摘出である2。
  • 根拠はブタを用いた in vitro・in vivo の研究にとどまり、ヒトでの研究は欠けている2。

磁石——1個か、複数か

は単独ではただの鈍な異物だが、2個以上、あるいは電池と一緒に飲まれると意味が変わる。離れた消化管の壁を挟んで引き合い、挟まれた壁が・穿孔・瘻孔に至る。ESPGHANは、胃内の電池でもの同時があればの適応とし、電池とが既に胃を越えている場合は外科へ相談したうえで厳重に経過を追うか外科的に摘出するとしている2。

ESGEの成人向け推奨では、鈍で小さい異物の経過観察という原則から電池とは明示的に除外され、胃内のは(24時間以内)の摘出対象に置かれている3。

治療

  • :まず愛護的に胃へ押し込むことを試み、不成功なら回収を考慮する。薬物治療の有効性には議論があり、それによって内視鏡を遅らせない3。
  • ⭐ が詰まったら、必ず背景疾患を探す。 内視鏡に加え、を含む背景疾患の検索を行う3。若年成人ではが代表で、この診断は生検でしか付かない。中高年では・・を考える。
  • な異物の摘出では、食道胃・咽頭の損傷と誤嚥を避けるためやなどの保護具を用い、誤嚥リスクが高ければを考慮する3。
  • body packing(薬物の包みを飲み込んだ例)では、無症状なら厳重な経過観察とし、内視鏡的回収を行わない。包みの破裂が疑われる場合、進行が止まった場合、腸閉塞では外科へ紹介する3。⚠️ 内視鏡操作で包みを破ると致死的中毒になる。
  • ⚠️ 異物を押し流す目的で無理に飲食させない。 穿孔が疑われる状況での盲目的な処置も行わない。

合併症と鑑別

鑑別 分かれ目
咳・・片側のが前景。嚥下症状より呼吸症状が先に立つ
発熱・頻脈・・。異物の合併症としても、独立した病態としても起こる
・・ の背景。異物を取って終わりにせず生検・精査へ進む
咽頭の 異物が無い。X線・内視鏡で確認する

まとめ

  • は「何を・どこに・症状は・いつから」の4でが決まる。摘出の要否ではなく時間軸を決める作業である。
  • 嵌頓部位は食道が最多(成人586例で82.1%、うち上部食道70.8%)で、のうち最上部に止まりやすい。
  • 受診時に無症状の例が42.8%と最も多く、症状の有無で異物の有無を判断できない。
  • 単純X線は2方向で頸部から腹部まで撮る。・木片は写らないため陰性でも否定できず、は行わない。
  • ESGEは緊急(2時間、遅くとも6時間以内)=食道の・な異物・電池、(24時間)=その他のと胃内の物・・電池・長大物、非緊急(72時間)=胃内の中等大鈍物と定めている。
  • ⚠️ 食道内のは無症状でも2時間以内に摘出する。損傷機序はで、負極側のがを起こす。でと区別し、側面像の側が負極である。
  • はちみつ・は12時間以内のつなぎであり、1歳未満には用いず、内視鏡を遅らせる理由にしてはならない。
  • は2個以上または電池との同時で壁を挟んだ壊死を起こす。単独の鈍な異物とは別扱いにする。
  • では必ず生検を含めて背景疾患(・狭窄・腫瘍)を探す。

出典

  1. 1.Emergency Removal of Ingested Foreign Bodies in 586 Adults at a Single Hospital in China According to the European Society of Gastrointestinal Endoscopy (ESGE) Recommendations: A 10-Year Retrospective Study(Medical Science Monitor・2022)中国の単一施設で2011〜2020年に上部消化管異物・食塊嵌頓で救急受診した成人586例を後方視的に解析した研究で、嵌頓部位は食道が481例(82.1%)と最多で、そのうち上部食道が415例(70.8%)を占めたこと、胃は89例(15.2%)・十二指腸は16例(2.7%)であったこと、受診時に症状が無く誤飲歴のみが251例(42.8%)と最も多く、嚥下障害・胸骨後の異物感が222例(37.9%)、胸痛が71例(12.1%)であったこと、誤飲の91.0%が偶発的であったこと、この施設で最多の異物はナツメの種(67.2%)で以下鶏骨(9.2%)・食塊(3.4%)・魚骨(3.4%)・義歯(2.2%)であったこと、摘出成功率が99.5%(583例)で全合併症17.9%・重大合併症7.7%(45例)であったこと、穿孔が20例(3.4%)に生じたこと、6時間を超える非緊急内視鏡が全合併症の増加と、24時間超の経過と鋭利な異物が重大合併症の増加と有意に関連したことを確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Diagnosis, Management, and Prevention of Button Battery Ingestion in Childhood: A European Society for Paediatric Gastroenterology Hepatology and Nutrition Position Paper(European Society for Paediatric Gastroenterology Hepatology and Nutrition・2021)小児のボタン電池誤飲について、損傷機序として局所の圧迫壊死・内容物の漏出による腐食・重金属毒性・電気損傷がいずれも関与するが最も重要なのは電気分解であり、組織が2極間の回路の導体となって負極側で水酸化物イオンが生成されpHが上昇して組織の液状壊死を起こし、アルカリ性液体の誤飲後の食道損傷に相当すること、組織に嵌入してから2時間以内に高度の損傷が起こりうること、直径20 mm超の電池と6歳未満の小児で損傷が多いこと、負極の向きが合併症の部位を決め、食道前壁の腐食性損傷は血管・気管の損傷、後方の炎症は脊椎椎間板炎、近位食道の前方損傷は甲状腺動脈損傷・気管食道瘻・声帯損傷、中部食道は大動脈食道瘻を最も懸念させること、粘膜損傷は2時間以内に生じうるが合併症の顕在化はより遅く穿孔は通常2日以内(12時間以内はまれ)、瘻孔は摘出後4週まで、狭窄・脊椎椎間板炎・反回神経損傷は数週から数か月かかりうること、正面・側面の2方向X線が必須で頸部・胸部・腹部全体を含め、二重リング(halo)徴候で硬貨と区別し側面像の段差(step-off)側が負極であること(薄い電池ではリングが見えないことがある)、食道内の電池は可及的速やかに(可能なら誤飲から2時間以内に)全身麻酔・気管挿管下で内視鏡的に摘出し摂食歴があっても遅らせないこと、内視鏡時に「+」刻印の無い側=負極の向きを確認すること、はちみつとスクラルファートは電池の被覆と生成した水酸化物の中和(ともに弱酸)により誤飲後12時間以内に考慮しうるが、用量は各10 mL(小さじ2)を10分毎、はちみつは最大6回・スクラルファート(1 g/10 mL懸濁液)は最大3回で、乳児ボツリヌス症の危険から1歳未満にははちみつを用いず、穿孔・縦隔炎・敗血症の疑いや嚥下困難・アレルギーでは慎重を期し、いずれも内視鏡摘出を遅らせる理由にしてはならないこと、胃内の電池は通常無害だが、目撃されていない誤飲・12時間超の診断遅延・有症状・磁石の同時誤飲では内視鏡的摘出の適応となり、磁石と電池が壁を挟んで壊死を起こしうること、電池と磁石が既に胃を越えていれば外科への相談が必要であることを確認した。また本ポジションペーパーは、Vargaらのレビュー(31論文・136,191例、生後4か月〜19歳)を引用して合併症の危険を0.165%・致死率を0.04%(61例)とし、死亡原因が大血管への瘻孔形成による大出血44.3%・血液誤嚥と気管支肺炎による窒息11.4%・不明44.3%であったと紹介している。これらの数値は本ポジションペーパー自身の集計ではなく引用値である。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Removal of foreign bodies in the upper gastrointestinal tract in adults: European Society of Gastrointestinal Endoscopy (ESGE) Clinical Guideline(European Society of Gastrointestinal Endoscopy・2016)成人の上部消化管異物について、診断は病歴と症状に基づく評価と全身状態・合併症徴候に焦点を当てた身体診察から始めること、合併症のない非骨性の食塊嵌頓には画像検査を推奨しないが、X線不透過性の異物の誤飲が疑われるか異物の種類が不明なときは単純X線で存在・位置・大きさ・形状・個数を評価すること、穿孔その他の手術を要しうる合併症が疑われる全例にCTを推奨すること、誤嚥の危険と内視鏡視野の悪化のためバリウム嚥下造影を推奨しないこと、鈍で小さい異物(電池と磁石を除く)を飲んだ無症状の患者には内視鏡的摘出を要さず臨床経過観察を推奨し可能なら外来管理が適切であること、食道の完全閉塞をきたす異物と食道内の鋭利な異物・電池には緊急(できれば2時間以内、遅くとも6時間以内)の治療的上部内視鏡を推奨し、完全閉塞のないその他の食道異物には準緊急(24時間以内)を推奨すること、食道の食塊嵌頓はまず愛護的に胃へ押し込むことを提案し不成功なら回収を考慮すること、薬物治療の有効性には議論があり内視鏡を遅らせてはならないこと、食塊嵌頓では治療的内視鏡に加えて組織学的評価を含む背景疾患の検索を推奨すること、胃内の鋭利な異物・磁石・電池・大きい/長い異物には準緊急(24時間以内)を、中等大の鈍な胃内異物には非緊急(72時間以内)を推奨すること、鋭利な異物の内視鏡的摘出では食道胃・咽頭の損傷と誤嚥を避けるため保護具の使用を推奨し誤嚥リスクが高ければ気管挿管を考慮することを確認した。抄録に収載された推奨文を閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-03