小児科学

小児科学 · 2-25

小児に多い中毒の徴候と除染

Common Pediatric Poisonings, Signs and Decontamination

前提:病態
アルコールの代謝解毒薬:定義と例
薬剤
ホメピゾール
疾患
急性鉄中毒抗コリン薬中毒食道異物腐食性物質誤飲

🧠 小児中毒では、まず曝露物質・量・時刻・経路を確認し、容器を確保してへ連絡する。ABCDEの安定化が最優先で、は行わない。やは毒物ごとに適応が異なり、を「とりあえず」投与しない。

初期対応

flowchart TD
    A["曝露を疑う:意識・呼吸・循環を評価"] --> B["汚染源から離し、医療者の安全を確保"]
    B --> C["ABCDE、血糖、心電図、体温"]
    C --> D["物質・量・時刻・経路・体重を確認"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='poison control center'>中毒情報センター</span>/救急・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intensive care'>集中治療</span>へ相談"]
    E --> F["適応がある<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decontamination'>除染</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Antidote'>解毒薬</span>・支持療法"]
  • 皮膚・眼曝露では汚染衣類を除去し、大量の流水で洗浄する。
  • は、気道が保護され、吸着可能な毒物を重篤量摂取して摂取後1時間以内に受診した場合などに限る。健常志願者試験では吸収抑制率が投与30分後47%、60分後40%、120分後17%と急速に低下し、単回が臨床転帰を改善するというエビデンスは無い1。、、アルコール、金属には通常無効または不適切である。
  • ・(イペカックシロップ)はいずれもには行わない。AACT/EAPCCTはを「ルーチンには行わない、行うとしてもごく稀」としており2、かつて用いられたイペカックシロップも臨床転帰を改善する根拠が無いとして救急外来でのルーチン投与の中止が勧告されている3。いずれも例外的な状況でのみと協議する。

代表的な中毒

毒物 重要な徴候・機序 対応の要点
頭痛、悪心、めまい、意識障害、痙攣、不整脈。COはヘモグロビンとに作用しを起こす 直ちに曝露から離し100%酸素。通常のは不正確なためでCOHbを測定。重症例・神経症状・循環不安定などではをと検討
、、嘔吐、胸腹痛、口腔・食道熱傷。口腔所見が乏しくても深部損傷を否定できない 、酸塩基の中和、は禁忌。自己判断で希釈させず直ちに専門相談。症状・物質に応じ早期内視鏡評価、気道管理、鎮痛。穿孔・・腹膜炎に注意
エタノール 、、呼吸抑制、特に乳幼児で低血糖 気道、血糖、体温を管理し支持療法
、高性代謝性アシドーシス、意識障害 、アシドーシス補正、、重症時を毒物と実施
、代謝性アシドーシス、低Ca血症、 、支持療法。重症例はを検討
咳、窒息、喘鳴、低酸素。低粘度製品はを起こしやすい。吸入乱用では突然の ・胃内容除去・を避ける。呼吸状態を観察し酸素・などの支持療法。は不整脈を悪化させ得る
() 摂取直後は無症状〜軽度消化器症状にとどまることが多く、48〜72時間後に上昇・肝不全へ進行しうる(代謝物による) 摂取後4時間以降の血中濃度をに照らして評価し、治療域を超える場合や30 g以上の高リスク摂取ではを開始する4
として体重あたり20 mg/kg以上でGI症状(嘔吐・下痢・)、60 mg/kg以上で代謝性アシドーシスや意識障害などの全身毒性が生じうる 摂取後8時間以内の血清鉄高値または重症徴候があれば静注を検討し、無症状の軽微摂取は経過観察する5
の 食道にすると電池の電解作用でアルカリ性のが急速に進み、後2時間ほどで・穿孔に至りうる 食道が疑われれば緊急性の高い異物として画像で位置を確認し、できるだけ早く(目安2時間以内に)内視鏡的に摘出する6

CO中毒の「さくらんぼ色皮膚」は古典的だがまれであり、診断の手掛かりとして頼れない。COHは曝露終了後に低下するため、症状の重症度と必ずしも一致しない。

有毒植物

植物名・部位・摂取量を同定し、写真または標本を確保する。多くは消化器症状に対する支持療法でよいが、以下は重症化し得る。

植物・毒性原理 主な所見 特異的対応
キョウチクトウ、/ 悪心、徐脈、、不整脈、高K血症 重症心毒性ではを検討
トウゴマ/リシン 激しい嘔吐・下痢、脱水、多臓器障害 早期の専門相談と支持療法
/ 、乾燥、頻脈、尿閉、興奮・せん妄 支持療法、必要時にとを検討

「1錠で致死的になり得る」薬物

乳幼児では少量でも体重当たり用量が大きくなる。徐放製剤では症状が遅れることもあるため、無症状でも相談が必要である。ただし「1錠で致死的」という枠組み自体がアロメトリック・スケーリングの原則に反して誇張されているという批判もあり、オピオイド以外で医薬品1錠が幼児を死亡させた文献報告は無いという指摘、過度の救急搬送紹介や不必要な観察入院を招いているという指摘がある7。

中毒像 主な治療
、、低血圧、痙攣、 心電図監視、、痙攣治療
オピオイド 、意識低下、呼吸抑制 と。長時間作用薬ではを監視
遷延・再発性低血糖、痙攣 ブドウ糖、頻回血糖測定、を検討
Ca拮抗薬・β遮断薬 徐脈、低血圧、ショック、 早期に毒物・へ相談し薬物別治療

まとめ

  • まずABCDE、血糖、心電図を評価し、毒物・量・時刻・経路を同定する。
  • は行わず、・は選択された症例だけに用いる。
  • COでは通常のSpO₂を信用せず、とではを招くを避ける。
  • 少量摂取でも重症化する薬があるため、無症状でもへ相談する。

出典

  1. 1.Position paper: Single-dose activated charcoal(American Academy of Clinical Toxicology / European Association of Poisons Centres and Clinical Toxicologists(Clinical Toxicology)・2005)活性炭50 g以上を用いた健常志願者試験で、吸収抑制率の平均は投与30分後47.3%、60分後40.1%、120分後16.5%、180分後21.1%と時間とともに低下したこと。単回活性炭はルーチンに投与すべきではなく、吸着される毒物を中毒量摂取して1時間以内であれば考慮してよいこと(1時間を超えても有益性を完全には否定できない)、臨床転帰を改善するエビデンスは無く、気道が確保・保護されていない患者では禁忌であることを確認した。閲覧 2026-08-27
  2. 2.Position paper update: gastric lavage for gastrointestinal decontamination(American Academy of Clinical Toxicology / European Association of Poisons Centres and Clinical Toxicologists(Clinical Toxicology)・2013)2003〜2011年の系統的レビューでも胃洗浄が重篤な合併症を伴うという報告が続き、有益とした臨床研究はいずれも重大な方法論的欠陥を持っていたこと。胃洗浄をルーチンに行うべきというエビデンスは無く、「ルーチンには行わない、行うとしてもごく稀」とし、適応となる稀な場面でも訓練を受けた者だけが実施すべきとしたことを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Position statement: ipecac syrup(American Academy of Clinical Toxicology / European Association of Poisons Centres and Clinical Toxicologists(Journal of Toxicology. Clinical Toxicology)・1997)イペカックシロップはルーチンに投与すべきではなく、臨床転帰を改善するエビデンスは無いため救急外来でのルーチン投与は中止すべきであること、意識レベル低下・意識消失が差し迫った患者や腐食性物質・誤嚥高リスクの炭化水素を摂取した患者には禁忌であることを確認した。閲覧 2026-08-27
  4. 4.Management of Acetaminophen Poisoning in the US and Canada: A Consensus Statement(JAMA Network Open(America's Poison Centers・American Academy of Clinical Toxicology・American College of Medical Toxicology・Canadian Association of Poison Control Centers)・2023)米国とカナダの4中毒学会による2023年合意指針が、パラセタモール中毒の投与判断に使うRumack-Matthewノモグラムを改訂し、4時間値150 µg/mLから始まる治療線に加え、30 g以上の摂取またはノモグラム上のこの線を上回る血中濃度を「high-risk ingestion(高リスク摂取)」と定義して4時間値300 µg/mLから始まる専用の線を設けたことを確認した。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Acute iron poisoning(Pediatric Annals・1996)小児の急性鉄中毒では、単一の中毒量は確立していないものの、元素鉄として体重あたり20 mg/kg以上の摂取で有意な消化器症状が、60 mg/kg以上の摂取で全身毒性が生じうること、摂取後8時間以内の血清鉄濃度が500 µg/dLを超える場合や重症徴候がある場合に静注デフェロキサミンを投与するという管理方針を確認した。閲覧 2026-08-27
  6. 6.Button battery ingestion in children-a potentially catastrophic event of which all radiologists must be aware(The British Journal of Radiology・2018)ボタン電池の誤飲に関するレビューで、電池の正負極間に生じる局所的な電気分解反応により水酸化物イオンが生成され、食道に停留した電池が最短2時間程度で全層熱傷・穿孔に至りうること、食道内に停留した電池は可及的速やかに(目安2時間以内に)内視鏡的に摘出すべきという緊急性を確認した。閲覧 2026-08-27
  7. 7.The One Pill Can Kill Myth(Pediatric Emergency Care・2024)「1錠で致死的」という構築物はアロメトリック・スケーリングという小児薬理学の基本原則に反しており、オピオイドを除けば幼児が規制医薬品1錠で死亡した文献報告は無いこと、この構築物が中毒センターからの過剰な救急搬送紹介・不必要に長い救急外来観察・不要な入院という害を招いているという批判的レビューを確認した。閲覧 2026-08-27