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Disease Atlas · 全身 · 中毒

一酸化炭素中毒

Carbon monoxide poisoning

別名
CO中毒一酸化炭素中毒症
臓器系
全身
科目
Forensic MedicineInternal Medicine
トピック
法医学 31:一酸化炭素・ヒ素・シアン化物・鉛・メタノール中毒内科学 S-63:一酸化炭素・二酸化炭素中毒
鑑別疾患
メトヘモグロビン血症片頭痛
合併症
肺水腫
続発疾患
急性冠症候群
関連疾患
シアン化物中毒
症状
めまい悪心意識障害胸痛倦怠感呼吸困難昏睡錯乱失神頭痛嘔吐痙攣
検査値
心筋トロポニン乳酸乳酸アシドーシス
スコア
グラスゴー昏睡尺度
原因となる疾患
熱傷

🧠 全体像(CO)は不完全で生じる無色・無臭の毒性ガスで、ヘモグロビンによると細胞の酸素利用を同時に障害する。同じ場所にいた複数人の頭痛・悪心・意識変容は重要な手掛かりであり、通常のが正常でも除外できない。疑った時点で100%酸素を開始し、COHだけで重症度やの適否を決めず、神経・心筋障害、、アシドーシス、妊娠を統合する。

病態

COは炭素を含む燃料の不完全で発生する。暖房器具、発電機、炭・薪、、車両・船舶、ガソリン駆動工具を換気不良の空間で使用すると集団曝露を起こし得る。救助者も同じ環境で中毒になるため、現場の安全確認なしに立ち入らない。

COは酸素よりはるかに強くヘモグロビンへ結合して(COHb)を形成し、を減らす。残ったの解離曲線も左方へ移動するため、組織へ酸素を放しにくくなる。さらに、ミトコンドリアの・炎症反応にも影響し、脳と心臓を中心に障害する。

flowchart TD
    A["CO吸入"] --> B["COHb形成<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxygen-carrying capacity'>酸素運搬能</span>が低下"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxygen dissociation curve'>酸素解離曲線</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left shift'>左方移動</span><br>組織へ酸素を放しにくい"]
    A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myoglobin, Mb'>ミオグロビン</span>・ミトコンドリア機能を障害"]
    C --> E["脳・心筋の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue hypoxia'>組織低酸素</span>"]
    D --> E
    E --> F["急性神経障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial injury'>心筋傷害</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lactic acidosis'>乳酸アシドーシス</span>"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxidative stress'>酸化ストレス</span>・炎症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipid peroxidation'>脂質過酸化</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='delayed neuropsychiatric sequelae'>遅発性神経精神障害</span>の一因"]

はCOへの親和性が高く、胎児COHbは母体より高くなり、消失も遅い。母体症状や母体COHbが軽度でも胎児を安全とは判断できない。乳幼児、高齢者、貧血、心肺疾患のある人も低酸素へのが小さい。

臨床像

急性症状

初期症状は非特異的で、発熱を伴わない感冒、胃腸炎、片頭痛、酩酊に似る。曝露濃度、曝露時間、換気、、基礎疾患、酸素投与までの時間により症状は大きく変わる。

重症度の目安 主な症状・所見
軽症 頭痛めまい悪心嘔吐
中等症 、失調、胸痛失神
重症 意識障害痙攣昏睡、低血圧、不整脈、・梗塞肺水腫、重症アシドーシス、死亡

」の皮膚や粘膜は古典的だが、臨床ではまれで診断に頼れない。初期の非特異的症状は片頭痛や感冒、胃腸炎とも紛らわしい。現場では熱傷、気道熱傷、すす、などの併存中毒、外傷を同時に評価する。

遅発性神経精神障害

が改善した後、数日から数週間のを経て、記憶・注意・低下、人格・気分変化、、尿失禁、などが出現することがある。急性期のCOHbだけでは予測できない。危険因子として、GCS 9以下、および曝露から開始までの時間が200分を超えることが報告されており、これらに該当する例では特に慎重な追跡を要する1。退院時に本人・家族へ再受診徴候を説明し、神経・認知状態を追跡する。

診断

疑う状況

  • 暖房、発電機、炭火、、車両などの曝露源がある。
  • 同じ建物・車両にいた複数人やペットに、似た頭痛・悪心・意識変容がある。
  • 症状がその環境を離れると軽くなり、戻ると再発する。
  • 冬季の非特異的症状、説明困難な失神・・代謝性アシドーシスがある。

検査と解釈

検査 役割と落とし穴
血中COHb 動脈血または静脈血をで測る。非喫煙者で2%以上、喫煙者で9%超は診断を強く支持するが、採血前の・酸素投与で低下する
通常のSpO2 とCOHbを区別できず、見かけ上正常になり得る。除外に使わない
血漿に溶けた酸素を反映するため正常でもよい。組織へのを保証しない
血液ガス・乳酸 アシドーシスとの重症度を評価する。乳酸高値は併存など他の原因も検討する
ECG・ 胸痛、重症曝露、高齢、心血管リスク、例でを評価する
神経・認知評価 意識、記憶、注意、脳神経、小脳、歩行、局在徴候を反復評価する
妊娠検査 妊娠可能性があれば早期に確認し、陽性なら母体所見が軽くても胎児を含めて専門相談する

COHbは曝露の存在を支持するが、濃度と症状・転帰はよく相関しない。低値でも、現場離脱後に時間が経った例や酸素投与後の例を否定しない。反対に喫煙、溶血、一部の薬剤・曝露では背景値が上がり得る。非侵襲的なパルスだけで確定または除外しない。

flowchart TD
    A["曝露歴または複数人の非特異的症状"] --> B["現場から安全に離脱<br>直ちに100%酸素"]
    B --> C["COHbを採血<br>ただし採血のため酸素を遅らせない"]
    C --> D["神経診察・血液ガス・ECG・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='troponin'>トロポニン</span>"]
    D --> E["妊娠、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fire'>火災</span>吸入、外傷、他の中毒を評価"]
    E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='loss of consciousness'>意識消失</span>・神経障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial injury'>心筋傷害</span><br>重症アシドーシス・高COHb・妊娠"}
    F -->|"あり"| G["中毒・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperbaric oxygen'>高気圧酸素</span>施設へ緊急相談"]
    F -->|"なし"| H["100%酸素を継続し反復神経評価"]
    G --> I["搬送リスクを含め<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperbaric oxygen therapy (HBOT)'>高気圧酸素療法</span>を個別判断"]
    H --> J["症状消失、再評価、退院条件を確認"]

治療

初期対応

  1. 救助者の安全を確保し、患者を曝露源から離す。密閉空間へ呼吸保護具なしに入らない。
  2. 気道・呼吸・循環を評価し、の100%酸素を密着したで直ちに投与する。意識・換気が不十分ならと100%酸素換気を行う。
  3. 低血糖、痙攣、低血圧、不整脈、、外傷、熱傷、によるを同時に治療する。
  4. 症状が消失するまで100%酸素を継続し、一般には数時間にわたりと循環状態を反復評価する。COHbの正常化だけを終了基準にしない。

高気圧酸素療法

COHbの半減期は室内気で約4.5時間だが、常圧100%酸素では約1.5時間、(3気圧)では約20分まで短縮する2はこの消失をさらに速めるが、長期神経転帰を改善する高い確実性のエビデンスはなく、移送中の悪化、、施設の受入能力も考慮する。の2025年臨床ポリシーは、症候性CO中毒のうち症状の重症度とHBO利用可能性で選ばれた患者には利益があり得るとしつつ、この推奨の確実性は低い(Level C)としている3

次のいずれかでは、100%酸素を続けながら中毒施設へ早期に相談する。

  • 一過性または持続する、昏睡、痙攣、、明らかな
  • 、不整脈、循環不安定
  • 重症代謝性アシドーシス
  • COHb 25〜30%以上。ただし単独の絶対適応または除外基準にはしない
  • 症状が重い、改善しない、長時間曝露が疑われるなど臨床的懸念が強い場合

⚠️ 妊娠では胎児が母体より重く長く曝露され得る。 のCO親和性の高さに加え、胎児のCO排出自体が母体よりおよそ3.5倍遅いため、母体症状が軽度でも胎児は高濃度・長時間のCO曝露にさらされる。この機序から、現行の合意は妊婦でのCOHによらないの積極的な適応を支持している1。母体COHbの数値だけでせず、産科・中毒・施設へ直ちに相談し、母体治療を優先しながら妊娠週数に応じた胎児評価を行う。

観察と退院後

、持続する神経症状、、重症アシドーシス、妊娠、併存外傷・があれば入院または専門施設での観察を検討する。退院可能な例でも、曝露源の安全確認が終わるまで同じ環境へ戻さない。

退院時には、記憶低下、行動変化、、尿失禁、頭痛のなど遅発性症状を説明し、約2週間を目安に神経・認知状態を再評価する。曝露では自殺リスク評価とを行う。

まとめ

  • CO中毒はヘモグロビンのと細胞の酸素利用を障害し、脳・心臓を中心に多臓器障害を起こす。
  • 通常のSpO2とが正常でも除外できず、COHbは時間・酸素投与・喫煙の影響を受け、重症度とは相関しにくい。
  • 疑った時点で採血を待たず100%酸素を開始し、、アシドーシス、妊娠、併存中毒を評価する。
  • は単一のCOHb閾値で決めず、、治療可能時間、搬送リスクを含めてと個別判断する。
  • 妊娠では母体所見が軽くても胎児リスクが高く、早期の相談が必要である。

出典

  1. 1.Clinical Policy: Critical Issues in the Management of Adult Patients Presenting to the Emergency Department With Acute Carbon Monoxide Poisoning(American College of Emergency Physicians (ACEP)・2025)症候性CO中毒における高気圧酸素療法は、症状の重症度とHBO利用可能性に基づき選択された患者で有益となりうるが、常圧酸素に対する長期神経認知転帰の優越を示す高い確実性のエビデンスはなく推奨度はLevel C(低い)にとどまること閲覧 2026-08-02
  2. 2.Management of acute carbon monoxide poisoning – position statement(Polish Society of Clinical Toxicology・2025)妊婦では胎児のCO排出が母体よりおよそ3.5倍遅いため、COHb値や臨床所見によらず高気圧酸素療法の適応を積極的に検討すること、および遅発性神経精神障害の危険因子(来院時GCS 9以下、曝露からHBOT開始までの時間が200分超)閲覧 2026-08-02
  3. 3.Carbon Monoxide Poisoning(Merck Manual Professional Edition・2025)カルボキシヘモグロビンの半減期が室内気(約4.5時間)、常圧100%酸素(約1.5時間)、高気圧酸素(3気圧で約20分)で大きく異なること、パルスオキシメトリがCOHbを酸素化ヘモグロビンと区別できず偽って正常値を示す機序閲覧 2026-08-02