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Disease Atlas · 全身 · 病態

悪液質

Cachexia

別名
カヘキシア消耗症候群
臓器系
全身腫瘍
科目
PathologyPathophysiologyInternal Medicine
トピック
病理学 B/21:腫瘍の宿主への影響(悪液質・傍腫瘍症候群)病理学 A/16:炭粉沈着・リポフスチン・ヘモジデリン・メラニン沈着病理学 A/20:萎縮と肥大病態生理学 2-31:腫瘍による二次的障害(2):癌の全身的影響内科学 L-28:不随意体重減少の鑑別診断
鑑別疾患
サルコペニア摂食症
治療薬
プレドニゾロンデキサメタゾンオランザピン
症状
体重減少食欲不振筋力低下倦怠感
検査値
アルブミンCRP
スコア
ECOG PS修正Glasgow予後スコア

🧠 全体像は「食べられないのに消費だけが増える」という一見矛盾した全身状態で、単純なとは栄養補給だけでは戻らないという一点で明確に区別される。腫瘍・細胞由来のTNF-α・IL-6などのが、視床下部でのと骨格筋のユビキチン–による分解亢進を同時に駆動する——この「摂取低下+」の二重構造が、栄養単独介入が無効な理由である。癌に最も特徴的だが、心不全・COPD・・AIDS・結核など慢性炎症を伴う疾患ならどれでも起こりうる。

概念と定義

は、体重減少(脂肪の有無を問わず減少が主体)が通常の栄養サポートでは完全には戻らず、進行性の機能障害へ至るの症候群と定義される。単純な(摂取量を戻せば筋量も回復する)や加齢性の(緩徐進行で炎症の関与が乏しい)とは異なり、では慢性炎症が持続する限り・高蛋白の栄養療法だけでは筋量を取り戻せない。この「栄養に反応しない筋」という性質こそが臨床的に最も重要な鑑別点であり、)のようなな摂取制限とも機序・が根本的に異なる。

機序

腫瘍細胞と宿主の炎症細胞(マクロファージなど)が可溶性因子を放出し、摂取低下とを並行して引き起こす。

  • TNF-α(中心的因子):視床下部のを抑制し、骨格筋・脂肪組織のを直接促進する。IL-1・IL-6・IFN-γに作用する。
  • LIF(:肝の産生を誘導し、を増幅する。
  • PIF(proteolysis-inducing factor、)・LMF(lipid-mobilizing factor、:腫瘍細胞から放出され、それぞれ骨格筋を直接促す古典的なとして記載されてきた。近年はGDF-15やA(ActRII経路)が調節とによりいっそう直接関与する因子として注目されている。
  • ユビキチン–蛋白がユビキチンで標識され、プロテアソームで分解される。における骨格筋の中心的な最終経路であり、萎縮一般の機序(オートファジー+ユビキチン–プロテアソーム)が骨格筋という臓器で最も顕著に表れた形といえる。
  • の上昇:摂取が減っているにもかかわらずが増える現象で、の発現亢進)も一因となる。
flowchart TD
    A["腫瘍・宿主炎症細胞"] --> B["TNF-α・IL-1・IL-6・LIF等の放出"]
    B --> C["視床下部<span class='jp-term jp-term-diagram' title='appetite center'>食欲中枢</span>の抑制"]
    B --> D["PIF・LMF・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ubiquitin-proteasome system'>ユビキチン-プロテアソーム系</span>の活性化"]
    C --> E["摂取量の低下"]
    D --> F["骨格筋<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proteolysis'>蛋白分解</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipolysis'>脂肪分解</span>の亢進"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basal metabolic rate (BMR)'>基礎代謝率</span>の上昇"]
    E --> H["進行性の体重減少・機能障害(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cachexia'>悪液質</span>)"]
    F --> H
    G --> H

長期に萎縮した心筋には、酸化的傷害の痕跡であるが沈着し、いわゆるの所見を呈することがある。

病期分類と診断基準

国際コンセンサス(Fearon ら、2011年)は、過去6か月で5%を超える体重減少、またはBMI 20 kg/m²未満で2%を超える体重減少、あるいはを伴い2%を超える体重減少のいずれかで診断し、経過を3病期に分けて捉える。

病期 特徴
軽度の体重減少(≦5%)、や代謝異常の初期徴候はあるが顕著なはまだない
上記を満たす体重減少・筋量減少があり、経口摂取低下やを伴う
が進み、抗腫瘍治療に反応しない進行癌で予測余命が短く、積極的な栄養・薬物介入への反応が乏しい状態

⚠️ では、栄養・運動・薬物療法を積極的に行っても筋量の回復は期待しにくく、ケアの目標は症状緩和とQOL維持へ移行する。

癌以外の悪液質

は腫瘍に限らず、慢性炎症を伴う様々な疾患で共通して起こりうる。

原疾患 を来す機序の要点
慢性の交感神経・レニン-亢進、腸管うっ血による吸収不良、上昇(心臓
COPD 増加による亢進、低酸素、
性炎症、代謝性アシドーシスによる亢進、
HIV感染症・AIDS 慢性ウイルス感染による炎症、感染、吸収不良、代謝亢進
結核 による産生、発熱・による消費亢進

評価

  • :現体重と平常時体重(6〜12か月前)を比較し、実測値で確認する。自己申告や浮腫による見かけ上の変化を鵜呑みにしない。
  • BMI:20 kg/m²未満は同じでもより重症と判断する閾値になる。
  • :筋力の簡便な代替指標として機能評価に用いる。
  • アルブミンそのものより炎症・肝合成能を反映しやすく、単独でを判定しない。
  • CRPの指標。アルブミン低下とを組み合わせたに用いられる。
  • ・機能障害の程度を評価し、薬物治療の適応判断にも用いる。

治療

集学的介入

原因治療(可能な限りを減らす、心不全・COPD・CKDなどの原疾患をコントロールする)を基盤に、管理栄養士による栄養指導、による、薬物療法を組み合わせた多職種による介入が中心となる。栄養療法単独では改善しないというの定義そのものが、単一職種・単一手段では対応できないことを示している。

薬物療法

  • 副腎皮質ステロイド):短期間の食欲・体重改善効果があるが、免疫抑制・・高血糖などののため長期使用は避け、予後の限られた進行例で数週間単位の短期トライアルとして用いる。
  • など):食欲・体重増加に一定の効果があるが、・浮腫のリスクを伴い、ステロイド同様に長期の標準治療としては推奨されない。
  • :低用量のは、食欲増進・体重増加に対する有効性を示すエビデンスが蓄積し、の観点から現在は薬物療法の第一選択として位置づけられている。できない場合にや短期ステロイドを検討する。
  • アナモレリン(様作用薬)を刺激して食欲・分泌を促すで、日本では・胃癌・・大腸癌に伴うを適応として承認されている。欧米では未承認であり、国際的な標準治療の位置づけとは異なる点に注意する。

⭐ いずれの薬物も筋量そのものを非依存的に回復させるわけではなく、原因治療と栄養・運動療法を置き換えるものではない。

まとめ

  • (TNF-α中心にIL-1・IL-6・LIFなど)が摂取低下とを同時に起こす症候群で、栄養補給だけでは完全に戻らない点で単純なと区別される。
  • の中心経路はユビキチン–で、PIF・LMFなど腫瘍由来因子や、より新しくはGDF-15・系も関与する。
  • Fearonらの国際コンセンサス(2011年)は・BMI・の有無で診断し、の3病期で経過を捉える。
  • 癌だけでなく、COPD、、HIV感染症、結核など慢性炎症を伴う疾患でも共通して起こる。
  • 評価は・BMI・などの機能指標とCRP・アルブミンなどの炎症・栄養指標を組み合わせ、治療は原因治療を基盤に栄養・運動・薬物療法(低用量を第一選択とし、不良例でや短期ステロイド、日本ではアナモレリンも選択肢)による多職種の介入で行う。