病理学

病理学 · A/16

炭粉沈着・リポフスチン・ヘモジデリン・メラニン沈着

Anthracosis, lipofuscin, hemosiderin and melanin accumulation

タグ
Mechanism / 機序High-yield / ポイント
疾患
悪液質肝斑眼皮膚白皮症炭鉱夫塵肺症
症状
虹彩・眼周囲の色素沈着

🧠 全体像:この節の色素はすべて「由来(外因性か内因性か)+沈着物の色・染色性+沈着する部位」の3点セットで覚えると整理できる——炭素は肺、は加齢・の痕跡、は鉄過剰(陽性)、メラニンはの機能変化を反映する。

色素の概要

  • 外因性(体外由来):石炭・炭素、、入れ墨のインク。
  • 内因性(体内で産生):、メラニン、。

外因性 — 炭素(炭粉沈着症)

  • 吸入された炭素・石炭(、喫煙)→ に貪食 → 肺リンパ節へ運ばれる → 黒色の色素沈着。通常は臨床的影響なし。
  • ・(を含む): 石炭に(毒性)が混じる → マクロファージを殺す → リソソーム酵素の放出 → 壊死 → → の増加 → (右心不全)。⚠️ 単独のは病的意義に乏しいが、重症のは炭粉そのものよりの寄与が大きいとする報告があり、両者は同義ではない。1

リポフスチン(消耗色素)

  • 不溶性の黄褐色の脂質–タンパク質顆粒。核周囲に存在。によるに由来。加齢に伴い蓄積する「加齢色素」で、酸化架橋したタンパク質・脂質・金属からなる複合体という組成が確認されている。2
  • それ自体は無害 — 過去の・加齢のマーカー。
  • 心・肝・脳に蓄積 → (例:高齢者・患者の萎縮した心臓)。

ヘモジデリン(鉄貯蔵色素)

  • ヘモグロビン由来の黄褐色の凝集体。鉄はアポとともに貯蔵される(は毒性 → 過酸化)。陽性。
  • = への蓄積(局所または全身)。鉄が遊離しない限りはない。へのによって臓器障害を来すとは区別される概念である。
  • 💡 では、病初期の肝のはの肝細胞()に起こり、肝のマクロファージであるには及ばない3。沈着する細胞が「実質かか」が、臓器障害の有無を分ける。

局所

全身

flowchart TD
    A["HFE/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepcidin'>ヘプシジン</span>系の遺伝子変異"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepcidin'>ヘプシジン</span>の低下"]
    B --> C["制御不能な鉄吸収"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='solid organ'>実質臓器</span>への鉄過剰沈着"]
    D --> E["肝硬変"]
    D --> F["膵線維化(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bronze diabetes'>ブロンズ糖尿病</span>)"]
    D --> G["心筋症"]
    D --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cutaneous hyperpigmentation'>皮膚色素沈着</span>"]

メラニンとメラノサイトの異常

  • メラニン = チロシン → ()→ メラニンで生じる黒褐色の色素。のが産生し、へ受け渡す。
病態 機序 特徴
メラニン受け渡しの増加(過形成なし) 日光誘発性、小児で最多の
受け渡し増加、 顔面、妊娠、産後に軽快
自己免疫によるの喪失
は存在するがメラニン合成が障害される(最多の型は遺伝子の変異。ほかにも複数のがある) メラニンの欠如〜減少(型により程度が異なる)
の過形成 境界型/複合型/真皮内型

💡 ポイント: 色素は由来+染色+部位で区別する — 炭素(肺、炭粉沈着)、(加齢・)、(、鉄過剰 → )、メラニン(、母斑=過形成、・=受け渡しの増加のみ)。

まとめ

  • 色素は外因性(炭素、、入れ墨)と内因性(、メラニン、)に分けられる。
  • は吸入炭素のへの貪食で通常は無症状だが、混入(・)はマクロファージを傷害し・を来す。
  • は過去の・加齢のマーカーで、心・肝・脳への蓄積はとして現れる。
  • は陽性の鉄貯蔵色素で、局所(、肺の=)と全身性(溶血・輸血、)に分けられる。
  • はHFE/変異による制御不能な鉄吸収が原因で、肝硬変・膵線維化・心筋症・とリスクの著明な上昇を来す。
  • の治療はが第一選択で、はができない場合のである。
  • メラニン関連病態は受け渡し増加(・)との過形成(母斑)・喪失()・機能不全()に分けられる。

出典

  1. 1.Pathology and Mineralogy Demonstrate Respirable Crystalline Silica Is a Major Cause of Severe Pneumoconiosis in U.S. Coal Miners(Annals of the American Thoracic Society・2022)進行性塊状線維症をきたした米国炭鉱夫85例の肺病理・鉱物学的解析で、1930年以降生まれの現代群はそれ以前の歴史群に比べシリカ型の進行性塊状線維症が57%対18%(p<0.001)と多く、組織内シリカ粒子の割合・濃度も有意に高かった。重症炭鉱夫塵肺の主因は炭粉そのものより吸入性結晶シリカであり、単純な炭粉沈着とは病態が異なることを確認した。閲覧 2026-08-27
  2. 2.An Overview of the Role of Lipofuscin in Age-Related Neurodegeneration(Frontiers in Neuroscience・2018)リポフスチンは加齢に伴い蓄積する「加齢色素(age pigment)」で、酸化架橋したタンパク質(約30〜70%)・脂質(約20〜50%)・金属陽イオンからなる複合混合物であり、脂質過酸化産物(反応性アルデヒド・脂質ラジカル)が脂質とタンパク質を攻撃して生じる過酸化反応の最終産物であることを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.EASL Clinical Practice Guidelines on haemochromatosis(European Association for the Study of the Liver・2022)全文(KU Leuven リポジトリ版。誌面の頁番号 77:479–502 を含む版)で確認した。ヘモクロマトーシスはトランスフェリン飽和度上昇と主に肝を侵す進行性の鉄蓄積を特徴とし、病初期の肝の鉄沈着は門脈周囲の肝細胞に起こりKupffer細胞には及ばないこと、瀉血(または赤血球アフェレーシス)が第一選択で、鉄キレート療法は瀉血ができない場合に利益と危険を慎重に比べたうえで開始しうる二次治療とされること(LoE 4、弱い推奨)、ヘモクロマトーシスと診断された患者の肝細胞癌の有病率は約10〜30%でほぼ肝硬変例に限られることを確認した。なお本ガイドラインの全文には「ヘモジデローシス(haemosiderosis)」の語は現れない。閲覧 2026-08-27
  4. 4.Iron-overload-related disease in HFE hereditary hemochromatosis(The New England Journal of Medicine・2008)北欧系の40〜69歳31,192人を平均12年追跡したコホート研究で、HFE C282Yホモ接合体203人のうち鉄過剰関連疾患(肝硬変・肝線維化・肝細胞癌・トランスアミナーゼ上昇・症候性ヘモクロマトーシス・第2/第3中手指節関節の関節症のいずれか)が確認された割合は男性28.4%(95%CI 18.8〜40.2)、女性1.2%(95%CI 0.03〜6.5)にとどまり、同じ遺伝子型でも臨床的な浸透率は低いことを確認した。閲覧 2026-08-27