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Disease Atlas · 運動器 · 疾患

サルコペニア

Sarcopenia

別名
加齢性筋肉減弱症
臓器系
運動器全身
科目
PathophysiologyInternal Medicine
トピック
病態生理学 2-29:老化症候群の臓器レベルの症状病態生理学 2-28:分子・細胞レベルの老化内科学 L-28:不随意体重減少の鑑別診断
鑑別疾患
悪液質
関連疾患
骨粗鬆症
症状
筋力低下転倒歩行不安定体重減少
スコア
SARC-F

🧠 全体像は、加齢に伴ってと筋力(または身体機能)が進行性に低下する疾患である。「年をとれば誰でも筋肉が落ちる」という漠然とした老化現象ではなく、や歩行速度という測定可能な指標で診断できる疾患単位であり、転倒・骨折・入院・要介護化・死亡と結びつく。混同されやすいとの違いを整理することが、このノートの出発点になる。

定義と隣接概念の整理

は「筋量」と「筋力または身体機能」の両方が低下した状態として定義される。似た言葉と混同しやすいため、まず射程を切り分ける。

概念 中心となる異常 との関係
・筋力(または身体機能)の低下 本ノートの主題。単独の(骨格筋)の異常として測定・診断できる
身体的・心理的・低下を含む多面的な脆弱性の症候群 の中核的な身体的要素の一つだが、は栄養・認知・気分・要因も含むより広い概念で、両者は完全には一致しない
が摂取低下とを同時に駆動する状態 では栄養補給だけでは筋量が戻らないのに対し、加齢性は炎症の関与が乏しく緩徐進行する。両者は合併しうるが機序が異なる

💡 「体重が減っていないから問題ない」とは言えない。 は体重・BMIが保たれたまま筋肉だけが脂肪や水分に置き換わって進行することがあり、体重だけを指標にすると見逃す。

病態

加齢性は単一の原因ではなく、複数の機序が重なって骨格筋の量と質を落とす。

flowchart TD
    A["加齢"] --> B["運動ニューロンの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='denervation'>脱神経</span>・再神経支配の破綻"]
    A --> C["筋<span class='jp-term jp-term-diagram' title='satellite cell'>衛星細胞</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='satellite cell'>サテライト細胞</span>)の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='regenerative capacity'>再生能</span>低下"]
    A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mitochondrial DNA'>ミトコンドリアDNA</span>変異の蓄積・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='respiratory chain'>呼吸鎖</span>機能低下"]
    A --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anabolic'>蛋白同化</span>抵抗性(同じ蛋白摂取でも合成反応が鈍る)"]
    A --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='physical activity'>身体活動</span>量の低下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bed rest (immobilization)'>臥床</span>"]
    B --> G["II型(速筋)線維の選択的な脱落・萎縮"]
    C --> G
    D --> G
    E --> H["蛋白合成と分解のバランスが分解側へ傾く"]
    F --> H
    G --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='skeletal muscle mass'>骨格筋量</span>の減少"]
    H --> I
    I --> J["筋力・身体機能の低下"]
    J --> K["転倒・機能障害・要介護化のリスク上昇"]

骨格筋の萎縮では、(mtDNA)の変異・欠失が蓄積しての機能が落ち、の産生増加と相まって筋線維の萎縮を促す「」が提唱されている。加えて、加齢による運動ニューロン数の減少は、生き残った運動ニューロンによる再神経支配で一時的に代償されるが、この代償が破綻すると特に速筋線維の脱落が加速する。

一次性と二次性の区別

は、原因を特定できるかどうかで一次性(加齢性)と二次性に分けて考えると評価の抜けを防ぎやすい。

分類 主な背景
一次性(加齢性) 他の明らかな原因がなく、加齢そのものに伴って進行する
二次性 長期などの活動性低下、体重減少を伴う・吸収不良、などのや悪性腫瘍に続発するもの

高齢入院患者では、急性疾患によるのわずか数日でも・筋力が大きく低下しうる()。二次性の原因が疑われる場合は、原因疾患の治療と並行して運動・栄養介入を行い、の評価だけで終わらせない。

診断基準

診断は「筋量」だけでなく「筋力または身体機能」の低下を組み合わせて行う点が共通するが、具体的な手順とは診断体系ごとに異なる。

AWGS 2019(アジア)

段階 基準
の可能性 低下(男性28 kg未満・女性18 kg未満)または身体機能低下(6 m歩行速度1.0 m/s未満、SPPB 9点以下、5回椅子12秒以上のいずれか)1
上記に加え四肢低下を確認(DXA:男性7.0 kg/m²未満・女性5.4 kg/m²未満、BIA:男性7.0 kg/m²未満・女性5.7 kg/m²未満)1
重症 筋量・筋力・身体機能の3項目すべてが低下1

EWGSOP2(欧州)

段階 基準
Probable sarcopenia 低下(男性27 kg未満・女性16 kg未満)のみで2
確定診断 筋量低下を確認
重症 さらに身体機能低下(歩行速度0.8 m/s以下など)を伴う2

EWGSOP2は「Find(SARC-Fなどでスクリーニング)→ Assess(で評価)→ Confirm(筋量測定で確定)→ Severity(身体機能で重症度判定)」という4段階の実務手順として提示している2。AWGS2019は筋力または身体機能の低下だけで、EWGSOP2は低下だけとする(EWGSOP2では身体機能は重症度の判定に用いる)。いずれも画像検査を待たずにを始められる設計である点は共通する。

そのものを丸暗記するより、「まずと歩行速度で拾い上げ、筋量測定で確定する」という2段階構造を押さえておくと実務に応用しやすい。

臨床像

  • のやせが上の手掛かりになる。
  • 筋力低下、歩行速度の低下、椅子からのにくさとしてされる。
  • 転倒のリスクを高め、姿勢制御における運動出力の破綻として現れる。
  • 進行するとの自立度低下、入院関連の筋力低下()を伴いやすく、要介護化・死亡リスクの上昇と関連する。
  • 体重・BMIが保たれたまま進行することがあり、体重減少を伴う例ではや他のとの重複を疑う。

治療

治療の柱はと栄養介入であり、単独の薬物療法で筋量・筋力を回復させる標準治療は確立していない。

介入 推奨の強さ
中等度の確実性のエビデンスに基づく強い推奨3
蛋白質補充・高蛋白食 低い確実性のエビデンスに基づく条件付き推奨3

は、単独の介入の中で最も推奨が強い。栄養療法は運動を置き換えるものではなく、併用して初めて効果が最大化される。蛋白質は1回の食事に偏らせず、1日を通じて分散摂取することが実務上のポイントとされる。

まとめ

  • と筋力(または身体機能)が加齢とともに進行性に低下する疾患で、(より広い多面的な脆弱性)や(炎症性の状態)とは機序・範囲が異なる。
  • 病態はmtDNA変異蓄積によるミトコンドリア機能低下、・再神経支配の破綻、抵抗性が重なって・機能を落とす。
  • AWGS2019・EWGSOP2はいずれも・歩行速度によると、筋量測定による確定診断の2段階構造を持つが、具体的なは異なる。
  • 体重が保たれていても進行しうるため、のやせ)と機能評価を併用する。
  • 治療の中心は(強い推奨)で、蛋白質補充・高蛋白食は条件付き推奨として併用する。

出典

  1. 1.Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment(Journal of the American Medical Directors Association / Asian Working Group for Sarcopenia (AWGS)・2019)握力低下(男性28 kg未満・女性18 kg未満)または身体機能低下(6 m歩行速度1.0 m/s未満、SPPB 9点以下、5回椅子立ち上がり12秒以上のいずれか)のみで「サルコペニアの可能性」とし、四肢骨格筋量低下(DXA:男性7.0 kg/m²未満・女性5.4 kg/m²未満、BIA:男性7.0 kg/m²未満・女性5.7 kg/m²未満)を確認してサルコペニアと診断し、筋量・筋力・身体機能のすべてが低下していれば重症サルコペニアとする診断アルゴリズムを示していること閲覧 2026-08-10
  2. 2.Sarcopenia: revised European consensus on definition and diagnosis(European Working Group on Sarcopenia in Older People 2 (EWGSOP2) / Age and Ageing・2019)Find-Assess-Confirm-Severityの4段階アルゴリズムを提示し、握力低下(男性27 kg未満・女性16 kg未満)のみで「probable sarcopenia」、筋量低下の確認で確定診断、さらに歩行速度0.8 m/s以下などの身体機能低下を伴えば重症サルコペニアと定義していること閲覧 2026-08-10
  3. 3.International Clinical Practice Guidelines for Sarcopenia (ICFSR): Screening, Diagnosis and Management(International Conference on Frailty and Sarcopenia Research (ICFSR) / Journal of Nutrition, Health & Aging・2018)中等度の確実性のエビデンスに基づきレジスタンス運動を強く推奨し、蛋白質補充・高蛋白食は低い確実性のエビデンスに基づく条件付き推奨としていること閲覧 2026-08-10