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Disease Atlas · 運動器 · 外傷

コンパートメント症候群

Compartment syndrome

臓器系
運動器
科目
Traumatology
トピック
外傷学 36:下肢コンパートメント症候群の診断と治療
鑑別疾患
深部静脈血栓症末梢動脈疾患
合併症
横紋筋融解症
関連疾患
腹部コンパートメント症候群
症状
腫脹蒼白知覚異常麻痺疼痛四肢痛
検査値
カリウム代謝性アシドーシス
元疾患
横紋筋融解症血友病A・B熱傷薬剤の血管外漏出
原因となる疾患
毛細血管漏出症候群

🧠 全体像は、筋膜で囲まれた閉鎖区画内の圧が上昇し、区画内の筋・神経への灌流が障害されるの外科的救急疾患である。原因の代表は脛骨骨折だが、圧挫損傷・後の再灌流・したでも起こる。診断は基本的に臨床診断であり、「5P/6P」を機械的な除外規則として使ってはいけない——は早期から出現する最も鋭敏な徴候である一方、・蒼白は非常に遅い所見で、脈が触れることはACSを否定する根拠にならない。意識障害や使用下で臨床評価が不確実なときはを測定し、との差(ΔP)で判断を補う。診断が確定したら画像検査を待たず、受傷から理想的には6時間以内を行う。

病態

原因

は、区画内容物の増加(出血・浮腫)または区画容積の減少(外部圧迫)によりが上昇することで生じる。

分類 代表例
骨折 脛骨骨折(最多)、前腕骨折、高エネルギー下肢骨折
軟部 圧挫損傷、筋、熱傷、区画内出血(抗凝固薬使用中の外傷など)
再灌流 動脈損傷の後、長時間の解除後
外部圧迫 した、長時間の同一体位での圧迫(体位性)、締め付けの強い外傷用
医原性 血管穿刺、輸液・薬剤の中の見逃し

下腿では前方・外側・浅後方・深後方の4区画が代表的な発生部位。意識障害、鎮静下、、乳幼児、の患者は疼痛を訴えられず発見が遅れやすいため、特に高い警戒レベルで反復診察を行う必要がある。

病態生理

が上昇すると、まず静脈還流が障害され、次に毛細血管レベルの灌流が低下し、最終的に筋・神経が虚血に陥る。は次の式で近似される。

=\text{} = \text{} - \text{}

が保たれていてもが上昇すればは低下し、そのものが正常範囲内でも低血圧が重なれば同様に虚血が進行しうる。すなわちの絶対値だけでは評価できず、常に同時点の血圧と対にして考える

flowchart TD
    A["骨折・圧挫・再灌流・外部圧迫などの原因"] --> B["区画内容物の増加または区画容積の減少"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='compartment pressure'>区画内圧</span>の上昇"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='perfusion pressure'>灌流圧</span>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diastolic BP'>拡張期血圧</span>−<span class='jp-term jp-term-diagram' title='compartment pressure'>区画内圧</span>の低下"]
    D --> E["筋・神経の虚血"]
    E -->|"早期・可逆的"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pain on passive stretch'>他動伸展時痛</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paresthesia'>知覚異常</span>"]
    E -->|"進行・不可逆的"| G["筋壊死・神経麻痺・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rhabdomyolysis'>横紋筋融解</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myoglobinuria'>ミオグロビン尿</span>・高K血症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute kidney injury, AKI'>急性腎障害</span>"]

💡 神経は筋よりも虚血に対する耐性が低く早期から症状が出る一方、機能的な回復力もあるため、疼痛・の段階で治療できれば可逆的なことが多い。筋はがやや高いぶん、壊死に至ると不可逆的な機能障害・に代表される)を残す。この非対称性が「感覚障害・疼痛を待たず、を待ってはいけない」という診療方針の根拠になっている。

⭐ 「5P(Pain out of proportion、Paresthesia、Pallor、Pulselessness、Paralysis)」または「6P(+ Poikilothermia)」は記憶の補助にすぎず、機械的な除外規則として使ってはならない(各徴候の出現時期は次表)。「脈があるからACSではない」という判断は誤りであり、急性動脈閉塞などの除外にも慎重を要する。

臨床像

症状・徴候とその臨床的意味

所見 出現時期・解釈
損傷の程度に不釣り合いな疼痛(pain out of proportion) 最初期の徴候。の必要量が増加していく経過が示唆的
関与筋の 最も鋭敏な早期徴候とされる。で誘発
した区画・硬い腫脹 触診上、区画がパンパンに張っている
神経の虚血を示唆し、比較的早期から出現しうる
遅発性で、進行した虚血・不可逆的変化に近づいていることを示唆
蒼白・(pallor / pulselessness) 非常に遅い所見。存在すれば重症だが、欠如してもACSを除外できない

⚠️ 後や術後、外傷後の患者で(特にオピオイド)の必要量が急に増える、あるいは効きが悪くなる場合は、単なる不良として片付けずACSを積極的に疑う。は疼痛という最も鋭敏なを隠してしまうため、使用する場合はモニタリングなど代替の監視手段を組み合わせる必要がある。

慢性労作性コンパートメント症候群(CECS)との対比

急性ACSとは別の病態として、運動時にのみが上昇し休息で軽快する(chronic exertional compartment syndrome, CECS)がある。緊急疾患ではないが、鑑別として知っておく。

項目 急性ACS 慢性CECS
発症契機 外傷・後・外部圧迫など 反復する運動(ランニング等)
経過 急速に進行し、時間単位で不可逆的変化に至りうる 運動中〜運動後に出現し、休息(数分〜数十分)で軽快
緊急性 外科的救急 緊急性なし、評価
診断 主に+必要時に測定 運動前後の測定(運動誘発試験)
治療 活動調整・、難治例で選択的

診断

反復する臨床評価が基本

ACSの診断は基本的に臨床診断であり、単一の身体所見や単回の圧測定だけで確定・除外してはならない。(特に脛骨骨折や圧挫損傷)を踏まえ、時刻・疼痛の程度・への反応・神経血管所見をに記録し、増悪の経過そのものを診断の手がかりにする。は直ちに解除し、皮膚を露出したうえで評価する。

区画内圧測定

臨床評価が不確実な場合(意識障害、鎮静、、乳幼児、下など)には、ハンドヘルド manometer などでを測定し、同時点のと比較する。

ΔP=\Delta P = \text{} - \text{}

ΔP<30 mmHgはACSを強く示唆する所見として広く用いられ、2025年AAOS改訂ガイドラインでも中等度のエビデンスで支持される1の絶対値がおおむね30 mmHg以上、特に40 mmHgを超える場合も懸念すべき所見とされるが、絶対圧の単一だけで手術適応を決めるのではなく、ΔP・臨床経過・血圧の推移・測定部位・専門医判断を統合して総合的に判断するのが現行の考え方である。臨床評価が信頼できない患者では、診断が確定または除外されるまで反復・持続的に圧測定を継続することが推奨されている。

⭐ 画像検査(X線・CT・MRI・超音波)はACSの診断そのものには用いない。骨折の評価など別目的で撮影することはあっても、診断確定のために画像を待って治療を遅らせてはならない

flowchart TD
    A["ACS高リスクの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='causation'>受傷機転</span>(脛骨骨折・圧挫・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='revascularization'>血行再建</span>後など)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='circumferential'>全周性</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='compression stockings'>包帯</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cast (plaster cast)'>ギプス</span>を解除し反復診察"]
    B --> C{"疼痛不釣り合い・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pain on passive stretch'>他動伸展時痛</span>など典型的所見"}
    C -->|"あり、評価が信頼できる"| D["直ちに外科(整形外科)へ連絡"]
    C -->|"評価が不確実(意識障害・鎮静・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='regional anesthesia'>区域麻酔</span>下など)"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='compartment pressure'>区画内圧</span>と同時血圧を反復・持続測定"]
    E --> F{"ΔP<30 mmHg または圧上昇の進行"}
    F -->|"該当"| D
    F -->|"該当せず"| B
    D --> G["画像を待たず<span class='jp-term jp-term-diagram' title='emergency fasciotomy'>緊急筋膜切開</span>"]

治療

緊急筋膜切開(fasciotomy)

  1. を直ちに解除し、皮膚を完全に露出する。
  2. 低血圧・低酸素を補正しを維持する。四肢を心臓より極端に高く挙上しない(挙上しすぎるとかえってが下がる)。
  3. ACSと診断したらを行う。下腿は通常、前方・用と浅後方・深後方区画用の2切開で4区画すべてを開放する。
  4. 壊死筋をし、創はせず開放管理する。48〜72時間を目安にし、段階的閉鎖またはを計画する。
  5. 高K血症代謝性アシドーシスを監視し、早期からの大量輸液を中心に治療する(はルーチンには推奨されない)。
  6. 骨折を合併する場合、と並行して骨折の・外固定による初期安定化を行う(2025年AAOS改訂ガイドラインで限定的エビデンスながら支持1)。

⭐ 受傷からまでの時間は予後を左右する重要な因子で、6時間以内の減圧が機能予後の観点から目安とされる。とともに不可逆的な神経筋損傷のリスクが上がり、報告によっては6時間を境に合併症率が有意に増加する。

⚠️ 発見が遅れ、すでに不可逆的な神経筋・血管損傷が完成した「見逃されたACS(late/missed ACS)」では、今さらを行っても機能改善が見込めないばかりか感染や壊死組織の拡大リスクを増やすことがある。この段階での手術適応は複数の上級医による個別判断を要する。

合併症

診断・治療の遅延により、筋壊死、神経麻痺、に代表される)、感染、に伴う、切断、死亡に至りうる。後にも創部感染、出血、創治癒遅延、、慢性疼痛、瘢痕などの合併症が生じる。

まとめ

  • は、閉鎖筋の上昇で)が低下し、筋・神経が虚血に陥るの外科的救急疾患である。脛骨骨折が代表的原因。
  • 診断は臨床診断が基本が最も鋭敏な早期徴候で、・蒼白は非常に遅い所見にすぎない。
  • 評価が不確実ならを反復測定し、ΔP<30 mmHgを目安に単一に頼らず臨床経過と統合して判断する1
  • 診断確定後は画像を待たず、理想的には6時間以内を行う。骨折合併例では固定も並行する。
  • は運動後に軽快する非緊急疾患で、急性ACSとは病態・診断・治療が異なる。

出典

  1. 1.Management of Acute Compartment Syndrome: Evidence-Based Clinical Practice Guideline (2025 update)(American Academy of Orthopaedic Surgeons・2025)拡張期血圧−区画内圧(ΔP)が30 mmHg超であればACSを除外する助けになる(中等度のエビデンス)。骨折合併ACSでは筋膜切開と並行した骨折固定を限定的エビデンスながら支持する閲覧 2026-08-02