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Disease Atlas · 眼科 · 疾患

眼窩コンパートメント症候群

Orbital compartment syndrome

別名
OCS眼窩区画症候群
臓器系
眼科
科目
Macroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
解剖学 7.4:頭部:眼窩と眼
上位概念
コンパートメント症候群
鑑別疾患
眼窩蜂窩織炎
続発疾患
圧迫性視神経症
治療薬
アセタゾラミドマンニトール
症状
眼球突出相対的瞳孔求心路障害視力低下眼筋麻痺
検査値
眼圧
原因となる疾患
眼窩骨折

🧠 全体像:は、四肢のと同じ「=血圧−」という物理法則が、の乏しい視神経と網膜の上で起こったものである。眼窩は前方の眼瞼・と四方の骨壁に囲まれた拡張の余地のない容器で、正常容積は30mL程度にすぎない。ここへなどでわずかな体積が加わるだけで内圧はし、・視神経のを超える1。診断はだけで完結し、画像を待つ理由はない——の視神経実験では虚血97分未満なら回復し105分で不可逆的損傷に至ったとされ2、発症から理想的には2時間以内に・で減圧できるかどうかが視力予後を決める(2時間以内の治療では約15%、2時間超では約25%が最終視力6/12未満にとどまるとする文献レビューがある)2。この処置は特別な器具を要さず、疑った時点で最初に診たがその場で行うべきものである。

病態生理

眼窩は・・・などの骨壁と、前方を閉じるで囲まれた錐体状のである(解剖学 7.4)。正常なは30mL以下で、そのうち眼球とがすでに26.5mLを占めており、拡張の余地がほとんど残っていない1。四肢のと同様、内容物が増える方向にしか圧の逃げ場がなく、は次の式で近似できる(外傷学 36)。

=の血圧−\text{} = \text{の血圧} - \text{}

がわずかに上昇するだけでは急速に低下し、灌流のが乏しい視神経・が最初に虚血に陥る。四肢の筋・神経が壊死に至るまで時間単位の猶予があるのに対し、網膜は分単位の猶予しかない。この時間軸の違いが、四肢のでは「臨床評価をしながらの反復診察」が許容されるのに対し、では「診断がついたら即座に処置」が原則になる理由である。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraorbital'>眼窩内</span>容物の急激な増加<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retrobulbar hemorrhage'>球後出血</span>など)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraorbital pressure'>眼窩内圧</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surge'>急上昇</span><br>(容積30mL以下の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='closed cavity'>閉鎖腔</span>)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='perfusion pressure'>灌流圧</span>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ophthalmic artery'>眼動脈</span>血圧−<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraorbital pressure'>眼窩内圧</span>の低下"]
    C --> D["視神経・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central retinal artery'>網膜中心動脈</span>の虚血"]
    D -->|"視神経虚血97分未満"| E["可逆的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual dysfunction'>視機能障害</span>"]
    D -->|"105分以上遷延"| F["不可逆的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>"]

原因

⭐ 最多の原因は外傷に伴うである1。の受傷や眼窩手術に伴う出血でも同じ機序が起こる。

群 代表 経過
急性・ 、眼窩手術後の出血、の注射に伴う出血 数分〜数時間で進行する
急性・その他 眼窩感染、、異物、などによる出血、熱傷後の急速輸液 同様に急速
亜急性 の、急速に増大する 数日〜数週で進行しうる1

診断は臨床所見で完結させる

⚠️ 画像検査の結果を待って処置を遅らせない。 は臨床診断であり、など臨床的疑いが強い場合に治療をの順番待ちで遅らせてはならない1。造影CTはの局在や骨折の有無を確認するのに有用だが、確定診断の必須条件ではない。

所見 意味
著明な 40mmHg以上は・を考慮する目安(原典は soft threshold と表現)3
視神経灌流障害を示唆する最
・眼窩の 内容物増加そのものの徴候
() の所見
・開瞼困難 上昇による機械的制限
(赤色飽和低下) の早期徴候になりうる

治療:外眼角切開と下脚切離

⭐ ・(lateral canthotomy and inferior cantholysis)は特別な器具を要さず、疑ったがその場で行うべき処置である3。

  • 適応:40mmHg以上(原典は確定的な閾値ではなく soft threshold とする)、または・・・を伴う臨床的疑い。意識障害や眼周囲損傷があり評価できない患者でも、40mmHg以上なら適応となる3。
  • :が臨床的に疑われるか画像で確認される場合3。
  • 手技:①に1〜2%+エピネフリンで、②からへ向けて1〜2cm切開()、③下脚を同定し切離()——こそが眼窩圧を解除する本質的な処置で、切開そのものではない3。④下眼瞼の緊張が解けない、またはが下がらない場合は上脚も同様に切離する3。
  • 成功時の所見:眼瞼の即時の緩和とともに・の改善が得られる1。
  • 合併症:切開の不完全、医原性、下眼瞼支持の喪失、、損傷による出血などがありうる3。上脚切離はからの出血リスクが高いため特に慎重に行う。

⚠️ 時間が予後を決める。 の視神経実験では虚血97分未満なら回復し105分で不可逆的損傷に至ったとされ、発症から理想的には2時間以内の血流再開が視力予後を左右する最重要因子である——⚠️ 2時間を境に予後が大きく変わる。 複数の臨床報告を統合したレビューでは、2時間以内に治療された例の大半が最終視力6/12以上に達し6/12未満は約15%にとどまる一方、2時間を超えて治療された例で6/12以上に達するのは約25%にすぎない2。

flowchart TD
    A["外傷後・術後に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exophthalmos'>眼球突出</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>を訴える"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraocular pressure'>眼圧</span>・視力・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='relative afferent pupillary defect'>RAPD</span>・<br>眼球運動を直ちに評価"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraocular pressure'>眼圧</span>40mmHg超<br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='relative afferent pupillary defect'>RAPD</span>あり"}
    C -->|"なし"| D["経過観察・原因検索"]
    C -->|"あり"| E{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='globe rupture'>眼球破裂</span>の所見はないか"}
    E -->|"疑いあり"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral canthotomy'>外眼角切開</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inferior cantholysis'>下脚切離</span>は禁忌<br>眼球損傷として別途対応"]
    E -->|"否定的"| G["画像を待たず<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral canthotomy'>外眼角切開</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inferior cantholysis'>下脚切離</span>を施行"]
    G --> H{"眼瞼の緊張が解除され<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraocular pressure'>眼圧</span>が低下したか"}
    H -->|"不十分"| I["上脚も切離"]
    H -->|"十分"| J["原因検索(造影CTなど)へ進む"]
    I --> K["改善なければ全身麻酔下の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='orbital decompression'>眼窩減圧術</span>を検討"]

二次的な処置と原因治療

・で圧が十分解除されない場合は、眼窩外科医による全身麻酔下の経下アプローチなどのを検討する。医学的補助として静注やを併用することがある1。減圧後は原因(骨折の整復、感染の治療、の管理など)に応じた治療へ進む。放置されたは視神経への持続的な機械的圧迫と虚血を残し、としての不可逆的な視力障害に至りうる。

鑑別

疾患 鑑別点
数日の経過で発熱・を伴う。は目立たず、の適応にはならない
・・の状拡張を伴う。進行は緩徐で、よりが主体になる

まとめ

  • 眼窩は容積30mL以下の拡張できないで、などによるわずかな体積増加がをさせ、(血圧−)を低下させる。
  • 最多の原因は外傷に伴う。のや急速増大するは亜急性の経過をとりうる。
  • 診断は(・・・・)だけで完結する。画像検査の結果を待って処置を遅らせない。
  • 40mmHg超、または・を伴う場合は・の適応。が疑われる場合は。
  • こそが減圧の本質であり、発症から2時間以内の血流再開が視力予後を決める。不十分なら上脚切離、それでも不十分ならを検討する。

出典

  1. 1.Orbital Compartment Syndrome(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)眼窩コンパートメント症候群は眼窩という拡張の余地がない骨性閉鎖腔(正常容積30mL以下、眼球と眼窩軟部組織で26.5mLを占める)内で眼窩内圧が眼動脈・視神経血管叢・網膜中心動脈の灌流圧を超えることで視力を脅かす病態であること、最多の原因は外傷に伴う球後出血で他に局所注射・眼窩感染・気腫・異物・解剖学的異常・Valsalva手技などによる自然発生性出血・熱傷後の急速輸液があること、甲状腺眼症や急速に増大する眼窩腫瘍は亜急性の発症をとりうること、重要な臨床所見は著明な眼圧上昇・視力低下・眼球突出・眼窩の緊満感・相対的瞳孔求心路障害・眼球運動制限であること、本症候群は臨床診断であり視力低下など臨床的疑いが強い場合は画像検査で治療を遅らせてはならないこと、眼圧が40mmHgを超える場合は外眥切開・下眼瞼支帯切離の適応となり成功すれば眼瞼の即時の緩和と眼球突出・眼圧の改善が得られること、動物実験では灌流遮断75分で網膜に不可逆的損傷が生じうる一方で血流再開までの時間が2時間以内であれば予後が最も良いとされること、外眥切開・下眼瞼支帯切離で不十分な場合は眼窩外科医による全身麻酔下の眼窩減圧術を検討し静注アセタゾラミドやマンニトールを補助的に併用することを確認した閲覧 2026-09-01
  2. 2.Orbital Compartment Syndrome: An Update With Review Of The Literature(Clinical Ophthalmology・2019)眼窩コンパートメント症候群は外傷または手術に伴う眼窩出血が最多の原因である文献レビューであること、正常な成人眼窩の容積は約30mLで眼窩内圧は3〜6mmHgであること、Hayreh・Weingeistがアカゲザルで視神経をクランプした実験(Br J Ophthalmol 1980)では網膜虚血が97分未満なら回復し105分で不可逆的な損傷に至ると報告されていること、臨床的には受傷から2時間以内に治療された患者の多くは最終視力がSnellen 6/12以上に達する一方で約15%は6/12未満にとどまり、2時間以降に治療された患者では6/12以上に達するのは約25%にとどまると複数の報告を統合して示されていること、それでも5日後の遅延減圧や無処置でも視力の部分回復が報告されており受診が遅れた症例でも治療介入を検討すべきであることを確認した閲覧 2026-09-01
  3. 3.Lateral Orbital Canthotomy(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)眼窩コンパートメント症候群を疑う所見(眼球突出・視力低下・眼圧上昇・眼外運動制限・相対的瞳孔求心路障害)がある患者や、意識障害・眼周囲損傷があり眼圧40mmHg以上の患者が外眼角切開・下脚切離の適応であること、眼球破裂が臨床的に疑われるか画像で確認される場合は絶対禁忌であること、手技は外眼角への局所麻酔(1〜2%リドカイン+エピネフリン)後に外眼角から眼窩縁へ向けて1〜2cm切開し(外眼角切開)下脚を切離、下眼瞼の緊張が解けない場合や眼圧が高いままの場合は上脚も切離すること、下脚切離こそが眼窩圧を解除する本質的な処置であり切開そのものではないこと、切開が不完全な場合や医原性眼球破裂・下眼瞼支持の喪失・涙腺動脈損傷による出血などの合併症がありうること、受傷から理想的には2時間以内の介入で視力転帰が改善すること、症例報告として眼圧79mmHgから処置直後に35mmHgへ低下し退院時視力20/40まで回復した例があることを確認した閲覧 2026-09-01