疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 眼科 · 外傷

眼窩骨折

Orbital fracture

別名
眼窩吹き抜け骨折blowout fracture
臓器系
眼科
科目
Macroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
解剖学 7.4:頭部:眼窩と眼
続発疾患
眼窩コンパートメント症候群圧迫性視神経症
関連疾患
眼球破裂
症状
複視眼筋麻痺しびれ徐脈悪心嘔吐眼窩陥凹

🧠 全体像:は「眼窩の骨が壊れた」ではなく、のか、外力の伝播による(buckling)かで最も薄い壁が破綻したという機序で理解する。・はや眼窩面のように薄く、比較的軽微な外傷でも骨折しやすい(解剖学 7.4)。成人では浮腫の消退を待ちつつ受傷後14日以内を目安に手術するが、⚠️ 小児は骨が柔軟で「グリーンスティック」のように元の位置へ戻りやすいため、外見の変化に乏しいままやだけがに絞扼される white-eyed blowout(trapdoor型)が起こる。 絞扼された筋の牽引はを介して徐脈・悪心・嘔吐を来し、外見の軽さとは裏腹に緊急手術の絶対適応になる。「腫れていないから軽症」という直感が、この一群では通用しない。

発生機序

  • Hydraulic theory:眼球そのものへの直接(拳・ボールなど)で眼球が後方へされ、がし、最も弱いが下方へ「吹き抜ける」1。
  • Buckling theory:などへのが圧力波としてを前後方向にし、最も弱い点がしてが生じる1。

いずれの機序でも・は薄く軽微な外傷で骨折しうる2。重症例では容物の急激な嵌頓により、と同様の様の虚血性損傷が生じることがある2。

臨床像

所見 機序・意味
・上方視での疼痛 ・の嵌頓、または筋の直接損傷
垂直方向の(とくに) 嵌頓による機械的制限
の増大。受傷後数日〜数週で明らかになることが多い1
領域(V2)のしびれ を通る三叉神経枝の損傷。多くの患者にみられる1
骨折との交通を示唆する2
眼窩下縁の圧痛・ そのものの触知所見

⚠️ 鼻をかまないよう指導する。 副鼻腔と眼窩の交通があるため、鼻をかむと眼窩・を悪化させうる。受傷後4〜6週間は避ける1。

⚠️ 小児のwhite-eyed blowout(trapdoor型)を見逃さない

⭐ 小児の骨は柔軟で、が元の位置に「グリーンスティック」様に戻りやすい。 そのためや皮下出血・浮腫といった外見上の外傷徴候に乏しいまま、(多くは)やだけがに絞扼される2。「見た目が軽い」ことが、この病態では危険の合図になる。

💡 なぜ徐脈が起こるのか。 絞扼されたを牽引すると、・のを介した三叉神経−が誘発されうる(原典が記述するのは手術操作中の牽引によるもので、絞扼そのものによる誘発は小児 trapdoor 型で報告される)、徐脈・悪心・嘔吐を来す2。上方視でが強く牽引されるため、症状は上方視で誘発・増悪しやすい。ある症例報告では、・が嵌頓した16歳女性が持続した上方視で心拍数99→81/分の徐脈を来し、緊急の嵌頓解除で消失したと記録されている(1症例であり集団としての頻度を示すものではない)3。

flowchart TD
    A["小児の眼窩外傷後<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='diplopia'>複視</span>・上方視制限"] --> B["外見の腫脹・皮下出血は乏しいことが多い<br>(white-eyed)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>でtrapdoor型の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fracture line'>骨折線</span>と<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='inferior rectus'>下直筋</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orbital fat'>眼窩脂肪</span>の嵌頓を確認"]
    C --> D["上方視をさせて徐脈・悪心・<br>嘔吐の有無を確認"]
    D -->|"oculocardiac reflex陽性"| E["⚠️ 緊急手術の絶対適応<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='muscle fibrosis'>筋線維化</span>が進む前に整復"]
    D -->|"陰性でも嵌頓が高度"| E

手術適応とタイミング

適応 基準 タイミング
(緊急) 小児のtrapdoor骨折、が進行する、初診時2mm以上、2 緊急手術。小児のでは受傷後7日以内の手術で良好な予後が報告される2
相対的 安定下での容物嵌頓、持続的、、損傷50%超2 浮腫消退を待って24〜72時間後に評価し、受傷後14日以内を目安に施行2
保存的 非変位骨折での変化なし 手術不要、経過観察

⚠️ 「14日」という数字の意味を取り違えない。 442例を対象にしたでは、受傷後14日を超えて手術した群は14日未満の群に比べ術後の遷延性のが3.3(P=.027)と有意に高かった一方、を単独の転帰としてみると両群に有意差はなかった4。つまり14日は「これを超えると手術してはいけない境界」ではなく、の予後を悪化させうる目安として意味を持つ。の可否を決めるのは日数だけでなく、嵌頓の程度とoculocardiac reflexの有無である。 ・眼球運動時の激しい疼痛・を伴う高度の嵌頓は、日数によらず緊急手術の対象になる1。

診断

(1.0〜1.5mm)のとで・容物のヘルニア・の形状(entrapmentでは筋がテント状に牽引される)を評価する1。はまたはが一般的である2。

鑑別

疾患 鑑別点
骨折そのものではなく・上昇が主体。・が前景に立ち、・という別の緊急処置を要する
受傷歴に乏しく発熱・を伴う感染。骨折後に副鼻腔と交通した創から続発することもある

まとめ

  • はのまたは外力ので、薄い・が破綻する外傷である。
  • ・上方視制限・・領域の・が主な所見。鼻をかむと気腫が悪化するため4〜6週間控えさせる。
  • 小児のwhite-eyed blowout(trapdoor型)は外見上の徴候に乏しいままが絞扼され、oculocardiac reflex(徐脈・悪心・嘔吐)を伴いうる緊急手術の絶対適応である。
  • 絶対適応(小児trapdoor、進行するを伴う、2mm以上、)以外は浮腫消退を待って14日以内を目安に手術し、日数だけでの可否を決めない。
  • 診断はと。重症の嵌頓ではに準じた虚血性損傷が生じうる。

出典

  1. 1.Orbital Floor Fracture(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)眼窩底骨折の発生機序として眼球自体への直接打撲で眼窩内圧が急上昇し最も弱い眼窩底が吹き抜けるhydraulic theoryと、頬部などへの鈍的外力が圧力波として眼窩骨を前後に圧縮し最も弱い点が座屈するbuckling theoryの2説があること、症状として垂直眼球運動時の疼痛・複視、上下転の制限、受傷後数日〜数週で明らかになる眼球陥凹、多くの患者にみられるV2領域(眼窩下神経領域)の知覚低下があること、画像評価は薄切(1.0〜1.5mm)の軸位CTと冠状面再構成で行うこと、手術は受傷後少なくとも14日待機することが賢明で「2週間のウィンドウ」内に手術する明確な根拠はないが外転不全・眼球運動時の激しい疼痛・血行動態不安定などの高度の嵌頓では緊急手術の対象となること、鼻をかむことは眼窩・軟部組織気腫につながるため受傷後4〜6週間は避けるべきことを確認した閲覧 2026-09-01
  2. 2.Orbital Floor Fracture(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)眼窩底骨折はhydraulic機序(眼窩内圧上昇による眼窩床破裂)とbuckling機序(眼窩縁への外力伝播)で生じ眼窩の骨は薄く軽微な外傷でも骨折しうること、重症例では眼窩内容物の嵌頓による区画症候群様の虚血性損傷が生じうること、臨床所見は上方視での複視・上方視制限・眼窩下縁の圧痛や段差・眼球陥凹・眼窩下神経領域の感覚低下(三叉神経損傷)・上顎洞骨折を示唆する皮下気腫であること、小児は骨が柔軟なため骨折線が元の位置に戻りやすく外部外傷徴候に乏しいwhite-eyed blowout fractureとなり外眼筋や眼窩脂肪の軟部組織嵌頓の危険が高いこと、手術操作中の外眼筋牽引が迷走神経反射を介した徐脈(oculocardiac reflex)を誘発しうること、絶対的な緊急手術適応は小児のtrapdoor骨折・視力低下が進行する眼窩後部血腫・初診時眼球陥凹2mm以上・開放眼球損傷であり相対的適応はバイタルサイン安定下での眼窩内容物嵌頓・持続的複視・眼球陥凹・眼窩床損傷50%超であること、手術は一般に受傷後14日以内に線維化を防ぐ目的で施行され小児の眼球運動障害では受傷後7日以内の手術で良好な予後が得られるとされる一方多くの症例は浮腫消退を待つため24〜72時間待機すること、非変位骨折で眼窩容積変化がなければ保存的管理でよいこと、鼻をかむことを控えさせて眼窩気腫の悪化を防ぐこと、手術アプローチは経結膜的または経上顎洞的であることを確認した閲覧 2026-09-01
  3. 3.White-Eyed Orbital Blowout Fracture With Oculocardiac Reflex Secondary to Extraocular Entrapment in a Pediatric Patient(Journal of Craniofacial Surgery・2022)16歳女性の顔面から地面への転倒によるwhite-eyed blowout fractureの症例報告として、CTで下直筋と眼窩周囲脂肪の嵌頓を認め、持続した上方視で心拍数が99から81/分へ低下しoculocardiac reflexが誘発されたこと、緊急に嵌頓組織の解除と骨片整復術を施行し術後経過は良好で、術後7週で眼瞼周囲浮腫・整復運動の異常が消失しoculocardiac reflexも誘発されなくなったこと、眼窩下神経領域の軽度の錯感覚は骨折が眼窩下管と交通したことによるものとされたことを確認した(1症例の報告であり集団としての頻度を示すものではない)閲覧 2026-09-01
  4. 4.Surgical Timing of the Orbital "Blowout" Fracture: A Systematic Review and Meta-analysis(Otolaryngology–Head and Neck Surgery・2016)単発性の眼窩吹き抜け骨折を対象に手術タイミング(受傷後14日未満の早期群と14日超の待機群)と複視・眼球陥凹の転帰を比較した5研究442例のメタ解析で、待機群は早期群に比べ術後の遷延性複視のオッズ比が3.3(P=.027)と有意に高かったこと、一方で眼球陥凹を単独の転帰として評価した場合は両群間に有意差を認めなかったこと、以上から受傷後14日を超える手術は遷延性複視のリスクを有意に高めると結論したことを確認した(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-01