症状ノート一覧へ

Symptoms · Published

眼窩陥凹

Sunken eyes

別名
眼のくぼみ落ちくぼんだ眼
臓器系
全身小児眼科
科目
PediatricsENT
トピック
小児科 1-17:小児の下痢小児科 2-20:小児の体液平衡異常、重度脱水と輸液療法小児科 52:主な感染性腸炎耳鼻咽喉科 31:副鼻腔・顔面骨格・前頭蓋底の外傷
関連疾患
脱水
起因薬
トラボプロスト
スコア
Gorelick score小児臨床的脱水スケール

🧠 全体像:「眼がくぼんで見える」という一つの見た目は、機序の異なる3つの病態から生まれる。脱水によるの脂肪体・軟部組織の水分が減って眼球が沈んで見える。両側性・急性・可逆性)、(眼窩の容積そのものが増えた、または内容が減った状態。片側性が原則)、が狭くなって沈んで見えるだけで、眼窩容積は不変)——この3つを区別できるかどうかで、次にすべき評価がまったく変わる。小児の脱水評価では見つけやすい所見の一つだが、単独で脱水を診断できる所見ではない点も併せて押さえる。

定義と用語の整理

」という所見は、少なくとも3つの異なる病態を指して使われる。

病態 何が起きているか 分布・経過
脱水による ・眼周囲軟部組織の水分・容積が減り、眼球が奥に沈む 両側性・急性・可逆性
眼窩容積そのものが増えた、または容が減った 片側性が原則。慢性・進行性のことが多い
が狭くなり沈んで見えるだけで、眼窩容積は不変 片側性。原疾患の経過に準じる

小児の脱水評価でこの所見を使う代表例が(CDS)で、眼を全身状態・粘膜・涙と並ぶ4項目の一つとして採点する。この所見だけを取り出して脱水の有無・程度を判定するではない。

の対極として、や高度の体重減少でも両側性にが萎縮し、陥凹を来すことがある。両側性である点は脱水と共通するが、経過は数週〜数か月の慢性であり、体重減少・原疾患の随伴所見の有無で区別する。

💡 ・診察ではまず「両側性か片側性か」「発症が急性か慢性か」の2点を確認する。 この2点だけで、脱水・のどれを疑うべきかがほぼ決まる。

小児は成人よりこの所見を見つけやすい。 が薄く、の脂肪体も体重あたりの水分の出入りが速いため、同じでも短時間で外見に反映される。逆に高齢者では皮膚の弾性そのものが生理的に低下しており、脱水以外の理由でも陥凹様の外観を呈しうる点に注意する。

病態生理

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enophthalmos'>眼窩陥凹</span>の機序"] --> B["①<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extracellular fluid, ECF'>細胞外液</span>量の減少"]
    A --> C["②眼窩容積の増大"]
    A --> D["③<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraorbital'>眼窩内</span>容の減少"]
    A --> E["④<span class='jp-term jp-term-diagram' title='palpebral fissure (embryology: optic/choroid fissure)'>眼裂</span>の狭小化"]
    B --> B1["脱水による<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='orbital fat'>眼窩内脂肪体</span>の水分喪失"]
    B --> B2["両側性・急性・可逆的"]
    C --> C1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orbital floor fracture'>眼窩底骨折</span>による<br>眼窩腔の拡大"]
    C --> C2["片側性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='traumatic'>外傷性</span>"]
    D --> D1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orbital fat'>眼窩脂肪</span>萎縮・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cachexia'>悪液質</span>による<br>脂肪体そのものの減少"]
    D --> D2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor invasion'>腫瘍浸潤</span>・線維化による<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraorbital'>眼窩内</span>容の牽引"]
    E --> E1["交感神経障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ptosis'>眼瞼下垂</span>による<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='palpebral fissure (embryology: optic/choroid fissure)'>眼裂</span>の狭小化"]
    E --> E2["眼窩容積・内容は不変"]

量の減少は小児の急性胃腸炎による脱水が代表で、を含む全身の軟部組織から水分が引かれ、両側性に眼球が沈んで見える。脱水に伴う全身所見の一つで、可逆的であり、補液に伴って数時間〜数日で改善する。

②眼窩容積の増大の代表はで、眼窩が破裂して副鼻腔側へ落ち込み、眼窩腔そのものが拡大することで眼球がする。外傷歴を伴う片側性・急性発症である点が、脱水による陥凹とは対照的である。

容の減少は、眼窩の容積は変わらないまま中身が減る経過で、であることが多い。加齢・に伴うの萎縮、腫瘍の眼窩浸潤に伴う線維化・によるの陥凹などが含まれる。・高度の体重減少による両側性の陥凹も同じ機序に含まれるが、原因が全身性である点で片側性の病変とは区別する。

の狭小化は眼窩の中身が変わらないまま、上下の幅が狭くなることで相対的に眼球が奥まって見える現象で、におけるが代表である。眼窩容積・内容ともに正常であり、とは対応ももまったく異なる。

💡 同じ両側性でも、脱水は数時間〜数日の経過で低下・頻脈を伴って急速に進行するのに対し、・高度な体重減少による陥凹は数週〜数か月かけて緩徐に進行し、随伴するのは頻脈よりも低下・減少である。このの違いが両者を分ける最大の手がかりになる。

緊急・見逃してはいけない疾患

危険度が高い順に並べる。

  • ⚠️ 小児の高度脱水・への進行。 の構成要素の一つで、傾眠低下・頻脈・など他の所見と組み合わせて重症度を判定する。だけを根拠に脱水の程度を決めず、進行すればに至りうることを念頭に置く。
  • ⚠️ での)絞扼。 小児は骨が薄く柔軟なため、骨折片が扉のように閉じ戻って脱出した容を挟み込む型の骨折を来しやすい。この型はなどの外見上の所見に乏しく白眼のままで、悪心・嘔吐やによる徐脈を伴うことがあり、されやすい1を伴えば、画像所見に乏しくても診断後48時間以内の手術を要する緊急疾患として扱う1
  • ⚠️ 片側性・進行性の 緩徐に進行する片側性のは、乳癌などの硬性転移による眼窩浸潤・線維化を疑う手がかりになる。外傷歴のない片側性陥凹を加齢のせいで片付けない。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["眼がくぼんで見える"] --> B{"片側性か両側性か"}
    B -->|"両側性"| C{"急性・可逆性で<br>脱水を示唆する所見があるか"}
    C -->|"あり"| D["脱水による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enophthalmos'>眼窩陥凹</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='skin turgor'>皮膚ツルゴール</span>・尿量・全身状態を確認"]
    C -->|"なし・慢性経過"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cachexia'>悪液質</span>・高度な体重減少を疑う"]
    B -->|"片側性"| F{"外傷歴があるか"}
    F -->|"あり"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orbital floor fracture'>眼窩底骨折</span>を疑う<br>眼球運動・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Diplopia'>複視</span>・画像評価"]
    F -->|"なし"| H{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='palpebral fissure (embryology: optic/choroid fissure)'>眼裂</span>の幅が狭くなっているか"}
    H -->|"はい<br>眼窩容積は不変"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='apparent enophthalmos'>見かけの眼球陥凹</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Horner syndrome'>Horner症候群</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ptosis'>眼瞼下垂</span>を評価"]
    H -->|"いいえ<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='slowly progressive'>緩徐進行性</span>"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='true enophthalmos'>真の眼球陥凹</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='orbital fat'>眼窩脂肪</span>萎縮・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor invasion'>腫瘍浸潤</span>を検索"]

最初の分岐を片側性・両側性に置くのは、この1点だけで疑うべき機序群がほぼ絞られるからである。両側性・急性なら脱水、片側性ならまず外傷歴の有無で骨折を疑うか、の変化の有無で見かけの陥凹()と真の陥凹()を分ける。

両側性・急性の枝に入ったら、単独ではなく・尿量など脱水の他の身体所見と必ず組み合わせて重症度を判定する。単一所見の有無だけで補液方針を決めない。

対症療法の考え方

という所見そのものを治療対象にすることはない。この所見が何の代理指標かを特定し、原因治療に委ねるのが原則である。脱水によるものなら・輸液、によるものなら整復手術、によるものなら原因病変の検索と治療というように、対応先はまったく異なる。

⚠️ 単独では脱水の有無・程度を診断できない。 は眼を全身状態・粘膜・涙と並ぶ4項目の一つとして0〜2点で採点するに過ぎず2、Gorelick scoreも10項目中の1所見として扱い、3項目以上の異常ではじめて脱水を予測する3。WHOの分類も点数化せず、複数所見の組み合わせで重症度を判定する設計になっている4。外部検証では、こうした複数所見を統合したスコアでさえCDS・Gorelick scoreともにAUCが0.7前後にとどまる5最も信頼できる脱水の指標は、単独の身体所見ではなくである。

実地では、初診時の1回の評価で完結させず、補液後の再評価で改善しているかを確認することが所見そのものより重要である。体重を測定できる状況では、を補液反応の最優先の指標として扱う。

まとめ

  • 「眼がくぼんで見える」は、脱水による(両側性・急性・可逆性)、(片側性が原則)、の狭小化のみ)という機序の異なる3つを指す。
  • 最初の分岐は片側性か両側性かであり、片側性ではさらに外傷歴・の変化の有無で骨折・を絞り込む。
  • 見逃してはいけないのは、小児の高度脱水からへの進行、での絞扼(小児は画像所見に乏しくても緊急手術を要しうる)、片側性進行性陥凹の背景にある(乳癌の眼窩転移など)である。
  • という所見自体への介入はなく、脱水なら補液、骨折なら整復、なら原因検索というように原因治療に委ねる。
  • は脱水評価スコアの一項目に過ぎず単独診断能は低い(外部検証でのAUCは0.7前後)。最も信頼できる指標はである。

出典

  1. 1.Validation of the Clinical Dehydration Scale for Children With Acute Gastroenteritis(Pediatrics (American Academy of Pediatrics)・2008)CDSが全身状態・眼・粘膜・涙の4項目を各0〜2点、合計0〜8点で採点し、0点=脱水なし・1〜4点=軽度〜中等度・5〜8点=中等度〜高度の脱水と解釈すること、対象が生後1か月〜36か月の急性胃腸炎児であることを確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.Validity and Reliability of Clinical Signs in the Diagnosis of Dehydration in Children(Pediatrics (American Academy of Pediatrics)・1997)Gorelick scoreが10項目の臨床徴候(全身状態・橈骨脈拍・呼吸様式・皮膚緊張・眼・涙・粘膜・尿量・心拍数・毛細血管再充満時間)の異常の数を数える方式であり、3項目以上の異常で5%以上の脱水を感度87%・特異度82%で予測することを確認した。閲覧 2026-08-02
  3. 3.External Validation and Comparison of Three Pediatric Clinical Dehydration Scales(PLOS ONE・2014)独立コホートでの外部妥当性検証でCDSとGorelick scoreのAUCがそれぞれ0.72・0.71にとどまり年齢層別の解析では統計的有意性を失ったこと、WHO分類・臨床的直感のAUCは0.61とさらに低かったことを確認した。閲覧 2026-08-02
  4. 4.Pocket Book of Hospital Care for Children: Guidelines for the Management of Common Childhood Illnesses (2nd edition)(World Health Organization・2013)WHOの脱水分類が点数化せず「なし/中等度/高度」の3区分を臨床所見の組み合わせ(2つ以上の一致)で判定する方式であることを確認した。閲覧 2026-08-02
  5. 5.The white-eyed blowout fracture in the child: beware of distractions(Journal of Surgical Case Reports (Oxford University Press)・2013)小児では骨が薄く柔軟なため骨折片が扉のように閉じ戻り眼窩内容を挟み込む型の眼窩底骨折が生じやすく、結膜下出血などの外見上の所見に乏しいまま下直筋を絞扼しうること、症例の過半数で悪心・嘔吐を伴い眼球心臓反射による徐脈を来しうること、診断後48時間以内の手術が推奨されることを確認した。閲覧 2026-08-02