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Disease Atlas · 全身 · 症候群

毛細血管漏出症候群

Capillary leak syndrome

別名
SCLS
臓器系
全身血液
科目
PharmacologyInternal MedicinePediatrics
トピック
薬理学 B36:抗がん薬VI(高分子シグナル伝達阻害薬・免疫賦活抗がん薬)内科学 I-11:敗血症・敗血症性ショック小児科 1-09:小児の浮腫
鑑別疾患
敗血症
続発疾患
コンパートメント症候群
治療薬
免疫グロブリン静注療法
原因薬剤
アルデスロイキンフィルグラスチム
症状
低血圧末梢浮腫
検査値
ヘマトクリットアルブミン単クローン性蛋白

🧠 全体像は、の透過性が突発的に亢進し、血漿(水分だけでなくアルブミンなどの蛋白も)が血管内から間質へ漏れ出す病態である。この一点を押さえると、診断の入口である「低血圧なのにが上がる」という一見矛盾した組合せ(血管内が濃縮される一方で全身は浮腫む)も、治療上の最大の落とし穴(漏出期に入れた輸液が、体液が血管内へ戻るにそのまま肺水腫として跳ね返る)も、同じ1本の機序から説明できる。

病態

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capillary endothelium'>毛細血管内皮</span>の透過性亢進<br>(原発性:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='monoclonal gammopathy'>単クローン性ガンマグロブリン血症</span>を高率に合併<br>続発性:IL-2・G-CSFなどのサイトカイン療法、敗血症、HSCT、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antineoplastic drug'>抗腫瘍薬</span>)"] --> B["血漿(水分+アルブミンなどの蛋白)が<br>血管内から間質へ漏出"]
    B --> C["血管内容量減少・低血圧"]
    B --> D["蛋白も一緒に漏れるため<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoalbuminemia'>低アルブミン血症</span>"]
    C --> E["血漿成分の喪失で<br>血液が相対的に濃縮=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hematocrit, Hct'>ヘマトクリット</span>上昇"]
    B --> F["全身性浮腫・体腔液貯留<br>(重症例で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='compartment syndrome'>コンパートメント症候群</span>)"]

診断の入口は「低血圧・上昇)・」という3徴候の組合せである。 通常、では血液は濃縮するがを伴わなければアルブミンは相対的に保たれる。では蛋白ごと漏れ出すため、が同時に起こるという、一見矛盾した組合せ(「ショックなのにHtが上がる」)がになる。

分類——原発性と続発性

分類 内容
原発性(特発性、Clarkson病) 他に説明できる基礎疾患がない。80%超を合併する1
続発性 サイトカイン療法(=IL-2、など)、敗血症(GVHDに関連)、一部のに伴う

💡 「Clarkson病」という呼称は、本来は基礎疾患のない特発性の型を指す固有名で、続発性の型(薬剤性・敗血症性など)とは区別して使うのが原義である。

⭐ 癌患者を対象としたある系統的レビューでは、続発性SCLSの原因のうち関連が51.6%を占め、その内訳はが14.6%、IL-2が11.4%だった。関連は4.8%であった2このデータは癌患者コホートに限った内訳であり、一般集団やIL-2単独投与例での頻度をそのまま示すものではない点に注意する。

臨床像

  • として上気道炎様の感・悪心・腹痛を伴うことがある。
  • 漏出期には急速な低血圧)、全身性の浮腫、体腔液(胸水・腹水・)貯留が進行する。
  • ⚠️ 重症例では四肢の高度な浮腫からを来し、上昇による神経・筋障害のリスクが生じる。

診断

低血圧・上昇)の3徴候を確認し、敗血症、アナフィラキシー、など他のをきたしうる病態を除外する1。原発性が疑われる場合はの有無を確認する。敗血症も血管拡張・・低血圧を来すが、敗血症では感染源の同定と所見が前景に立ち、を伴わない血液分布異常が主体である点でSCLSと区別する。

治療——漏出期と回復期は輸液戦略が逆になる

⚠️ SCLSの治療で最も見落としやすい落とし穴は、漏出期とという2つの相で必要な輸液戦略が正反対になることである。

flowchart TD
    A["漏出期<br>血管内容量減少・低血圧"] --> B["過不足のない輸液で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='organ perfusion'>臓器灌流</span>を維持"]
    B --> C{"輸液は適切か"}
    C -->|"不十分"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='organ ischemia'>臓器虚血</span>"]
    C -->|"過剰"| E["漏出した体液が<br>間質にさらに貯留"]
    A --> F["数日で自然に<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='recovery phase'>回復期</span>へ移行"]
    F --> G["間質に貯留した体液が<br>血管内へ再流入"]
    G --> H["漏出期に入れた輸液量が多いほど<br>血管内容量過剰・肺水腫のリスクが高まる"]
  • 漏出期: に対し、を保つために必要最小限の輸液を行う。過不足のない輸液が原則で、積極的な晶質液単独投与はかえって間質への漏出を助長しうる3
  • 間質に貯留していた体液が血管内へ戻り、利尿とともに血行動態が安定する1。⭐ 漏出期に投与した輸液量が多いほど、このに血管内容量過剰・肺水腫を来すリスクが高まる3。輸液を絞り、必要に応じて利尿薬で対応する。
  • 予防: 欧州Clarkson病レジストリ69例の多施設コホートでは、IVIGによる予防投与がで生存の独立した予測因子となり(0.27)、5年78%・10年69%が得られている4
  • 続発性の場合は原因(IL-2などの原因薬剤の中止、敗血症の治療など)への対応を並行する。

まとめ

  • は血漿(水分+蛋白)が血管内から間質へ漏出する病態で、低血圧・上昇)・という3徴候が診断の入口になる。
  • 原発性(Clarkson病、を高率に合併)と続発性(IL-2・G-CSFなどのサイトカイン療法、敗血症、、一部の)に分ける。
  • 漏出期との2相があり、漏出期のの肺水腫を招くため、輸液は過不足のない量にとどめる。
  • による予防投与は生存の独立した予測因子として報告されている。

出典

  1. 1.Idiopathic Systemic Capillary Leak Syndrome: A Clinical Case(Cureus(Correia RS, Pinho dos Santos D, Delgado M)・2023)特発性全身性毛細血管漏出症候群(SCLS)の80%超が単クローン性ガンマグロブリン血症を合併すること、診断は低血圧・低アルブミン血症・血液濃縮の3徴候で特徴づけられること、漏出期には血管外への体液喪失が起こり、その後の回復期には血管外に貯留した体液が血管内へ戻ることで血行動態が安定する一方、漏出期の過剰輸液は肺水腫を、不十分な輸液は臓器虚血を招きうることを本文・考察から確認した(本文は免疫グロブリン静注療法とテルブタリン+アミノフィリン併用の双方の有効例に触れるが、"the latter"=テルブタリン+アミノフィリン併用の方を発作再発予防に有効と述べており、IVIgは治療としての言及にとどまる)。閲覧 2026-08-11
  2. 2.Intravenous Immunoglobulins Improve Survival in Monoclonal Gammopathy-Associated Systemic Capillary-Leak Syndrome(American Journal of Medicine(Pineton de Chambrun M, et al.)・2017)欧州Clarkson病レジストリに登録された69例の多施設後ろ向きコホートで、免疫グロブリン静注療法(IVIg)による予防投与が多変量解析で生存の独立した予測因子であったこと(ハザード比0.27、95%信頼区間0.10-0.70、P=.007)、5年生存率78%・10年生存率69%であったことを結果節で確認した。閲覧 2026-08-12
  3. 3.Systemic Capillary Leak Syndrome (Clarkson Syndrome) in Cancer Patients: A Systematic Review(Journal of Clinical Medicine(Shin JI, et al.)・2018)癌患者における続発性SCLSの原因の内訳として抗腫瘍薬関連が51.6%(うちG-CSF製剤14.6%、IL-2 11.4%)、造血幹細胞移植(GVHD)関連が4.8%であったこと、この癌患者コホートにおける診断3徴候の頻度が低アルブミン血症96.9%・血液濃縮63.6%・低血圧32.2%であったことを結果節で確認した(一般集団やIL-2単独での頻度ではなく、この系統的レビューが対象とした癌患者コホートの数値である)。閲覧 2026-08-11
  4. 4.A fatal case of acute progression of generalized edema and simultaneous flash pulmonary edema in a patient with idiopathic systemic capillary leak syndrome: a case report(Journal of Medical Case Reports(Hirosaki Y, et al.)・2015)漏出期から血管内への体液再流入が起こる回復期には血管内容量過剰・肺水腫のリスクが高いこと、本症例では急速に進行した低アルブミン血症による膠質浸透圧低下・代謝性アシドーシスによる肺血管抵抗上昇・膠質液を用いない積極的な晶質液輸液の組合せが急激な肺水腫を誘発した可能性を考察で確認した。閲覧 2026-08-11