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Disease Atlas · 血液 · 症候群

生着症候群

Engraftment syndrome

別名
ES生着前症候群
臓器系
血液呼吸器皮膚
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 H-33:自家造血幹細胞移植内科学 H-34:同種造血幹細胞移植
鑑別疾患
移植片対宿主病毛細血管漏出症候群
合併症
急性呼吸窮迫症候群
関連疾患
移植関連血栓性微小血管症肝類洞閉塞症候群
治療薬
メチルプレドニゾロン
症状
発熱発疹呼吸困難

🧠 全体像:(ES)は、その名のとおりのタイミングで起こるサイトカイン介在性の炎症症候群である。発熱・皮疹・という三徴を軸に、下痢・肝・体重増加を伴うこともある1。⭐ 「=良いニュース」とは限らない。 好中球が戻ってくる同じタイミングで、サイトカインの奔流が全身の炎症反応を引き起こす——これがESの本質であり、でも起こるという点がGVHD(特有)との決定的な違いになる。

位置づけ——内皮障害合併症の仲間

移植後早期に起こる炎症・を土台とする合併症群の一つで、・・()と同じ時期に、同じ「による+サイトカイン」という土台の上に起こりうる。💡 これらは互いに排他的ではなく、同一患者に重複して起こることがある。

病態生理:好中球生着というタイミングが引き金になる

によると好中球減少期を経て好中球が回復してくる過程で、免疫調節に異常が生じる。IL-1・α・IFN-γ・IL-12などのが誘導されて抗原提示とT細胞活性化が亢進する一方、が機能不全に陥り、自己反応性のがを来す1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conditioning'>前処置</span>による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue injury'>組織傷害</span><br>+好中球減少期"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neutrophil engraftment'>好中球生着</span><br>(骨髄からの急速な回復)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory cytokine'>炎症性サイトカイン</span>誘導<br>IL-1・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumour necrosis factor'>TNF</span>α・IFN-γ・IL-12"]
    C --> D["抗原提示・T細胞活性化 亢進"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='regulatory T cell (Treg)'>制御性T細胞</span>の機能不全"]
    D --> F["自己反応性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytotoxic T cell'>細胞傷害性T細胞</span><br>による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue injury'>組織傷害</span>"]
    E --> F
    F --> G["発熱・皮疹・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='noncardiogenic pulmonary edema'>非心原性肺水腫</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='engraftment syndrome'>生着症候群</span>)"]

⭐ でもと同等以上に起こる。 発症率はで8〜50%、で10〜77%と報告され1、後の統合発症率はで約35.4%である2。⚠️ 不一致もドナーT細胞も無いで起こることが、ESがと機序的に異なる証拠になる——では「」ではなく、そのものに伴うが主因であることを示している。

臨床像

の前後(日の前2日〜後2日ごろ)に、発熱を中心とする急性の炎症所見が出現する。

所見 内容
発熱 38℃以上、
皮疹 の25%を超える斑状丘疹性紅斑
肺 (浸潤影・低酸素血症)
その他 下痢(2回以上)、体重増加、肝、一過性脳症

1

診断——Spitzer基準とMaiolino基準

Spitzer基準(2001)

(いずれか1つ以上)と(いずれか1つ以上)の組合せで診断する。

区分 項目
①38℃以上の発熱 ②25%超の斑状丘疹性紅斑 ③2回以上の下痢
①または基礎体重比2.5%超の体重増加 ②(ビリルビン2 mg/100 mL以上または/の2倍以上) ③腎機能異常(クレアチニンの2倍以上) ④原因不明の一過性脳症

⭐ 1つ+1つで診断する。 発熱だけでは足りず、皮疹・下痢のいずれかと、臓器障害系の所見が要る1。

Maiolino基準(2003)——臓器障害を問わない簡略版

Maiolino基準は、Spitzer基準と同じ発熱・下痢・皮疹という全身炎症所見を土台にしながら、肺・肝・腎・脳症といった臓器障害の項目を除いた簡略版である1。

💡 どちらを使うかで陽性率が変わる。 臓器障害を必須としないMaiolino基準のほうが感度は高くなりやすく、研究間の発症率の幅(8〜50%、10〜77%)の一因は、どちらの基準を採用したかのばらつきにもある。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neutrophil engraftment'>好中球生着</span>前後の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-infectious'>非感染性</span>発熱"] --> B{"皮疹(25%超)または<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-infectious'>非感染性</span>下痢はあるか"}
    B -->|"なし"| C["ESは考えにくい<br>感染症を最優先に除外"]
    B -->|"あり"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='noncardiogenic pulmonary edema'>非心原性肺水腫</span>・体重増加・<br>肝<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal impairment'>腎機能障害</span>・脳症のいずれかがあるか"}
    D -->|"あり"| E["Spitzer基準で診断"]
    D -->|"なし"| F["Maiolino基準でのみ診断可"]

鑑別

⚠️ 最優先で除外するのは感染症である。 ESは定義上「」の発熱・下痢・皮疹であり、血液培養・画像などで感染を除外して初めて診断できる1。

鑑別 決め手
感染症・敗血症 培養陽性、の同定。ESはであることが定義の前提
でのみ起こり、生検で組織学的像を示す。ES患者はaGVHD患者よりIL-12・IL-1β・IL-6・α・IFN-γの血漿濃度が高い1
病態()と症状(体重増加・浮腫・)が重なり、併存しうる
TA-TMA ・血小板減少・高値・高値というの所見で区別する

⚠️ ESとaGVHDは同じ時期に同時に起こりうる。 後にESを発症した患者は急性・慢性GVHDのリスクも率も高いことがで示されており2、「ESと診断できたからは無い」とは言えない。

治療——ステロイドへの反応が診断的にも重要

⭐ が治療の中心で、反応は速い。 標準治療は1〜1.5 mg/kg/日を症状消失まで投与し、通常2〜3日で改善する。その後40〜50 mg/日のへ2〜3日かけて減量する1。

💡 早期に少量から始める方法も支持されている。 1 mg/kg/日を3日間投与したのち0.5 mg/kg/日まで5〜7日かけてする早期治療は、ES関併症の減少と早期回復に有意に関連した1。

⚠️ ステロイドは感染除外のあとに使う。 ESの診断自体が「」を前提とするため、が否定できないままステロイドを開始すると感染症を増悪させる。

支持療法として、に対する酸素化管理・利尿、重症例での呼吸不全に対する呼吸管理を行う。へ進展する重症例もある。

予後

ESを発症した患者は発症しなかった患者より生存が不良であった1。では、ESを発症した患者は急性・慢性GVHDのリスクと率がいずれも高い2。⭐ 早期の鑑別(感染症・aGVHDの除外)と速やかなステロイド開始が重症化と死亡を防ぐ鍵である1。

まとめ

  • (ES)はのタイミングで起こるサイトカイン介在性の炎症症候群で、発熱・皮疹(25%超の斑状丘疹性紅斑)・を中心に、下痢・体重増加・肝・一過性脳症を伴いうる。
  • ⭐ でも高頻度(8〜50%)に起こり、のようなが本態ではなく、そのものに伴うが機序の中心である。の統合発症率は約35.4%。
  • Spitzer基準(1つ+1つ)とMaiolino基準(臓器障害を問わない簡略版)の2つのがあり、どちらを使うかで陽性率が変わる。
  • 診断の前提は「」であり、感染症の除外が最優先。次いで・・との鑑別を行うが、やとは併存しうる。
  • 1〜1.5 mg/kg/日が治療の中心で、通常2〜3日で改善する速い反応性が特徴。
  • ESを発症すると生存が不良になり、ではリスクと率も上がるため、早期の鑑別と速やかなステロイド開始が重要になる。

出典

  1. 1.Engraftment syndrome following hematopoietic stem cell transplantation: a systematic approach toward diagnosis and management(Medical Oncology(Maqbool S, Nadeem M, Shahroz A, Naimat K, Khan I, Tahir H, Rehman A, Anwer F, Iftikhar R, Lee KY)・2022)Spitzer 2001診断基準の大基準(38℃以上の非感染性発熱、体表面積の25%を超える斑状丘疹性紅斑、2回以上の非感染性下痢のいずれか)に加え小基準(非心原性肺水腫と基礎体重比2.5%を超える体重増加、ビリルビン2 mg/100 mL以上またはAST/ALT基準値の2倍以上の肝機能異常、クレアチニン基準値の2倍以上の腎機能異常、原因不明の一過性脳症)を用い大基準1つ以上+小基準1つ以上で診断すること、Maiolino 2003基準は臓器障害の項目(肺・肝・腎・脳症)を除き発熱・下痢・皮疹という全身炎症所見に絞った簡略版であること、好中球生着期に生じる免疫調節異常によりIL-1・TNFα・IFN-γ・IL-12などの炎症性サイトカインが誘導され抗原提示とT細胞活性化が亢進する一方で制御性T細胞が機能不全に陥り自己反応性の細胞傷害性T細胞が組織傷害を来すこと、発症時期から8週までの検討でES患者は急性GVHD患者よりIL-12・IL-1β・IL-6・TNFα・IFN-γの血漿濃度が高かったこと、自家移植での発症率が8〜50%、同種移植での発症率が10〜77%と報告されていること、標準治療がメチルプレドニゾロン1〜1.5 mg/kg/日で症状消失まで投与し(通常2〜3日で改善)その後プレドニゾロン40〜50 mg/日の経口投与へ2〜3日かけて減量する方法であること、別の報告ではメチルプレドニゾロン1 mg/kg/日を3日間投与したのち0.5 mg/kg/日まで5〜7日かけて漸減する早期治療がES関連合併症の減少と早期回復に有意に関連したこと、ESを発症した患者は発症しなかった患者より生存が不良であったこと、早期の鑑別(感染症・急性GVHDの除外)と速やかなステロイド開始が重症化と死亡を防ぐ鍵であることを確認した。閲覧 2026-09-06
  2. 2.Engraftment syndrome after allogeneic stem cell transplantation: a systematic review and meta-analysis(Bone Marrow Transplantation(ElGohary G, Toor AA, Gergis U)・2023)同種造血幹細胞移植後の生着症候群の統合発症率が約35.4%であったこと、生着症候群を発症した患者は急性および慢性GVHDのリスクが高く非再発死亡率も高かったこと、ドナー種類・幹細胞源・GVHD予防法・前処置強度をリスク因子として評価したことを確認した。閲覧 2026-09-06