薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · B3 Hematopoietic growth factors / 造血因子製剤

サルグラモスチム

sargramostim

分類
Hematopoietic growth factors / 造血因子製剤
科目
Pharmacology
トピック
B3: Agents used in anemias
承認適応
急性放射線症候群
副作用
発熱下痢嘔気皮疹浮腫
監視検査値
白血球数
影響検査値
白血球数
原因となる疾患
毛細血管漏出症候群

🧠 全体像:は遺伝子組換えヒトGM-である。⭐ 承認された使い道と、よく語られる使い道が別物なので、そこを最初に分ける。は造血の回復——化学療法後・後の好中球回復と、後の向上である1。一方、教科書で名前を見るのはたいてい自己免疫性への吸入の文脈だが、⚠️ これは添付文書に無いで、も皮下・静注ではなく吸入である。 同じ分子を、全身に入れるか肺胞に届けるかで別の目的に使っている。

薬効群の中での位置づけ

系統(標的) 薬剤 増えるもの
(受容体)
好中球系(受容体) ・ 好中球
好中球+単球・マクロファージ系(GM-受容体) 好中球、単球・マクロファージ、1
血小板系(受容体)

⭐ との差は「Mが付くかどうか」に尽きる。 GM-は顆粒球・単球の両方の系列を動かす。の分化と機能もGM-に依存するため、この分子だけがの話に登場する。

機序

GM-はの一つで、の生存・・分化を支える。部分的に分化方向の決まった前駆細胞を細胞表面のGM-受容体を介して好中球・単球/マクロファージ・へ分化させ、成熟した顆粒球・マクロファージも活性化する1。⚠️ 多系統に働くが、・を完成させる力は無い——両系統の前駆細胞の増殖は促しうるものの、完全な成熟には別の因子が要る1。

分子としては酵母(S. cerevisiae)発現系で作られるされた組換えヒトGM-で、127アミノ酸から成る。⭐ 23位がではなくである点が天然のヒトGM-と違う1。⚠️ 酵母由来であることが禁忌に直結する(後述)。

薬物動態

血中濃度は静注では中〜終了直後、皮下では2.5〜4時間で最高になる(15分で検出)。静注に対する皮下のは75%で、反復での蓄積は無く単回投与で定常状態に達する1。

適応

⚠️ はすべて「造血の回復を早める/後の生存を延ばす」で、は含まれない1。

対象
後の好中球回復までの短縮と、重症・生命を脅かす・死に至る感染症の減少 55歳以上の成人の
採取に向けた末梢血へのの動員 癌を有しを受ける成人
・後のの促進 2歳以上の成人・小児のうち・・の患者
後のの促進 一致血縁ドナーからのを受ける2歳以上の成人・小児
ないし後の好中球回復遅延・の治療 2歳以上の成人・小児
骨髄抑制量の放射線への急性後の向上(型) 出生時から17歳までの小児を含む成人・小児

⚠️ 移植後の2適応には原疾患とドナーの限定が付く1。「移植後なら誰でも」と読まない。 一方、放射線の適応だけは年齢の下限が無く、用量も体重別である。

用法・用量

⚠️ 適応で用量の立て方が変わる。あたりか、体重あたりかを取り違えない。 以下はいずれも添付文書による1。

適応 用量 投与法
の化学療法後の好中球回復 250 mcg/m2/日 4時間かけて
の動員/移植後 250 mcg/m2/日 24時間かけて、または1日1回皮下注射
・後の 250 mcg/m2/日 2時間かけて
移植後の・回復遅延 250 mcg/m2/日を14日間 2時間かけて
体重40 kg超で7 mcg/kg、15〜40 kgで10 mcg/kg、15 kg未満で12 mcg/kg 1日1回皮下注射

製剤は1バイアル250 mcgの保存剤を含まない1。

禁忌・注意

⚠️ 禁忌は、などのヒトGM-・酵母由来製品・本剤の成分に対するアナフィラキシーを含む重篤なアレルギー反応の既往である1。酵母で作られているので、酵母由来製品へのアレルギーが問題になる。

以下はいずれも添付文書の・使用上の注意による1。

注意すべき事象 内容
過敏症反応 アナフィラキシーの報告がある。重篤なアレルギー反応が起きたら恒久的に中止
注入に伴う反応 各サイクル初回投与後の呼吸困難・低酸素・・低血圧・失神・頻脈。対症的に軽快し、同一サイクルの以後の投与では通常再発しない
⚠️ 化学療法・放射線療法との時間的近接 分裂の速いが傷つきやすいため、同時、その24時間前、化学療法の24時間後以内には投与しない
・ 浮腫・胸水・。既存の・・心不全があれば慎重に用い、体重とを監視
不整脈の既往例で起こりやすく、中止により可逆的
50,000/mm3以上の報告。⭐ 週2回の血算とで監視
悪性細胞への影響 悪性腫瘍のとなる可能性を否定できない。治療中にを認めたら中止
が誘導されうる。曝露期間に関連しうる
⚠️ 乳児ではを含む溶液の使用を可能な限り避ける

⚠️ で・化学療法に併用した対照試験では、併用群で死亡率・grade 3/4の感染症・grade 3/4の血小板減少がいずれも有意に多かった1。「造血を助ける薬だから早く始めるほどよい」という直感が、そのまま害になる。

副作用

例で頻度30%超の有害事象は、発熱・・下痢・嘔吐・・脱毛・無力症・倦怠感・・皮疹・消化器障害・浮腫1。例でもほぼ重なり、・高血糖・・頭痛・高血圧が加わる。

肺胞蛋白症での吸入——適応外の使い方

⭐ では、GM-を中和する自己抗体のせいでがサーファクタントを処理できない。 吸入は抗体を上回る量のGM-を肺胞へ直接届ける発想で、に次ぐ選択肢にあたる(詳細はのノート)。

PAGE試験は、のが70 mmHg未満(症状があれば75 mmHg未満)の64例に125 μgを1日2回・7日間、隔週で24週間吸入し、25週時点のが-4.50±9.03 mmHg(0.17±10.50 mmHg、P=0.02)と上の濃度で良好だった2。

⚠️ ただし著者らのは「というの転帰にわずかな有益な効果を伴ったが、臨床的な利益は認められなかった」である。 重篤な有害事象はGM-群6例・プラセボ群3例で、 50 mmHg未満の重症例は除外されている2。の患者に外挿しない。

⚠️ IMPALA試験と混同しない。 国際共同のIMPALA試験(138例)で吸入されたのは(300 μgを1日1回)であって、ではない3。どちらも組換えGM-だが別の製剤で、「吸入GM-の試験」とまとめて覚えると薬剤名と用量が入れ替わる。

まとめ

  • 酵母発現系で作られた組換えヒトGM-で、天然のヒトGM-と23位のアミノ酸が違う。と違いと単球・マクロファージ系の両方を動かし、この性質がの話につながる。
  • は造血回復とで、造血回復の用量は一律250 mcg/m2/日、だけが体重別の皮下注射である。⚠️ 移植後の2適応には原疾患(・・)とドナー(一致血縁)の限定が付く。
  • 禁忌は酵母由来製品を含む重篤なアレルギーの既往。・放射線療法と24時間以内に近づけない。週2回の血算・で監視し、悪性腫瘍のとなる可能性を否定できない。
  • への吸入は。PAGE試験は125 μg 1日2回・7日間・隔週でガス交換の指標を改善したが臨床的利益は示さなかった。IMPALA試験の吸入薬はで、とは別の薬剤である。

出典

  1. 1.LEUKINE (sargramostim) for injection, for subcutaneous or intravenous use — Highlights of Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration(製造販売元 Partner Therapeutics, Inc.)・2022)本添付文書の版がRevised 5/2022であり製造販売元がPartner Therapeutics, Inc.であること、サルグラモスチムが酵母(S. cerevisiae)発現系で産生される糖鎖付加された組換えヒトGM-CSFで127アミノ酸から成り、23位がアルギニンではなくロイシンである点が天然のヒトGM-CSFと異なること、承認適応が①55歳以上の成人の急性骨髄性白血病における寛解導入化学療法後の好中球回復までの期間短縮と重症・生命を脅かす・死に至る感染症の発生率低下②自家造血幹細胞移植を受ける癌を有する成人における、白血球アフェレーシスによる採取のための末梢血への造血前駆細胞の動員(原文 "in adult patients with cancer undergoing autologous hematopoietic stem cell transplantation")③非Hodgkinリンパ腫・急性リンパ性白血病・Hodgkinリンパ腫を有する2歳以上の成人・小児における自家末梢血前駆細胞ないし骨髄移植後の骨髄系再構築の促進(原文 "with non-Hodgkin's lymphoma (NHL), acute lymphoblastic leukemia (ALL) and Hodgkin's lymphoma (HL)")④HLA一致血縁ドナーからの同種骨髄移植を受ける2歳以上の成人・小児における骨髄系再構築の促進(原文 "undergoing allogeneic bone marrow transplantation from HLA-matched related donors")⑤2歳以上の成人・小児における自家ないし同種骨髄移植後の好中球回復遅延ないし生着不全の治療⑥骨髄抑制量の放射線に急性被曝した出生時から17歳までの小児を含む成人・小児の生存率向上(造血症候群型急性放射線症候群)であること、用量が急性骨髄性白血病・動員・移植後・生着不全のいずれも250 mcg/m2/日である一方、急性放射線症候群では体重40 kg超で7 mcg/kg・15〜40 kgで10 mcg/kg・15 kg未満で12 mcg/kgを1日1回皮下投与であること、禁忌がサルグラモスチムなどのヒトGM-CSF・酵母由来製品・本剤の成分に対するアナフィラキシーを含む重篤なアレルギー反応の既往であること、警告・使用上の注意の各項の本文として、重篤なアレルギー反応では恒久的に中止すること、注入に伴う反応が各サイクルの初回投与後の呼吸困難・低酸素・潮紅・低血圧・失神・頻脈として現れ対症的に軽快し同一サイクルの以後の投与では通常再発しないこと、分裂の速い造血前駆細胞の感受性のため細胞傷害性化学療法・放射線療法と同時ないしその24時間前・化学療法の24時間後以内には投与しないこと、小細胞肺癌で胸部放射線療法・化学療法に本剤を併用した対照試験では併用群で死亡率およびgrade 3・4の感染症とgrade 3・4の血小板減少の発生率が有意に高かったこと、浮腫・毛細血管漏出症候群・胸水・心嚢液貯留の報告があり既存の体液貯留・肺浸潤影・うっ血性心不全のある患者では慎重に用い体重と水分状態を監視すること、上室性不整脈が不整脈既往例で生じやすく中止により可逆的であること、腫瘍とくに骨髄系悪性腫瘍の増殖因子として働く可能性を否定できず治療中に病勢進行を認めたら中止すること、中和抗体が誘導されうり曝露期間に関連しうること、乳児ではベンジルアルコールを含む溶液の使用を可能な限り避けることが記載されていること、頻度30%超の有害事象が自家骨髄移植例で発熱・嘔気・下痢・嘔吐・粘膜障害・脱毛・無力症・倦怠感・食欲不振・皮疹・消化器障害・浮腫であること、白血球数が50,000/mm3以上となった例があり週2回の血算と白血球分画の監視が求められること、剤形が1バイアル250 mcgの凍結乾燥粉末であることを、FDAのラベルPDFで確認した。⚠️ 本PDFの冒頭には「この添付文書はFDAが承認した最新版ではない可能性がある」という注記がある。⚠️ 本添付文書に肺胞蛋白症の適応は含まれていない。閲覧 2026-09-02
  2. 2.Inhaled GM-CSF for Pulmonary Alveolar Proteinosis(New England Journal of Medicine(PAGE試験)・2019)室内気でPaO2が70 mmHg未満(症状のある例では75 mmHg未満)の自己免疫性肺胞蛋白症64例を対象に、吸入したサルグラモスチム(組換えヒトGM-CSF)125 μgを1日2回7日間、隔週で24週間投与する群とプラセボ群を比較した二重盲検試験で、PaO2 50 mmHg未満の重症例はプラセボ群での増悪を避けるため除外されたこと、主要評価項目である25週時点の肺胞気-動脈血酸素分圧較差の変化がGM-CSF群(33例)で-4.50±9.03 mmHg、プラセボ群(30例)で0.17±10.50 mmHgと有意に良好であったこと(P=0.02)、CT上の肺野濃度の変化も群間差-36.08 Hounsfield単位でGM-CSF群が良好であったこと、重篤な有害事象がGM-CSF群6例・プラセボ群3例に生じたこと、そして著者らの結論が「吸入組換えヒトGM-CSFは動脈血酸素分圧という検査値の転帰にわずかな有益な効果を伴ったが、臨床的な利益は認められなかった」であることを抄録で確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-02
  3. 3.Inhaled Molgramostim Therapy in Autoimmune Pulmonary Alveolar Proteinosis(New England Journal of Medicine(IMPALA試験)・2020)自己免疫性肺胞蛋白症138例を、組換えGM-CSFである「モルグラモスチム」300 μgの連日吸入(46例)・隔週吸入(45例)・プラセボ(47例)に無作為に割り付けた二重盲検試験であり、用いられた薬剤がサルグラモスチムではなくモルグラモスチムであること、主要評価項目である24週時点の肺胞気-動脈血酸素分圧較差のベースラインからの変化が連日投与群-12.8 mmHg・プラセボ群-6.6 mmHg(推定治療差-6.2 mmHg、P=0.03)であったこと、副次評価項目のSt. George's Respiratory Questionnaire総スコアの変化も連日投与群-12.4点・プラセボ群-5.1点(推定治療差-7.4点、P=0.01)であったこと、複数の評価項目で連日投与が隔週投与より良好であったことを抄録で確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-02