疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 呼吸器 · 疾患

肺胞蛋白症

Pulmonary alveolar proteinosis

別名
PAP
臓器系
呼吸器
科目
PathologyMicroscopic Anatomy and Embryology (Microscopic Anatomy)
トピック
病理学 C/21:慢性間質性(拘束性)肺疾患組織学 11.2:呼吸器:呼吸部
上位概念
間質性肺疾患
鑑別疾患
ニューモシスチス肺炎肺胞微石症
合併症
ノカルジア症
関連疾患
Still肺病変
症状
労作時呼吸困難乾性咳嗽
検査値
抗GM-CSF自己抗体低酸素血症肺拡散能
画像所見
敷石状パターンすりガラス影小葉間隔壁肥厚
原因となる疾患
過敏性肺炎・塵肺症骨髄異形成症候群
適応薬
モルグラモスチム

🧠 全体像:は、にサーファクタント由来の蛋白脂質物質が溜まってガス交換を妨げる病態である。⭐ 幹は一本——サーファクタントを掃除するがGM-シグナルを失う。その失い方が3通りあり、そのまま病型分類になる:①GM-を中和する自己抗体ができる(自己免疫性、全体の9割)②マクロファージの数や機能を落とす基礎疾患がある(続発性)③サーファクタント産生そのものの遺伝子異常(先天性)。ではにが重なるの代表疾患で、治療は物理的に洗い流すと、足りないシグナルを補うGM-吸入という2本立てになる。

機序——掃除役が動けなくなる

のサーファクタントは、が絶えず取り込んで分解することで一定量に保たれている。この分化と機能はGM-に依存しており、シグナルが断たれるとマクロファージは泡沫状に膨らんだまま処理能力を失い、サーファクタントがに蓄積する。

flowchart TD
    A["GM-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebrospinal fluid'>CSF</span>シグナルの破綻"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveolar macrophages'>肺胞マクロファージ</span>の分化・機能障害"]
    B --> C["サーファクタントの処理が追いつかない"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveolar space'>肺胞腔</span>に蛋白脂質物質が蓄積"]
    D --> E["ガス交換面が物理的に塞がれる"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diffusing capacity (DLCO)'>拡散能</span>低下・シャント様の低酸素血症"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveolar macrophages'>肺胞マクロファージ</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microbicidal activity'>殺菌能</span>低下"]
    G --> H["日和見感染(ノカルジア・抗酸菌・真菌)"]

💡 「間質ではなくが埋まる病気」だと押さえる。 そのものは比較的保たれるため、線維化を主体とするとは進行の仕方も治療も異なる。という「洗い流す」治療が成立するのは、溜まっているものが取り除ける物質だからである。

病型は3つに分かれる

病型 割合・位置づけ 機序 手がかり
原発性・自己免疫性 全体の約90%1 GM-を中和する自己抗体 血清抗GM-抗体が高値
原発性・遺伝性 稀 GM-受容体(CSF2RA/CSF2RB)の変異 小児発症。自己抗体は陰性
続発性 少数 マクロファージの数・機能を落とす基礎疾患1 (など)、などの1
先天性 稀 サーファクタント産生の遺伝性障害1 新生児・乳児期の呼吸不全

⭐ 続発性を見落とさない。 ではやの文脈でが生じうる。続発性では基礎疾患の治療が第一で、GM-吸入は自己免疫性を想定した治療であるため、病型の確定がを分ける。

はに基づく推定で人口100万人あたり7〜10人、Poisson分布に基づく近年の解析では100万人あたり26.6人という値も報告されている1。⚠️ 数値は算出方法によって大きく変わるので、一つの数字を暗記しない。

臨床像

画像と気管支肺胞洗浄

⭐ の代表疾患である。 でにが重なり、多角形の区画に見える所見を指す1。に正常肺と境界明瞭に分かれる分布を取ることが多い。

⚠️ は病名ではない。 のノートが述べるとおり形態記述にすぎず、・肺胞出血・・でも生じる。発症速度(緩徐か急速か)・免疫状態・貧血の有無が読み分けの軸になる。

は、非喫煙者では不透明な乳白〜黄白色、喫煙者では黄褐色を呈する1。では腫大した泡沫状のが認められる1。

診断の進め方

flowchart TD
    A["緩徐進行の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='effort dyspnea'>労作時呼吸困難</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-resolution computed tomography'>HRCT</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='crazy-paving pattern'>敷石状パターン</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bronchoalveolar lavage (BAL)'>気管支肺胞洗浄</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='milky'>乳白色</span>の洗浄液・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='PAS-positive'>PAS陽性</span>物質"]
    B --> C["血清抗GM-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebrospinal fluid'>CSF</span>抗体を測定"]
    C -->|"陽性"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autoimmune pulmonary alveolar proteinosis'>自己免疫性肺胞蛋白症</span>"]
    C -->|"陰性"| E["続発性・遺伝性・先天性を探す"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood dyscrasias'>血液疾患</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dust exposure'>粉塵曝露</span>歴・免疫抑制状態を検索"]
    E --> G["小児発症ならGM-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebrospinal fluid'>CSF</span>受容体・<br>サーファクタント関連遺伝子を検討"]
    D --> H["重症度(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arterial oxygen partial pressure'>PaO2</span>・症状・画像)で治療を決める"]

⭐ 血清抗GM-抗体が診断のである。 の診断における感度・特異度はいずれも100%と報告されており1、患者の抗体濃度中央値84 μg/mLに対し健常者は0.33 μg/mLと桁が違う1。⚠️ 健常者にも微量の抗体は存在するので、「検出された/されない」ではなく濃度で判断する。

は通常必要ない。と血清抗体で診断がつくことが多く、⚠️ 「=生検」と短絡しない。

治療

手段 位置づけ 要点
現在の標準治療1 全身麻酔・下に片肺ずつで洗浄し、蓄積物を物理的に除去する。症状を緩和しうるが原因は取り除かない
GM-吸入 自己免疫性に対する薬物療法 中和されて足りなくなったシグナルを局所で補い、の機能を回復させる
基礎疾患の治療 続発性の第一手 の治療、の中止
免疫抑制・ 一部の難治例 リツキシマブやで自己抗体を減らす試みがある。確立した位置づけではない

⭐ GM-吸入は「は動くが臨床的な利益は示されていない」段階にある。 2つの無作為化試験がいずれも生理学的指標の改善を示す一方、⚠️ PAGE試験の文は「という検査上の指標にささやかな好影響があったが、臨床的な利益は認められなかった」と明記しており(はGM-群6例・プラセボ群3例)、この段階を「有効性が示された」と読み替えない。 日本のPAGE試験では、でが70 mmHg未満(症状があれば75 mmHg未満)の64例を対象に125 μgを1日2回7日間・隔週で24週間吸入し、25週時点のの変化が-4.50±9.03 mmHg(0.17±10.50 mmHg、P=0.02)と有意に良好だった2。国際共同のIMPALA試験では138例を対象に300 μgの連日吸入・隔週吸入・を比較し、24週時点の同較差の変化が連日投与群-12.8 mmHg対-6.6 mmHg(推定治療差-6.2 mmHg、P=0.03)で、St. George’s Respiratory Questionnaire総スコアも連日投与群で良好だった3。

⚠️ 試験の対象は「中等症」である。 PAGE試験は 50 mmHg未満の重症例を除外している2。の症例にそのまま外挿しない。

まとめ

  • はにサーファクタント由来物質が蓄積する病態で、幹はGM-シグナルの破綻によるの機能不全にある。
  • 病型は自己免疫性(約90%)・遺伝性・続発性(・)・先天性に分かれ、続発性では基礎疾患の治療が第一になるため病型の確定が治療を分ける。
  • 画像所見の広がりに比べて症状が軽いという乖離が特徴で、のが手がかりになる。ただしは形態記述であって病名ではない。
  • 診断は(・物質)と血清抗GM-抗体(自己免疫性で感度・特異度100%と報告)で進め、は通常要らない。
  • 治療はとGM-吸入の2本立て。GM-吸入はPAGE・IMPALAの2試験でガス交換の改善が示されたが、例は試験対象に含まれていない。
  • 日和見感染(・・真菌症)の合併に注意する。

出典

  1. 1.Autoimmune Pulmonary Alveolar Proteinosis(American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine(McCarthy C, Carey BC, Trapnell BC)・2022)複数の大規模研究で報告された患者1,045例の解析により自己免疫性肺胞蛋白症が全肺胞蛋白症の90%を占めることが確認されていること、肺胞蛋白症が原発性(GM-CSF自己抗体による自己免疫性と、GM-CSF受容体変異による遺伝性)・続発性(マクロファージの数や機能を低下させる基礎疾患に起因し、シリカ粉塵などの職業曝露や血液疾患が含まれる)・先天性(サーファクタント産生の遺伝性障害)の3つに分類されること、GM-CSF自己抗体検査の自己免疫性肺胞蛋白症診断における感度・特異度がいずれも100%と報告されていること、患者の抗体濃度中央値が84 μg/mLで健常者の0.33 μg/mLと大きく異なること、HRCTですりガラス影に小葉間隔壁肥厚が重なり多角形を呈する所見が「crazy paving(敷石状)」と呼ばれること、気管支肺胞洗浄液が非喫煙者では不透明な乳白〜黄白色、喫煙者では黄褐色を呈しPAS染色で腫大した泡沫状の肺胞マクロファージが認められること、全肺洗浄が現在の標準治療と広くみなされ症状を緩和しうること、日本で行われたPAGE試験(64例)と国際共同のIMPALA試験(138例)でいずれも肺胞気-動脈血酸素分圧較差やバイオマーカーの有意な改善が示されたこと、登録研究に基づく有病率が人口100万人あたり7〜10人と推定される一方でPoisson分布に基づく近年の解析では100万人あたり26.6人という値が得られていることをPMCの全文で確認した。閲覧 2026-09-02
  2. 2.Inhaled GM-CSF for Pulmonary Alveolar Proteinosis(New England Journal of Medicine(PAGE試験)・2019)室内気でPaO2が70 mmHg未満(症状のある例では75 mmHg未満)の自己免疫性肺胞蛋白症64例を対象に、吸入サルグラモスチム125 μgを1日2回7日間、隔週で24週間投与する群とプラセボ群を比較した二重盲検試験で、25週時点の肺胞気-動脈血酸素分圧較差の変化がGM-CSF群(33例)で-4.50±9.03 mmHg、プラセボ群(30例)で0.17±10.50 mmHgと有意に良好であったこと(P=0.02)、CT上の肺野濃度の変化も群間差-36.08 Hounsfield単位でGM-CSF群が良好であったこと、PaO2 50 mmHg未満の重症例は除外されたことを抄録で確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。。⚠️ 結論文は「吸入GM-CSFは動脈血酸素分圧という検査上の指標にささやかな好影響を及ぼしたが、臨床的な利益は認められなかった」と述べており、重篤有害事象はGM-CSF群6例・プラセボ群3例であることも確認した閲覧 2026-09-02
  3. 3.Inhaled Molgramostim Therapy in Autoimmune Pulmonary Alveolar Proteinosis(New England Journal of Medicine(IMPALA試験)・2020)自己免疫性肺胞蛋白症138例を吸入モルグラモスチム300 μg連日投与(46例)・隔週投与(45例)・プラセボ(47例)に無作為に割り付けた二重盲検試験で、主要評価項目である24週時点の肺胞気-動脈血酸素分圧較差のベースラインからの変化が連日投与群-12.8 mmHg、プラセボ群-6.6 mmHg(推定治療差-6.2 mmHg、P=0.03)であったこと、副次評価項目のSt. George's Respiratory Questionnaire総スコアの変化も連日投与群-12.4点、プラセボ群-5.1点(推定治療差-7.4点、P=0.01)で連日投与群が良好であったことを抄録で確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-02