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Lab values · Published

肺拡散能

Diffusing capacity for carbon monoxide

別名
DLCOTLCO一酸化炭素肺拡散能
臓器系
呼吸器
科目
PhysiologyPathophysiology
トピック
生理学 3.2:呼吸器系におけるガス交換。肺循環。換気血流比。病態生理学 2-11:換気障害と呼吸機能検査;呼吸不全病態生理学 P-2-17:呼吸器疾患 症例4
関連疾患
進行性肺線維症特発性肺線維症慢性閉塞性肺疾患薬剤性肺障害
スコア
GAPインデックス

🧠 全体像は、肺胞から毛細血管血液へガスが移る過程を一つの数値に凝縮した検査である。この値は「肺胞-毛細の性状」と「毛細血管を流れる血液の量」という2つの独立した要因の合成であり、どちらが悪化しても同じように低下する。が「吐き出せるか」を測るのに対し、DLCOは「その先でガス交換そのものが成立しているか」を測る、独立した軸の検査である。

スパイロメトリーとの役割分担

閉塞性かかはで決まる。DLCOはその判定には関与せず、「なぜそうなっているか」を答える検査として次の一手に位置づく。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spirometry'>スパイロメトリー</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='restrictive ventilatory impairment'>拘束性換気障害</span>"] --> B{"DLCO低下?"}
    B -->|"はい"| C["肺実質性(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interstitial lung disease, ILD'>間質性肺疾患</span>など)"]
    B -->|"いいえ、正常"| D["肺外性(胸郭・神経筋・肥満)"]
    E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spirometry'>スパイロメトリー</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='obstructive ventilatory defect'>閉塞性換気障害</span>"] --> F{"DLCO低下?"}
    F -->|"はい"| G["気腫優位の変化"]
    F -->|"いいえ〜上昇"| H["喘息が示唆される"]

何を測っているか

では、まで呼出させた後、微量のCOと不活性な(ヘリウムなど)を含む混合ガスをまで一気に吸わせ、約10秒間息止めさせてから呼出させる。呼気中のCO濃度低下の速さから、単位時間あたりの肺胞-毛細血管間のCO移動量を算出する。

COを使う理由は、COがHbへの親和性が極めて高く(O₂の約200倍)、結合したCOはほとんど遊離しないため血漿中のCO分圧がほぼゼロに保たれる点にある。この結果COはのガスになり、毛細血管を出るまでに肺胞圧と平衡化しない。つまりDLCOは血流量ではなく、膜を越える拡散のしやすさをほぼ純粋に反映する指標として設計されている。

DLCOはさらに2つの要因の合成量として分解できる。

  • (Dm):肺胞-毛細の表面積・厚さで決まる、膜そのものの拡散のしやすさ
  • (Vc):COと結合できるHbがどれだけ血流中にあるか

式で書けば 1/DLCO = 1/Dm + 1/(θ×Vc)(θはHbとCOの)となり、Dmが落ちても(間質の肥厚など)Vcが落ちても(肺の減少・貧血など)DLCOは同じように低下する。低値だけを見て両者を区別することはできない。

基準値と単位

実務では予測値に対する%表示(%予測値)を中心に読む。単位はmL/min/mmHg(従来単位)またはSIではmmol/min/kPa(換算係数は約0.335)である。

予測値はGLIの参照式を用いる。2022年の/技術標準は、年齢・性・身長に対し固定の人種補正係数を掛けるという従来の方式を「不適切であり明確に推奨しない」とした1。ただしDLCOのGLI式はと異なり人種別の複数式を持たず、現時点では主に欧州系集団のデータに基づく単一式である点が明記されている1。異常の判定は固定閾値ではなく(LLN、5、zスコア−1.645)を用いる。DLCOは低値・高値のどちらも異常でありうるため、両側を合わせたは10%になる1

低値の意味

機序 主な原因
肺実質の破壊 COPD
間質の肥厚(Dm低下) などのの肺病変
の減少(Vc低下)
Hbとの反応の場が減る 貧血(Hb未補正の測定値が下がる)

高値の意味

機序 主な原因
への血液漏出 肺胞出血
Hb量の増加
気道は狭いが肺胞・は保たれる 喘息
を経ずに血液が混じる による
胸郭内の血液量が相対的に増える 、運動直後

⚠️ 測定上の注意

  • Hb補正は必須:DLCOの予測値は実測Hb濃度で補正した上で判定する1。補正しないまま貧血患者を評価すると、肺自体に異常がなくてもになる
  • COHbによる:喫煙直後は血中COHbが上昇し、肺胞-血液間のCO分が縮むため測定値が低く出る。検査前の喫煙歴を確認する
  • 酸素投与の影響:投与中の酸素はCOとHbの結合をに妨げるため、測定条件(室内気か酸素下か)を記録し、経時比較では条件を揃える
  • KCO(DLCO/VA)は「で正規化した指標」ではない:VAが小さいほどの相対的な充満度が上がるため、KCOはVAの低下に対してに上昇する。胸郭・神経筋疾患による肺外性拘束ではこの機序でKCOが正常〜(120〜140%)になり、これは正しく「肺実質は健常」を示す所見になる。一方、肺切除後も同じ機序で残存肺のKCOは上昇するが、上昇はより緩やかで、かつ肺全体のガス交換能が回復したことを意味しない2KCOが正常だからDLCO低下はのせいで片付く、とは読めない
  • 努力・吸気量不足の扱い:吸気量が不十分な試行はVAを過小評価し、DLCOも過小評価する。受け入れ可能性基準を満たさない測定は解釈に使わない

経時変化とモニタリング

の進行評価では、FVCとDLCOを組み合わせて追う。など線維化が進行する疾患では、DLCOの低下がFVCの低下に先行して現れることがあり、単回値より個人内の推移を重視する。

などを持つ薬剤の投与中は、症状出現前の早期変化を捉える手段としてDLCOを定期的に測定する。

肺切除術前評価では、切除予定のの機能から術後予測DLCOを算出し、術後のを見積もる。

まとめ

  • DLCOは(Dm)と(Vc)の合成量であり、どちらが悪化しても同じように低下するため、低値だけでは両者を区別できない
  • COを使うのはのガスだからであり、DLCOは血流量ではなく拡散のしやすさをほぼ純粋に反映する
  • +DLCO低下は肺実質性、+DLCO正常は肺外性を示唆する。閉塞性ではDLCO低下が気腫優位、正常〜高値が喘息を示唆する
  • 予測値はGLIの参照式・LLNで判定する。DLCOには人種別の複数式がなく、主に欧州系データに基づく単一式である点に注意する
  • Hb補正は必須で、COHb・酸素投与・吸気量不足はの原因になる
  • KCOはDLCOをで「正常化」した指標ではなく、正常〜高値のKCOをもって肺実質が健常と即断できるのは肺外性拘束の文脈に限られる
  • の進行評価、のモニタリング、肺切除前評価でに測定する

出典

  1. 1.ERS/ATS technical standard on interpretive strategies for routine lung function tests(European Respiratory Society / American Thoracic Society(Stanojevic S, Kaminsky DA, Miller MR, et al.、Eur Respir J 2022;60:2101499、DOI: 10.1183/13993003.01499-2021)・2022)DLCOの予測値算出にもGLIの参照式を用いるべきこと、年齢・性・身長に対する固定の人種補正係数は「不適切であり明確に推奨しない」とされたこと、ただしDLCOのGLI式はスパイロメトリーと異なり人種別の複数式を持たず主に欧州系集団のデータに基づく単一式であること、正常下限(LLN)は5パーセンタイル(zスコア−1.645)で判定し低値・高値どちらも異常でありうるため両側の偽陽性率は10%になること、DLCOの解釈では実測Hb濃度で予測値を補正することが必須とされていることを確認した。閲覧 2026-08-04
  2. 2.Transfer coefficient of the lung for carbon monoxide and the accessible alveolar volume: clinically useful if used wisely(Breathe(European Respiratory Society; Neder JA, Marillier M, Bernard AC, O'Donnell DE)・2019)KCO(DLCO/VA)はVAの低下に対して非線形(毛細血管腔の相対的充満度の上昇)に上昇するため「肺気量で正規化したDLCO」とは言えないこと(原文は"the TLCO/VA ratio does not represent 'TLCO corrected by lung volume'")、肺外性拘束(胸郭・神経筋疾患)ではKCOが120〜140%まで著明に上昇しうること、肺切除後も毛細血管の代償性動員により同じ機序でKCOが上昇するが、より緩やかな上昇にとどまることを確認した。閲覧 2026-08-04