病態生理学

病態生理学 · 2-11

換気障害と呼吸機能検査;呼吸不全

Pulmonary ventilation disorders & respiratory failure

応用トピック
呼吸不全小児急性呼吸不全の認識と緊急治療閉塞性気管支炎、気管支喘息、急性声門下喉頭炎呼吸器疾患 症例1呼吸器疾患 症例3
疾患
新型コロナウイルス感染症
検査値
高CO2血症低酸素血症肺拡散能

🧠 呼吸不全は2つの軸で考える: 病気の型(吐けない=閉塞性/膨らまない=)と、血液ガスの型(酸素化だけ悪い=1型/CO₂も溜まる=2型)。低酸素血症の3機序(V/Q不均衡・・シャント)のうち、シャントだけO₂が効かないのが最。原因の切り分けにはA-aDO₂()を使う。

閉塞性と拘束性(2つの型の「壊れ方」)

flowchart TD
  O["閉塞性(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic obstructive pulmonary disease'>COPD</span>・喘息)<br>息を吐き出せない"] --> O1["初期:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoxic / hypoxemic'>低酸素性</span>・部分呼吸不全(partial)(1型)"]
  O1 --> O2["進行例:CO₂も溜まる → 高CO₂血症性・全呼吸不全(hypercapnic/global)(2型)"]
  O2 --> O3["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cor pulmonale'>肺性心</span>(右心不全)を合併しうる"]
  R["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='restrictive'>拘束性</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary fibrosis'>肺線維症</span>・RA/強皮症の間質病変・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sarcoidosis'>サルコイドーシス</span>)<br>肺が硬くて膨らまない"] --> R1["持続的に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='partial'>部分呼吸不全</span>(1型)"]
  R1 --> R2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diffusion impairment'>拡散障害</span>(労作時に低酸素血症)"]
  R2 --> R3["進行が速く早期に致死、高CO₂血症は終末期のみ"]

閉塞性の診断基準:気管支拡張薬吸入後のFEV1/FVCで判定する

⚠️ は吸入前ではなく吸入後の/で判定する。 吸入前の値だけで「閉塞性」と判定すると、可逆性のある(時など)をな閉塞と誤認しうる。現行の基準は吸入後/が固定比0.70未満であることをのと定義している1。

⚠️ 固定比0.70とLLN()のどちらを使うかでが変わる。 /は加齢で生理的に低下するため、固定比0.70を機械的に適用すると高齢者で過剰診断、若年者で過小診断になりうる。生理学的にはLLN(年齢・性・身長・民族を補正した)の方が妥当とされるが、現行の指針は簡便さを優先して固定比0.70を用いている。ある地域住民調査では、固定比による24.2%に対しLLN基準では15.3%にとどまり、固定比のみで異常と判定される不一致群(高齢・男性が多い)は症状が少なく自体も軽度だった。ただし同じ不一致群は、正常肺機能の人より心疾患の診断が有意に多く(27.2%対7.3%)、著者らは「重要となりうるを含む集団」としている2——固定比で拾われた高齢者を「健常な過剰診断」と一括りに片づけない。判定基準の詳細はに譲る。

拘束性の確定にはTLC実測が要る

⚠️ は/が保たれたまま()が低下する所見だが、だけでは確定できない。 で測れるのは・などの気流指標であり、(RV)・(TLC)は測定できない。低下はを疑う手がかりにすぎず、でもがあればは下がりうるため、の確定にはまたはによるTLCの実測が必要になる(TLC低下があって初めてと確定する)。詳細は・に譲る。

酸素輸送(正常時)

  • 片肺の ~2.4 L/min、肺胞 pO₂ ~100 mmHg。
  • V/Q ratio ~0.8(生理的) — ガス交換には時間が有り余っており、肺胞 pO₂ と毛細血管 pO₂ はほぼ等しくなる。

動脈血液ガス

(ABG)は換気・ガス交換・酸塩基状態を一度に評価する(から採血)。

  • 項目:
    • pH(7.35–7.45)
    • pO₂(83–108 mmHg。年齢・標高・吸入酸素で変わるため固定値だけで読まない)
    • pCO₂(35–45 mmHg)
    • O₂飽和度
    • Hb
    • (21–28 mmol/L)
    • (0±3)
    • 乳酸(0.5–2.2)
  • 読み方の軸:
    • pH(↑アルカローシス/↓アシドーシス)
    • pCO₂(↑/↓)
    • HCO₃⁻(↑/↓代謝性アシドーシス)

1型・2型呼吸不全とA-aDO₂による原因の切り分け

型 血液ガス所見 呼吸不全の別称
1型() PaO₂ <60 mmHg、PaCO₂は正常〜低値 部分呼吸不全
2型(高CO₂血症性) PaO₂ <60 mmHg、PaCO₂ >45 mmHg 全呼吸不全(グローバル型)

低酸素血症だけなら1型、高CO₂血症(PaCO₂ >45 mmHg)を伴えば2型と呼ぶ。

💡 2型の表にある「PaO₂ <60 mmHg」は呼吸下での古典的な定義である。 酸素投与中は PaO₂・SpO₂ が正常化しても換気不全は残るため、BTS の指針は PaCO₂ が正常範囲(4.6〜6.1 kPa=34〜46 mmHg)を超えていればが正常でも2型呼吸不全と呼ぶとしている3。両者は矛盾せず、分かれ目はである(上限値も資料により45と46 mmHgで1 mmHg違う)。型が分かったら、次はなぜ低酸素になっているかを機序で絞り込む。そのがA-aDO₂()である。

💡 A-aDO₂の考え方: 式で計算した(PAO₂)と、実測した(PaO₂)の差を取る。ガス交換そのもの(肺胞から毛細血管への酸素の受け渡し)に問題があれば、肺胞側の酸素は十分でも血液側に酸素が渡らずA-aDO₂は開大する。一方、換気量そのものが足りない()か、そもそも吸う空気のが低い(高地など)のであれば、肺胞側の自体が乏しいだけなのでA-aDO₂は正常に保たれる。

A-aDO₂ 示唆する機序 代表例
正常 、吸入の低下 による呼吸抑制、神経筋疾患、高地
開大 V/Q不均衡、、 下表を参照

低酸素血症の3機序

A-aDO₂が開大する低酸素血症は、さらに次の3機序に分けられる。O₂投与への反応性がシャントとそれ以外を鑑別する最大の手がかりになる。

機序 例 O₂ 投与への反応
V/Q不均衡 喘息、COPD、肺炎 よく反応(換気が足りない肺胞があるだけ)
、、肺水腫、ARDS よく反応
、重症 COVID 肺炎 換気ゼロ・血流のみ → 最重症・O₂ 不応(肺の25–50%が無換気)

💡 なぜシャントだけ O₂ が効かないのか: V/Q不均衡やは「換気はある(弱いだけ)」ので、O₂ 濃度を上げれば改善する。一方シャントは「その肺胞に換気が全く無い」ため、どれだけ O₂ を吸わせても素通りした血液には届かない。だからシャントは酸素不応で最も危険。

V/Q不均衡の本質

💡 キモは「Hb はすでにほぼ満タン」という事実。 生理的 pO₂ で Hb はほぼ飽和しているので、しても血液の酸素積載量はもう増えない(O₂ は増やせない)。しかし CO₂ は pCO₂ に直線的に比例して運ばれるので、は CO₂ を効率よく吹き飛ばせる。

  • だから V/Q不均衡では O₂ は上げられないが CO₂ は下げられる → 低酸素はあっても高 CO₂ にはならない(むしろで pCO₂ は低め)。
  • V/Q <1 → pO₂↓、pCO₂ はほぼ不変。V/Q >1 → pO₂↑・pCO₂↓ だが、Hb 飽和済みのため運ばれる O₂ 量は増えない。

2型呼吸不全への酸素投与とCO₂ナルコーシス

⚠️ 2型(高CO₂血症性)呼吸不全の患者に高濃度酸素を投与すると、PaCO₂がさらに上昇しから昏睡に至るCO₂ナルコーシスを起こしうる。 だが機序を「が駆動を失って呼吸が止まるから」だけで説明するのは不正確である。BTS の指針は少なくとも6つの機序が関わるとし、推定される重要度の順に①V/Q不均衡の悪化 ②の低下 ③ ④ ⑤空気より重い酸素の密度 ⑥低流量マスクでのを挙げ、主因は①だとしている(重みづけそのものは今も議論がある)3。3つの中身は次のとおり。

  • ()の解除によるV/Qの悪化:換気の乏しい肺胞への血流はもともとで絞られている。高濃度酸素を投与するとこのな血管収縮が解除され、換気の悪い肺胞へ血流が再分配される。その結果V/Q不均衡が悪化し、CO₂の排出効率が下がる。
  • の低下:低酸素血症が是正されると換気刺激が減る。ただしの放電は PaO₂ 100 mmHg(13 kPa)を超えるとほぼ頭打ちになるので、PaO₂ がそれ以上に上がっても換気はほとんど変わらないのに、PaCO₂ は上がり続ける——これが「ドライブの喪失だけでは説明できない」根拠である。
  • :酸素化されたヘモグロビンはCO₂との結合能が下がるため、高濃度酸素で動脈血のが上がるほど、同じCO₂含量でも血漿中に溶存・遊離するCO₂(PaCO₂として測定される分)が増える。

臨床研究の多くはドライブの寄与を小さいとみる(支持する研究もある)。一方、肺そのものの病変が乏しく低下が主体の患者(神経筋疾患など)では、の消失の比重が大きくなる3。だからといって低酸素血症の治療を差し控えてはならない——CO₂ナルコーシスを恐れて酸素を止めれば低酸素で死に至る。正しい対応は、目標SpO₂を88〜92%程度に設定し、過不足なく酸素を投与しながらABGでPaCO₂とpHを再評価することである3。詳細な原因整理と管理フローは高CO₂血症に譲る。

拡散能(DLCO)

()は、が「吐き出せるか」を測るのに対し、「肺胞から液へガスが移る過程そのもの」を測る独立した軸の検査である。閉塞性・の判定には関与せず、なぜそうなっているかを答える次の一手として使う。

変化 機序 代表例
低下 肺実質の破壊(肺胞-毛細血管膜の表面積減少) COPDの
低下 間質の肥厚(の低下) などの、の肺病変
低下 の減少(の低下) 、
上昇 への血液漏出 肺胞出血
上昇 Hb量の増加

⚠️ 肺実質が硬くなる肺実質性拘束(など)はが低下するが、・神経筋疾患のような肺外性拘束は肺実質自体が健常なためは正常〜上昇しうる。だけでは両者を区別できず、が「なぜなのか」を切り分ける役目を担う。

まとめ

軸 押さえること
閉塞性 吸入後/で判定(は固定比0.70未満)。固定比は高齢者で過剰・若年者で過小診断になりうるが、不一致群にも心疾患が多い
/は保たれ低下。確定にはTLCの実測が要る
1型呼吸不全 PaO₂ <60 mmHg、PaCO₂ 正常〜低値
2型呼吸不全 PaCO₂ >45 mmHg(ではPaO₂ <60 mmHgも伴う。酸素投与中はSpO₂が正常でも2型)
A-aDO₂ 正常 ・吸入の低下
A-aDO₂ 開大 V/Q不均衡・(O₂によく反応)、(O₂不応)
2型への酸素 CO₂上昇の主因はV/Q不均衡の悪化(ほかに低下・など)。酸素は止めず目標SpO₂ 88〜92%でし血液ガスで再評価
実質破壊・・減少で低下、肺胞出血・Hb増加で上昇。肺実質性と肺外性の拘束を分ける

出典

  1. 1.Global Strategy for the Diagnosis, Management, and Prevention of Chronic Obstructive Pulmonary Disease: 2026 Report(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD)・2026)COPDの気流閉塞診断は気管支拡張薬吸入後のFEV1/FVCで判定し、固定比0.70未満を基準とすることを確認した。閲覧 2026-08-14
  2. 2.Subjects with Discordant Airways Obstruction: Lost between Spirometric Definitions of COPD(Pulmonary Medicine(Lamprecht B, et al.、Austrian BOLD study)・2011)PMC全文で確認した。オーストリアBOLD調査の40歳以上の住民で、気管支拡張薬吸入後FEV1/FVC 0.70未満によるCOPD(GOLD I期以上)の有病率が24.2%、LLN未満では15.3%だったこと。固定比のみ異常でLLN以上の不一致群は高齢・男性・非喫煙者が多く、症状が少なくFEV1の障害も軽かったが、心疾患の診断は正常肺機能者より有意に多かった(27.2%対7.3%、P=.015)こと。結論は「不一致群の臨床像には重要となりうる併存疾患が含まれる」であること。閲覧 2026-08-14
  3. 3.BTS guideline for oxygen use in adults in healthcare and emergency settings(British Thoracic Society(Thorax 2017;72:ii1–ii90)・2017)公式PDF(Thorax 2017;72 Suppl 1)で確認した。高CO2血症リスクのある患者の目標SpO2域が88〜92%であること。3.3節で高CO2血症をPaCO2が正常範囲4.6〜6.1 kPa(34〜46 mmHg)を超える状態とし、酸素飽和度が正常範囲でも高CO2血症があれば2型呼吸不全と呼ぶと定義していること。酸素誘発性高CO2血症には少なくとも6つの機序があり、推定される重要度の順にV/Q不均衡・換気ドライブ・ハルデン効果・吸収性無気肺・酸素の密度・低流量マスクでの再呼吸を挙げ、主因はV/Q不均衡の悪化とする一方で機序はなお議論があると述べていること。低酸素性ドライブの寄与は小さいとする臨床研究が多いが支持する研究もあること、肺病変が乏しく呼吸筋力低下が主体の病態では低酸素性呼吸ドライブの消失の比重が大きくなること。閲覧 2026-08-14