病態生理学

病態生理学 · P-2-16

呼吸器疾患 症例3

Respiratory disease, Case 3

前提:病態
換気障害と呼吸機能検査;呼吸不全急性呼吸不全の症状;過換気の影響

🧠 喘息の既往がある33歳女性が、39 °Cの発熱・喀痰を伴わない咳・呼吸や体動に関連する鋭い右胸部痛で受診した。 右周囲の浸潤影と著明な炎症反応( 300 mg/l、 1.5 ug/l)から、症を伴うと読む。血液ガスは軽度の低酸素血症とによる急性で、喀痰の一般細菌培養は陰性。3日後もが下がらず抗菌薬を変更して改善し、回復後の呼吸機能には残らなかったので、はではなく感染である。

症例III 33歳女性、強い倦怠感・発熱・呼吸困難、アレルギー性気道疾患の既往あり

病歴:

33歳。過去に喘息で入院歴があり、維持抗喘息治療は遵守している。喫煙なし。職業は幼稚園教諭。

:

強い倦怠感、39 °Cの発熱、喀痰を伴わない咳、右胸部痛(鋭い痛みで、呼吸・体動に関連)、軽度の呼吸困難。

:

両肺で呼気終末に軽度喘鳴。RR: 115/78, P: 98/min。

💡 ここでの「RR: 115/78」は呼吸数ではなく血圧である(中欧のでは RR=Riva-Rocci=血圧を指す慣習がある)。P は脈拍。血圧 115/78 mmHg・脈拍 98/min と読む。

:

  • PaO2: 65 mmHg, PaCO2: 30 mmHg, pH: 7.48, BE: -3.0 mmol/l
  • CRP: 300 mg/l
  • Procalcitonin: 1.5 ug/l(課題文には「正常」と注記されているが、のPCTはどの測定法でもこれよりはるかに低値であり、上昇と読むべき値である——下表参照)
  • イオンは正常
  • 喀痰一般細菌培養: 陰性

胸部X線: 右周囲浸潤影(治療前後)。

ECG: 陰性。

治療と新規所見:

  1. アモキシシリン/ + (経口)
  2. 全身性ステロイドIV 120 mg/日、その後80 mg/日
  3. 吸入()1日6回

3日後も低下がないため、以下へ変更:

  1. セフタジジム + IV抗菌薬治療(抗緑膿菌効果も考慮)

1週間以内にし、画像所見は改善、: 12 mg/l。ではの残存なし。


重要な引用と示唆

引用 / 値 解釈
39 °C発熱、“喀痰を伴わない咳”、 300 mg/l CRP の強い炎症反応を伴う急性
胸部X線の“右周囲浸潤影” 画像上の浸潤影で肺炎を支持
“呼吸で増悪する右胸部の鋭い痛み” 症による。💡 痛みを感じるのは()が分布するで、肺実質と接する自体には痛覚がない。炎症がまで及ぶと呼吸・体動で増悪する鋭い胸痛が生じる
1.5(課題文の「正常」は誤り。上昇値)、陰性 単回高値は全身性の細菌感染を支持しうるが、それだけで感染を確定するものではない。⚠️ 0.25・0.5 ug/l といった閾値は「」ではなく、(か 敗血症か)・アルゴリズム・測定法によって意味が変わる判断のなので、他の集団の固定値をそのまま持ち込まない1()。またPCTは「細菌かウイルスか」を二分する検査でもなく、定型・の区別もできない。培養陰性かつ追加で反応した経過の方が、非定型・耐性病原体を示唆する根拠になる
65, pCO2 30, pH 7.48 軽度低酸素血症 + による。💡 Henderson-Hasselbalch の式(pH = 6.1 + log₁₀[HCO₃⁻ ÷ (0.03 × PCO₂)])で pH 7.48・PCO₂ 30 mmHg から HCO₃⁻ をすると約 22 mmol/L になる。PCO₂ が 10 mmHg 下がったときの予測 HCO₃⁻ は、急性代償(10 mmHg あたり約2 mmol/L 低下)で約 22、慢性代償(同じく約5 mmol/L 低下)で約 19 mmol/L なので2、急性のとして整合する。は記録がないため、PaO₂ 65 mmHg がでの値かは分からない。⚠️ の「RR: 115/78」は血圧なので、呼吸数そのものは記録されていない
回復後“の残存なし“ 背景のではなく、急性感染イベントが主因であったことを示唆
呼気終末喘鳴、幼稚園教諭 軽いと、呼吸器病原体への

要点

  • 診断: 背景に喘息を有する患者の(胸膜刺激を伴う)。
  • 根拠: 発熱、咳、著明高、周囲浸潤影が抗菌薬で改善。
  • : 鋭く呼吸関連の胸痛は、炎症がに及んだを示唆。
  • 病原体の示唆: 培養陰性で、より広域/抗緑膿菌カバーを要した経過は、非定型または耐性病原体の可能性を示す。
  • 重要な鑑別: 回復後正常で、今回のはではなく感染性。
  • 全身性ステロイドの位置づけ: ()の2025年ガイドラインは、非重症ので入院した成人には肺炎の治療として全身性ステロイドを投与しないことを推奨し(強い推奨)、重症の(インフルエンザ肺炎を除く)にだけ投与を提案している(条件付き推奨)。ただし非重症例への推奨は、喘息やの増悪など別の適応でのステロイド投与を妨げないとしている3。本症例は血圧115/78 mmHg・病変は右周囲に限局し、意識障害の記載もなく、記録から重症を示す所見は読み取れない(呼吸数とは記録がない)。したがって本症例の全身性ステロイドとは、肺炎そのものの治療ではなく、感染を契機にが表に出た背景の喘息(呼気終末喘鳴)への対応と読むのが妥当である。

出典

  1. 1.Procalcitonin-guided diagnosis and antibiotic stewardship revisited(BMC Medicine・2017)プロカルシトニンの提案カットオフ値は感染巣・疾患設定ごとに異なること(PMC5259962 全文の Table 1:COPD増悪は<0.25 μg/L、喘息・気管支炎・市中肺炎は<0.1〜0.25 μg/L、心内膜炎・髄膜炎は<0.5 μg/L)。感度・特異度が不十分な場合があり、臨床的文脈を踏まえた慎重な解釈が必須であること。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Acid-Base Disorders in the Critically Ill Patient(Clinical Journal of the American Society of Nephrology・2023)PMC10101555 の全文 Table 1(Expected compensation for acid-base disorders)で、急性呼吸性アルカローシスは PCO2 10 mmHg 低下ごとに HCO3 2 meq 低下、慢性は 5 meq 低下とする予測式を確認した。閲覧 2026-09-24
  3. 3.Diagnosis and Management of Community-acquired Pneumonia: An Official American Thoracic Society Clinical Practice Guideline(American Thoracic Society・2026)Articles in Press 版(2025年7月18日公開)の全文PDF(Wayback 20250801164707)で確認:非重症市中肺炎の入院成人には全身性ステロイドを投与しないことを推奨し(強い推奨、エビデンスの質は低い)、重症市中肺炎の入院成人には全身性ステロイドを提案する(条件付き推奨、エビデンスの質は低い。インフルエンザ肺炎による重症例は除く)。委員会の議論として、非重症例への推奨はCOPDや喘息の増悪、ニューモシスチス肺炎の疑いなど他の適応でのステロイド投与を妨げないとしていること。閲覧 2026-08-26