病態生理学

病態生理学 · 2-12

急性呼吸不全の症状;過換気の影響

Acute respiratory failure; effects of hyperventilation

応用トピック
呼吸不全呼吸器疾患 症例1呼吸器疾患 症例3

🧠 は「CO₂が溜まっているか」で2つの型に分ける。 低酸素だけなら肺そのものの障害(1型)、CO₂も溜まれば換気のポンプの障害(2型)。低酸素に対して体は・交感神経の活性化・心拍出量の増加で応じ、このとき最も負担を受けるのは心臓である。一方、代謝需要を超えたそのものも、低CO₂血症を介しての低下との低下という別々の症状を作る。

急性呼吸不全

生命を脅かす状態:血液に O₂ が足りない、または CO₂ が過剰。正常: pCO₂ 35–45 mmHg、pO₂ は代表値で 85–95 mmHg(ただし年齢・標高・吸入酸素・体位で変わるため、固定した正常範囲だけで読まない。はを参照)。

3つの型

💡 見分けの軸は pCO₂。 「肺が壊れている(1型)」のか「ポンプが止まっている(2型)」のかは、CO₂ が溜まっているかで判断できる。肺の問題ならで CO₂ は飛ばせる(低い)、ポンプの問題なら換気そのものが減るので CO₂ が溜まる(高い)。

分類 原因 血液ガス
1型(肺性) 肺疾患(肺炎、喘息、、疾患、ARDS)→ //シャント。呼吸困難+低酸素 → → pCO₂ 正常/低 pO₂ <60、pCO₂ ≤45(低酸素・高CO₂なし)
2型() 肺は健常だが(神経筋疾患、モルヒネ、障害) pO₂ <60、pCO₂ >45(高CO₂+低O₂)
3型(混合型) 両方。通常は1型 → で2型へ 重度低酸素+軽度高CO₂(例 COVID肺炎)

⚠️ 血液ガスによる標準的な分類は1型と2型の2つで、両者を分ける閾値はPaCO₂ 45 mmHgである(高CO₂血症の定義と同じ)。上表の「3型(混合型)」は独立した第3の型ではなく、1型として始まった呼吸不全がにより2型へ移行していく途中の状態を指す講義上の呼び方である。型番号と病期の段階番号を混同しないこと(慢性全呼吸不全()の臓器障害も参照)。

⭐ 急性・重症の1型呼吸不全の代表はARDSである。 (1kgあたり約6 mLの、30 cmH₂O以下)が、これまでに死亡率を明確に下げたことが示されている数少ない介入で1、重症例では早期・長時間の療法がさらに生存を改善する2。定義・・全身管理の詳細はのノートに譲る。

急性低酸素への身体の反応

flowchart TD
  H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoxemia'>急性低酸素血症</span>"] --> V["① <span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperventilation'>過換気</span>(呼吸困難による駆動、肺胞換気は最大6倍)"]
  V --> V2["pCO₂ の変化は低酸素以上に強い換気刺激<br>→ 軽い高CO₂でも<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperventilation'>過換気</span>が起こる"]
  H --> N["② <span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurohumoral'>神経体液性</span>:交感神経・副腎系活性化"]
  N --> C["③ 心臓:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='positive chronotropic'>陽性変時</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inotropy'>変力作用</span> → CO↑"]
  C --> C2["⚠️ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute respiratory failure'>急性呼吸不全</span>で最も負担がかかるのは心臓<br>(慢性患者は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='respiratory muscle fatigue'>呼吸筋疲弊</span> → 死のリスク)"]

過換気そのものが症状を作る:低CO₂血症の影響

💡 低酸素への代償としてのとは別の話。 換気が代謝需要を超えて起こると pCO₂ が下がる(低CO₂血症・)。この pCO₂低下そのものが、①の低下と②遊離カルシウム低下という2つの経路で独立に症状を作る。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperventilation'>過換気</span>(代謝需要を超える換気)"] --> B["pCO₂低下(低CO₂血症)"]
  B --> C["脳血管収縮 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebral blood flow, CBF'>脳血流</span>低下"]
  C --> D["めまい・意識朦朧・失神"]
  B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='respiratory alkalosis'>呼吸性アルカローシス</span>"]
  E --> F["アルブミンへのCa²⁺結合増加<br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='ionized calcium'>イオン化カルシウム</span>低下"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuromuscular excitability'>神経筋興奮</span>性の亢進"]
  G --> H["口周囲・四肢の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paresthesia'>知覚異常</span>、こわばり、重症で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tetany'>テタニー</span>"]
  E --> I["Kの細胞内移動 → 軽度の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypokalemia'>低カリウム血症</span>"]

脳血流低下と、頭部外傷での「予防的過換気」の考え方の変化

pCO₂低下は脳血管を収縮させてを減らす。で起こるめまい・意識朦朧・失神はこの機序による。

⚠️ ・脳浮腫へのルーチンの予防的は現在は推奨されない。 かつては頭蓋内圧を下げる目的で広く行われたが、重症後には脳虚血が多いことが示されて考え方が変わった。Brain Trauma Foundation の第4版(2016)が根拠のある推奨として掲げるのは「PaCO₂ 25 mmHg以下となる長時間の予防的は推奨しない(Level IIB)」の1件だけである。そのうえで、現在の証拠基準は満たさないと断ったうえで第3版の推奨を再掲している——を下げる一時的な措置としてはを用いうるが、が危機的に低いことの多い受傷後24時間は避け、用いるなら頸静脈(SjO₂)や脳組織でを監視する。も、の治療には一時的なを要しうるが、ヘルニアが無ければ正常換気(PaCO₂ 35〜45 mmHg)を目標とする、と書いている3。詳細は頭蓋内圧亢進・に譲る。

遊離カルシウム低下による神経筋症状

でpHが上昇すると、(アルブミン)へのCa²⁺結合が増え、総Ca濃度を変えないままだけが低下する。この急性の低血症が神経筋の興奮性を高め、口周囲・四肢末端のやこわばりを起こし、重症では()に至る。カリウムも細胞内への移動により軽度低下しうる。

⭐ ・めまい・を伴うを安易に不安のせいと決めつけない。、、代謝性アシドーシスの、低酸素血症などの原因を除外してからとして対症的に扱う。

⚠️ 紙袋を用いた法は現在は推奨されない。 健常人でもを有意に低下させる方法であり、実際には低酸素血症やが原因でしていた患者に誤って行われて死亡した症例が報告されている4。器質的疾患の除外を優先し、対症的には呼吸を落ち着かせる指導にとどめる。

脳への影響(O₂飽和度別)

O₂飽和度 影響
80–100% 視覚感度↓
70–80%
60–70% 判断/協調の変化
40–60% 数時間で
20–40% 数分で
0–20% 数秒で
  • 死はとして現れる。

拡散障害

💡 時間のがカギ。 RBC が肺胞 O₂ に接する時間は 0.75 秒あるが、正常なら 0.25 秒で交換完了(勾配が大きく膜が薄いため)。膜が厚くなると交換に 0.75 秒すべてが必要になり、「」が消える。

  • 線維化/: 膜が厚い → O₂ 交換に 0.75 秒フルに必要。安静時は(接触時間が足りるので)低酸素にならない。
  • 運動時: CO/HR↑ → 接触時間↓ → がなくなり交換が間に合わない → チアノーゼ、呼吸困難、失神、乳酸↑()。

組織のO₂抽出

  • 供給 ~1000 ml/min、25%を抽出 → 消費 250 ml/min(これ以上は減らせない下限)。呼吸不全では末梢がより多く抽出(供給 550 ml まで代償)。それを下回ると に陥り → 失神、乳酸↑。

治療

  • 抗炎症(全身性ステロイド)
  • 輸液/
  • 血圧正常化+の維持(高齢者の30%で心不全を合併)

まとめ

項目 押さえること
型の見分け PaCO₂で分ける。1型=PaO₂ <60・PaCO₂ ≤45(肺の障害)、2型=PaCO₂ >45(ポンプの障害)。「3型(混合型)」は1型から2型へ移る途中を指す講義上の呼び方
急性・重症の1型の代表。低(あたり約6 mL、30 cmH₂O以下)と、重症例の早期・長時間のが死亡を減らした
急性低酸素への反応 、交感神経・副腎系の活性化、心拍出量の増加。最も負担がかかるのは心臓
低CO₂血症の症状 脳血管収縮→低下(めまい・失神)、→イオン化Ca低下(・)、軽度の低K
の 長時間の予防的(PaCO₂ ≤25 mmHg)は推奨しない。用いるなら一時的に、受傷後24時間は避け、を監視する
の患者 原因(・肺塞栓・代謝性アシドーシス・低酸素)を先に除外する。紙袋は行わない
安静時は接触時間0.75秒に間に合うが、運動で接触時間が短くなると低酸素になる

出典

  1. 1.Ventilation with lower tidal volumes as compared with traditional tidal volumes for acute lung injury and the acute respiratory distress syndrome(New England Journal of Medicine・2000)予測体重1kgあたり6 mLを目標とする低一回換気量換気(プラトー圧30 cmH₂O以下)が、従来の一回換気量に比べ死亡率を低下させたことを確認した。閲覧 2026-08-14
  2. 2.Prone positioning in severe acute respiratory distress syndrome(New England Journal of Medicine・2013)肺保護換気を行った重症ARDS(PaO₂/FiO₂ <150)患者において、1回16時間以上の腹臥位療法を早期に行った群は仰臥位群に比べ28日死亡率が有意に低かった(16.0% vs 32.8%)ことを確認した。閲覧 2026-08-14
  3. 3.Guidelines for the Management of Severe Traumatic Brain Injury, 4th Edition(Brain Trauma Foundation・2016)第4版の全文PDF(braintrauma.org掲載)の「5. Ventilation Therapies」で確認した。Level IIB推奨は「PaCO2 25 mmHg以下となる長時間の予防的過換気は推奨しない」の1件のみであること。第3版のLevel III推奨(頭蓋内圧上昇を下げる一時的措置として過換気を用いる、脳血流が危機的に低いことの多い受傷後24時間は避ける、用いるならSjO2または脳組織酸素分圧で酸素供給を監視する)は現在の証拠基準を満たさないとしたうえで、一時的措置としての必要性を認識させるために再掲されていること。序論が、脳ヘルニアの治療には一時的な過換気を要しうること、脳ヘルニアが無ければ正常換気(PaCO2 35〜45 mmHg)が目標であること、重症頭部外傷後に脳虚血が多いことが示されて従来の過換気の推奨が変わったことを述べていること。閲覧 2026-08-14
  4. 4.Hypoxic hazards of traditional paper bag rebreathing in hyperventilating patients(Annals of Emergency Medicine・1989)低酸素血症や心筋虚血が原因で過換気していた患者に紙袋再呼吸法を誤って行い死亡した症例が3例報告され、健常人でも再呼吸により酸素濃度が有意に低下することを確認した。閲覧 2026-08-14