病態生理学

病態生理学 · P-2-17

呼吸器疾患 症例4

Respiratory disease, Case 4

前提:病態
COPDと肺線維症の呼吸力学・血液ガスへの影響
検査値
肺拡散能

🧠 2004年にで()=と診断され、ステロイド+を繰り返しても悪化した女性の経過。 41%・ 62%のと、酸素 8 l/min でも pO₂ 55 mmHg にとどまる低酸素血症(pCO₂ は 30 mmHg と低値)、 28 mmHg の肺高血圧を示し、緑膿菌を繰り返したのち突然ので死亡した。剖検の直接死因はで、「線維化 → 低酸素血症 → 肺高血圧 → 」という経路と、長期ステロイドの副作用(外観・高血糖)を読む症例である。

症例IV Mrs. S. O. の短い症例経過(特発性肺線維症)

短い症例経過:

2010年1月 ・身体所見:

  • 労作時の重度呼吸困難(低下、チアノーゼ)
  • 安静時呼吸困難なし
  • クッシング様外観
  • に粗い
  • : 259 m( > 600 m)

画像所見:

呼吸機能(2010年夏): 。: 62%、: 41%。

血液ガス・生化学:

  • pO2: 40 mmHg。8 l/min O2下でpO2: 55 mmHg
  • pCO2: 30 mmHg(VA = 6 l/min)
  • CRP: ~40 mg/l
  • : ~50 mm/h
  • LDH: 720 U/l
  • HbA1c: 9%
  • : 6.9 mmol/l
  • : 4.1 mmol/l
  • 血糖: 9.1 mmol/l
  • 腎・肝・骨髄の検査は内

侵襲的循環器検査結果:

  • : 39/19 mmHg、平均圧: 28 mmHg
  • : 左室優位(生理的)

2010年1月〜7月:

  • を反復: Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)、治療可能であった
  • 臓器移植委員会: 必要条件は満たしていたが、体格要因で適格外と判断

死亡前数日と死亡時状況:

  • 、高、著明な全身負荷不耐。循環は代償状態。O2治療下でpO2 55 mmHg、pCO2 30 mmHg。
  • 夜間ケア中(便器使用時)に突然チアノーゼ、失神、、呼吸不全となり、蘇生は不成功。

剖検結果(I):

  • 心重量: 410 g(基準: 350 g)
  • 腔の著明拡張
  • 右室壁厚: 3 mm
  • 左室壁厚: 12 mm
  • 弁は正常、心筋は均質で褐色調
  • 冠動脈内膜に黄色プラーク

剖検結果(II):

  • 胸膜平滑
  • 実質不均一により肺表面は
  • 肺実質は硬く緻密で、は乏しい
  • 両側基底葉切面から膿排出
  • 肺動脈内腔は開存、内壁に黄色プラーク
  • 脾実質軟化と豊富な物
  • 副腎皮質の菲薄化
  • 膀胱粘膜に結節状充血

肺組織: 低下、、結合組織増生、充血、気管支内腔は滲出物で充満、。

要約 Mrs. S. O.(1957-2010):

  • 直接死因:
  • 剖検で判明した併存症: 両側
  • 原疾患: 原因不明の(特発性)

重要な引用と示唆

引用 / 値 解釈
生検: “()” = 組織学的パターンで()を支持
: “と”; X線 進行した線維化肺疾患に典型的な画像所見
62%、 41% に典型的な +
“重度の(低下、チアノーゼ)”; 6分間歩行259 m; 粗い 労作時低酸素血症と低下。硬くの低い肺を反映
pO₂ 40 mmHg(酸素 8 l/min 下でも 55 mmHg)、pCO₂ 30 mmHg PaO₂ <60 mmHg で PaCO₂ は低値なので1型()呼吸不全。低酸素血症が呼吸を駆動してになり、CO₂ はむしろ下がっている。線維化肺では末期まで PaCO₂ が正常〜低値のまま1型が続くのが典型で、本例の死亡直前の値(O₂ 下で pO₂ 55・pCO₂ 30 mmHg)も同じパターンである。の酸素でも pO₂ が 55 mmHg にとどまるほど酸素への反応が乏しい点が、の重さを示す(低酸素血症の機序と酸素反応性は換気障害と呼吸不全を参照)
39/19、平均 28 mmHg; 右心拡張 安静時20 mmHg超でと定義され1、平均28 mmHgの本例はこれを満たす。臨床的にはに伴う第3群(肺疾患・低酸素によるPH)→ (/右心不全)と考えられる。⚠️ ただし第3群はPHであることが前提で、その血行動態定義は「20 mmHg超+15 mmHg以下+2 超」の3項目である。本症例の記録には圧・の値がなく、左心疾患によるの併存を数値としては除外できていない
“直接死因: ” 慢性肺高血圧を背景とした/右心不全で死亡
反復する緑膿菌、剖検でも両側 終末期線維化肺における
クッシング様外観; 9%、血糖 9.1 長期ステロイド治療による外因性(医原性)様所見とステロイド関連高血糖

要点

  • 診断: (パターン)。進行性で最終的に致死的経過。
  • 生理学的特徴: (低TLC)と低下、重度労作時低酸素血症。
  • 画像の要点: でと。
  • 致死経路: /線維化 → 肺高血圧 → → ・右心不全(直接死因)。
  • 合併症: 緑膿菌の反復と、ステロイド関連副作用(体型、高血糖)。
  • 経過: ステロイド/に抵抗性。本症例のような慢性ステロイド+併用療法は当時(2004年〜)行われていた治療だが、現在ではの治療として支持されていない。これにを加えた3剤併用(++)を、軽度〜中等度の肺機能障害をもつ患者で検証した2012年のPANTHER-試験では、3剤併用群がプラセボ群より死亡(8例 vs 1例)・入院(23例 vs 7例)とも有意に多く、独立データ安全性監視委員会の勧告で早期中止された2。現在の第一選択は・などの(進行を遅らせるのみで既存の線維化を治す薬ではない)だが、いずれも欧州・米国での承認は本症例の死亡(2010年)より後であり(でのの販売承認は2011年2月3)、当時のハンガリーでは選択肢になっていない。なお日本ではが2008年12月に販売開始されており4、同じ時期でも国によって使える薬が違った。移植が唯一の根治的選択肢だったが、体格要因で適格外であった。

出典

  1. 1.2022 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension(European Society of Cardiology / European Respiratory Society・2022)同時掲載の ERJ 版(Version of record、Amsterdam UMC リポジトリ)の Table 5 で再確認:肺高血圧症は安静時平均肺動脈圧(mPAP)20 mmHg超で血行動態的に定義されること(本文は健常者の上限値と予後の研究を根拠に挙げる)、前毛細血管性PHはさらに肺動脈楔入圧15 mmHg以下かつ肺血管抵抗2 Wood単位超を要すること、間質性肺疾患などの肺疾患・低酸素に伴うPHが第3群に分類されることを確認した。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Prednisone, Azathioprine, and N-Acetylcysteine for Pulmonary Fibrosis(New England Journal of Medicine(Idiopathic Pulmonary Fibrosis Clinical Research Network、PANTHER-IPF試験)・2012)軽度〜中等度の肺機能障害をもつ特発性肺線維症患者を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照試験で、予定された中間解析(3剤併用群77例・プラセボ群78例)の時点で、プレドニゾン+アザチオプリン+N-アセチルシステインの3剤併用群はプラセボ群と比べ死亡(8例 vs 1例、P=0.01)・入院(23例 vs 7例、P<0.001)が有意に多く、中間解析の時点で3剤併用群が早期中止されたことを確認した。閲覧 2026-09-24
  3. 3.Esbriet: EPAR(European Medicines Agency・2011)EMAのEPARランディングページで、Esbriet(ピルフェニドン)のCHMP肯定的意見が2010年12月16日、EU全域で有効な販売承認が2011年2月28日に出たことを確認した閲覧 2026-09-24
  4. 4.ピレスパ錠200mg 電子添文(塩野義製薬 / PMDA・2022)PMDAの電子添文(2022年3月改訂 第1版)の承認等の欄で、ピレスパ錠200mg(ピルフェニドン)の販売開始年月が2008年12月であることを確認した閲覧 2026-09-24