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Disease Atlas · 呼吸器 · 疾患

胸膜炎

Pleurisy

別名
pleuritis肋膜炎
臓器系
呼吸器免疫・膠原病
科目
PathologyInternal Medicine
トピック
病理学 C/27:胸膜・心膜の病理内科学 L-14:胸痛の鑑別診断
鑑別疾患
気胸急性冠症候群急性心膜炎市中肺炎大動脈解離肺血栓塞栓症
合併症
胸水
治療薬
インドメタシン
原因薬剤
ヒドララジンプロカインアミドニトロフラントインイソニアジドシクロホスファミド
原因微生物
EBウイルスサイトメガロウイルス水痘帯状疱疹ウイルスA型インフルエンザウイルスムンプスウイルス結核菌
症状
胸痛呼吸困難発熱乾性咳嗽
検査値
Dダイマー心筋トロポニン
スコア
Wellsスコア
原因となる疾患
家族性地中海熱関節リウマチ結核全身性エリテマトーデス

🧠 全体像:()は「の痛覚神経が炎症で刺激される」という1つの機序が、感染・自己免疫・・薬剤・悪性腫瘍という多様な原因から生じる状態である。臨床の入口は「呼吸・咳・体位で悪化する鋭い胸痛」で共通しているため、まず命に関わる鑑別(肺塞栓・・・)を除外してから、残りの原因を絞り込むという2段構えで考える。特発性(原因不明)が30〜40%を占めることも覚えておく1。

病態生理

胸腔は(胸壁・縦隔を覆う)と(肺表面を覆う)の2層からなり、正常では数mLの胸水が呼吸に伴う両者のを助けている。💡 痛みを生む層はだけである。 には痛覚受容体が無く、だけが(胸壁周辺部)と(横隔膜中心部)由来ので痛みを感じる。したがって、横隔膜中心部の炎症は同側の頸部・肩にとして現れる1。

炎症で粗糙化した壁側・がこすれ合うと、の一種であるを生じる。「新雪を踏むような」軋み音として吸気・呼気の両方に聴かれ、胸壁の限局した部位に固定され、粗いと異なり咳嗽をしても変化しないことで区別される。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parietal pleura'>壁側胸膜</span>の炎症"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Intercostal nerves'>肋間神経</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phrenic nerve'>横隔神経</span>由来の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='somatic pain'>体性痛</span>覚線維が刺激される"]
    B --> C["呼吸・咳・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='repositioning of the body'>体位変換</span>で<br>増悪する鋭い胸痛"]
    A --> D["炎症で粗糙化した胸膜面が<br>吸気・呼気でこすれ合う"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pleural rub'>胸膜摩擦音</span>(軋み音)"]
    A --> F["胸膜血管からの液体産生増加<br>またはリンパ吸収の障害"]
    F --> G["[[diseases/pleural-effusion|胸水]]の貯留"]

原因

特発性が30〜40%を占め、ウイルス感染が最も多い同定可能な原因である1。

分類 代表例
ウイルス性 、、、、、
細菌性 、、、、自然発症
自己免疫・炎症性 関節リウマチ、、、、シェーグレン症候群
腎性 、
薬剤性 、、、、
悪性腫瘍 、肺癌、リンパ腫の胸膜浸潤
外傷・その他 胸壁外傷・、肺塞栓症、心損傷後症候群、

⭐ 原因ごとに頻度が大きく違う。 外科的を要した症例の内訳では、悪性腫瘍が56%(23%・肺癌16%・リンパ腫2.5%)と最多で、感染性24%(結核16.2%が中心)、自己免疫性はわずか2.8%(関節リウマチ1.3%・SLE 0.3%)にとどまる1。「=自己免疫疾患」という思い込みは危険で、生検を要する集団では悪性腫瘍と結核を先に考える。

危険な鑑別診断を最優先で除外する

の鑑別は広いが、まず命に関わる6疾患を除外してから残りを考える1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pleuritic pain'>胸膜痛</span>を訴える患者"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Onset'>発症様式</span>は?"}
    B -->|"分〜時間単位の急性発症"| C["生命を脅かす原因を最優先で評価<br>肺塞栓・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute coronary syndrome, ACS'>急性冠症候群</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aortic dissection'>大動脈解離</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tension pneumothorax'>緊張性気胸</span>"]
    B -->|"時間〜週単位の緩徐な経過"| D["感染・自己免疫・悪性腫瘍・薬剤性を考える"]
    C --> E["病歴・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='physical examination'>身体診察</span>+胸部X線+心電図+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='troponin'>トロポニン</span>"]
    D --> E
    E --> F{"重篤な原因を示唆する所見があるか"}
    F -->|"あり"| G["各疾患の確定検査へ<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary angiography'>肺動脈造影</span>・冠動脈評価・造影CTなど)"]
    F -->|"なし"| H["ウイルス性・特発性として<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonsteroidal anti-inflammatory drugs'>NSAIDs</span>で経過観察"]
鑑別疾患 警戒すべき症状 身体所見 画像・検査
肺塞栓症 呼吸困難、、下肢腫脹、悪性腫瘍・不動の既往 頻脈、頻呼吸、低血圧、低酸素血症 CTPAでの欠損像、上昇、心電図の所見
労作時胸痛、腕・頸部への放散、悪心・嘔吐 、低血圧、頻脈、III音 心電図のST上昇、上昇
背部・腹部へ放散する引き裂かれるような痛み、発症時最強 血圧・脈の左右差、、新規の での解離、胸部X線で(60〜90%)
臥位で増悪しで軽快する痛み、先行するウイルス感染 (時も持続する点でと鑑別) 心電図のびまん性ST上昇、
気胸 急性の呼吸困難 患側の、、音減弱 胸部X線での白い線
肺炎 発熱、膿性喀痰を伴う咳嗽 、、 胸部X線での浸潤影、

⚠️ とは似て非なるものである。 は呼吸を止めても持続するが、はで消える。で軽快する痛みはを、背部への引き裂かれる痛みはを疑う所見であり、いずれもとは初期対応がまったく異なる。

評価の進め方

初期評価は病歴・に加え、臨床的に妥当なら胸部X線を行う。所見の解釈は前表を参照。・・による肺塞栓症の除外、心電図・によるの除外を、臨床的な疑いに応じて進める1。

💡 をすべて満たせば、それ以上の検査は不要である。 50歳以下・心拍数100/分未満・ 95%以上・なし・なし・の既往なし・片側下肢腫脹なし・4週間以内の入院を要する手術/外傷なしの8項目を満たす低リスク患者では、すら測定しなくてよい1。

胸水を伴う場合は胸水のノートで扱う・による/の鑑別に進む。自己免疫疾患を疑う所見(多関節の対称性腫脹、、など)があれば、抗抗体・・などの血清学的検査を追加する。

自己免疫疾患における胸膜炎

は関節リウマチ・SLEのとして頻度が高く、それぞれ特徴的な胸水性状を示す2。

疾患 の頻度 胸水の性状
関節リウマチ 5〜20%()。70%が左片側性 、≥1:320、グルコース10〜30 mg/dL(低値)、≥1000 U/L、pH<7.2
全体で17〜60%。は一般的な症状で45〜60%にみられ、胸水を伴う場合も伴わない場合もある 、総蛋白>3.5 g/dL、グルコース約60 mg/dL、pH>7.30、<500 IU/L(RAと対照的に正常範囲)

⭐ 同じ「自己免疫性の」でも、グルコースとの動きが逆方向になる。 関節リウマチではグルコースが低下しが著明に上昇するのに対し、SLEではグルコース・とも比較的正常に近い2。この違いは、関節リウマチでは胸膜の肥厚により胸膜でのが亢進し輸送も障害される一方、SLEではが主体という機序の違いを反映すると考えられている。

SLEの第一選択はまたは短期ので、多くは良好に反応する。難治例では・などのを追加する。関節リウマチ胸水の多くは自然軽快するか、RA自体の治療で改善し、単独の効果は乏しい2。

治療

治療の目標は疼痛コントロールと原因治療の2本立てである1。

  • はなどのが第一選択。オピオイドは呼吸抑制・抑制のリスクがあり慎重に使う。
  • ループスや不耐例にはを検討する。
  • 原因治療:肺炎・・結核には抗菌薬(はドレナージも)、自己免疫疾患は基礎疾患の治療、薬剤性は原因薬の中止、悪性腫瘍は原疾患の治療へ。
  • 喫煙者、50歳以上、症状遷延例は、(悪性腫瘍など)を除外するため6週間後に胸部X線を再検する。

予後

ウイルス性は数日〜数週間で自然軽快する。細菌性胸膜感染は30日死亡率10.5%・1年死亡率19%と侮れない1。SLEの予後は概して良好だが、関節リウマチでは3か月以内に自然軽快する例が多い一方、遷延性胸水・に至る例もある2。は積極的な(必要なら)で概ね良好だが、約20%は遷延性胸水・線維性肺疾患に至る1。悪性胸膜疾患は予後不良で、診断後の生存期間中央値はわずか13か月との報告がある。

まとめ

  • は(痛覚を持つ)の炎症で、呼吸・咳・体位で悪化する鋭い胸痛とが特徴。には痛覚が無い。
  • 特発性が30〜40%、ウイルス性が最多の同定可能な原因。自己免疫性(RA・SLE・)、、薬剤性、悪性腫瘍も原因になる。
  • 最優先は生命を脅かす6鑑別の除外:肺塞栓症・・・・気胸・肺炎。病歴の(分単位か週単位か)が最初の手がかり。
  • 関節リウマチとSLEはどちらもを来すが、関節リウマチは低グルコース・高、SLEは正常に近いグルコース・という対照的な性状を示す。
  • 治療はによると原因治療の二本立て。ウイルス性は自然軽快するが、細菌性胸膜感染や悪性胸膜疾患は予後不良になりうる。

出典

  1. 1.Pleurisy(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)NCBI本体が接続不可のためEurope PMCのbookXMLスナップショット(2024年11月14日改訂と記載)で全文を確認した。特発性が30〜40%を占め、ウイルス(コクサッキー・アデノ・EBV・インフルエンザ・CMV・帯状疱疹・ムンプス・パラインフルエンザ・RSV)が最多の感染性原因であること、細菌性(膿胸・結核・レジオネラ・細菌性肺炎・自然発症胸膜炎)、自己免疫性(関節リウマチ・SLE・強直性脊椎炎・膠原血管疾患・反応性好酸球性胸膜炎・家族性地中海熱・シェーグレン症候群)、腎性(慢性腎不全・尿毒症)、薬剤性(イソニアジド・ヒドララジン・ニトロフラントイン・シクロホスファミド等)が原因に含まれること、肺塞栓症が胸膜痛を伴う最も頻度の高い生命を脅かす原因(5〜20%)で肺塞栓+胸水患者の約75%が胸膜痛を訴えること、外科的胸膜生検の原因内訳が悪性56%(中皮腫23%・肺癌16%・リンパ腫2.5%)、感染性24%(結核16.2%が最多)、自己免疫性2.8%であること、SLE患者の10%で胸膜炎が初発症状となり経過中40〜60%に発生する一方、RAでは剖検で70%に胸水を認めるが症候性は3〜5%にとどまること、壁側胸膜は横隔神経・肋間神経由来の体性線維で痛覚を持つが臓側胸膜には痛覚受容体が無いこと、横隔膜中心部の炎症は同側の頸部・肩へ関連痛を生じること、evaluationの節でWells criteria・modified HEART score・PERC基準・D-dimerによる肺塞栓症/急性冠症候群の除外手順、胸部X線所見(浸潤影→肺炎/結核、白い臓側胸膜線→気胸、胸水→心不全・SLE・RA・薬剤性・肺塞栓・肺炎・悪性腫瘍・結核・膿胸・膵炎・食道破裂・心損傷後症候群・慢性腎不全、縦隔拡大→大動脈解離、心拡大→心膜炎、無気肺→肺塞栓、肺門・縦隔リンパ節腫大→結核)が示されていること、治療がNSAIDs(インドメタシンなど)を主軸としオピオイドは呼吸抑制のため慎重使用、ループス胸膜炎や忍容性不良例では経口ステロイドを検討すること、ウイルス性胸膜炎は自然軽快するが細菌性胸膜感染の30日死亡率10.5%・1年死亡率19%であること、尿毒症性胸膜炎は積極的な血液透析で概ね良好だが約20%が遷延性胸水・線維性肺疾患に至ることを確認した。閲覧 2026-09-05
  2. 2.Clinical perspective and practices on pleural effusions in chronic systemic inflammatory diseases(Breathe (European Respiratory Society)・2020)Europe PMC(PMC7792825)で全文を閲覧した。結合組織病のうち関節リウマチ(RA)の胸膜病変が5〜20%、全身性エリテマトーデス(SLE)が17〜60%と頻度が高く、全身性強皮症・好酸球性筋膜炎・混合性結合組織病・強直性脊椎炎・多発筋炎/皮膚筋炎では稀であること、RA関連胸水は年間発生率が女性0.34%・男性1.54%で有病率約5%、70%が左片側性の滲出性で、リウマトイド因子力価≥1:320・グルコース10〜30 mg/dL・LDH≥1000 U/L・pH<7.2・高蛋白・高コレステロールを示し約80%で血清グルコースが胸水の2倍以上であること、SLE関連胸水は黄色〜血性漿液性の滲出性で総蛋白>3.5 g/dL・グルコース約60 mg/dL・pH>7.30・LDH<500 IU/Lを示し抗核抗体の胸水/血清比≥1が診断の補助になること、SLEでは胸膜痛が一般的な症状で45〜60%にみられ(胸水の有無を問わない)剖検では胸膜炎所見が最大93%に達すること、SLE胸膜炎の第一選択治療がNSAIDsまたは短期経口ステロイドで、難治例にはアザチオプリン・ヒドロキシクロロキン・シクロスポリン・免疫グロブリン大量静注を用いること、RA胸水は多くが自然軽快しRA自体の治療で改善するが診断に疑いがあれば胸腔穿刺・生検を行うことを確認した。閲覧 2026-09-05