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Disease Atlas · 循環器 · 疾患

急性心膜炎

Acute pericarditis

臓器系
循環器
科目
CardiologyInternal Medicine
トピック
循環器内科 A-11:心膜炎と心嚢液貯留内科学 S-01:心炎
鑑別疾患
急性冠症候群
合併症
循環性ショック
関連疾患
心筋炎慢性心不全
治療薬
アセチルサリチル酸インドメタシンコルヒチンプレドニゾロン
原因微生物
Enterovirus A, B, C, D
症状
胸痛倦怠感呼吸困難発熱肝頸静脈逆流
検査値
C反応性蛋白(CRP)心筋トロポニン
画像所見
心嚢液貯留石灰化
組織像
線維素性心膜炎フィブリン化膿性心膜炎(肉眼標本)
下位分類
Dressler症候群
元疾患
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症
原因となる疾患
リウマチ熱・リウマチ性心疾患

🧠 全体像は「吸気・仰臥位で悪化しで軽快する胸痛」「」「びまん性ST上昇・」「新規/増悪する」の4項目のうち2項目で臨床診断する炎症性疾患である。多くは特発性・ウイルス性で自然軽快するが、①STEMIとの心電図鑑別を誤らない、②第一選択はNSAIDs+でありステロイドを安易に使わない(再発率を上げる)、③心タンポナーデ・という2つの異なる方向への進展を見逃さない、という3点が診療の骨格になる。

概要・病因

心膜(臓側・壁側の2層)の炎症により、胸痛・摩擦音・心電図変化・のいずれかまたは複数が生じる病態である。先進国では特発性・ウイルス性が大多数を占め、多くは自然軽快するが、原因は多岐にわたり、原因によって重症度・再発リスク・が変わる。

分類 主な原因 特徴
特発性・ウイルス性 、EBV、HIV等 最多。多くは軽症・自然軽快するがウイルス検索は通常不要
感染性(非ウイルス) 結核、化膿性細菌感染 結核性は診断・治療が遅れやすく心タンポナーデ・へ進展しやすい
自己免疫性・全身性 SLE、関節リウマチ、 全身性疾患の一部分症として出現。原疾患の治療が並行して必要
梗塞後早期、Dressler症候群(数週〜数か月後の自己免疫性) 病型により発症時期と機序が異なる
術後・外傷後 心臓手術後、胸部外傷、 は急性ARの原因でもあり、突然の胸痛では必ず鑑別に挙げる
その他 、悪性腫瘍、放射線照射、薬剤性 性は透析導入・強化が治療の中心

⚠️ 突然発症の胸痛でを疑うときは、同様に致死的な・肺塞栓症を必ず並行して除外する。の診断が先行して他疾患の検索が遅れる誤りを避ける。

病態

心膜の炎症は胸痛(臓側・の摩擦、隣接する胸膜の刺激)とを生じ、しばしばを伴う。心筋にまで炎症が及ぶと心筋炎を合併したとなり、上昇や不整脈を伴いうる(心筋炎そのものの病態・治療は心筋炎を参照)。

の経過は大きく2つの異なる方向へ進展しうる。

flowchart TD
    A["心膜の炎症が持続・進展"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pericardial fluid'>心嚢液</span>の増加は急速か緩徐か"}
    B -->|"急速な増加(少量でも)"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pericardial cavity'>心膜腔</span>内圧が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diastolic filling pressure'>拡張期充満圧</span>を上回る"]
    C --> D["心タンポナーデ<br>低血圧・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='jugular venous distension'>頸静脈怒張</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulsus paradoxus'>奇脈</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urgent pericardiocentesis'>緊急心嚢穿刺</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surgical drainage'>外科的ドレナージ</span>"]
    B -->|"緩徐な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scarring'>瘢痕化</span>・肥厚・石灰化<br>(結核・術後・放射線が代表的原因)"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='constrictive pericarditis'>収縮性心膜炎</span>"]
    F --> G["拡張期充満制限<br>右心不全・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Kussmaul sign'>Kussmaul徴候</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pericardial knock'>心膜ノック</span>"]
    G --> H["確立した慢性例は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pericardiectomy'>心膜切除術</span>"]

💡 同じ「心膜の異常」でも、液体が急速に溜まれば数百mLでもタンポナーデになり、緩徐にすればになる。危険度を決めるのは量そのものより速度・である。

臨床像・身体所見

  • 胸痛:鋭い胸膜性の痛みで、吸気・仰臥位で増悪し、座位ですると軽快するのが特徴的。肩・稜への放散もみられる。
  • :臓側・が擦れることで生じる引っかくような摩擦音。一過性であることが多く、聴取されないからといって否定できない——疑いが強ければ繰り返しする。
  • 発熱・全身:ウイルス性・特発性で多い。高熱が持続する場合は結核や化膿性など特殊な原因を考える。
  • 呼吸困難:大量のやタンポナーデへの進展を示唆する。

💡 で痛みが軽快するのは、によりの接触・摩擦が減るためと考えられる——仰臥位で悪化・で軽快という体位依存性は、他の胸痛(虚血性・)との鑑別点になる。

診断

:以下4項目のうち2項目以上を満たせばと臨床診断する。

診断項目 内容
吸気・仰臥位で増悪しで軽快する典型的な性状
一過性のことが多く反復を要する
心電図変化 びまん性の(新規)
新規または増悪する 心エコーで評価。少量でも診断根拠になる

心電図:STEMIとの鑑別

の心電図変化は、心筋梗塞の局所的な変化と対照的にびまん性であることが最大の鑑別点である。

項目 STEMI
ST上昇の分布 ほぼ全誘導に及ぶびまん性の変化 特定冠動脈のに限局
ST上昇の形態 上に 上に凸型(convex up、状)
通常なし(aVRはST低下) あり
PR部分 びまん性(aVRはPR上昇) 通常変化なし
異常Q波 通常出現しない 出現しうる

⭐ 追加所見として(TP接合部から緩やかに下降するT波下降脚)はに特異性が高いとされる。心エコーでがあればSTEMIを、なければを支持する。

その他の検査

検査 目的・所見
(CRP・ESR) 診断の補助であると同時に、治療反応・薬剤のタイミングの指標になる
上昇があれば(myopericarditis)を疑う。自体では単独では予後不良因子とはされない
心エコー の有無・量、タンポナーデ徴候(RA/RV拡張早期虚脱)の評価に必須
胸部X線 は中等量以上のを示唆

高リスク所見(入院・原因精査を要する)

発熱(目安38℃超)、亜急性の経過、大量のまたはタンポナーデ、免疫抑制状態、外傷後、抗凝固薬内服中、NSAIDs開始後1週間で反応が乏しい場合は、低リスクな特発性・ウイルス性としての外来管理ではなく入院のうえ原因検索を行う。

flowchart TD
    A["胸痛・発熱などで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute pericarditis'>急性心膜炎</span>を疑う"] --> B["4項目で評価<br>①<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pleuritic chest pain'>胸膜性胸痛</span>②<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pericardial friction rub'>心膜摩擦音</span><br>③心電図変化④新規/増悪する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pericardial effusion'>心嚢液貯留</span>"]
    B --> C{"2項目以上を満たすか"}
    C -->|"満たさない"| D["他の原因を検索<br>(STEMI・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aortic dissection'>大動脈解離</span>・肺塞栓など)"]
    C -->|"満たす"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute pericarditis'>急性心膜炎</span>と臨床診断"]
    E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-risk findings'>高リスク所見</span>はあるか<br>(高熱・亜急性・大量<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pericardial fluid'>心嚢液</span>・<br>タンポナーデ・免疫抑制・外傷・<br>抗凝固中・NSAIDs不応)"}
    F -->|"あり"| G["入院し原因検索・専門治療"]
    F -->|"なし"| H["外来でNSAIDs+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='colchicine'>コルヒチン</span>開始・経過観察"]

治療

第一選択:NSAIDs+コルヒチン

⭐ 特発性・ウイルス性のには、NSAIDs(アスピリンまたは)+の併用が第一選択である。

薬剤 用法・期間の目安
アスピリン 750〜1000 mgを8時間ごと、1〜2週間(を併用)
等のNSAIDs 同様に症状消失を目安に1〜2週間
0.5 mgを1日1回(体重70 kg未満)または2回(70 kg以上)、初発例で3か月間
  • NSAIDsは固定期間ではなく、症状消失とCRP正常化を目安にする。
  • 症状が消失し炎症反応が正常化するまでは、一般人は症状消失まで、競技選手ではより長期(目安3か月)の運動制限を行う。

⚠️ 副腎皮質ステロイドは第一選択ではない。 ステロイドの早期使用は再発率を上げることがで示されており、に伴う場合、NSAIDs・アスピリンが禁忌の場合、または難治例に限って、最小を可能な限り緩徐にしながら、必ずを併用したうえで用いる。感染性(ウイルス性・結核性・化膿性)ではステロイドは避ける。

再発性心膜炎

初回エピソード後の再発率は15〜30%で、を併用しなかった場合は初回再発後にさらに再発するリスクが約50%まで上昇する。再発時はNSAIDs/アスピリンを症状消失まで、を6か月間へ延長して再開する。難治性・頻回再発例では、をさらに長期(12〜24か月)継続することもある。

⭐ NSAIDs++低用量ステロイドでも制御できない難治性の再発性には、抗IL-1薬(、リロナセプト)が有効な選択肢となる。リロナセプトは2021年に米国FDAが再発性に対して承認しており、不耐・ステロイド依存例での有力な代替薬として位置づけられている。

合併症への対応

  • 心タンポナーデ:血行動態に影響するは緊急事態であり、直ちにまたはを行う。
  • :結核・心臓手術後・放射線照射などを背景に、肥厚・石灰化した心膜が拡張期充満を制限する。早期・可逆的な炎症性の要素があれば治療を試みるが、確立した慢性例ではとなる。
flowchart TD
    A["初発の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute pericarditis'>急性心膜炎</span>(特発性・ウイルス性)"] --> B["第一選択:NSAIDs+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='colchicine'>コルヒチン</span>"]
    B --> C{"症状消失・CRP正常化"}
    C -->|"はい"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tapering'>漸減</span>し終了<br>(NSAIDs 1〜2週+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='colchicine'>コルヒチン</span>3か月)"]
    C -->|"いいえ・再発"| E["再発性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pericarditis'>心膜炎</span>"]
    E --> F["NSAIDs+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='colchicine'>コルヒチン</span>を再開し6か月へ延長"]
    F --> G{"低用量ステロイド追加でも難治性か"}
    G -->|"難治性"| H["抗IL-1薬(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anakinra'>アナキンラ</span>・リロナセプト)を検討"]
    G -->|"反応あり"| D

まとめ

  • は「・心電図変化・新規/増悪する」の4項目中2項目で臨床診断する。心電図はびまん性ので、・凸型ST上昇のSTEMIとは分布と形態で鑑別する。
  • 大多数は特発性・ウイルス性で自然軽快するが、・肺塞栓症といった致死的疾患の除外を怠らない。
  • 治療の第一選択はNSAIDs(アスピリン等)+で、症状消失とCRP正常化を目安にする。ステロイドは再発率を上げるため第一選択とせず、限られた適応で併用下に用いる。
  • 再発性を6か月へ延長し、難治例には抗IL-1薬(・リロナセプト)を検討する。
  • が急速に増えれば心タンポナーデ()、緩徐にすれば(確立例は)へと、の違いによって別の合併症に進展しうる。
  • 心筋炎を合併する(myopericarditis)については心筋炎を参照。