組織病理学

組織病理学 · H1-047

線維素性心膜炎

Pericarditis fibrinosa - PERICARDIUM

描出疾患
急性心膜炎
疾患
Dressler症候群

🧠 全体像:は、炎症で透過性が高まった心膜血管からフィブリノゲンが漏出し、トロンビンによる切断と重合を経てフィブリンとなり、表面へ粗い好酸性滲出物として付着する病変である。除去されれば治癒するが、残存すると器質化してを残す。

標本の要点

項目 所見
臓器 心膜・と表層心筋
染色 ・染色(HE)
表面 厚く不整な好酸性フィブリン滲出物
間質 拡張し赤血球で充満した血管、浮腫、炎症細胞
付随構造 脂肪組織
偶発的所見 内の

フィブリン形成と転帰

flowchart TD
    A["心膜の炎症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue injury'>組織傷害</span>"] --> B["微小血管透過性が上昇"]
    B --> C["フィブリノゲンなどの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasma proteins'>血漿蛋白</span>が漏出"]
    C --> D["トロンビンがフィブリノゲンを切断"]
    D --> E["フィブリン<span class='jp-term jp-term-diagram' title='monomer'>単量体</span>が重合"]
    E --> F["心膜表面に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrinous exudate'>線維素性滲出</span>物"]
    F --> G["線溶・マクロファージ除去"]
    G --> H["構造を回復"]
    F --> I["滲出物が残存"]
    I --> J["線維芽細胞と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neovascularization (new vessels)'>新生血管</span>が侵入"]
    J --> K["器質化・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrous adhesion'>線維性癒着</span>"]

⚠️ フィブリンはフィブリノゲンの「分解産物」ではない。凝固系でトロンビンがフィブリノゲンを切断し、生成したフィブリンが重合・架橋して形成される。

観察の順序

低倍率

  1. 心筋、脂肪、心膜表面の向きを決める。
  2. 心膜表面を覆う厚い桃色の滲出物を探す。
  3. 滲出物によって表面が、粗くなっていることを確認する。
  4. の血管拡張・うっ血を評価する。

高倍率

所見 読み方
フィブリン滲出物 無構造から糸状の好酸性物質が心膜表面へ付着する
うっ血 拡張した小血管内に赤血球が密に充満する
炎症細胞 原因とに応じて好中球・単核球が混在する
脂肪 大型の透明なとして見える正常構造
核周囲の黄褐色顆粒で、に由来する性色素

💡 はの原因ではなく、加齢や細胞傷害のを反映する付随所見として切り分ける。

心筋梗塞後心膜炎

病態 時期と機序 要点
早期梗塞後 後の数日以内 壊死性炎症がへ波及して生じる。の時代にはの1.2%と少ない1
から数週後 ので、発熱、鋭い様胸痛、摩擦音を伴いうる

両者は「」という共通点をもつが、発症時期と機序が異なる。ほかに、、などでもを生じうる。

💡 梗塞後はどちらも減っている。 早期梗塞後のは1万人あたり170(2000年)から110(2013年)へ35%減った1。もの時代に減少しており、と冠動脈形成術によっての範囲が大幅に縮小したことが主因と考えられている2。古典的記載の頻度をそのまま現在に当てはめない。

💡 原因の重心は特発性・ウイルス性へ移っている。 連続入院した原発性100例では特異的な原因が判明したのは22%(腫瘍7・結核4・その他の感染3・3・4・1)にすぎず、はこの内訳に現れない3。とは古典的な原因として押さえたうえで、実際に遭遇する多くは原因を特定できない特発性であると理解する。

偽膜性炎症との比較

病変 の構成と注意点
咽頭ジフテリア 壊死上皮、フィブリン、炎症細胞からなる強固な。無理な剥離で出血し、広範なら気道閉塞を起こしうる
Clostridioides difficile腸炎 壊死粘膜、粘液、好中球、フィブリンを含むがに形成される

性炎症もフィブリンを含むが、心膜表面の単純なとは、や好中球・粘液を含む点が異なる。

まとめ

  • フィブリノゲンはへ漏出後、トロンビン切断と重合によってフィブリンになる。
  • 心膜表面の粗い好酸性滲出物、うっ血、脂肪を順に確認する。
  • 早期梗塞後と、数週後に起こるを区別する。
  • 滲出物が除去されなければ器質化し、へ進みうる。

出典

  1. 1.Incidence and Prognosis of Pericarditis After ST-Elevation Myocardial Infarction (from the Acute Coronary Syndrome Israeli Survey 2000 to 2013 Registry Database)(American Journal of Cardiology・2018)ST上昇型心筋梗塞6282例のうち早期梗塞後心膜炎は76例(1.2%)で、発生率は2000年の1万人あたり170から2013年の110へ35%減少した(傾向のP=0.035)。再灌流までの時間が長く、梗塞範囲が大きい患者に多い閲覧 2026-08-24
  2. 2.Is Dressler syndrome dead?(Chest・2004)1956年にDresslerが記載した心筋梗塞後症候群の発生率は再灌流療法の時代に減少しており、血栓溶解療法と冠動脈形成術が心筋壊死の範囲を大幅に縮小したことが主な理由と考えられる閲覧 2026-08-24
  3. 3.Incidence of specific etiology and role of methods for specific etiologic diagnosis of primary acute pericarditis(American Journal of Cardiology・1995)連続入院した原発性急性心膜炎100例で特異的な原因が判明したのは22例(22%)にとどまり、内訳は腫瘍7、結核4、その他の感染3、膠原病3、甲状腺疾患4、大動脈解離1だった。原発性急性心膜炎で特異的病因が判明するのはおよそ20〜25%と結論している閲覧 2026-08-24