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Disease Atlas · 循環器 · 疾患

Dressler症候群

Dressler syndrome

別名
心筋梗塞後症候群
臓器系
循環器免疫・膠原病
科目
PathologyCardiologyHistopathology
トピック
病理学 A/08:急性心筋梗塞循環器内科 B-06:心筋梗塞の合併症と治療組織病理 H1-047:線維素性心膜炎
上位概念
急性心膜炎
鑑別疾患
肺血栓塞栓症
合併症
胸水
治療薬
アセチルサリチル酸コルヒチンプレドニゾロン
症状
発熱胸痛倦怠感呼吸困難
検査値
C反応性蛋白(CRP)赤沈白血球数心筋トロポニン
画像所見
心嚢液貯留
原因となる疾患
急性冠症候群

🧠 全体像には時間軸で性格の異なる2つの病型があり、梗塞後数日以内に壊死心筋から直接波及する梗塞後早期と、数週〜数か月後に自己免疫機序で生じるDressler症候群を区別することが臨床の核心である——この区別を誤ると、との鑑別や選択(他のNSAIDs・ステロイドは心筋治癒を妨げリスクを高めるため避ける)を誤りかねない。

概要

Dressler症候群は、心筋梗塞・心臓手術・・カテーテル手技や心臓デバイス植込みなど、心膜が傷害される契機の数週間から数か月後に遅れて生じる自己免疫性の(しばしばを伴う)である。1956年にDresslerがの症例として報告したことに由来し、症候群とも呼ばれる。

現在ではこの病態は、契機を問わず同じ免疫機序で生じるという概念でまとめて理解される。には、に生じるDressler症候群のほか、心臓手術後に生じる、心臓カテーテル手技や外傷後に生じるが含まれる。いずれもの傷害を契機にが誘発される点で機序を共有するが、契機が異なる別個の病型であり、Dressler症候群とを同一視することはできない。

の診断・治療の一般論(4項目、NSAIDs+の基本方針、心タンポナーデ・への進展)はを参照し、本ノートではという文脈に特有の要点、すなわち梗塞後早期との対比、との鑑別、心筋治癒を妨げる薬剤の回避に絞って述べる。

病態

正常では心膜と免疫系の間には隔たりがあるが、によって由来の心筋抗原が大量に露出・放出されると、感作された個体でが産生される。これが心膜・胸膜・肺の間質へ免疫複合体として沈着し、遅延型の炎症反応を惹起するという機序が想定されている。抗体産生から組織沈着・症状発現までに時間を要するため、契機となるから数週〜数か月の潜伏期を置いて発症する。

flowchart TD
    A["心筋梗塞による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial necrosis'>心筋壊死</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sarcolemma'>サルコレンマ</span>由来の心筋抗原が露出・放出"]
    B --> C["感作された個体で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-myocardial antibody'>抗心筋抗体</span>が産生"]
    C --> D["免疫複合体が心膜・胸膜・肺間質へ沈着"]
    D --> E["遅延型の炎症反応"]
    E --> F["数週〜数か月後にDressler症候群として発症"]

💡 潜伏期の存在そのものが自己免疫機序を支持する所見である。壊死心筋への直接波及なら梗塞直後に起こるはずだが、Dressler症候群は抗体産生に要する時間だけ遅れて出現する。

梗塞後早期心膜炎との対比

⭐ 「」という共通点をもつ2つの病型を、発症時期と機序で区別する。

項目 梗塞後早期 Dressler症候群
発症時期 梗塞後数日以内(通常1〜3日、の時期と重なる) 梗塞後数週〜数か月(抗体産生に要する潜伏期を経て)
機序 壊死心筋に隣接するへの炎症の直接波及(免疫反応を介さない) 心筋抗原に対する
炎症の範囲 梗塞部に限局したの炎症 心膜全体、しばしば胸膜・肺にも及ぶびまん性の炎症
・随伴所見 あっても少量にとどまることが多い ・胸水・を伴いやすく、発熱・がより顕著
多くは無治療または高用量アスピリン単独で軽快 高用量アスピリン+を要することが多く、再発予防に併用の意義が大きい
経過 保存的に軽快することが多い 再発しうるが、治療反応は良好なことが多い

両者ともである以上、診断・治療の骨格は共通(を参照)だが、発症時期の違いが鑑別の最大の手がかりであり、梗塞後1週間以内の症状は早期を、それ以降・特に数週間以上経ってからの発症はDressler症候群を疑わせる。

疫学

⭐ 梗塞後(早期・Dressler症候群を合わせて)の頻度は、(一次的PCI・)の普及以降に著明に低下している。 Dresslerが最初に報告した時代にはの3〜4%程度にみられたとされるが、梗塞サイズの縮小と早期のが広く行われる現代では、一次的PCI後の頻度は1%を大きく下回るとする報告が多い。頻度は下がったが、遭遇したときにや肺塞栓症としないことの重要性は変わらない。

臨床像

  • 発熱〜中等度の発熱が先行または随伴する。や食欲低下を伴うこともある。
  • 胸痛:典型的には胸膜性の性状で、吸気や仰臥位で増悪し、座位ですると軽快する(と同様の体位依存性)。
  • :一過性のことが多く、聴取されないことも珍しくない。
  • ・胸水:しばしば両側性の胸水を伴い、胸部X線でを認めることもある。
  • 炎症所見の増多、の亢進、(CRP)の上昇を伴う。

⚠️ が急速に増加すれば心タンポナーデへ進展しうる。梗塞後で心機能が低下している患者では少量のでも血行動態への影響が大きくなりやすく、頻脈・血圧低下・などのタンポナーデ徴候を見逃さない。

診断

と同じ4項目のうち2項目以上を満たすことに加え、先行するとの時間的関係を診断根拠に加えるのがDressler症候群に特有の考え方である。

診断項目 内容
吸気・仰臥位で増悪しで軽快する典型的な性状
一過性のことが多く反復を要する
心電図変化 びまん性の(新規)
新規または増悪する 心エコーで評価
時間的関係(Dressler症候群に特有) 心筋梗塞・心臓手術・外傷などのから数週〜数か月という潜伏期を置いていること

心エコーで胸水の評価を行い、CRP・などので活動性を確認する。

心電図:再梗塞との鑑別

のQ波を背景に、Dressler症候群の心電図変化はびまん性を示す。では、限局したST上昇や新規T波変化を伴うことが多い。ただし境界例も少なくないため、心電図所見だけで判断せず必ずと併せて評価する。

鑑別が特に重要であり、以下を必ず考慮する。

⚠️ との区別を誤ると、の判断を誤りかねない。 Dressler症候群をと誤認して不要な緊急カテーテル検査・に進めば、や出血性合併症といったのリスクを不必要に負わせることになる。逆に真のをDressler症候群と誤認すれば、緊急再灌流の機会を逃し梗塞範囲が拡大しうる。と心電図所見の分布(か、びまん性か)を必ず確認したうえでを決める。

治療

高用量アスピリンが第一選択である。アスピリン以外のNSAIDsは急性期の使用を避けるのが原則であり、の併用が再発予防に有効とされる。

⚠️ 梗塞後急性期には、アスピリン以外のNSAIDs(特に)と副腎皮質ステロイドを避ける。 梗塞巣はマクロファージによる壊死組織の除去が進む3〜7日目にもっとも脆弱で、その後のを経て数か月かけて瘢痕として成熟する。この時期にが妨げられるとが遅れ、や梗塞範囲の拡大につながる懸念がある。でもこれらの薬剤が梗塞治癒を遅延させることが示されており、この原則は2015年のESCガイドラインでも明記されている。

  • ステロイドは、アスピリン・NSAIDsが禁忌の場合や難治例に限って、可能な限り緩徐にしながら、を併用したうえで用いる。予後や再発率の面でも第一選択とはされない。
  • 梗塞後の患者はや心房細動を理由に抗凝固薬を併用していることが多く、の増量時は継続の必要性と出血性心タンポナーデのリスクを個別に比較して評価する。血行動態に影響するや心タンポナーデにはが適応となる。
  • 再発性のに対する長期投与や難治例への対応は、の再発性の項に準じる。

予後

大多数は自然軽快するか治療に良好に反応し、予後は一般に良好である。ただし再発しうるため、による再発予防が推奨される。への進展はまれだが、を反復する例では経過観察を要する。

まとめ

  • Dressler症候群は数週〜数か月して生じる自己免疫性ので、心臓手術後のなどとともにという概念に含まれるが、両者は契機が異なる別個の病型である。
  • 梗塞後数日以内に壊死心筋から直接波及する梗塞後早期とは、発症時期・機序・炎症の範囲で区別する。
  • の普及により頻度は著明に低下したが、遭遇時は・肺塞栓症・肺炎・心不全・感染性との鑑別、特にとの誤認による抗凝固・再灌流判断の誤りに注意する。
  • 治療は高用量アスピリン+が第一選択で、梗塞後急性期はアスピリン以外のNSAIDsと副腎皮質ステロイドを避ける(心筋治癒遅延・の懸念)。
  • 一般的なの診断・治療・タンポナーデ対応はを参照。