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Disease Atlas · 循環器 · 疾患

リウマチ熱・リウマチ性心疾患

Rheumatic fever and rheumatic heart disease

別名
RFRHD急性リウマチ熱
臓器系
循環器免疫・膠原病
科目
Pathology
トピック
病理学 B/31:リウマチ熱・リウマチ性心筋炎
鑑別疾患
若年性特発性関節炎
続発疾患
感染性心内膜炎慢性心不全大動脈弁閉鎖不全症僧帽弁閉鎖不全症僧帽弁狭窄症急性心膜炎心筋炎心房細動
治療薬
ベンザチンペニシリンペニシリンVアセチルサリチル酸ナプロキセンパラセタモール
原因微生物
Streptococcus pyogenes / GAS
症状
紅斑情緒不安定辺縁性紅斑皮下結節
検査値
C反応性蛋白(CRP)抗体価赤沈
スコア
Jones基準
組織像
リウマチ性心筋炎
元疾患
急性扁桃炎・扁桃周囲膿瘍猩紅熱

🧠 全体像は、Streptococcus pyogenes)咽頭炎に対するが、によって心臓・関節・皮膚・中枢神経の自己組織を誤って攻撃してしまうである。急性期はなどとして現れ自然に消退するが、を中心にだけが不可逆に蓄積し、数年〜数十年後に(弁膜症)として表面化する。診断はに依拠し、治療の柱はのコントロールと、・弁病変の進行を防ぐための長期筋注()である。

概要・病態

  • 原因菌Streptococcus pyogenes)による咽頭炎が先行する。菌自体は心臓や関節に感染せず、咽頭にとどまったまま免疫反応だけが全身に波及する点が特徴。
  • :先行する咽頭炎から1〜6週後に発症する。だけは例外的にが長く、数か月に及ぶこともある。
  • 好発年齢5〜15歳。乳幼児期の発症は稀。
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='group A beta-hemolytic streptococcus'>A群β溶血性連鎖球菌</span>咽頭炎<br>(菌は扁桃にとどまる)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='streptococcal'>連鎖球菌</span>のM蛋白などの抗原に対し宿主抗体・T細胞が産生される"]
    B --> C["抗原と心筋・弁・関節滑膜・皮膚・大脳基底核の<br>糖蛋白との構造類似"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='molecular mimicry'>分子相同性</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='molecular mimicry'>分子擬態</span>)による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cross-reactivity'>交差反応</span>"]
    D --> E["自己免疫的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue injury'>組織傷害</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='type II hypersensitivity reaction'>II型過敏反応</span>が主体)"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pancarditis'>汎心炎</span><br>(心内膜・心筋・心膜)"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Migratory polyarthritis'>遊走性多関節炎</span>"]
    E --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Sydenham chorea'>Sydenham舞踏病</span><br>(大脳基底核)"]
    E --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythema marginatum'>辺縁性紅斑</span>・皮下結節"]
    F --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='valve leaflet'>弁尖</span>の疣贅・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Aschoff body'>Aschoff小体</span>"]
    J -->|"急性期は自然消退するが<br>弁の器質化・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scarring'>瘢痕化</span>だけ残る"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='commissural fusion'>交連部癒合</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='valve leaflet'>弁尖</span>肥厚"]
    K --> L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic rheumatic heart disease'>慢性リウマチ性心疾患</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mitral stenosis'>僧帽弁狭窄</span>が最多)"]

💡 の心臓以外の病変(関節炎・紅斑・結節)は自然消退してを残さないが、心臓だけはという形で記憶が残る。これが「心臓をなめて関節を噛む」という古典的な言い回しの意味であり、慢性期に問題となるのは心臓だけである。

診断基準(改訂JONES基準)

2015年のAHA改訂版JONES基準は、先行する感染の証拠などの上昇、陽性、陽性のいずれか)を原則必須とした上で、初発は2つ、または1つ+2つを満たすことで診断する。旧来との最大の違いは、心エコー・ドプラでのみ検出されるに加えたこと、そして発症率によって基準を層別化したことにある1

低リスク人口の定義:学齢期小児(5〜14歳)の発症率が10万人あたり2人以下、または全年齢のが1000人あたり1人以下の集団。それ以外は中〜高リスク人口として扱う。

区分 低リスク人口 中〜高リスク人口
臨床的、および/または心エコーでの 同左
:関節炎 のみ 、または(他疾患を除外した上で)
:その他 、皮下結節 同左
:発熱 38.5℃以上 38.0℃以上
単関節痛
:炎症反応 ESR 60mm/時(初回1時間値)以上、および/またはCRP 3.0mg/dL以上 ESR 30mm/時以上、および/またはCRP 3.0mg/dL以上
:心電図 年齢を補正したPR間隔延長(として使われていない場合のみ) 同左

⚠️ 関節に関する所見()は、同一患者で二重にカウントしてはならない。また、ではまたはの既往が確認されていれば、2つ、または1つ+2つ、または3つで診断可としてよい。

⚠️ との混同に注意する。 先行感染に伴う関節炎でJONES基準を満たさない例は、ではなくPSRAに分類される。PSRAはから関節炎までのより長く、非移動性で遷延し、NSAIDsへの反応もほど劇的でない点が鑑別の手がかりになる。ただしPSRAと診断された小児の一部が後にを発症した報告があり、の合併を除外できるまでは心エコーによる経過観察を要する1

臨床像

  • :最も高頻度かつ予後を左右する所見。として心内膜・心筋・心膜が同時に侵される。では新規の雑音(・大動脈)が典型的で、や頻脈を伴うこともある。
  • :大関節(膝・・肘・手関節)を数日単位で次々と侵す、非対称性・移動性の関節炎。NSAIDsへの反応が劇的で、無治療でも自然に消退し関節変形を残さない。
  • :不随意・非律動的・目的のないを伴い、しばしば片側優位。からのが長く、他の major criteria がすでに消退した後に単独で出現することもある。
  • :体幹・四肢近位に出現する、中心がし辺縁が輪状に広がる一過性の紅斑。顔面には出ない。
  • 皮下結節:肘・膝・後頭部・脊椎上などの伸側に触れる、無痛性の硬い結節。を伴う症例に多い。

心病変の経過:急性期の弁膜炎から慢性弁膜症へ

  • 急性期:弁のに沿って小さな疣贅(フィブリン・免疫グロブリン沈着)が形成される(は心筋・心内膜・心膜のいずれにも出現しうる病理学的特徴で、を取り囲むリンパ球・形質細胞・活性化マクロファージ=から成る腫)。この時点での弁機能障害は主に閉鎖不全(逆流)である。
  • 慢性期:急性期の炎症が反復・遷延すると、器質化・によりの癒合、の肥厚・短縮が進む。結果として弁口が狭小化し、」「ボタン穴状」の狭窄を来す。
  • が最も侵されやすい理由:左房・左室間のが大きく血流にさらされる時間が長いこと、収縮期・拡張期を通じてが繰り返し高い機械的ストレスを受けることから、4つの弁の中で最も頻繁かつ高度に侵される(単独罹患で最多)。大動脈弁がこれに次ぐ。の関与は稀。
  • は、による心房細動へのの波及、した弁へのの高リスクという形で長期予後に影響する。

⚠️ 慢性期に残るのは心臓の瘢痕だけであり、関節炎・・皮膚病変は治療の有無にかかわらずを残さずに消退する。予後を規定するのはの重症度と再発の有無である。

診断(検査所見と心エコーの役割)

検査 目的・所見
先行感染の証明 などの上昇(連続測定でより確実)、陽性、陽性のいずれか。の前提条件
炎症反応(ESR・CRP) の判定に用いる。を除き、これらが正常のままと診断することは通常ない
心電図 PR間隔延長(遅延)を評価する。として使われていない場合にのみとして計上できる
⭐ 心エコー・ドプラ 全例で施行すべき検査。臨床的にがなくても弁逆流の所見()を検出でき、2015年改訂でに格上げされた。診断確定後も経過中に繰り返し評価し、弁病変の進行を追跡する

💡 心エコーは「がある症例でを確認する」から、「がなくてもを見つけ出す」へと位置づけが変わった。これが2015年改訂の中心的な変更点である。

治療

急性期の抗炎症治療

  • 関節炎・発熱に対して:高用量アスピリン()またはなどのNSAIDsが第一選択。関節炎はNSAIDsに劇的に反応するため、診断確定前にNSAIDsを投与すると典型的な移動性のパターンが不明瞭になり診断を誤らせうる。⚠️ そのため、診断が確実になるまではNSAIDsの開始を控え、症状緩和にはを用いるのが望ましい。
  • に対するステロイドの位置づけ:中等症〜重症の(有意な弁逆流、心不全徴候を伴う場合)にはを考慮する。ただし、長期予後(慢性弁膜症への進行や死亡)を改善するという確立したエビデンスはなく、あくまで急性期の炎症・症状コントロールを目的としたという位置づけにとどまる。
  • 心不全を伴う重症:利尿薬・ACE阻害薬など通常の心不全治療を併用する。

舞踏病の治療

  • 多くは支持療法(静穏な環境、安全確保)のみで自然軽快する。
  • 症状が重度で日常生活に支障をきたす場合は、バルプロ酸やなどの薬物療法を考慮する。

咽頭炎の治療と二次予防(ベンザチンペニシリン)

診断確定時には、が陰性であってもの除菌を目的とした抗菌薬治療(の単回筋注、またはの10日間内服)を行う。その後は再発予防のための長期へ移行する。

  • レジメンG 120万単位を4週ごとに筋注するのが標準。の発症率が特に高い集団や再発リスクの高い患者では3週ごとへの短縮が推奨される(血中濃度が4週目に達する前に予防域を下回りうるため)2。ペニシリンアレルギーがある場合や筋注が困難な場合は、経口の連日内服などで代替する。
分類 の期間3
を伴わない 最終発作から5年、または年齢21歳まで、いずれか長い方
を伴うが弁膜症の遺残なし 最終発作から10年、または年齢21歳まで、いずれか長い方
を伴い弁膜症が遺残 最終発作から10年、または年齢40歳まで、いずれか長い方(重症例・再曝露リスクが高い場合は生涯継続を検討)

の目的は初発の治療ではなく、再発による弁病変の追加蓄積を防ぐことにある。慢性弁膜症の重症度は初発時ではなくした発作回数に大きく左右されるため、期間中の内服・注射が長期予後を左右する。

慢性リウマチ性心疾患への対応

弁病変が進行して症候性の狭窄・閉鎖不全に至った場合は、他の弁膜症と同様にとなる。詳細な適応・術式選択はの各ノートを参照。

まとめ

  • 咽頭炎後のによる自己免疫疾患で、から1〜6週のをおいて5〜15歳に好発する。
  • 診断は(先行感染の証拠が原則必須、2つまたは1つ+2つ)による。2015年改訂で心エコーによるに加わり、のリスク(低リスク/中〜高リスク)によって関節炎・発熱・ESRのが異なる。
  • 臨床像は・皮下結節から成り、心臓以外はなく消退するが、弁(特に)だけはが蓄積し(狭窄)へ進行する。
  • 治療は急性期のNSAIDs(診断確定前は避けで対症)、重症へのステロイド、への支持療法・薬物療法、そして再発予防のための筋注による長期・弁病変の遺残の有無で期間が5年〜生涯まで変わる)から成る。

出典

  1. 1.Revision of the Jones Criteria for the Diagnosis of Acute Rheumatic Fever in the Era of Doppler Echocardiography: A Scientific Statement From the American Heart Association(American Heart Association・2015)2015年改訂JONES基準で先行溶連菌感染の証拠を原則必須化し、心エコーでの潜在性心炎を大基準に加え、対象集団を低リスク/中〜高リスクに層別化したこと、および反応性関節炎(PSRA)との鑑別上の注意点を確認した。閲覧 2026-08-03
  2. 2.Prevention of Rheumatic Fever and Diagnosis and Treatment of Acute Streptococcal Pharyngitis: A Scientific Statement From the American Heart Association(American Heart Association・2009)リウマチ熱発症率が特に高い集団や再曝露リスクの高い患者では、血中ペニシリン濃度が4週目までに予防域を下回りうるため、ベンザチンペニシリンGの投与間隔を3週ごとへ短縮することがClass I推奨であることを確認した。閲覧 2026-08-03
  3. 3.2020 ACC/AHA Guideline for the Management of Patients With Valvular Heart Disease(American College of Cardiology/American Heart Association・2021)リウマチ熱の二次予防期間が、心炎を伴わない例は最終発作から5年または21歳まで、心炎を伴い弁膜症の遺残がない例は10年または21歳まで、弁膜症が遺残する例は10年または40歳まで(いずれも長い方、重症例は生涯継続を検討)であることを確認した。閲覧 2026-08-03