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Disease Atlas · 循環器 · 疾患

僧帽弁閉鎖不全症

Mitral regurgitation

別名
MR
臓器系
循環器
科目
CardiologyPathology
トピック
循環器内科 A-13:僧帽弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症の診断循環器内科 B-02:僧帽弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症の治療病理学 B/32:変性性弁膜症(石灰化大動脈弁狭窄・僧帽弁逸脱)
上位概念
心臓弁膜症
続発疾患
慢性心不全
関連疾患
僧帽弁狭窄症大動脈弁閉鎖不全症
治療薬
エナラプリルバルサルタン+サクビトリルスピロノラクトンフロセミド
症状
動悸労作時呼吸困難
元疾患
エーラス・ダンロス症候群
原因となる疾患
マルファン症候群リウマチ熱・リウマチ性心疾患拡張型心筋症感染性心内膜炎急性冠症候群虚血性心筋症

🧠 全体像(MR)は収縮期に左室から左房へ血液が逆流するの疾患である。と同様、急性MRは代償する間もなく正常サイズ・低コンプライアンスの左房へ逆流が突入して肺水腫・ショックに至る外科的緊急である一方、慢性MRは左房・左室がともに拡大しながら何年も無症状で経過しうる。もう一段重要な軸が、逆流の原因がそのものの異常(一次性/MR)か、は正常なまま左室・の形が歪んで生じる機能的異常(二次性/機能性MR)かという区別で、この2系統は手術適応の考え方も治療の第一選択も異なる。

概要・病態:急性MRと慢性MRの対比

が収縮期に完全に閉じきらず、左室から左房へ血液が逆流する状態がMRである。逆流を受け止める左房の状態が、急性MRと慢性MRを臨床的に別の疾患のように分ける。

  • 慢性MR:逆流が緩徐に増加するため、左房は時間をかけて拡大・コンプライアンス増大で代償し、大量の逆流容量を受け止めても左房圧の上昇を長期間抑えられる。左室も・拡大で前方への有効心拍出量を維持する。この代償相は数年〜数十年に及び、その間ほぼ無症状である。
  • 急性MRによるや、に伴うのように逆流が突然生じると、左房に拡大・コンプライアンス増大の時間がない。正常サイズ・低コンプライアンスの左房へ大量の逆流が流入するため左房圧がに上昇し、に至る。左室もまだ拡大していないため前方拍出量が急減し、に陥りやすい。
項目 急性MR 慢性MR
左房の変化 代償する時間がなく正常サイズ・低コンプライアンスのまま 拡大・コンプライアンス増大で代償
左房圧 に上昇 長期間は比較的保たれる
左室の変化 まだ十分に拡張していない ・拡大
症状の経過 突然の 何年も無症状、進行すると・心房細動
代表的原因 によるによる 、虚血性・による機能性MR
対応 外科的緊急 心エコーでの定期フォローと、基準を満たした時点での優先の介入
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mitral regurgitation'>僧帽弁閉鎖不全</span>(MR)"] --> B{"逆流の発症は急性か慢性か"}
    B -->|"急性(IE<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chordal rupture'>腱索断裂</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='papillary muscle rupture'>乳頭筋断裂</span>・外傷)"| C["左房が代償する時間がない"]
    C --> D["正常サイズ・低コンプライアンスの左房へ逆流"]
    D --> E["左房圧が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steep (dose gradient)'>急峻</span>に上昇"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute pulmonary edema'>急性肺水腫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiogenic shock, CS'>心原性ショック</span>"]
    F --> G["外科的緊急"]
    B -->|"慢性(進行が緩徐)"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left atrial enlargement'>左房拡大</span>・コンプライアンス増大で代償"]
    H --> I["左房圧上昇を長期間抑制"]
    I --> J["長期間は無症状"]
    H --> K["持続する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='volume overload'>容量負荷</span>"]
    K --> L["左室<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eccentric hypertrophy'>遠心性肥大</span>・拡大"]
    L --> M["低抵抗の左房への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ejection'>駆出</span>で見かけのLVEFが保たれる"]
    M --> N["症状顕在化 または 無症候のまま基準到達"]
    N --> O["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mitral valve repair'>僧帽弁形成術</span>優先の介入"]

💡 慢性MRでは左室が低圧の左房へ血液をできるためが実質的に軽くなり、心筋自体の収縮不全が始まっていてもLVEFは見かけ上正常〜高値に保たれやすい。LVEFが(≤60%)を下回った時点で、実際にはすでにかなりの心筋障害が進行している——この「見かけのLVEFに騙されない」視点が、慢性重症MRの手術タイミングを考えるうえでの核心である。

病因:一次性(器質性)MRと二次性(機能性)MR

MRの原因は、自体の異常による一次性()MRと、は構造的に正常だが左室・の形態変化によりを来す二次性(機能性)MRの2系統に大別される。と共通する病因の詳細はそちらを参照。

系統 主な原因 機序
一次性()MR 症( の膨化・の伸展により収縮期にが左房側へ逸脱しを来す。先進国での最多原因
変性性またはMVPに続発し、支持を失ったする(
短縮によると混在することが多い
疣贅による穿孔・破壊、様組織の
二次性(機能性)MR 虚血性MR の虚血・線維化による牽引、またはとしての(後に多い)
によるMR の外側・下方偏位を招き、が左室側へ牽引されてとなる
心房性機能性MR 長期の心房細動による左房・が主体で、左室機能・サイズは保たれることがある

⚠️ 一次性MRは「弁自体が壊れている」病態、二次性MRは「弁は正常だが周りの構造が歪んで弁を引っ張っている」病態という理解が、手術適応やの違いを追ううえでの出発点になる。

Carpentier分類

の運動様式から逆流の機序を分類する体系で、原因を問わず病態を整理できる。

分類 の運動 代表的な原因
Type I 正常(穿孔による) 二次性MRの型、IEによる穿孔
Type II 過剰運動(逸脱・ 症、
Type IIIa 制限運動(収縮期・拡張期とも) 弁膜症
Type IIIb 制限運動(収縮期のみ) 虚血性MR、による機能性MR

⭐ Type IIは一次性MRの代表的な機序、Type IIIbは二次性(虚血性・機能性)MRの代表的な機序として対応づけて覚えると、がつながる。

臨床像・身体所見

慢性MRは長期無症状で経過し、代償が破綻すると(心房細動の合併)が出現する。急性MRは前触れなくとして発症する。

では、とし左腋窩へ放散する全収縮期性の雑音が特徴で、で増強する。症では特徴的なに続くを聴取することがある。Ⅰ音は減弱し、重症例ではを反映した過剰なⅢ音を聴取する。

⚠️ 急性重症MRでは、逆流の受け皿となる左房が拡大していないため、特徴的な全が短く不明瞭になったり聴取されにくいことがある。「雑音が目立たない=軽症」ではなく、・ショックの臨床像そのものから重症MRを疑う必要がある。

診断・重症度評価

心エコーがMRの診断・重症度評価の中心的検査であり、①の形態・逆流の機序()、②逆流の重症度、③左房・左室のサイズと機能、④、を一度に評価する。

評価項目 主な指標
定性的重症度 の幅、での面積、血流の収縮期逆転
定量的重症度
⭐ 重症の目安(一次性MR) 幅 ≥7 mm、 ≥60 mL/拍、 ≥50%、EROA ≥0.40 cm²
左室・左房評価 LV径・径(LVESD)、LVEF、(慢性化の指標)
の推定

⚠️ 二次性MRでは、同じEROAでも左室が大きいために相対的な比が小さくなる(「」か「不釣り合い(disproportionate)」かという枠組み)ため、一次性MRと同じ数値をそのまま重症度の境界に当てはめてよいかは議論があり、EROA ≥0.30 cm²・ ≥45 mL/拍を重症とする介入試験(COAPT試験など)もある。二次性MRの重症度評価は一次性MRよりも慎重な解釈を要する。

術前にはの解剖を精査し、耐久性のある形成術が可能かを評価する。

治療

急性MR:外科的緊急

急性重症MRは薬物治療で安定化を待つ余地がほとんどなく、緊急手術を要する。による急性MRでは、心不全徴候やなどの合併症があれば抗菌薬治療のを待たずに緊急手術を検討する。によるは手術までの橋渡しにとどまる。

慢性一次性MR:手術適応と形成術優先の原則

症候性重症一次性MRはLVEFにかかわらず手術の適応となる。 無症状であっても、以下のいずれかを満たせば早期の手術を検討する。

  • 無症候性重症MR+LV収縮機能低下:LVEF ≤60%(他に原因のない低下)は明確な手術適応。
  • 無症候性重症MR+高度LV拡大:LVESD >40 mm。
  • 新規発症の心房細動、または安静時肺高血圧(PASP >50 mmHg):LVEF・LVESDが基準未満でもを支持する所見。
  • 他の心臓手術を同時に行う場合:CABGなど他のを予定している場合は同時に/置換術を検討する。

💡 慢性一次性MRの手術適応は「症状が出るのを待つ」のではなく、「不可逆的な左室障害が進む前に先回りする」発想で組まれている。だからこそLVEF≤60%という、AR(LVEF≤55%)より高めの閾値が設定されている——低抵抗の左房へ逃げる分だけLVEFが実際の心筋障害を過小評価しやすいためである。

耐久性のあるが可能なら、置換術より優先する。 熟練施設ではMVP由来の一次性MRの95%以上で形成術が可能とされ、温存により血栓塞栓症・併症のリスクを避けられる。が高い症候性重症一次性MRでは、解剖学的に適していれば(TEER、MitraClipなど)を検討する。

慢性二次性(機能性)MR:GDMTが第一選択

⚠️ 二次性MRは弁自体ではなく左室・の歪みが原因であるため、まず基礎心疾患に対する標準的心不全治療(GDMT:ACE阻害薬/ARB/ARNI、β遮断薬、、SGLT2阻害薬、適応があれば)を最適化することが第一選択となる。左室のリモデリングが改善すればも縮小し、MRそのものが軽減しうる。

GDMTを最適化してもなお重症・症候性の二次性MRが残る場合に、次の介入を検討する。

  • 他の(CABGなど)を予定している場合は同時に/置換術を検討する。
  • 単独の外科的は、二次性MRでは形成術後の逆流再発率が一次性MRより高く生命予後改善の根拠も一次性MRほど強固ではないため、位置づけは限定的である。
  • 解剖学的条件(LVEF 20〜50%、LV径 ≤70 mm、PASP ≤70 mmHg など)を満たす症候性重症例では、TEERがGDMT単独より症状・予後を改善しうる有力な選択肢となる。
flowchart TD
    A["重症MRと診断"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Onset'>発症様式</span>は急性か慢性か"}
    B -->|"急性"| C["緊急手術"]
    B -->|"慢性"| D{"一次性か二次性か"}
    D -->|"一次性(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='organic (disease)'>器質性</span>)"| E{"症状の有無"}
    E -->|"症候性"| F["LVEFにかかわらず手術の適応"]
    E -->|"無症候性"| G{"LVEF ≤60%<br>またはLVESD >40mm<br>または新規AF・PASP >50mmHgか"}
    G -->|"該当する"| F
    G -->|"該当しない"| H["心エコーで定期フォロー"]
    F --> I["形成術可能なら形成術を優先<br>高リスク例ではTEERを検討"]
    D -->|"二次性(機能性)"| J["まずGDMTを最適化"]
    J --> K{"最適化後も重症・症候性か"}
    K -->|"はい"| L["他の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='open-heart surgery'>開心術</span>予定なら同時修復/置換<br>単独ならTEER(解剖適合例)を検討"]
    K -->|"改善"| M["GDMTを継続しフォロー"]

まとめ

  • MRは左室から左房への収縮期逆流によるの疾患で、逆流を受け止める左房の代償能力の有無が急性MRと慢性MRを臨床的に分ける。急性MRは正常サイズ・低コンプライアンスの左房へ逆流が突入し肺水腫・ショックに直結する外科的緊急、慢性MRは左房・左室の拡大により長期無症状となりうる。
  • 病因は自体の異常(一次性/症、)と、は正常なまま左室・の形態変化で生じる(二次性/機能性:虚血性、、心房性)に大別され、(Type I〜IIIb)で運動の機序を整理できる。
  • の全収縮期性雑音が特徴で、心エコーで幅・・EROAとLV/LA径・LVEF・PASPを評価する。慢性MRでは低抵抗の左房へのにより見かけのLVEFが保たれやすく、LVEF ≤60%という閾値は「基準を下回った時点ですでに心筋障害が進行している」ことを意味する。
  • 急性重症MRは緊急手術。慢性一次性MRは症候性重症例(LVEF不問)と無症候性重症例+LVEF ≤60%またはLVESD >40mm、新規AF、安静時PASP >50mmHgが手術適応で、耐久性ある形成術を置換術より優先する。
  • 慢性二次性MRはまずGDMTの最適化が第一選択で、それでも重症・症候性が残れば他のとの同時手術や、解剖学的に適した例へのTEERを検討する。単独のは二次性MRでは逆流再発率が高く位置づけが限定的である点が一次性MRと対照的である。