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Disease Atlas · 循環器 · 疾患

心室瘤(真性心室瘤・仮性心室瘤)

Ventricular aneurysm

別名
左室瘤仮性心室瘤心室仮性瘤
臓器系
循環器
科目
Pathology (Histopathology)Cardiology, Heart Surgery, Angiology, Vascular SurgeryPathology
トピック
組織病理 H1-009:陳旧性心筋梗塞と心室瘤循環器内科 B-06:心筋梗塞の合併症と治療病理学 A/08:急性心筋梗塞
鑑別疾患
心筋症
続発疾患
慢性心不全心室性不整脈(心室頻拍・心室細動)僧帽弁閉鎖不全症脳梗塞循環性ショック
治療薬
ワルファリンアピキサバン
症状
呼吸困難動悸失神胸痛
画像所見
心尖部瘤左室血栓
原因となる疾患
急性冠症候群

🧠 全体像:で最初に決めるべきことは「瘤があるかないか」ではなく、かかである。は後のがにした病変で、(しているが心内膜・心筋を含む)が壁を構成し、開口部が広く、破裂しにくい。は心筋の破裂を心膜・血栓が覆っただけの構造で、を欠き、開口部が狭く、破裂・心タンポナーデのリスクが高い緊急疾患である。このが、経過観察でよいか緊急外科評価が要るかを決める。

病因と分類

は、(とくにの)後にが収縮できないへ置き換わり、な左室内圧によって菲薄化した壁が外方へ膨隆して生じる。心筋梗塞全体の10〜35%にが生じ、での頻度が高い1。

は、の破裂が完全な・突然死に至らず、心膜または器質化した・血栓に被覆されて成立した病態であり、と異なり(心内膜・心筋)を欠く2。⚠️ の()そのものは全MIの約1.8%に生じるが、その大半は・突然死に至り、心膜・血栓でされてとして生存するのは一部にとどまる。自体のはこれよりはるかに低く、を受けた患者では0.23%と報告されている2。心筋梗塞が最多の原因で、心臓手術(など)やも原因になる2。

真性瘤と仮性瘤の鑑別

⭐ この鑑別を誤ると、経過観察でよいを緊急手術にかける、あるいは逆に緊急外科評価が必要なを経過観察してしまう。

項目
成立機序 梗塞壁のとな を心膜・血栓が被覆
瘤壁の構成 菲薄化した心筋壁がに置換(を含む) 主に心膜と。を欠く
心室との交通(開口部) 広い 狭い(くびれる)
相対的に低い 高い。緊急手術の適応
主な問題 心不全、不整脈、・塞栓 再破裂と心タンポナーデ

⚠️ 「だから絶対に破裂しない」わけではない。瘢痕が完成した慢性期のは破裂しにくいが、瘤が形成されつつある段階での破裂は報告されている3。

臨床像と合併症

の主な合併症は次の4つに整理できる。

合併症 機序
心不全 瘤部が収縮に寄与せず、が低下する
瘢痕との境界がを形成する
・ 腔内のにより血栓が形成され、剥離すると脳・腎・脾などへ流出する
が位置と形態を変える

💡 は「見つけにくいのに破裂しやすい」。 290例のレビューでは10%超が無症候で、心電図異常はほぼ全例にあるものの多くは非特異的なST変化にとどまり(ST上昇は20%のみ)、胸部X線の腫瘤像が半数超で唯一の手がかりだった。治療にかかわらず死亡率が高く、とくに手術を受けなかった例で高い4。無治療のはが高く、死亡率は約50%と推定される2。

診断

心エコーが第一選択だが、は描出困難な部位で瘤・血栓を見落としやすい。(CMR)は瘤の形態、による、血栓の描出のいずれにも優れる正本の検査であり、(広い開口部、の壁)と(狭い頸部、を欠く壁)の区別にも用いる。詳細なの要点は・の各ノートに譲る。

心電図では、後も持続するST上昇がの古典的な所見として広く報告されている5。⚠️ ただし画像検査でが確認された症例でもST上昇を伴わずのみにとどまる例が報告されており、心電図がでも瘤の存在を否定しない5。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiac apex (apex of the heart)'>心尖部</span>・左室壁の膨隆や<span class='jp-term jp-term-diagram' title='wall motion abnormality'>壁運動異常</span>を疑う所見"] --> B["心エコーで評価"]
    B --> C["過去画像と比較し新規出現か既知病変の変化かを確認"]
    C --> D{"開口部・壁構成は?"}
    D -->|"開口部が狭い、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardium'>心筋層</span>を欠く、急速拡大"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudoaneurysm'>仮性瘤</span>として緊急外科評価"]
    D -->|"開口部が広い、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scarred myocardium'>瘢痕心筋</span>が壁を構成、安定"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='true aneurysm'>真性瘤</span>としてCMRで血栓・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arrhythmogenic substrate'>不整脈基質</span>を評価"]
    F --> G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='refractory heart failure'>難治性心不全</span>・血栓塞栓症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lethal arrhythmia'>致死性不整脈</span>・狭心症を合併するか"}
    G -->|"はい"| H["手術(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left ventricular reconstruction'>左室形成術</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='revascularization'>血行再建</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='concomitant (performed together)'>併施</span>)を検討"]
    G -->|"いいえ"| I["内科的治療と定期的な画像フォロー"]

治療

の存在単独は手術適応にならない。手術(・で、多くはを同時施行)は、持続する狭心症、、血栓塞栓症、のいずれかを合併したときに考慮する1。を認めた場合は、血栓の可動性・突出度と背景疾患に応じてワルファリンまたはなどの適応を検討する(詳細はのノートを参照)。

は、破裂・心タンポナーデのリスクが高いため、原則としてが推奨される。は改善傾向にあるものの約20〜23%と依然高く、無治療の場合の死亡率(約50%)と比較して手術が支持される。ただし、致死的破裂の証拠を認めなかった症例集積を根拠にを推奨する報告もあり、とのどちらを選ぶかは患者のも踏まえて意見が分かれる2。

まとめ

  • でまず区別すべきは(を含む壁、広い開口部、破裂しにくい)と(を欠く壁、狭い開口部、破裂しやすい緊急疾患)である。
  • は(が多い)後に生じ、MI全体の10〜35%を占める。主な合併症は心不全、、・、である。
  • は破裂を心膜・血栓が被覆した病態で、心筋梗塞のほか心臓手術・でも生じ、無治療での死亡率は約50%に達する。
  • 診断は心エコーで開始し、()で瘤の壁構成・血栓の有無を確認する。
  • は合併症(・血栓塞栓症・・狭心症)を伴うときに限り手術を検討し、はの高さから原則としてを行う。

出典

  1. 1.Left Ventricular Reconstruction for Postinfarction Left Ventricular Aneurysm: Review of Surgical Techniques(Texas Heart Institute Journal・2017)貫壁性心筋梗塞後の真性左室瘤が全MIの10〜35%に生じ前壁貫壁性梗塞で多いこと、真性瘤は左室壁全層が瘢痕組織に置換され心膜嚢と癒着すること、瘤の存在単独は手術適応でなく持続性狭心症・難治性心不全・血栓塞栓症・致死的頻脈性不整脈の合併時に手術(左室形成術)を考慮すること、主な合併症が不整脈・心不全・壁在血栓を介した血栓塞栓症であることを確認した(全文閲覧)。閲覧 2026-09-02
  2. 2.Left Ventricular Pseudoaneurysm: A Rare but Fatal Complication of Myocardial Infarction(Cureus・2024)仮性心室瘤が心膜または瘢痕組織に被覆された心室自由壁破裂であり心筋層(心内膜・心筋)を欠く点で真性瘤と異なること、心筋梗塞後の心破裂(自由壁破裂)自体は全MIの約1.8%に生じその大半が血心膜症・突然死に至ること、仮性瘤そのものの発生率は心臓カテーテル検査例で0.23%(Csapoらの報告)にとどまること、心臓手術・胸部外傷も仮性瘤の原因になること、無治療の仮性瘤は破裂リスクが高く死亡率約50%と推定されること、外科的修復が定義的治療とされる一方でMorenoらの症例集積は致死的破裂の証拠が無かったとして保存的管理を推奨しており保存的管理か外科的修復かは患者の併存疾患次第で意見が分かれる("up for debate")こと、手術修復の死亡率は改善しつつも約20〜23%と報告されていることを確認した(全文閲覧)。閲覧 2026-09-02
  3. 3.True and false left ventricular aneurysms. Propensity for the latter to rupture(Circulation・1975)左室の慢性仮性心室瘤は小さくても破裂して血心膜症・突然死を来しうるのに対し、慢性の真性心室瘤は破裂しない傾向にあること。ただし真性心室瘤でも瘤が形成されつつある段階での破裂は起こりうること。閲覧 2026-09-02
  4. 4.Left ventricular pseudoaneurysm(Journal of the American College of Cardiology・1998)左室仮性心室瘤290例のレビューで、多くが心筋梗塞(とくに下壁梗塞)と心臓手術に関連し、10%超は無症候、心電図異常はほぼ全例にあるが多くは非特異的ST変化でST上昇は20%のみ、胸部X線での腫瘤像は半数超で見られ、治療にかかわらず死亡率が高く、とくに手術を受けなかった例で高いこと。閲覧 2026-09-02
  5. 5.Left Ventricular Aneurysm May Not Manifest as Persistent ST Elevation on Electrocardiogram(American Journal of Case Reports・2017)心筋梗塞後も持続するST上昇が真性左室瘤の心電図所見として最も広く報告されてきたこと(Cohnらの剖検を用いたスクリーニング研究に基づく)、ただし著者らが報告した症例では画像検査で真性瘤が確認されたにもかかわらずST上昇を伴わずT波陰転化のみを呈しており、心電図が非典型的でも真性瘤を否定できないことを確認した(全文閲覧)。閲覧 2026-09-02