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Disease Atlas · 循環器 · 症候群

心腎症候群

Cardiorenal syndrome

別名
Cardio-renal syndrome
臓器系
循環器腎・泌尿器
科目
Translational Medicine and PathophysiologyInternal Medicine
トピック
病態生理学 II-10:慢性腎不全における臓器変化内科学 L-01:心不全
関連疾患
急性腎障害慢性心不全慢性腎臓病
治療薬
フロセミドダパグリフロジン
症状
頸静脈怒張浮腫乏尿呼吸困難
検査値
クレアチニンNa排泄分画ナトリウム利尿ペプチド尿素窒素
元疾患
右心不全

🧠 全体像:は病名ではなく「心臓と腎臓が互いを悪くする」という関係を記述する枠組みである。定義は「一方の臓器の急性または慢性の機能障害が、他方の急性または慢性の機能障害を誘発しうる心臓と腎臓の病態生理学的異常」1。⭐ 分類の軸はたった2つ——「どちらが先に壊れたか」と「急性か慢性か」で、これに全身性疾患による同時障害を加えて5型になる。⚠️ 実地で最も裏切られるのは、「心不全で腎機能が落ちるのは心拍出量が足りないから」という直感である。駆動しているのは(の上昇)のほうである2。

Ronco分類——版と出典

現在使われている5型分類は、2008年にRoncoらがJournal of the American College of Cardiologyで提唱したものである1。同年2008年9月にイタリア・ヴェネツィアで開かれたAcute Dialysis Quality Initiative(ADQI)の合意会議がこれを合意事項として採択し、定義・疫学・診断・予防・管理とともに2010年にEuropean Heart Journalへ報告された3。⭐ 「Ronco分類」と言うときは、この2008年提唱・2008年ADQI合意という版を指す。

型 呼称 起点 → 波及 代表例
1型 急性の心機能悪化 → 急性、1
2型 慢性の心機能異常 → 進行性の 1
3型 急性の腎機能悪化 → 急性の 、糸球体腎炎から心不全・不整脈・虚血へ1
4型 慢性の → 心機能低下・・心血管イベント 1
5型 全身性疾患 → 心腎を同時に障害 敗血症1

⚠️ 2型と3型を取り違えない。 番号は「心が先(1・2)→腎が先(3・4)」の順に並び、各対の中で「急性(1・3)→慢性(2・4)」となる。つまり奇数が急性、偶数が慢性、前半が心発、後半が腎発である。「2型は慢性の心不全がを作る」「3型はAKIが急に心臓を痛める」——この2文を言えるかどうかで判定できる。

💡 ⭐ の最大の死因はに至ることではなく心血管疾患であるという事実は、4型が臨床的に最も規模の大きい型であることを意味する。は稀な症候群ではなく、診療そのものの背景にある。

⭐ 腎うっ血——心拍出量よりも中心静脈圧

には「で腎機能が落ちるのは心拍出量の低下による」と考えられてきた。これを正面から否定したのがMullensらの検討である。

進行したで下に集中的内科治療を受けた連続145例のうち40%(58例)が入院中に腎機能悪化(血清Cr 0.3 mg/dL以上の上昇)を来した。腎機能悪化群は入院時のが18±7 mmHgと非悪化群の12±6 mmHgより高く、後も11±8対8±5 mmHgと高いままだった。8 mmHg未満を達成した患者では腎機能悪化が少なく、この層別化は全身血圧・・・のどの水準でも成り立った。は「が腎機能悪化を駆動する最も重要な血行動態因子である」であった2。

より広い集団でも同じ向きの関連がある。を受けた心血管疾患患者2,557例で、はとし(後も r=−0.108)、中央値10.7年の追跡で1 mmHg上昇あたり1.03(95%信頼区間1.01〜1.05)と生存低下の独立した予測因子であった4。

flowchart TD
    A["心不全による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluid retention'>体液貯留</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central venous pressure, CVP'>中心静脈圧</span>の上昇"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal venous pressure'>腎静脈圧</span>が上がる"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal perfusion pressure'>腎灌流圧</span>(動脈圧−静脈圧)の低下"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal interstitial pressure'>腎間質圧</span>の上昇<br>被膜に囲まれた腎は逃げ場がない"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular filtration rate, GFR'>糸球体濾過量</span>の低下"]
    E --> F
    F --> G["尿細管でのNa・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='water reabsorption'>水再吸収</span>が強まる"]
    G -->|"悪循環"| A
    H["心拍出量の低下"] -.->|"寄与するが主因ではない"| F

⚠️ 点線の枝を主役に据え替えない。 心拍出量の低下もに寄与するが、上のデータが示しているのはうっ血側の寄与のほうが大きいということである。

💡 腎は線維性の被膜に包まれているため、静脈圧の上昇がの上昇に直結する。 静脈側の圧が上がると、動脈圧との差であるが縮み、同時にが尿細管・毛細血管を外から押す。⭐ だから「乾かす(する)」ことが腎機能を守る治療になりうるという、直感に反するが導かれる。

⚠️ 「Crが上がったから利尿薬を止める」という反射

うっ血が主因であるなら、うっ血が残ったまま利尿を止める判断は病態を悪化させる方向に働く。を8 mmHg未満まで下げられた患者で腎機能悪化がむしろ少なかったという所見2は、この反射を見直す根拠になる。⚠️ ただし「Crが上がっても常に利尿を続けてよい」という意味ではない。 判断の基準はCrの数値そのものではなく、うっ血が残っているかどうかである——、体重、浮腫、超音波の・で評価する。

⚠️ Na排泄分画が1%未満でも腎前性ではない

(FENa)は1%未満でを示唆するが、本症はその例外の一つとして挙げられている——によってが下がり、尿細管のNa再吸収機構は保たれたまま再吸収が強まるためである。

⚠️ 「FENaが低い=輸液すればよい」と読み替えると、では致命的な誤りになる。 低いFENaが示しているのは「尿細管が生きている」ことだけであり、が足りないことではない。本症で足りていないのはであって容量ではなく、輸液はうっ血を増してをさらに削る。⭐ 同じ低FENaでも、脱水なら輸液、ならと、次の一手が正反対になる。

💡 (肝硬変に伴う)・も低FENaを示す点は同じだが、機序はによる低下()と、上流の狭窄による()で、の「下流の静脈圧上昇」とは別である。低FENaの一覧は「輸液すべきでない低FENa」を覚えるための一覧だと理解する。

診断の考え方

はでもの閾値でもなく、を読んで型に当てはめる作業である。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiac dysfunction'>心機能障害</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal impairment'>腎機能障害</span>が併存する"] --> B{"全身性疾患が<br>両方を同時に障害しているか"}
    B -->|"はい(敗血症など)"| C["5型"]
    B -->|"いいえ"| D{"どちらが先に悪化したか"}
    D -->|"心が先"| E{"急性か慢性か"}
    D -->|"腎が先"| F{"急性か慢性か"}
    E -->|"急性"| G["1型"]
    E -->|"慢性"| H["2型"]
    F -->|"急性"| I["3型"]
    F -->|"慢性"| J["4型"]

⚠️ 「どちらが先か」が分からない症例は珍しくない。 とが長く併存していれば2型と4型の区別は実際上つかない。分類はを選ぶためのであって、型を確定させること自体が目的ではない。

評価ではクレアチニンの推移、、/Cr比、尿所見に加えて、うっ血の有無を身体所見と画像で必ず取りにいく。

治療の原則

  • うっ血の解除が中心になる。 ()でを下げることが、腎機能を守る方向に働きうる2。⚠️ の速度と量は血圧・を見ながら調整し、うっ血が取れきったあとの過剰は前負荷を削って別の腎障害を作る。
  • 原疾患の治療を止めない。 阻害薬や阻害薬(など)は導入時に一過性のCr上昇を起こしうるが、心不全・の長期予後を改善する薬とされる(⚠️ 本ノートの出典は分類と病態生理に限られるので、各薬剤の予後改善の根拠は・と各薬剤ノートに譲る)。⚠️ 導入直後のCr上昇を「腎毒性」と読んで中止すると、心腎双方の保護を失う。
  • 薬剤性の寄与を洗い直す。 、造影剤、薬の用量が重なっていないかを確認する。
  • 5型では、心腎に対する個別の治療より原因となっている全身性疾患(敗血症など)の治療がに来る1。

まとめ

  • は「一方の臓器の急性または慢性の機能障害が他方の急性または慢性の機能障害を誘発しうる、心臓と腎臓の病態生理学的異常」と定義される枠組みである。
  • 現行のRonco 5型分類は2008年のJACC論文で提唱され、同年9月のヴェネツィアのADQI合意会議で採択された(報告は2010年のEuropean Heart Journal)。
  • 型の軸は「どちらが先か」と「急性か慢性か」。奇数が急性、偶数が慢性、1・2が心発、3・4が腎発、5が全身性疾患による同時障害。
  • での腎機能悪化を駆動する最も重要な血行動態因子は、心拍出量の低下ではなく(の上昇)である。8 mmHg未満の達成で腎機能悪化が少なかった。
  • はより広い心血管疾患集団でもとし、1 mmHg上昇あたり1.03で死亡と関連する。
  • FENaが1%未満でもではない。低いFENaは尿細管が生きていることを示すだけで、で不足しているのは容量ではなくである——輸液ではなくに向かう。
  • 治療の中心はうっ血の解除。RAS阻害薬・阻害薬の導入時の一過性Cr上昇を腎毒性と読んで中止しない。5型は原因となる全身性疾患の治療がに来る。

出典

  1. 1.Cardiorenal syndrome(Journal of the American College of Cardiology(Ronco C, Haapio M, House AA, Anavekar N, Bellomo R)・2008)心腎症候群を「心臓と腎臓の病態生理学的異常であって、一方の臓器の急性または慢性の機能障害が他方の急性または慢性の機能障害を誘発しうるもの」と定義し、病態生理・時間経過・心腎機能障害の性質を反映する5つの下位型からなる新しい分類を提示したこと。1型は急激な心機能悪化(急性心原性ショック・非代償性うっ血性心不全など)が急性腎障害に至るもの、2型は慢性の心機能異常(慢性うっ血性心不全など)が進行性の慢性腎臓病を来すもの、3型は急激な腎機能悪化(急性腎虚血・糸球体腎炎など)が急性の心機能障害(心不全・不整脈・虚血)を来すもの、4型は慢性腎臓病(慢性糸球体疾患など)が心機能低下・心肥大・心血管イベントリスク上昇に寄与する状態、5型は全身性の病態(敗血症など)が心腎双方の機能障害を来すもの、と定義していること。心腎の双方向性を強調するためにこの分類が提案されたこと閲覧 2026-09-03
  2. 2.Importance of venous congestion for worsening of renal function in advanced decompensated heart failure(Journal of the American College of Cardiology(Mullens W, Abrahams Z, Francis GS, Sokos G, Taylor DO, Starling RC, Young JB, Tang WHW)・2009)進行した非代償性心不全で肺動脈カテーテル下に集中的内科治療を受けた連続145例(平均年齢57±14歳、心係数1.9±0.6 L/min/m²、左室駆出率20±8%、血清Cr 1.7±0.9 mg/dL)のうち58例(40%)が入院中の血清Cr 0.3 mg/dL以上の上昇として定義される腎機能悪化を来したこと。腎機能悪化を来した群は入院時の中心静脈圧が18±7 mmHgと非悪化群の12±6 mmHgより高く(p<0.001)、集中治療後も11±8対8±5 mmHgと高かった(p=0.04)こと。中心静脈圧8 mmHg未満を達成した患者では腎機能悪化の発生が少なかった(p=0.01)こと。中心静脈圧による腎機能悪化リスクの層別化が、全身血圧・肺動脈楔入圧・心係数・推算糸球体濾過量のいずれの水準でも成り立ったこと。結論として静脈うっ血が腎機能悪化を駆動する最も重要な血行動態因子であるとされたこと閲覧 2026-09-03
  3. 3.Cardio-renal syndromes: report from the consensus conference of the acute dialysis quality initiative(European Heart Journal(Ronco C ほか、Acute Dialysis Quality Initiative (ADQI) consensus group)・2010)心腎症候群に関する合意会議が2008年9月にイタリア・ヴェネツィアでAcute Dialysis Quality Initiative(ADQI)の主催で開催され、系統的文献レビューと最良のエビデンスの評価のうえで定義・分類、疫学、診断基準とバイオマーカー、予防・保護戦略、管理と治療が議論されたこと。CRSという包括的用語が「一方の臓器の急性または慢性の機能障害が他方の急性または慢性の機能障害を誘発しうる心臓と腎臓の障害」を指すものとされ、5つの下位型(1型=急性心腎症候群、2型=慢性心腎症候群、3型=急性腎心症候群、4型=慢性腎心症候群、5型=二次性心腎症候群)に分類されたこと閲覧 2026-09-03
  4. 4.Increased central venous pressure is associated with impaired renal function and mortality in a broad spectrum of patients with cardiovascular disease(Journal of the American College of Cardiology(Damman K, van Deursen VM, Navis G, Voors AA, van Veldhuisen DJ, Hillege HL)・2009)1989〜2006年に右心カテーテル検査を受けた心血管疾患患者2,557例(平均年齢59±15歳、平均eGFR 65±24 mL/min/1.73m²、心係数2.9±0.8 L/min/m²、中心静脈圧5.9±4.3 mmHg)で、中心静脈圧が心係数(r=−0.259)ともeGFR(r=−0.147)とも関連し、多変量解析でも中心静脈圧とeGFRの関連が残った(r=−0.108)こと。中央値10.7年の追跡で741例(29%)が死亡し、中心静脈圧が生存低下の独立した予測因子であった(1 mmHg上昇あたりハザード比1.03、95%信頼区間1.01〜1.05)こと閲覧 2026-09-03