組織病理学

組織病理学 · H1-009

陳旧性心筋梗塞と心室瘤

Healed myocardial infarction with ventricular aneurysm

描出疾患
急性冠症候群
疾患
心室瘤(真性心室瘤・仮性心室瘤)

🧠 全体像:が治癒すると、は収縮できない性瘢痕に置き換わる。この瘢痕部がな左室内圧で菲薄化・したものが梗塞後である。

標本の要点

項目 所見
臓器 心臓
標本 左室の肉眼標本
に伴う
壁 菲薄化した灰白色の
形 左室壁の広い基部をもつ
機能 または収縮期
合併症 心不全、心室性不整脈、、

発症機序

では心室壁全層の心筋が壊死し、数週から数か月かけて性瘢痕へ置換される。瘢痕はのように収縮できず、左室内圧を繰り返し受けることで伸展・菲薄化し、広い基部をもつ膨隆となる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transmural myocardial infarction'>貫壁性心筋梗塞</span>"] --> B["心筋の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coagulative necrosis'>凝固壊死</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='necrotic myocardium'>壊死心筋</span>の除去"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='collagen fiber'>膠原線維</span>性瘢痕"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contractility'>収縮性</span>の消失"]
    E --> F["左室内圧による慢性伸展"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='true'>真性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='left ventricular aneurysm'>左室瘤</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stasis'>血流停滞</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mural thrombus'>壁在血栓</span>"]
    G --> I["心不全・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventricular arrhythmia'>心室性不整脈</span>"]

肉眼標本の読み方

1.左室腔と壁を同定する

心室内面の肉柱とを確認してを定める。の赤褐色で厚い壁と、灰白色で薄い瘢痕部を比較する。

2.瘤の輪郭を追う

標本の矢印部では、梗塞後瘢痕が限局性に外方へ膨隆している。は正常心室壁から瘤壁へ比較的なだらかに移行し、広い開口部でと連続する。

3.壁在血栓を探す

収縮しない瘤内では血流が停滞し、心内膜面にが形成されやすい。血栓は層状で心内膜に付着し、器質化している場合もある。

4.瘢痕の硬さと色を読む

は灰白色で硬く、の黄褐色軟化とは異なる。瘢痕が完成したは、急性期のより破裂しにくい。

真性心室瘤と仮性心室瘤

項目
成立 梗塞壁のと慢性膨隆 が心膜・血栓で被覆
瘤壁 菲薄化した心筋壁がに置換 主に心膜とで、心筋壁を欠く
心室との交通 広い基部 一般に狭い頸部
相対的に低い 高い
主な問題 心不全、不整脈、・塞栓 再破裂と心タンポナーデ

⚠️ 「だから絶対に破裂しない」とは言い切らない。 はより破裂しにくいが、臨床では形態、壁性状、症状を画像で評価する。破裂しにくいのは瘢痕が完成した慢性期のであって、瘤が形成されつつある段階の破裂は報告されている1。

💡 は「見つけにくいのに破裂しやすい」。 290例のレビューでは、10%超が無症候で、心電図異常はほぼ全例にあるものの多くは非特異的なST変化にとどまり(ST上昇は20%)、胸部X線の腫瘤像が半数超で唯一の手がかりだった。治療にかかわらず死亡率が高く、とくに手術を受けなかった例で高かった2。

臨床的意味

合併症 機序
心不全 瘤部が収縮に寄与せず、を低下させる
瘢痕との境界がを形成する
腔内のにより形成される
がし、脳・腎・脾などへ流出する
が位置と形態を変える

💡 の頻度はの前後で大きく違う。 後のは従来20〜60%と報告されてきたが、primary で再灌流した連続71例では4%(梗塞に限っても10%)にとどまった3。肉眼標本で見る「瘤+層状の」という組み合わせは、再灌流治療が普及する前のをよく表した像である。

鑑別

病変 鑑別点
心室憩室 先天性で、心筋を含み同期性に収縮することが多い
破裂を心膜・血栓が被覆し、狭い頸部と高い再を示す
心室壁菲薄化のみ 限局したやを欠く
右室瘤 右室に発生し、不整脈原性右室心筋症など別の背景を考える

まとめ

  • は、のがに膨隆した病変である。
  • 肉眼では灰白色で菲薄化した壁、広い基部、とのを確認する。
  • 主な合併症は心不全、、、である。
  • 心筋壁を欠くは再が高く、と必ず区別する。

出典

  1. 1.True and false left ventricular aneurysms. Propensity for the latter to rupture(Circulation・1975)左室の慢性仮性心室瘤は小さくても破裂して血心膜症・突然死を来しうるのに対し、慢性の真性心室瘤は破裂しない傾向にある。ただし真性心室瘤でも、瘤が形成されつつある段階での破裂は起こりうる閲覧 2026-08-24
  2. 2.Left ventricular pseudoaneurysm(Journal of the American College of Cardiology・1998)左室仮性心室瘤290例のレビュー。心破裂が心膜や瘢痕組織に被覆されて成立し、破裂しやすい。多くは心筋梗塞(とくに下壁梗塞)と心臓手術に関連し、10%超は無症候、心電図異常はほぼ全例にあるが多くは非特異的ST変化でST上昇は20%のみ、胸部X線での腫瘤像は半数超。治療にかかわらず死亡率が高く、とくに手術を受けなかった例で高い閲覧 2026-08-24
  3. 3.Prevalence of early left ventricular thrombus after primary coronary intervention for acute myocardial infarction(Journal of Thrombosis and Thrombolysis・2000)急性心筋梗塞後の左室内血栓は従来20〜60%と報告されてきたが、ST上昇型心筋梗塞にprimary PCIを行った連続71例では発症5日以内の心エコーで血栓を認めたのは3例(4%)のみで、いずれも前壁梗塞(前壁梗塞30例中3例=10%)であった閲覧 2026-08-24