組織病理学

組織病理学 · H1-010

白色脳軟化と赤色脳軟化

White and red encephalomalacia

描出疾患
脳梗塞

🧠 全体像:は、後に神経実質が融解して軟らかくなる肉眼変化である。淡いは主体の梗塞、赤色病変は壊死域への血液再流入や障害を伴うとして読む。

白色脳軟化・黄色脳軟化・赤色脳軟化という名称は、病変の色調を表す歴史的な肉眼記載用語である。現在は非出血性、、嚢胞性梗塞のように、機序とを明示して表現する。

標本の要点

項目 所見
臓器 脳
標本 の脳肉眼標本
白色脳軟化と赤色脳軟化
壊死形式
淡色・腫脹から軟化へ進む非
赤色病変 壊死域内に赤血球が漏出した
晩期変化 、壊死組織の除去、嚢胞性空洞、辺縁

原因と成立様式

非出血性は、などに由来する、頸動脈・大動脈由来の、頭蓋内動脈の血栓症、全身性低灌流などで生じる。塞栓が移動・溶解した場合や・血栓溶解後には、傷害された梗塞域へ血流が戻ってを来しうる。脳静脈・では、動脈閉塞とは別に障害からが成立する。

肉眼標本の読み方

1.切面の左右と構造を確認する

大脳皮質、白質、、基底核などを同定し、左右差との有無を見る。病変の部位を主要脳動脈のと対応させる。

2.淡い軟化域を探す

は、非の淡色・軟化した病変を指す。発症後早期には浮腫で腫脹し、時間とともに神経実質が融解して境界が明瞭になる。淡色化の本体はとであり、マクロファージが「血液を減らす」ため白くなるわけではない。

3.赤褐色域を探す

は、梗塞域内へ血液が漏出したである。点状出血が融合し、赤色から赤褐色の軟化巣として見える。

4.病変の分布を読む

  • 塞栓性動脈閉塞では、塞栓の移動・溶解や治療後によって壊死した微小血管へ血流が戻り、を生じやすい。連続1125例の前向き研究でも、内血腫の独立した予測因子は大きな病変(OR 12.20)と(OR 5.25)、高血糖、(OR 3.54)であった1。の成立には血液脳関門の破綻が必要で、発症18〜24時間以内の早期には白血球由来のMMP-9と脳由来のMMP-2が、それ以降の遅発性には虚血で活性化された脳内プロテアーゼ・・因子が関わるとされる2。
  • 脳静脈・では流出障害と静脈圧上昇により、うっ血性のを生じる。624例の国際前向き研究では、入院時での出血が死亡・要介助の独立した予測因子(1.9)であった3。
  • 分水界梗塞はと、となどの遠位に生じる。そのものを分水界とは呼ばない。

脳軟化の形態的な推移

形態 主な肉眼像 病理学的意味
白色脳軟化 淡色、腫脹、軟化 血液流入の乏しい
黄調で軟らかい 脂質を含む壊死物とによる組織除去
脳 液体を満たす空洞 融解したが除去された
赤色脳軟化 赤色〜赤褐色の軟化巣 再灌流または障害を伴う

⚠️ これらを全例共通の「白→黄→嚢胞→赤」という一本道にしない。 白色・黄色・は主に非のを表すが、赤色変化は再灌流やうっ血が加わった別の形態である。系統的レビューでは、・を受けていないでが起こるのは8.5%(95%CI 7〜10%)、神経症状悪化や内血腫を伴う重症例は1.5%にとどまり、これらの薬剤の使用が増えるほど頻度が上昇した4。は「梗塞なら必ず通る段階」ではなく、条件が加わったときに起こる少数派である。

発症機序

flowchart TD
    A["脳動脈の血栓・塞栓"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brain parenchyma'>脳実質</span>の虚血"]
    B --> C["非出血性の淡い梗塞"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='liquefactive necrosis'>融解壊死</span>"]
    D --> E["マクロファージによる組織除去"]
    E --> F["嚢胞性空洞と辺縁<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gliosis'>グリオーシス</span>"]
    C --> G["塞栓移動・溶解または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='recanalization'>再開通</span>"]
    G --> H["傷害微小血管への血流再開"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemorrhagic transformation'>出血性変化</span>"]
    J["脳静脈・静脈洞血栓"] --> K["静脈圧上昇・流出障害"]
    K --> I

組織像との対応

肉眼像 組織像
淡色・腫脹 、の、
、壊死組織の融解
壊死域への、
嚢胞性空洞 消失、液体を満たす空洞、辺縁の反応性

顕微鏡での壊死域、マクロファージ、浮腫、の読み方は H1-005: で確認する。

鑑別

肉 鑑別点
原発性 血腫が病変の主体で、先行する梗塞性軟化の分布を欠く
脳表や・下面に多く、の点状出血と組織破壊を伴う
黄白色の巣だが、膿と被膜を形成し、感染性炎症を伴う
壊死性 不整な腫瘤性病変と周囲浸潤を示し、単純なに一致しない
薄いグリア性壁をもつ嚢胞性空洞が主体となる

まとめ

  • 脳軟化は後のを表す肉眼用語である。
  • 白色脳軟化は血液流入の乏しい淡色梗塞、赤色脳軟化は再灌流やを伴うである。
  • はマクロファージによる壊死組織除去、晩期の嚢胞は消失を反映する。
  • は非の必然的な最終段階ではなく、条件が加わった別形態として理解する。

出典

  1. 1.Early hemorrhagic transformation of brain infarction: rate, predictive factors, and influence on clinical outcome: results of a prospective multicenter study(Stroke・2008)連続1125例の虚血性脳卒中を発症5±2日のCTで評価した前向き多施設研究で、早期出血性変化は98例(8.7%)にとどまり、内訳は出血性梗塞62例(5.5%)と脳実質内血腫36例(3.2%)。転帰悪化と独立に関連したのは脳実質内血腫のみ(OR 15.29)で、脳実質内血腫の予測因子は大きな病変(OR 12.20)、心原性塞栓(OR 5.25)、高血糖、血栓溶解療法(OR 3.54)であった閲覧 2026-08-24
  2. 2.Hemorrhagic transformation after ischemic stroke in animals and humans(Journal of Cerebral Blood Flow and Metabolism・2014)出血性変化は虚血性脳卒中の合併症で血栓溶解療法により増悪する。発症18〜24時間以内の早期出血性変化は白血球由来のMMP-9と脳由来のMMP-2が神経血管単位を傷害して血液脳関門を破綻させることに関係し、18〜24時間以降の遅発性出血性変化は虚血で活性化された脳内プロテアーゼ(MMP-2・MMP-3・MMP-9・内因性組織プラスミノゲン活性化因子)、神経炎症、血管リモデリング因子が関与する閲覧 2026-08-24
  3. 3.Prognosis of cerebral vein and dural sinus thrombosis: results of the International Study on Cerebral Vein and Dural Sinus Thrombosis (ISCVT)(Stroke・2004)21か国89施設の前向き観察研究で成人の脳静脈・静脈洞血栓症624例を追跡(中央値16か月)。死亡・要介助の多変量予測因子として入院時CTでの出血(ハザード比1.9)が挙がり、深部脳静脈系の血栓(2.9)、昏睡(2.7)などと並ぶ独立因子であった。死亡は8.3%閲覧 2026-08-24
  4. 4.Frequency and risk factors for spontaneous hemorrhagic transformation of cerebral infarction(Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases・2004)追跡画像を備えた28の観察研究と19のランダム化比較試験の系統的レビューで、抗血栓薬・血栓溶解薬を受けていない脳梗塞患者の出血性変化の頻度は8.5%(95%CI 7〜10%)、神経症状悪化または脳実質内血腫を伴う重症の出血性変化は1.5%(95%CI 0.8〜2.2%)にとどまり、抗血栓薬・血栓溶解薬の使用が増えるほど頻度が明らかに上昇した。出血性変化は大きな梗塞・占拠効果・発症早期からの低吸収域・70歳超と関連した閲覧 2026-08-24