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Disease Atlas · 循環器 · 疾患

虚血性心筋症

Ischemic cardiomyopathy

臓器系
循環器
科目
PathologyCardiology
トピック
病理学 B/29:狭心症/慢性虚血性心疾患循環器内科 A-19:虚血性心疾患の臨床像と評価
上位概念
慢性冠症候群(安定狭心症)
鑑別疾患
拡張型心筋症
続発疾患
慢性心不全心室性不整脈(心室頻拍・心室細動)僧帽弁閉鎖不全症
治療薬
ビソプロロールエナラプリルスピロノラクトンダパグリフロジンアセチルサリチル酸アトルバスタチン
症状
労作時呼吸困難浮腫失神
検査値
LVEF
画像所見
遅延造影左室内血栓心筋バイアビリティ
スコア
NYHA心機能分類

🧠 全体像は「心筋梗塞を1回起こした後の状態」ではなく、冠動脈疾患による虚血が繰り返し・に心筋を障害し、左室が拡大して収縮機能が広範に低下した状態を指す。診療の核心は診断名を付けることではなく、壁運動が低下した心筋のどこまでがで機能回復しうる「(バイアビリティ)」で、どこが既にしているかを見極め、の適応を判断することにある。

定義

は、冠動脈疾患(多くは心筋梗塞の既往、またはな高度虚血)によって心筋が広範に障害され、LVEF低下とを来した状態である。単一のによる限局したではなく、複数回の虚血イベントや遷延する低灌流が心筋全体の収縮を奪った結果として生じる、慢性期の心不全表現型である。

病理学的には、この病態は「的な虚血性による進行性の心不全」としてのと重なる。急性のや、負荷条件で症状だけを来すの延長線上にありながら、収縮不全という心筋そのものの障害を主題とする点が異なる。

冬眠心筋と気絶心筋:病態の核心

のある心筋がすべて不可逆的に死んでいるわけではない。な低灌流に心筋が適応し、収縮を犠牲にして生存を保つ状態を冬眠心筋と呼び、によって機能が回復しうる1。急性の非致死的虚血後に血流は既に回復しているのに収縮機能が一過性に低下したままの気絶心筋とは区別されるが、ではこの2つの病態が同一心筋内に混在することが多い。評価法の詳細はのノートに譲る。

flowchart TD
    A["冠動脈疾患による反復性の虚血・心筋梗塞"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiomyocyte (cardiac myocyte)'>心筋細胞</span>壊死・線維化"]
    A --> C["非壊死領域の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic'>慢性的</span>な低灌流"]
    C --> D["冬眠心筋:収縮を犠牲にして生存を維持"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ECM deposition'>瘢痕形成</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eccentric remodeling'>偏心性リモデリング</span>"]
    D --> E
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left ventricular dilation (enlargement)'>左室拡大</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ejection fraction'>駆出率</span>低下"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic heart failure'>慢性心不全</span>"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventricular arrhythmia'>心室性不整脈</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sudden cardiac death risk'>突然死リスク</span>"]
    E --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='papillary muscles'>乳頭筋</span>機能不全"]
    I --> J["虚血性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mitral regurgitation'>僧帽弁逆流</span>"]
    J --> F

瘢痕と冬眠心筋の割合は患者ごとに異なり、瘢痕が優位であればで機能回復は望みにくく、冬眠心筋が優位であればの意義が大きくなる。

臨床像

診断

または冠動脈CTで、心機能低下を説明しうる有意な冠動脈疾患を確認することが診断の出発点であり、これがなど非虚血性の心筋症との最大の鑑別点になる。心エコーまたはでLVEF・の分布を評価し、ではに一致したの増強パターンが虚血性であることを支持する(中層優位の増強は・心筋炎を示唆し、この分布パターンの違いが両者を鑑別する手がかりになる)。

を検討する局面では、(SPECT/PET)・負荷などの機能画像検査でを推定し、意思決定の材料とする2。ただしバイアビリティ評価はを決める唯一の判断材料ではない点に注意する。

flowchart TD
    A["原因不明の収縮<span class='jp-term jp-term-diagram' title='incomplete form'>不全型</span>心不全"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coronary angiography'>冠動脈造影</span>またはCTで冠動脈を評価"]
    B --> C{"心機能低下を説明しうる<br>有意な冠動脈疾患があるか"}
    C -->|"なし"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dilated cardiomyopathy, DCM'>拡張型心筋症</span>など非虚血性の原因検索へ"]
    C -->|"あり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ischemic cardiomyopathy'>虚血性心筋症</span>と判断"]
    E --> F["心エコー・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiac MRI'>心臓MRI</span>でLVEF・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='wall motion abnormality'>壁運動異常</span>の分布を評価"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='revascularization'>血行再建</span>を検討する局面か"]
    G -->|"はい"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stress echocardiography'>負荷心エコー</span>・SPECT/PET・負荷<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiac MRI'>心臓MRI</span>で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial viability'>心筋バイアビリティ</span>を推定"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coronary anatomy'>冠動脈解剖</span>・全身状態と統合し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='heart team'>ハートチーム</span>でPCI/CABGの適応を判断"]
    G -->|"いいえ"| J["心不全治療と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='indication for implantable cardioverter-defibrillator'>ICD適応</span>評価へ進む"]

治療

心不全の基本治療

心不全治療の骨格は原因を問わず共通しており、のHFrEF治療に準じてARNI(またはACE阻害薬/ARB)・β遮断薬・・SGLT2阻害薬のを早期に導入する。加えて、冠動脈疾患そのものに対する療法、、危険因子是正)を並行する。

血行再建の適応

(PCIまたはCABG)の意義は、単に狭窄を解除することではなく、冬眠心筋の機能を取り戻して収縮力を底上げすることにある。STICH試験のバイアビリティ研究では、バイアビリティのある心筋の存在は生存と関連したが背景因子で調整すると有意でなくなり、バイアビリティの有無とCABGか薬物治療かというの間に有意な作用は見られなかった3。一方、同じSTICH試験をCABGか薬物治療かで比較した本体のでは、LVEF 35%以下かつCABG適応の冠動脈疾患患者1212例を10年追跡し、CABG+薬物治療群の58.9%は薬物治療単独群66.1%より有意に低かった(0.84、P=0.02)4。この2つの結果は矛盾しない——バイアビリティの有無だけでの適否を機械的に決めるのではなく、、全身状態、・施設の経験を統合してで判断することが実務上の要点になる。

不整脈・突然死予防と機械的合併症

十分な薬物治療後もLVEF ≤35%が残る例では、ICDの適応を検討する。は非と枠組みを共有するが、MI後の期間やを確認して判断する点は共通する。虚血性を合併する例では、心不全治療の最適化を優先し、残存する逆流の程度に応じてを検討する。

拡張型心筋症との違い

同じ「収縮の心筋症」でも、は原因検索と治療の入口が異なる。

項目
前提となる評価 ・CTで有意な冠動脈疾患を確認 冠動脈疾患などの負荷条件を除外して診断する
の分布 に一致した 中層優位(心室中隔の線状増強など)
治療の追加要素 の適応判断(バイアビリティ評価) 原因検索(遺伝性・炎症性・毒性など)と原因治療
共通する骨格 HFrEFの、ICD/の適応判断、抗凝固の個別評価 同左

まとめ

  • は、冠動脈疾患による反復性・な虚血が心筋を広範に障害し、とLVEF低下を来した状態である。
  • 冬眠心筋(で生存するが収縮できない)と気絶心筋(急性虚血後の一過性機能低下)が混在し、冬眠心筋の割合がの意義を左右する。
  • 診断は・CTでの有意狭窄の確認と、心エコー・での機能評価を組み合わせ、の分布パターンがとの鑑別に役立つ。
  • 治療はHFrEFに準じた心不全を基本とし、の適応はバイアビリティ評価に加え・全身状態を統合してで判断する。STICH試験のバイアビリティ研究とSTICHES試験の10年追跡は一見異なる結果を示すが、両者は矛盾しない。
  • によると虚血性の合併を常に評価し、や弁治療へつなげる。

出典

  1. 1.2024 ESC Guidelines for the management of chronic coronary syndromes(European Society of Cardiology・2024)症状と心筋虚血を対応づけ、心筋バイアビリティを推定し、血行再建の意思決定を導くために、負荷心エコー・心筋血流シンチグラフィ(SPECT/PET)・負荷心臓MRIなどの機能画像検査を用いることが推奨されていること閲覧 2026-08-11
  2. 2.Stunned and Hibernating Myocardium: Where Are We Nearly 4 Decades Later?(Journal of the American Heart Association (Kloner RA)・2020)冬眠心筋は生存を保つが正常収縮を維持できない程度の慢性的低灌流への適応であり、血行再建で機能回復しうる状態と定義されること閲覧 2026-08-11
  3. 3.Myocardial Viability and Survival in Ischemic Left Ventricular Dysfunction(New England Journal of Medicine (Bonow RO, et al., STICH試験バイアビリティ下位研究)・2011)バイアビリティのある心筋の存在は生存との関連を示したが背景因子で調整すると有意ではなくなり、バイアビリティの有無とCABGか薬物治療かという治療選択との間に有意な交互作用が見られなかったこと閲覧 2026-08-11
  4. 4.Coronary-Artery Bypass Surgery in Patients with Ischemic Cardiomyopathy(New England Journal of Medicine (STICHES試験、Velazquez EJ, et al.)・2016)LVEF35%以下かつCABG適応の冠動脈疾患患者1212例(CABG+薬物治療610例、薬物治療単独602例)を10年追跡し、全死亡はCABG群58.9%・薬物治療単独群66.1%でCABG群が有意に低かった(ハザード比0.84、95%信頼区間0.73-0.97、P=0.02)こと閲覧 2026-08-11