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Lab values · Published

左室駆出率

Left ventricular ejection fraction

別名
LVEFEF左室機能障害左室機能低下駆出率
臓器系
循環器
科目
Cardiology, Heart Surgery, Angiology, Vascular SurgeryMedical PhysiologyTranslational Medicine and Pathophysiology
トピック
循環器内科 A-08:慢性心不全の病因・症状・診断生理学 2.4:心臓のポンプ機能。心拍出量とその調節。病態生理学 I-3:心不全の原因と症状循環器内科 A-04:拡張型心筋症
関連疾患
がん治療関連心機能障害拡張型心筋症虚血性心筋症左室拡張機能障害心室性不整脈(心室頻拍・心室細動)大動脈弁閉鎖不全症頻脈誘発性心筋症
監視対象薬
カルフィルゾミブスニチニブダブラフェニブ+トラメチニブトラスツズマブトラスツズマブ エムタンシントラメチニブビニメチニブリプレチニブ

🧠 全体像:()は採血で測る値ではなく、心エコー・・・カテーテル検査()などの画像・侵襲的検査で左室の容積変化を測って算出する心機能の指標である。「が高い=心筋の収縮力が強い」と単純化されがちだが、は心筋そのものの収縮力を直接測っているのではなく、前負荷・・心拍数という負荷条件に依存した容積比にすぎない。だからこそが保たれていても心不全はあり得るし()、弁膜症があるとが実際の心機能を過大評価することもある。数値の裏で「何を測れていないか」を意識することが、このノートの核心である。

何を測っているか

  • =( − )÷ × 100(%)。1回拍出量をで割った値と言い換えてもよい。
  • 採血ではなく、画像検査で左室容積を・の2でし、その差から算出する容積比であり、心筋のそのものを直接測る指標ではない。
flowchart TD
    A["前負荷(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='end-diastolic'>拡張末期</span>の充満量)"] --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='end-diastolic volume, EDV'>拡張末期容積</span>"]
    B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='afterload'>後負荷</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial contractility'>心筋収縮力</span>"] --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='end-systolic volume, ESV'>収縮末期容積</span>"]
    C["心拍数の変化"] --> D
    C --> E
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left ventricular ejection fraction'>LVEF</span> = (<span class='jp-term jp-term-diagram' title='end-diastolic volume, EDV'>拡張末期容積</span> − <span class='jp-term jp-term-diagram' title='end-systolic volume, ESV'>収縮末期容積</span>) ÷ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='end-diastolic volume, EDV'>拡張末期容積</span>"]
    E --> F
    F --> G["負荷条件に依存した容積比<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial contractility'>心筋収縮力</span>そのものではない"]

💡 同じでも、前負荷(を決める充満量)が増えれば見かけ上は変わりうるし、(への抵抗)が上がればは低下する。心拍数の変化もを介してに影響する。負荷条件が変われば、心筋そのものは同じでもは動く。

基準値と区分

の正常範囲は性別で異なり、男性約52〜72%、女性約54〜74%とされる1。臨床では軽度・中等度・高度低下という段階でも表現される。

をでどう区分するかは、ガイドラインの版で変わった。()の2021年版は3つの表現型に分けていたが2、2026年版はを廃止し、との2区分に改めた3。

区分 2021年版 2026年版
低下() ≤40% <50%
軽度低下() 41〜49% 廃止(に含める)
保持() ≥50% ≥50%(症状・徴候に加え、左室・上昇に合致する構造的・機能的異常の証拠を要する)

⭐ は以前「」と呼ばれていたが、臨床像・転帰・治療反応性がに近いことを強調するため「軽度低下」という名称に改められた区分である。2026年版はこの近さに加え、病因・病態生理もに近いことを述べたうえで、を独立させるのをやめ、 50%未満をまとめてとした3。

⚠️ 同じ「 45%」でも、どの指針に拠るかで区分名が変わる。 2021年版では、2026年版ではである。区分名を書くときは拠った指針と版を添える。2026年版自身も、単一の値で区切ることにはある程度の恣意性があり、と判読者によって測定値がばらつくと述べている3。境界付近の値は、この区分の違いとの両方を意識して読む。

低下の意味 / 保たれている場合の意味

低下は原因を機序でまとめると整理しやすい。

分類 代表例
虚血性 ・による。広範・慢性化すれば
非 、心筋炎後の遺残障害
弁膜症 慢性の大動脈弁・によるの破綻
頻脈誘発性 (持続する頻脈そのものが可逆性の心筋障害を起こす)
・標的薬・-・BRAF/などによる心筋障害

が保たれていてもが否定できるわけではない。

状況 読み方
は正常域でもを主体とする心不全は成立する。単独では除外できない
左室が低圧の左房側へも血液をするためが見かけ上下がり、実際の前方拍出量が保たれていなくてもは正常〜高値に出やすい(過大評価)3

⚠️ が正常だから心機能に問題がない、とは言い切れない。 症状・心房径・・弁の性状・と合わせて解釈する。

測定上の注意

はによって測り方も精度も異なる。

特徴
心エコー() 最も普及した第一選択。心内膜境界のトレースに依存しが出やすい
心内膜境界が不明瞭な症例で造影剤を用いて輪郭を明瞭化する
容積の。再現性が最も高いが可用性・費用のがある
核医学(MUGA) を用いたで、再現性は高いがを伴う
(カテーテル) 侵襲的だがカテーテル検査に付随して測定できる

⚠️ 同じ患者でもが変われば値も変わりうる。 にフォローするときは、可能な限り同じ・同じ手技で比較する。

  • :心エコーは心内膜境界のトレースに依存するためがより大きい。単発の境界値はの範囲に入りうる。
  • 心房細動での拍動ごとの変動:が不規則だと1心拍ごとに前負荷・が変わりも拍動ごとにばらつく。複数心拍の平均を取って評価する。
  • GLS(左室の長軸方向の)はより早く異常化する。 心筋の変形そのものを追う指標で、がまだ正常範囲にある段階でも心毒性の早期変化を捉えられることがある4。

⭐ 単発の自動値だけで「低下している/していない」を判断せず、・手技・撮影条件を記録に残す。

経時変化とモニタリング

心毒性を持つ薬剤(、標的薬、-、BRAF/など)では、投与前にベースラインのを取り、投与中も連続的に評価する運用が基本になる。ではベースラインに加え投与中3か月ごとの心エコー評価が代表的な間隔として示されている4。

flowchart TD
    A["心毒性のある薬剤を開始"] --> B["投与前にベースライン<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left ventricular ejection fraction'>LVEF</span>を測定"]
    B --> C["投与中は定期間隔で再評価"]
    C --> D{"ベースラインからの低下幅は?"}
    D -->|"LVEF <40%"| E["重度:CTRCDとして<span class='jp-term jp-term-diagram' title='drug holiday (treatment interruption)'>休薬</span>・専門科紹介を検討"]
    D -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left ventricular ejection fraction'>LVEF</span> 40〜49%へ低下"| F["GLS相対低下>15%または<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiac biomarkers'>心筋バイオマーカー</span>上昇を伴うか確認"]
    F -->|"あり"| G["中等度CTRCDとして精査"]
    F -->|"なし"| H["軽度:間隔を詰めて経過観察"]
    D -->|"低下なし・軽微"| H

(CTRCD)は、無症候性でも軽度・中等度・重度に段階分けされ、症候性か無症候性かでも対応が変わる。 <40%は単独で重度に該当し、10ポイント以上低下して40〜49%になれば単独で中等度、10ポイント未満の低下で40〜49%ならGLSの相対低下(>15%)および/または上昇を伴う場合に中等度となる4。やの上昇は、この判定を補助するとして使われる。

⭐ 単回値ではなく、ベースラインからの変化幅で判断する。 同じ 45%でも、ベースライン65%からの低下なのか元々45%前後だったのかで意味が違う。な自己対照比較が、この検査の実務上の使い方の中心になる。

まとめ

  • は血液検査ではなく、心エコー・・核医学・カテーテル検査など画像的に左室容積の変化を測って算出する心機能の指標。
  • ( − )÷ で求まる容積比で、前負荷・・心拍数という負荷条件に依存し、そのものではない。
  • 心不全の区分は版で変わった。 2021年版は(≤40%)・(41〜49%)・(≥50%)の3区分、2026年版はを廃止して(<50%)・(≥50%)の2区分。区分名には拠った指針と版を添える。
  • 低下は虚血性・非・弁膜症・頻脈誘発性・に分けて考える。が正常でもやでの過大評価はあり得る。
  • (心エコー・・核医学・)で精度が異なり、が。心房細動では拍動ごとの変動、GLSは低下より早く異常化する点に注意する。
  • 心毒性を持つ薬剤では投与前後の連続評価が必須で、CTRCDの重症度判定はの単回値ではなくベースラインからの変化幅とGLS・を組み合わせて行う。

出典

  1. 1.Recommendations for Cardiac Chamber Quantification by Echocardiography in Adults: An Update from the American Society of Echocardiography and the European Association of Cardiovascular Imaging(American Society of Echocardiography / European Association of Cardiovascular Imaging・2015)LVEFの正常範囲を性別で分けて規定している(男性52〜72%、女性54〜74%)閲覧 2026-08-02
  2. 2.2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure(European Society of Cardiology・2021)2021年版は慢性心不全をLVEFで3区分した(HFrEF ≤40%、HFmrEF 41〜49%、HFpEF ≥50%)。⚠️ この版は2026年8月公開の2026年版(esc-hf-2026)に置き換えられており、現行のESCの区分ではない。本ノートでは版の比較のためにだけ引く閲覧 2026-08-02
  3. 3.2026 ESC Guidelines for the management of heart failure(European Society of Cardiology・2026)本文全文(Wayback Machine の id_ 付き出版社ページ、20260910061149)で次を逐語で確認した。①前文は「This guideline updates and replaces the previous version from 2021」。②Table 4 New concepts は「HFrEF has been expanded to include LVEF up to 50%」「HFmrEF has been removed」「HFpEF includes LVEF from 50% and above」。③3.3.1節は、2021年版の3区分(HFrEF LVEF ≤40%、HFmrEF LVEF 41%–49%、HFpEF LVEF ≥50%)を振り返り、名称を mid-range から mildly reduced へ改めたのはHFmrEFが臨床像・転帰・治療反応性でHFrEFに近いことを強調するためだったと述べ、病因・病態生理・治療効果もHFrEFに近いとしたうえで、HFmrEFを廃止して病態生理に基づく2区分に再分類した。HFrEFは「LVEF <50% and symptoms and/or signs of HF」、HFpEFは「LVEF ≥50%」かつ症状・徴候があり、左室拡張障害または左室充満圧上昇に合致する構造的・機能的異常の客観的証拠(ナトリウム利尿ペプチド上昇で裏づけられる)を伴うもの。④同節は、単一のLVEF値で区切ることは「somewhat arbitrary」で、モダリティと判読者によって測定値がばらつくこと、僧帽弁閉鎖不全などでLVEFが偽高値になりうることも述べる閲覧 2026-09-16
  4. 4.2022 ESC Guidelines on cardio-oncology(European Society of Cardiology・2022)がん治療関連心機能障害(CTRCD)を無症候性(軽度・中等度・重度)と症候性(最重症・重症・中等症・軽症)に段階分けする定義(LVEF <40%を重度、10ポイント以上低下して40〜49%になれば単独で中等度、10ポイント未満の低下で40〜49%ならGLS相対低下 >15%および/または心筋バイオマーカー上昇を伴う場合に中等度、LVEF 50%以上のままGLS相対低下15%超および/または心筋バイオマーカーの新規上昇を軽度とする)と、抗HER2療法ではベースラインと投与中3か月ごとの心エコー評価を基本とするサーベイランス方針を示している閲覧 2026-08-02