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Lab values · Published

全体長軸方向ストレイン

Global longitudinal strain

別名
GLS長軸方向ストレイングローバルストレイン
臓器系
循環器腫瘍
科目
Internal MedicinePathophysiology
トピック
内科学 S-03:心筋症病態生理学 2-30:腫瘍による二次的障害(1):癌患者の他臓器障害
関連疾患
アミロイドーシス拘束型心筋症心筋炎肥大型心筋症
監視対象薬
トラスツズマブトラスツズマブ・エムタンシン

🧠 全体像LVEFが「左室がどれだけ血液を送り出せたか」という容積の変化を測るのに対し、GLSは「心筋そのものがどれだけ縮んだか」という変形そのものを測る指標である。LVEFは心内膜・中層・の3層の収縮がすべて合算された結果でしか評価できないため、一部のが障害されても他層が代償すれば数値上は正常にとどまりうる。GLSはそのなかでも虚血や心毒性に最も脆弱な心内膜側の長軸方向線維の変形を直接とらえるため、LVEFがまだ正常範囲にある段階で心筋の異常を検出できる——この「早期検出」という一点が、GLSという指標の存在意義のほぼすべてである。

何を測っているか

  • GLSは、の3断面でを行い、心筋内の斑点状のパターン(スペックル)を1心拍のフレームごとに追跡して、からにかけて心筋が長軸方向にどれだけ短縮したかを解析し、3断面の平均として算出する。
  • 心筋線維は心内膜側ほど長軸方向に、ほど周方向に走行する層構造をとる。心内膜側の長軸方向線維はの最も末端に位置するため虚血に最も弱く、心毒性のある薬剤の影響も真っ先に受ける層である。LVEFは3層の収縮を合算した容積比にすぎないため、心内膜線維だけが障害された段階では中層・の代償で見かけ上保たれてしまうことがある。GLSはこの心内膜線維の変形を直接反映するため、心筋障害の最初のを拾いやすい。
flowchart TD
    A["虚血・心毒性のある薬剤"] --> B["心内膜側の長軸方向線維がまず障害される"]
    B --> C["長軸方向の短縮が減少"]
    C --> D["GLSが悪化<br>(絶対値が小さくなる)"]
    B --> E["中層・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epicardium'>心外膜</span>線維は代償"]
    E --> F["容積比としてのLVEFは保たれる"]
    D -.LVEFより先に検出できる.-> F

GLSは負の値で表記され、心筋が短縮するほど値はより深く負になる。 つまり「GLSの絶対値が小さくなる(0に近づく)=心機能の悪化」であり、数値だけを見ると−20%から−14%のように上昇して見える変化が、実際には悪化を意味する。逆に「GLSが低下した」という表現が改善(より深い負値になった)を指すこともある。この符号の向きの読み違えが、GLSを扱ううえで最も起こりやすい誤りである。

基準値と単位

単位は%で、心内膜側の長軸方向の収縮期最大短縮率を表す。ASE/EACVIの合同コンセンサス声明は、正常な左室GLSを−18%より深い値、−16〜−18%を境界域、−16%より浅い値を異常と定義している1

⚠️ GLSはベンダー(装置・解析ソフト)間の差が大きい検査である。 同じ収録画像でも製造元が異なる解析ソフトでは値がずれうるため、上記のコンセンサス声明は経時フォローを同一ベンダーの装置・解析ソフトで行うよう推奨している1。施設を変えたり装置・ソフトウェアを更新したりした際は、新旧の値を単純に比較しない。

異常値の意味

GLSの低下(絶対値の減少)は、原因を機序でまとめると整理しやすい。

代表疾患・病態 所見の特徴
がん治療関連心機能障害 などのHER2標的薬、などの LVEFより早期に低下し、LVEFがまだ保たれている無症候性の段階での検出に用いられる
全身性のの心浸潤 ・中部が高度に低下する一方、は比較的保たれるが特徴的。この所見を契機に原因蛋白(AL型・ATTR型)の鑑別へ進む
特にで低下しやすく、や高血圧性など生理的な壁肥厚との鑑別の補助になる
心筋炎 心筋炎 LVEFが保たれたままでも局所または全体のGLSが低下し、な心筋障害の検出に用いられる
弁膜症 高度の弁膜症でLVEFがまだ保たれる段階での潜在的な左室機能障害の検出に用いられ、手術・介入時期の判断材料になる

💡 がん治療関連の心毒性は、による不可逆的な障害と、HER2標的薬などの分子標的薬による可逆的な障害に大別される。 GLSによる早期検出は、この2つのうちとくに可逆的な障害で意味を持つ——不可逆な障害は早く見つけても打てる手が限られるのに対し、可逆的な障害ではや専門科への紹介によって心機能の回復が期待できるからである。

測定上の注意

  • ⚠️ に強く依存する。 心内膜境界が不明瞭だとスペックルの追跡精度が落ち、フレームレートが不適切でも正確な追跡ができない。良好な収録なしにGLSの数値だけを鵜呑みにしない。
  • ⚠️ ベンダー間差が大きい。 同じ収録画像でも解析ソフトが異なれば値がずれることがあり、経時フォローは同一ベンダーの装置・解析ソフトで行う1
  • 符号を読み違えない。 「GLSが上昇した」という表現が−20%から−14%のような変化を指すことがあり、これは絶対値の減少すなわち悪化を意味する。報告書やカルテで「上昇・低下」という語だけで判断せず、実際の数値の変化方向を確認する。
  • 単回値ではなく、ベースラインからの相対変化で判定する。 LVEFと同様、GLSもが大きいため治療前のベースライン値との比較で解釈するのが原則で、単発の絶対値だけで「正常・異常」を断定しない。
  • 負荷条件に依存する。 LVEFと同じく、GLSも前負荷・の影響を受ける指標であり、心筋そのものの内因性収縮力を負荷条件から完全に切り離して測れているわけではない。

経時変化とモニタリング

GLSの臨床的な価値は、単回の測定値そのものより治療前のベースラインとの比較にある。心毒性のある薬剤を開始する前に必ずベースラインのGLSを測定しておかなければ、投与中の変化幅を評価できない。

flowchart TD
    A["心毒性のある治療を開始する前"] --> B["ベースラインのGLSを測定"]
    B --> C["投与中は定期間隔でGLSを再測定"]
    C --> D{"ベースラインからの相対低下は?"}
    D -->|"相対低下 >15%"| E["LVEFがまだ正常でも<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='subclinical'>亜臨床的</span>CTRCDを疑う"]
    D -->|"相対低下 15%以下"| F["経過観察を継続"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiac troponin'>心筋トロポニン</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='natriuretic peptide'>ナトリウム利尿ペプチド</span>と合わせて評価"]

LVEFノートで扱った(CTRCD)のでも、GLSの相対低下(>15%)はLVEF 40〜49%への低下と並ぶ中等度CTRCDの判定要素として使われている2。GLSが先に悪化しLVEFがまだ保たれている段階を捉えられることが、ベースライン測定を省略できない理由である。判定を補強するの扱いはLVEFノートに譲る。

ベースラインを取り忘れると、GLSは「早期発見」の指標として機能しなくなる。 治療開始後に初めて測定した値だけでは、それがの範囲内なのか治療による低下なのかを判断できない。

まとめ

  • GLSは、LVEFが容積の変化を見るのに対し、心筋そのものの長軸方向の変形を直接見る指標であり、心内膜側の脆弱な線維の障害をLVEFより早く検出できる。
  • で測定し、値は負で表される。絶対値が小さくなること(数値上は上昇して見えること)が悪化を意味する符号の読み違えに注意する。
  • 正常は−18%より深い値、−16〜−18%は境界域とされるが、ベンダー間差が大きいため経時フォローは同一装置・同一ソフトで行う。
  • がん治療関連心機能障害・)・・心筋炎・弁膜症など、機序の異なる病態で低下する。
  • 依存性・負荷条件依存性があり、単回値でなくベースラインからの相対変化(>15%の低下など)で判定するのが原則で、心毒性ではベースライン測定が不可欠である。

出典

  1. 1.2022 ESC Guidelines on cardio-oncology(European Society of Cardiology・2022)癌治療関連心機能障害(CTRCD)の重症度分類において、LVEF 40〜49%への低下にGLSの相対低下(>15%)または心筋バイオマーカー上昇を伴う場合を中等度CTRCDとする基準を示している。GLSの変化はLVEF低下に先行しうる早期指標として位置づけられている。閲覧 2026-08-02
  2. 2.Clinical Applications of Strain Echocardiography: A Clinical Consensus Statement From the American Society of Echocardiography Developed in Collaboration With the European Association of Cardiovascular Imaging of the European Society of Cardiology(American Society of Echocardiography / European Association of Cardiovascular Imaging・2026)正常な左室GLSは−18%より深い(陰性度が強い)値とし、−16〜−18%を境界域、−16%より浅い値を異常と定義した。ベンダー間で測定値に系統的な差があるため、GLSの経時フォローは同一ベンダーの装置・解析ソフトで行うことを推奨している。閲覧 2026-08-02