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Disease Atlas · 循環器 · 疾患

大動脈弁狭窄症

Aortic stenosis

別名
AS
臓器系
循環器
科目
CardiologyInternal MedicinePathology
トピック
循環器内科 A-12:大動脈弁狭窄症・逆流症の診断循環器内科 B-01:大動脈弁狭窄症・逆流症の治療内科学 L-05:心臓弁膜症病理学 B/32:変性性弁膜症(石灰化大動脈弁狭窄・僧帽弁逸脱)病理学 B/35:弁膜症とその結果
上位概念
心臓弁膜症
鑑別疾患
肥大型心筋症
続発疾患
慢性心不全感染性心内膜炎
関連疾患
血管異形成心房細動大動脈縮窄大動脈弁閉鎖不全症
治療薬
フロセミドアセチルサリチル酸ワルファリン
症状
呼吸困難失神狭心症
検査値
ナトリウム利尿ペプチド
画像所見
石灰化
組織像
大動脈弁膜症
禁忌薬
イソソルビドモノニトラートヴェルナカラントニトログリセリンフェロジピンモルシドミン

🧠 全体像(AS)は、狭くなった弁口が左室に慢性のを強いる疾患である。心室はでしばらく代償するが、による拡張障害が先行し、進行すると収縮機能も破綻する。診断の主役は心エコーで、・左室機能を統合して重症度を判定し、低流量・低の紛らわしい病型ではやCT石灰化スコアで「見かけの重症度」を見破る。ASそのものを治す薬剤はなく、根治は(SAVRまたはTAVI)であり、介入時期の判断は症状の有無と、無症候でもハイリスクを示す所見の有無にかかっている。

定義と病態

正常大動脈は2.5〜3.5 cm²程度で、重症ASでは1 cm²未満(で補正したでは0.6 cm²/m²未満)まで狭小化する。原因は年齢層によって大きく異なる。

  • 加齢性石灰化変性(変性性AS):高齢者における最多の原因。動脈硬化と共通の危険因子(脂質異常、喫煙、高血圧など)を背景に、の流出側を中心に石灰化塊が沈着し、機械的に開放を妨げる。もともと3尖の弁に生じる。
  • :先天的に2枚のしか持たない弁で、にさらされ続けるため若年からの早期石灰化・狭窄を来す。中年以降でASを発症する代表的な先天性素因である。まれなはさらに早期・高度の狭窄を来す。
  • ASの癒合により中心に小さな開口を残す。単独で起こることは少なく、病変を伴うことが多い。

⚠️ 「石灰化AS」と「AS」は形態が異なる。前者はの石灰化塊による開放障害、後者はによる開口部の狭小化である。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aortic stenosis'>大動脈弁狭窄</span><br>(石灰化変性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bicuspid valve'>二尖弁</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rheumatic'>リウマチ性</span>)"] --> B["左室<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pressure overload'>圧負荷</span>"]
    B --> C["求心性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left ventricular hypertrophy'>左室肥大</span>"]
    C --> D["拡張早期は1回拍出量・心拍出量を代償"]
    C --> E["心筋<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reduced vascular compliance'>コンプライアンス低下</span>"]
    E --> F["拡張障害・左室<span class='jp-term jp-term-diagram' title='filling pressure'>充満圧</span>上昇"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='effort dyspnea'>労作時呼吸困難</span>"]
    C --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial oxygen demand'>心筋酸素需要</span>増加+拡張期灌流時間短縮"]
    H --> I["相対的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial ischemia'>心筋虚血</span>"]
    I --> J["狭心症"]
    B --> K["固定された心拍出量"]
    K --> L["労作時に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral vasodilation'>末梢血管拡張</span>へ追随できず血圧低下"]
    L --> M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exertional syncope'>労作時失神</span>"]
    C --> N["進行すると<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial fibrosis'>心筋線維化</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systolic dysfunction'>収縮機能障害</span>"]
    N --> O["左室収縮不全・心不全の顕在化"]
    D -.長期の圧負荷.-> N

💡 ASの心不全は「収縮できない」ためではなく、まず「肥厚した心室が硬くなり十分に拡張・充満できない」ことから始まる。(EF)は長期にわたって保たれ、進行例で初めてが加わる。

臨床像

狭心症・失神・呼吸困難で、いずれも機序が異なる。

症状 機序
狭心症 肥厚心筋の増加と、拡張期灌流時間の短縮・低下による相対的虚血。冠動脈にがなくても生じうる
失神(労作時) 狭い弁口により心拍出量が固定され、運動時のに見合う増加ができず血圧が低下する。不整脈が関与することもある
呼吸困難 拡張障害による左室上昇が主体で、進行するとも加わる

症状が一つでも出現すると予後は急速に悪化し、歴史的では狭心症出現後の平均生存期間が最も長く、失神、の順に短くなる。

身体所見

所見 内容
(pulsus parvus et tardus)、脈
右第2肋間をとする収縮期中期の漸増型雑音。頸動脈へ放散し、大動脈弁領域にを触れることがある
Ⅱ音 減弱・単一化(大動脈弁成分の消失)
その他 、S4(による拡張障害を反映)、持続性の

⚠️ ASは固定狭窄であり、HCMの動的流出路閉塞のように体位や手技で雑音の強さが大きく変化しない点が鑑別に役立つ。

重症度評価

心エコー・ドプラで最大、平均を組み合わせて重症度を判定する。

重症度 最大 平均 係数
軽症 2.6〜2.9 m/s <20 mmHg >1.5 cm²
中等症 3.0〜4.0 m/s 20〜40 mmHg 1.0〜1.5 cm²
⭐ 重症 ≥4.0 m/s ≥40 mmHg <1.0 cm² ≤0.6 cm²/m²

低流量・低圧較差ASという落とし穴

が低下している(目安として<35 mL/m²)と、が真に狭くても速度・が上がりきらず、見かけ上は軽症〜中等症に見えることがある。

病型 LVEF 特徴
古典的 低下(<50%) 収縮不全により速度が上がらない
保たれる(≥50%) 高度が小さく、1回拍出量がに減少する
正常流量・低AS 保たれる は重症域だが流量・は中等症域にとどまる、境界例

💡 が重症域でもが中等症域にとどまる場合、「本当に重症のASか」「加齢や小柄な体格による見かけ上のか」を見極める必要がある。

診断

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='effort dyspnea'>労作時呼吸困難</span>・狭心症・失神、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systolic murmur'>収縮期雑音</span>で疑う"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transthoracic echocardiography (TTE)'>経胸壁心エコー</span>"]
    B --> C["弁形態・石灰化の程度"]
    B --> D["最大<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood velocity'>血流速度</span>・平均<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pressure gradient'>圧較差</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='valve area'>弁口面積</span>"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left ventricular hypertrophy'>左室肥大</span>・拡張機能・LVEF"]
    D --> F{"重症度と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stroke volume index'>1回拍出量係数</span>は整合するか"}
    F -->|"整合する(高<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pressure gradient'>圧較差</span>重症AS)"| G["重症ASとして<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>へ"]
    F -->|"低流量・低<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pressure gradient'>圧較差</span>で不整合"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dobutamine stress echocardiography'>ドブタミン負荷心エコー</span>または<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-contrast CT'>非造影CT</span>による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aortic valve calcium score'>大動脈弁石灰化スコア</span>"]
    H --> I["負荷で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pressure gradient'>圧較差</span>が重症域に到達=真の重症<br>石灰化スコアが高値=重症の可能性大"]
    I --> G
    G --> J["症状・LVEF・危険因子を統合し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='heart team'>ハートチーム</span>で介入時期と術式を決定"]
検査 目的・所見
心電図 、ST-T変化。非特異的だがスクリーニングに有用
標準検査。弁形態・石灰化、と機能を一度に評価する
でLVEFが低下している症例に用い、収縮を評価しつつ負荷下ので真の重症度を判定する
LVEFが保たれたで、石灰化の定量により真の重症狭窄か否かを判定する
心エコー所見が不明瞭・症状と乖離する場合や、侵襲的・冠動脈評価を要する場合に追加する

治療

⚠️ ASそのものを治す薬剤は存在しない。うっ血症状に対する利尿薬は手術中の対症療法にとどまり、狭窄を解除しない。急激な前負荷・低下をきたすは、固定された心拍出量に依存する血行動態を崩し失神・低血圧を招きうるため慎重に用いる。

介入適応

は重症ASのであり、以下が適応となる。

  • 症候性重症AS:明確な適応。無治療での予後不良を踏まえ、症状出現後は速やかに評価する。
  • 無症候性重症AS+LVEF低下:他に原因のないLVEF<50%はそれ自体が明確な適応であり、にかかわらず介入する。
  • 無症候性重症AS+LVEF保持+:運動での症状出現・異常血圧反応、著明な(最大がきわめて高い、または急速な進行)、BNPのなどがあれば、低を条件にを検討する。
  • 他の心臓手術を同時に行う中等症以上のAS:単独では手術適応にならない中等症でも、CABGなど他のを予定している場合は同時にAVRを検討する。

⭐ 近年のガイドラインは、低の無症候性重症AS(LVEF保持例を含む)に対しても、経過観察一辺倒ではなくを選択肢として位置づける方向にある。ただし単独の壁厚や年齢のような固定閾値だけで機械的に決めるのではなく、危険因子の組み合わせとでの検討に基づく。

TAVI と SAVR の選択

外科的AVR(SAVR)を支持する要素 を支持する要素
若年・長いの長期耐久性が重要 高齢・、外科が高い
など解剖学的にTAVIに不利、 アプローチが可能で低侵襲・早期回復を重視
CABGや他弁手術などを同時に要する 、胸部放射線治療歴、損傷リスク
外科リスクが低い 外科リスクが高い、または患者が低侵襲を強く希望する

TAVIは折りたたんだ経カテーテルを狭窄した内へ進め、をまたぐ位置で展開して石灰化した尖を外側へ押し広げて固定する。解剖学的に可能ならからのが第一選択で、が使えない場合の代替にとどまる。⭐ 2025年改訂のガイドラインは、解剖が適した70歳以上へのTAVIと、低外科リスクの70歳未満へのSAVRをそれぞれ明確な適応(Class I)として年齢閾値を示した(従来は75歳前後を目安としていた)1これは欧州の基準である点に注意する——米国ACC/AHAの現行版(2020年公表、次期改訂は2026年後半予定)は単純な70歳を採らず、65歳未満はSAVR優先、65〜80歳は、80歳超はTAVI優先という3区分を用いている2。ただしいずれの基準でも二分はあくまで大枠にとどまり、どちらにも明確に該当しない残りの患者では、解剖(径・・アクセス血管)、耐久性、すべき手術、患者の価値観をで統合して判断する。

生体弁と機械弁の選択

SAVRではの種類も選択する。は耐久性に優れるが生涯にわたるワルファリン)を要し、は長期抗凝固を避けられる一方で経年的な(structural valve deterioration)により・再TAVIが必要になりうる。高齢者ではに対する耐久性でが選ばれやすく、若年で長期抗凝固の負担を避けたい場合や抗凝固の禁忌がなければも選択肢になる。年齢だけで機械的に決めず、の実行可能性や患者の価値観を含めて個別に判断する。

バルーン大動脈弁形成術

石灰化・癒合したをバルーンで一時的に押し広げる手技だが、弁を置換しないためが多い。現在は主に血行動態が不安定な症例のSAVR・TAVIまでの橋渡し、またはの適応にならない症例への一時的な症状緩和として用いる。

TAVI後の抗血栓療法

他に経口抗凝固薬の適応(心房細動、など)がない患者では、TAVI後は単剤療法(アスピリン)を基本とする。ルーチンの2剤併用療法やルーチンのは、出血リスクを増やす一方で血栓イベントを減らす明確な利益が示されておらず、現在は推奨されない。心房細動などOACの独立適応がある患者では、を漫然と追加せずOAC単剤を基本に個別判断する。

まとめ

  • ASは弁口狭小化による左室の疾患で、加齢性石灰化変性が最多の原因、は若年発症の代表的素因、病変を伴いやすい。
  • 病態は→拡張障害→(進行例で)の順に進み、狭心症・失神・呼吸困難の三徴はそれぞれ異なる機序で生じる。
  • 重症度は最大・平均で評価し、ではやCT石灰化スコアで真の重症度を見極める。
  • 治療の根治はAVRのみで、症候性重症ASと無症候性重症AS+LVEF<50%はにかかわらず明確な適応、LVEFが保たれていても運動負荷異常・のBNPなどがあれば低リスク例でを検討する。
  • SAVRとTAVIの選択は、では解剖適合の70歳以上へのTAVIと低リスクの70歳未満へのSAVRが明確な適応の大枠を示す一方、米国ACC/AHA(2020年現行版)は65歳未満SAVR・65〜80歳・80歳超TAVIという別の3区分を用いており、単純な年齢一元化はしていない。どちらの基準でも、二分に明確に該当しない患者は複数因子をで統合して決める。SAVRではさらにの選択(抗凝固負担と耐久性の)も検討し、は橋渡し・治療にとどまる。
  • TAVI後の抗血栓療法は、他の抗凝固適応がなければ単剤療法が基本で、ルーチンの2剤併用や経口抗凝固は推奨されない。

出典

  1. 1.2025 ESC/EACTS Guidelines for the management of valvular heart disease(European Society of Cardiology/European Association for Cardio-Thoracic Surgery・2025)TAVI・SAVRの選択における年齢閾値が70歳に明確化された(旧版は75歳目安)。TAVIは解剖適合かつ70歳以上でClass I、SAVRは70歳未満かつ低リスクでClass I。これは欧州(ESC/EACTS)の基準であり、米国ACC/AHAの現行版(2020年)とは区分が異なる。閲覧 2026-08-02
  2. 2.2020 ACC/AHA Guideline for the Management of Patients With Valvular Heart Disease(American College of Cardiology/American Heart Association・2021)SAVR・TAVIの選択は単純な70歳カットオフではなく、65歳未満はSAVR優先、65〜80歳は共同意思決定、80歳超はTAVI優先という3区分を用いる(本稿執筆時点で最新版は2020年公表分、次期改訂は2026年後半予定)。閲覧 2026-08-02