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Disease Atlas · 循環器 · 疾患

肥大型心筋症

Hypertrophic cardiomyopathy

別名
HCM特発性肥大性大動脈弁下狭窄症
臓器系
循環器
科目
CardiologyInternal MedicinePathologyPediatrics
トピック
循環器内科 A-05:肥大型心筋症内科学 S-03:心筋症病理学 B/36:心筋炎・心筋症小児科 3-56:炎症性心疾患と心筋症
上位概念
心筋症
鑑別疾患
Fabry病拡張型心筋症拘束型心筋症大動脈弁狭窄症
続発疾患
心房細動慢性心不全心室性不整脈(心室頻拍・心室細動)
関連疾患
左室拡張機能障害
治療薬
ビソプロロールメトプロロールプロプラノロールベラパミルジルチアゼムジソピラミドアミオダロンソタロールマバカムテンアフィカムテン
症状
胸痛失神動悸労作時呼吸困難
検査値
全体長軸方向ストレイン
画像所見
遅延造影心尖部瘤最大左室壁厚最大左室流出路圧較差左房径
スコア
NYHA心機能分類CHA2DS2-VAScスコアHCM Risk-SCDHCM Risk-Kids
組織像
肥大型心筋症
元疾患
Friedreich失調症Noonan症候群糖原病
適応薬
アフィカムテンマバカムテン
禁忌薬
イソソルビドモノニトラートジギトキシンジゴキシンドブタミンニトログリセリンフェノテロールミルリノンメチルフェニデートモルシドミンリスデキサンフェタミンレボシメンダン

🧠 全体像は、により心筋が異常に肥厚し、「硬くて拡張できない」ため充満障害を来し、しばしば「出口が狭い」ためにも加わる疾患である。診断は他の負荷条件(高血圧、)で説明できないを確認することから始まり、管理は①症状(流出路閉塞・拡張障害)のコントロール、②リスク評価とICD、③家族の遺伝・スクリーニングの3本柱で組み立てる。

定義と病態

HCMは、高血圧・など他の負荷条件では説明できない拡張障害を主体とする心筋症である。心室中隔優位の非対称性肥厚が多いが、すべてのHCMにがあるわけではなく、閉塞の有無で管理方針が分かれる。

代表的な原因はで、なかでもβ-変異が最も知られる。乳児・小児例では異常以外に、などのスペクトラム、といった代謝性・の原因も鑑別に挙がる。

形態的には、により、とくに大動脈弁下の流出路が狭くなる。ではさらに、収縮期に尖が肥厚した中隔側へ引き寄せられる(SAM)が加わり、(MR)を強め合う。組織学的には高度のに加え、が無秩序に配列するがみられる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sarcomere protein gene mutation'>サルコメア蛋白遺伝子変異</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='beta-myosin heavy chain'>β-ミオシン重鎖</span>など)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial hypertrophy'>心筋肥大</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocyte disarray'>心筋錯綜配列</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='asymmetric septal hypertrophy'>非対称性中隔肥厚</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left ventricular outflow tract obstruction'>左室流出路狭窄</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='SAM'>収縮期前方運動</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left ventricular outflow tract obstruction (LVOTO)'>左室流出路閉塞</span>の増悪"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mitral regurgitation'>僧帽弁逆流</span>"]
    B --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reduced vascular compliance'>コンプライアンス低下</span>・拡張障害"]
    H --> I["左室<span class='jp-term jp-term-diagram' title='filling pressure'>充満圧</span>上昇・呼吸困難"]
    F --> J["心拍出量低下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exertional syncope'>労作時失神</span>"]
    B --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial ischemia'>心筋虚血</span>・線維化"]
    K --> L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventricular arrhythmia'>心室性不整脈</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sudden cardiac death (SCD)'>突然心臓死</span>"]
    J --> L

💡 HCMの症状は「収縮できない」ことよりも、肥厚した心室が拡張期に十分な血液を受け入れられないこと、そして流出路が動的に狭くなることの2点から理解するとよい。(EF)はむしろ保たれる(50〜80%)ことが多い点がDCMと対照的である。

表現型の比較(心筋症の鑑別)

表現型 左室EF 不全の機序 代表的な原因
50〜80%(保たれる) 拡張機能不全()±流出路閉塞 遺伝子変異、などの蓄積症、糖尿病母体の児
低下(しばしば<40%) 収縮機能不全 遺伝性、心筋炎後、アルコール・薬剤性、周産期、頻拍誘発性
保たれる〜やや低下 拡張機能不全()、腔拡大なし 、放射線線維化、

臨床像

動的LVOTOの見分け方

LVOTOは固定狭窄ではなく、が小さくなる、または速度が上がる条件で増悪するである。ベッドサイドの手技で雑音の変化を確認することが診断の助けになる。

変化 LVOTO・雑音への影響 理由
立位、、脱水(前負荷低下) 増強 が小さくなる
による低下、運動・による収縮力増加 増強 速度とSAMが増す
しゃがみ込み、ハンドグリップなど前負荷・増加 減弱 が広がる

⚠️ では、前負荷・を急激に下げる利尿薬・、収縮力を高めるジゴキシンなどは症状を悪化させうるため避ける。

小児のHCM

小児では成人と異なり、遺伝性異常に加えてスペクトラム、を鑑別に含める必要がある。乳児期発症例は代謝性・の頻度が相対的に高い。心エコーで肥厚パターン、左室流出路較差、運動、拡張機能を、で線維化を評価する点は成人と共通する。症候性では成人と同様にβ遮断薬を基本とし、選択例でを用いるが、などのは小児での安全性・有効性が確立しておらず、現時点の適応は成人に限られる。

診断

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='effort dyspnea'>労作時呼吸困難</span>・失神・雑音・偶発的な家族歴で疑う"] --> B["3世代家族歴・突然死歴の聴取"]
    B --> C["心電図:LV肥大、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pathologic Q wave'>病的Q波</span>、ST-T異常"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transthoracic echocardiography (TTE)'>経胸壁心エコー</span>"]
    D --> E["安静時流出路較差<50 mmHgなら誘発試験<br>(Valsalva・立位)を追加"]
    E --> F["他の負荷条件で説明できない<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='maximum wall thickness'>最大壁厚</span>≥15 mm(家族歴・遺伝子変異陽性なら≥13 mm)"]
    F --> G["心エコーが不十分・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiac apex (apex of the heart)'>心尖部</span>評価困難なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiac MRI'>心臓MRI</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiac apex (apex of the heart)'>心尖部</span>病変・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='late gadolinium enhancement'>遅延造影</span>による線維化を評価"]
    F --> I["SCDリスク評価・遺伝<span class='jp-term jp-term-diagram' title='counseling'>カウンセリング</span>へ"]
    H --> I
検査 所見
心電図 、ST-T異常。無症状の一次スクリーニングにも使う
⭐ 標準検査。他の負荷条件で説明できない≥15 mm(家族歴陽性または既知のがあれば≥13 mmでも支持)、、安静時または誘発時のLVOT較差、SAM、を評価する
(CMR) 心エコーで判定困難な肥厚、によるの範囲を描出し、SCDリスク評価にも用いる
遺伝学的検査 遺伝子変異の同定は診断の補助と家族スクリーニングの起点になる。変異陰性でも臨床診断を否定しない

突然心臓死リスク評価とICD

SCD予防はHCM管理の柱の一つである。現行のリスク評価は固定の壁厚閾値だけで機械的に判定せず、複数の危険因子を統合して個別化する。

主要な危険因子 内容
心停止・の既往 の絶対適応
特に労作関連・反復性
早期 でのHCMによる若年突然死
高度肥厚(目安として≥30 mm)は危険因子の一つ
などで検出
CMRで評価
での高度な(線維化) 危険因子の評価に組み込む
  • 2023年ESCガイドラインは、これらの危険因子を組み込んだHCM Risk-SCD(5年SCDリスクを算出するスコア、小児にはHCM Risk-Kids)をリスク評価の出発点として用いる。
  • 2024年AHA/ACC/マルチソサエティガイドラインは、単一の点数化ツールに頼らず、上記の危険因子を1〜2年ごとに再評価したうえで患者とのを判断する方針を採る1
  • 心停止・の既往があるHCM患者にはICDが適応となる()。
  • 遺伝子変異陽性・表現型陰性(発症前)の家系員には、としてのICDは推奨されない。
  • ⚠️ による治療はLVOT較差・といった可変の改善を通じてHCM Risk-SCDなどのスコア上の予測値を下げるが、これはスコアが元々「治療による変化」を検証する目的で作られたものではなく、実際のSCDイベント減少を証明したものではない。 によるスコア改善だけを根拠に見直さず、従来の危険因子評価に基づいて独立に判断する2

⭐ 「壁厚〇mm以上なら自動的にICD」という単純な固定閾値運用は現行ガイドラインの考え方ではない。危険因子の組み合わせと患者の価値観を踏まえたが中心である。

治療

薬物治療(閉塞性HCMの症状コントロール)

段階 薬剤 ポイント
第一選択 など) 心拍数と収縮力を抑え、拡張期間を確保してLVOTOと症状を軽減する
第二選択 β遮断薬が無効・のときの代替。安静時症状、低血圧、高度な流出路較差ではを避ける。β遮断薬との併用は支持されていない
追加・第三選択 でも症状が残るに追加する。心筋アクチン-ミオシン相互作用を直接抑制し、とLVOT較差を軽減する
追加選択肢 によりLVOTO症状を軽減する追加選択肢
不整脈への対応 など 心房細動・の管理に用いる

(商品名Camzyos)は2022年に、次世代薬(商品名Myqorzo)は2025年12月19日に、いずれも症候性を適応としてFDAで承認されたである3。2023年ESCガイドライン・2024年AHA/ACC/マルチソサエティガイドラインは、β遮断薬・Ca拮抗薬などのでも症状が残るへの追加治療としてこのクラスを位置づけている。過度のによるEF低下・心不全のリスクがあり、心エコーによる定期的なモニタリングを要する。

中隔縮小療法

薬物治療抵抗性の症候性では、経験豊富なHCMセンターでを検討する。

術式 方法 位置づけ
肥厚した中隔心筋を外科的に切除しLVOTを拡大する 弁形成など他の心臓手術を要する場合や若年患者で優先されやすい。長期成績が確立している
①標的のを進めて一時閉塞し、②でその枝が肥厚中隔だけを灌流することを確認して、③少量アルコールで限局性梗塞を作り、治癒後の中隔菲薄化によりLVOT較差を下げる が高い患者や外科手術を望まない患者に選択する。房室ブロックを起こしうるため一時ペーシングと伝導評価が重要。21歳未満には行わず、40歳未満でも心が可能なら基本的に推奨されない1

心不全との関係

HCMでは左室による拡張障害が中心で、EFが保たれていても左室上昇と心不全症状を生じうる(類似の病態)。進行例では収縮機能も低下しうる(末期・「burnt-out」HCM)。機能制限の評価にはを用い、に伴う心不全に限って用いるためHCMには適用しない。

心房細動

  • 臨床的な心房細動、または24時間を超える無症候性心房細動を認めた場合、にかかわらず全身を行う。HCM自体が心房細動におけるの独立した危険因子であるため、一般集団向けのスコアで低リスクと判定されても抗凝固を省略しない。
  • ・心拍数管理は一般的な心房細動治療に準じるが、薬剤選択ではLVOTOへの影響を考慮する。

運動・スポーツ参加

軽度〜中等度のレクリエーション運動は一般に推奨される。競技スポーツへの参加も一律に禁止せず、病型、流出路閉塞の有無、不整脈リスク、本人の価値観を踏まえてする。

家族評価

  • への心エコー・心電図による定期的な臨床スクリーニングを行う。
  • 遺伝を提供し、家族内で病的変異が同定されていれば標的遺伝学的検査を検討する。
  • 遺伝子変異陽性・表現型陰性の家系員は、年齢に応じた間隔で臨床スクリーニングを継続する。

まとめ

  • HCMは変異に関連する心筋肥厚と拡張障害の疾患で、高血圧やなど他の負荷条件を除外して診断する。
  • 心エコーで(≥15 mm、家族歴・遺伝子変異陽性なら≥13 mm)、流出路較差、SAMを評価し、CMRで病変・線維化を補う。
  • SCDリスクは固定閾値ではなく、心停止歴、失神、家族歴、壁厚、NSVT、、CMR線維化などの危険因子を組み合わせて評価し(ESCはHCM Risk-SCD、AHA/ACCはを重視)、心停止・の既往にはICDが適応となる。
  • の薬物治療はが第一選択、非DHP系Ca拮抗薬が第二選択で、症状が残れば)やを追加する。
  • 薬物治療抵抗性の症候性閉塞にはHCMセンターでのまたは)を検討する。
  • 心房細動を合併したら、にかかわらず全身抗凝固を行う。
  • 運動・スポーツ参加は一律禁止せずで判断し、家族には遺伝と定期スクリーニングを提供する。

出典

  1. 1.2024 AHA/ACC/AMSSM/HRS/PACES/SCMR Guideline for the Management of Hypertrophic Cardiomyopathy(American Heart Association / American College of Cardiology・2024)SCDリスクは固定閾値でなく危険因子の組み合わせと共同意思決定で評価し、アルコール中隔アブレーションは21歳未満を避け、心筋切除術が可能な40歳未満では基本的に推奨しない閲覧 2026-08-03
  2. 2.Cytokinetics Announces FDA Approval of MYQORZO (aficamten) for the Treatment of Adults with Symptomatic Obstructive Hypertrophic Cardiomyopathy(Cytokinetics・2025)アフィカムテン(Myqorzo)は2025年12月19日に症候性閉塞性HCMを適応としてFDA承認された心筋ミオシン阻害薬である閲覧 2026-08-03
  3. 3.Effect of mavacamten on sudden cardiac death risk scores in obstructive hypertrophic cardiomyopathy(ESC Heart Failure(フランス4施設共同、161例のコホート研究)・2026)マバカムテン治療6か月後、ESC HCM Risk-SCDの5年SCDリスク中央値は2.1%から1.4%へ低下し(高リスク群では7.7%から4.6%へ)、この改善は安静時・Valsalva LVOT較差、左房径、中隔厚という治療介入で変化するパラメータの改善に起因すること、ESCモデルはもともと治療による変化を検証するために作られたものではなく、19か月の追跡でSCDイベントは0件のためスコア改善が実際のSCDイベント減少につながるかは未確認であることを確認した閲覧 2026-08-10