病理学

病理学 · B/36

心筋炎・心筋症

Myocarditis and Cardiomyopathies

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High-yield / ポイント
応用トピック
拡張型心筋症肥大型心筋症心血管疾患による突然死心炎心筋症炎症性心疾患と心筋症
疾患
Friedreich失調症拡張型心筋症拘束型心筋症心筋炎心筋症肥大型心筋症不整脈原性心筋症
画像所見
心臓MRI

🧠 全体像:心筋炎は既存の傷害への反応ではなく炎症そのものがの原因になる点が定義の核心で、多くはウイルスが直接筋を融解するか、免疫が筋タンパクを誤って攻撃するかのいずれかで進行し、へ移行しうる。心筋症は3つの機能パターン(拡張型=収縮不全、・拘束型=拡張不全)で整理すると、原因が多彩でも病態生理は少数の型に収束することが見えてくる。

心筋炎 — 定義

心筋炎は心筋の炎症で、炎症過程そのものがの原因となる(既存の傷害への反応ではない)。も侵し、を低下させ不整脈を誘発する。

形態

  • 心臓は正常または拡張して見える。心室心筋は弛緩し、しばしば斑状・びまん性の蒼白・出血巣でまだら模様になる。
  • 顕微鏡:炎症細胞のすぐ隣にのを伴う。

病因と発生機序

  • ウイルス性(最多): A・B、、インフルエンザA/B。機序 = 直接的な傷害、またはとの免疫・T細胞介在性反応。
  • 💡 ()は古典的な代表だが、のでは、のほか、、6、、、、パルボウイルスB19のゲノムも検出されている1。
flowchart TD
    A["ウイルス感染<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Coxsackievirus'>コクサッキー</span>A/B等)"] --> B["直接的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Cytolytic'>細胞融解性</span>傷害"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myosin heavy chain'>ミオシン重鎖</span>との<br>免疫<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cross-reactivity'>交差反応</span>・T細胞介在性反応"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='focal'>巣状</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial necrosis'>心筋壊死</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interstitial inflammatory infiltrate'>間質性炎症細胞浸潤</span>"]
    C --> D
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contractility'>収縮性</span>低下・不整脈"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dilated cardiomyopathy, DCM'>拡張型心筋症</span>へ進行しうる"]

組織学的分類

型 主な特徴
リンパ球性(最多) 急性期のはなく消退するか、進行性の線維化(瘢痕)で治癒する
過敏性 リンパ球・マクロファージ・好酸球の間質・、好酸球パターン、と関連
巨細胞性 (マクロファージ融合)+リンパ球・好酸球・形質細胞の広範な浸潤、進行性
Chagas 炎症細胞とともに浸潤内にを含む

臨床像

無症状 → まで幅広い。その中間に、呼吸困難、不整脈、発熱、胸痛。へ進行しうる。

⚠️ 診断の中心だったによるDallas基準(1987年)は、陰性でも心筋炎を否定できない——が大きい。 リンパ球性心筋炎が死因に関与した剖検心38例から各心室10検体ずつ(計760検体)を採ってDallas基準で判定した研究では、右室生検が陽性だったのは38例中63%・380検体中わずか17%、左室は55%・20%だった。1心室あたり10検体を評価してもなお、偽陰性は左室45%・右室37%である。中隔切片の68%に心筋炎があったのに、生検で通常採取される右室に及んでいたのは24%にすぎなかった2。浸潤が軽度・に分布し、実際の生検は通常1心室あたり数検体にとどまるため、取り逃がしはさらに多い。

💡 このを補う形で、()が非侵襲的な評価手段として組み込まれた。 2018年改訂は、T2系所見(心筋時間上昇・信号上昇=浮腫)を1つ以上と、T1系所見(心筋T1上昇・上昇・=)を1つ以上組み合わせることで診断特異度が高まるとし、侵襲的なに先立つ評価として位置づけられている3。形態診断としてのDallas基準は消えたわけではなく、生検で陽性所見が得られた場合の病理学的裏づけとしては現在も用いられる。の作業部会(2013年)は、Dallas基準の組織所見にを加え、異常なを白血球14個/mm²以上(単球は4個/mm²まで)かつCD3陽性T細胞7個/mm²以上と定義することを提案している1。

心筋症(CM)— 概要

の心筋機能不全により心臓のポンプ能力が損なわれる(進行性心不全)多様な心筋症の。CMは — 冠動脈・弁膜・高血圧性疾患をまず除外する。⚠️ 正確には「それらの疾患だけでは説明できない心筋の構造的・機能的異常」であり、2023年ガイドラインは、心筋症が虚血性・弁膜性・と共存しうること、一方があっても他方を否定できないことを明記している4。

⚠️ この形態・機能を起点とする古典的な4分類(DCM・HCM・RCM・)は消えないが、現在は遺伝子型と表現型を組み合わせた分類へ位置づけを移しつつある。 2008年の形態機能的分類、2013年のMOGE(S)分類を経て、2023年心筋症ガイドラインは「表現型を先に決め、次に病因(遺伝子・)を突き止める」という順序を明示し、従来の4表現型に非拡張型左室心筋症(NDLVC)を加えた5表現型とした54。NDLVCは、左室が拡大していないのに、①の有無を問わず非虚血性の左室瘢痕またはがある、または②瘢痕を伴わずに左室全体の収縮が低下している表現型で、従来の「低非」の語を置き換えたものである4。DCM・・NDLVCの3者は重なりが大きく、一度決めた表現型を固定せず経過とともに見直す5。

3つのパターンの機能的比較

パターン 左室EF 不全の機序 代表的な原因
拡張型 < 40% 収縮機能不全(低下) 遺伝性、アルコール、周産期、心筋炎、、()、特発性
50〜80% 拡張機能不全() 遺伝性()、、蓄積症、糖尿病母体の児
拘束型 45〜90% 拡張機能不全() 、放射線線維化、特発性

拡張型心筋症

  • 特徴: 進行性の心拡張+収縮()機能不全に肥大を伴う。
  • 形態: 心臓は2〜3倍(最大約800g)に拡大、4腔すべてが拡張・弛緩 → → EF < 25% → 血液うっ滞 → → 血栓塞栓。の伸展による、。顕微鏡:非特異的なに+散在性の。
  • 発生機序(多様): 遺伝性(25〜30%が常染色体優性、/変異)、ウイルス性(/の残存)、アルコール(毒性±ビタミンB1欠乏)、周産期(・産後、約50%は消退)。
  • 臨床: 20〜50歳、のCHF、重大な不整脈リスク、からの塞栓、予後不良(約50%が2年以内に死亡)、移植が根治的。

不整脈原性右室心筋症

常染色体優性の変異 → 右室壁が+線維化で菲薄化 → 収縮組織の喪失 → 右心不全、、。

肥大型心筋症

  • 特徴: 拡張を伴わない、の障害(硬い心室)、約1/3で流出路閉塞。
  • 診断の目安: 成人では、負荷条件(高血圧・弁膜症など)だけでは説明できない左室壁厚15 mm以上(どの心筋分節でもよい)。13〜14 mmでは家族歴・遺伝学的所見・心電図異常を併せて評価し、の成人では13 mm以上で診断する4。
  • 形態: 非対称性中隔肥大 → 大動脈弁下狭窄・流出路閉塞、バナナ状の。顕微鏡:高度の、(無秩序な端側配列)、。
  • 発生機序: の点変異、最も多くは → 筋フィラメント活性化の増加 → 、増加。
  • 臨床: の減少、+、、心房細動 → 。

拘束型心筋症(RCM)

  • 一次性の心室 → の障害。心臓はよく収縮するが弛緩できない。心室は正常〜軽度拡大、腔拡張なし、。
  • : アフリカの小児・若年成人、緻密な線維化 → 拘束。
  • : +大きな、末梢の好酸球増多 → の放出 → 心内膜の壊死・。()で改善が期待できるのは、好酸球増多の原因がFIP1L1-PDGFRA融合遺伝子陽性などの骨髄増殖型の場合である(→)。

💡 の原因鑑別では、の型がを左右する。 ATTR型(型)心筋症にはが登場しており、441例を30か月追跡した第3相試験でを29.5%(42.9%、0.70)へ下げた6。AL型(型)とは治療がまったく異なるため、でを疑ったら型の鑑別が必須になる。

💡 ポイント: 心筋炎 = を_引き起こす_炎症(最多は)、古典的にリンパ球性、DCMへ進行しうる。3つの機能的CMパターン:DCM = (拡張、EF < 25%、、アルコール/周産期/遺伝性)、HCM = (非対称性中隔肥大、β-ミオシン変異、、流出路閉塞、若年アスリートの労作時突然死)、RCM = (硬い、/Loeffler/)。ARVC = 変異、線維脂肪性右室、突然死。

まとめ

  • 心筋炎は炎症そのものがの原因となる病態で、最多の原因はウイルス(等)による直接的な傷害または免疫。
  • 組織学的にはリンパ球性(最多)、過敏性、巨細胞性、Chagas性に分類され、無症状から、への進行まで臨床像は幅広い。
  • 心筋症は冠動脈・弁膜・高血圧性疾患だけでは説明できない心筋の異常として診断する(これらと共存することもある)。(DCM、ARVC、、拘束型)と二次性(、Chagas、化学療法性など)に分かれる。
  • は収縮機能不全(EF<40%)、は拡張機能不全+非対称性中隔肥大と変異、は拡張機能不全+硬い心室(、)が特徴。
  • は変異により右室が+線維化を来し、のリスクとなる。
  • 2023年ガイドラインは表現型を先に決めて病因へ進む方針をとり、DCM・HCM・RCM・ARVCに非拡張型左室心筋症(NDLVC)を加えた5表現型で整理する。成人のHCMは負荷条件で説明できない左室壁厚15 mm以上が目安。
  • 心筋炎の生検診断はが大きく、陰性でも否定できない。(2018年改訂)が非侵襲的評価を担い、生検ではDallas基準に(白血球14個/mm²以上・CD3陽性T細胞7個/mm²以上)を加える提案がある。

出典

  1. 1.Current state of knowledge on aetiology, diagnosis, management, and therapy of myocarditis: a position statement of the European Society of Cardiology Working Group on Myocardial and Pericardial Diseases(European Society of Cardiology Working Group on Myocardial and Pericardial Diseases・2013)KU Leuven リポジトリのPDF(誌面レイアウト)全文で、北米・欧州では心筋炎の最も重要な原因はウイルス感染であり、心筋からエンテロウイルス・アデノウイルス・インフルエンザウイルス・ヒトヘルペスウイルス6・EBウイルス・サイトメガロウイルス・C型肝炎ウイルス・パルボウイルスB19のゲノムが報告されていること、組織診断はDallas基準(心筋細胞の変性・壊死を伴う非虚血性の炎症細胞浸潤)に加えて免疫組織化学を用い、異常な炎症細胞浸潤を「白血球14個/mm²以上(単球は4個/mm²まで)かつCD3陽性T細胞7個/mm²以上」と定義することを提案していることを確認した。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Evaluation of postmortem endomyocardial biopsy specimens from 38 patients with lymphocytic myocarditis: implications for role of sampling error(Mayo Clinic Proceedings・1989)リンパ球性心筋炎が死因に関与した剖検心38例で、各心室から10検体ずつ採取した760検体をDallas基準で判定した。右室生検が陽性だったのは38例中63%・380検体中17%、左室は55%・20%にすぎず、1心室あたり10検体を評価してもなお偽陰性は左室45%・右室37%だった。中隔切片の68%に心筋炎があったが、生検で通常採取される右室心内膜下に及んでいたのは24%のみであった。閲覧 2026-09-24
  3. 3.Cardiovascular Magnetic Resonance in Nonischemic Myocardial Inflammation: Expert Recommendations(Journal of the American College of Cardiology・2018)2018年改訂Lake Louise基準は、心筋T2緩和時間上昇・T2強調像信号上昇などのT2系所見を少なくとも1つと、心筋T1上昇・細胞外容積分画上昇・遅延造影などのT1系所見を少なくとも1つ組み合わせることで、心臓MRIによる心筋炎症診断の特異度が高まるとし、侵襲的な心内膜心筋生検に先立つ非侵襲的評価としての位置づけを示した。閲覧 2026-09-24
  4. 4.2023 ESC Guidelines for the management of cardiomyopathies(European Society of Cardiology・2023)Erasmus大学リポジトリの出版社版PDFの全文で、心筋症を「冠動脈疾患・高血圧・弁膜症・先天性心疾患だけでは説明できない、心筋の構造的・機能的異常」と定義し、これらの疾患と心筋症は共存しうると述べていること、表現型の記述から出発して病因診断へ進む方針を掲げ、表現型を肥大型(HCM)・拡張型(DCM)・非拡張型左室心筋症(NDLVC)・不整脈原性右室心筋症(ARVC)・拘束型(RCM)の5つとしたこと、NDLVCを「全体的・局所的な壁運動異常の有無を問わない非虚血性の左室瘢痕または脂肪置換、あるいは瘢痕を伴わない孤立性の左室全体の収縮低下」と定義し、従来の低収縮性非拡張型心筋症の語を置き換えたこと、成人のHCMを負荷条件だけでは説明できない左室壁厚15 mm以上(13〜14 mmでは家族歴・遺伝学的所見・心電図などを併せて評価)と定義したこと、突然死高リスク遺伝子型(LMNA・FLNC短縮型・TMEM43・PLNなど)をもつDCM・NDLVCではLVEF>35%でも遺伝子ごとの追加危険因子があればICDを考慮する(IIa, C)としたことを確認した。閲覧 2026-09-24
  5. 5.Classification of cardiomyopathies: bringing order to complexity(European Heart Journal Supplements・2026)2008年ESCの形態機能的分類と2013年のMOGE(S)分類を経て、2023年ESCは「表現型を先に置く」モデルへ改めた。現行の5表現型は拡張型心筋症(DCM)・肥大型心筋症(HCM)・拘束型心筋症(RCM)・不整脈原性右室心筋症(ARVC)・非拡張型左室心筋症(NDLVC)であり、とくにDCM・ARVC・NDLVCの間で重なりが大きいため、動的で多パラメータ的な診断経路と個別化した解釈が要ることを確認した。閲覧 2026-09-24
  6. 6.Tafamidis Treatment for Patients with Transthyretin Amyloid Cardiomyopathy(The New England Journal of Medicine(ATTR-ACT)・2018)トランスサイレチンアミロイド心筋症441例を30か月追跡した第3相ATTR-ACT試験で、疾患修飾薬タファミジスは全死因死亡を29.5%(プラセボ42.9%、ハザード比0.70、95%CI 0.51〜0.96)へ下げ、心血管関連入院の相対リスク比も0.68であった。ATTRアミロイドーシスに疾患修飾薬が登場したことを確認した。閲覧 2026-09-24