微生物ノート一覧へ

Microbe Atlas · 原虫

Toxoplasma gondii

トキソプラズマ

分類
胞子虫 / SporozoaToxoplasma
科目
Medical Microbiology
トピック
4/22: Toxoplasma gondii5/11: Zoonotic infections (list) and their prevention5/17: Enterally acquired parasitic infections (list) and their diagnosis
原因となる疾患
HIV感染症・AIDSトキソプラズマ症小頭症先天性TORCH感染症中脳水道狭窄脳膿瘍
作用する薬剤
クリンダマイシンスピラマイシンスルファメトキサゾール+トリメトプリムピリメタミン

🧠 全体像を理解する軸は2つ——終宿主はだけであること(はネコ科動物の腸管内でしか起こらず、ヒトを含む他のはすべてのみを行う中間宿主にすぎない)と、胎盤を越えた時期で予後が真逆になることである。妊娠初期に胎盤を越えると(水頭症・脳内石灰化・を残し、後期に越えると出生時は正常でも思春期に再活性化して進行性の失明を起こす。もう一つの顔がAIDS患者における造影の——免疫が保たれている間は無症状のとして眠っているだけの本菌が、免疫が破綻した瞬間に牙を剥く構図は共通している。

微生物学的な特徴

  • に属するで、を持たない。
  • 3つの形態を使い分ける。
形態 特徴
ネコ科動物腸管由来(飼いネコに限らず野生種を含む)1、環境中で感染性を維持する外界型
急速増殖型。急性感染期の組織障害の主体
内での緩徐増殖型。の本体で、脳・骨格筋・眼に好んで潜伏する

生活環

flowchart TD
  A["ネコ科動物が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue cyst'>組織シスト</span>含有の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='rodent'>齧歯類</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='birds'>鳥類</span>を捕食"] --> B["ネコ科動物の腸管内で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sexual'>有性生殖</span><br>(終宿主)"]
  B --> C["未成熟<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oocyst'>オーシスト</span>が糞便中に排出"]
  C --> D["環境中で3〜4日かけて成熟<br>感染性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sporozoites'>スポロゾイト</span>を持つ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oocyst'>オーシスト</span>に"]
  D --> E["ヒト・他の動物が経口摂取<br>(中間宿主)"]
  F["加熱不十分な肉の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue cyst'>組織シスト</span>摂取"] --> E
  E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sporozoites'>スポロゾイト</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bradyzoite'>ブラディゾイト</span>が細胞に感染"]
  G --> H["急速増殖する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tachyzoite'>タキゾイト</span>へ<br>(組織障害)"]
  H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bradyzoite'>ブラディゾイト</span>として<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue cyst'>組織シスト</span>内で緩徐増殖<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic infection'>慢性感染</span>として<span class='jp-term jp-term-diagram' title='encystment (to encyst)'>被嚢</span>)"]
  I -.->|"免疫抑制で再活性化"| H
  A -.->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rodent'>齧歯類</span>が中間宿主として循環"| A

病原性の仕組み

  • は宿主細胞内で急速に増殖して細胞を破壊しながら周囲に拡散し、急性期の組織障害(リンパ節炎、脳炎、心筋炎など)の主体となる。
  • 免疫応答が確立すると大部分のは排除されるが、一部はとして内にし、脳・骨格筋・眼などに生涯にわたり潜伏する。
  • 免疫抑制下ではが再びへ転換し(再活性化)、組織障害をさせる——AIDS患者の脳病変はこの機序による。

⚠️ の「時期」が予後を決める。 血症を来した妊婦から胎盤を介して胎児に感染する。

  • 早期に胎盤を越えた場合:(失明に至りうる)・水頭症・脳内石灰化という2を残す。を伴うこともあり、早産・流産に至ることもある。
  • 後期に胎盤を越えた場合:出生時は正常に育つが、思春期に再活性化し進行性の失明を起こしうる。

感染経路と疫学

  • ネコの糞便に汚染された土壌・水・食物の経口摂取(猫砂の処理を含む)。
  • 加熱不十分な、を含むの肉(特に豚・羊)の摂取。
  • 、輸血・臓器移植による感染も起こりうる。
  • 妊婦・免疫不全者では感染経路の回避が予防の中心になる。

起こす疾患

宿主 臨床像
免疫正常者 無症状のことが多いが、発熱・筋肉痛・リンパ節炎などを呈することもある
妊婦・胎児 の一つ。の時期で予後が異なる(上記)
免疫不全者(HIV感染症・AIDSなど) びまん性脳症・AIDS患者におけるCNS疾患の最多原因で、脳画像ではに増強する病変として描出される

診断

  • 検査。
  • 血清学:⚠️ IgM陽性は急性感染を意味しない——IgMは感染後数か月〜数年にわたり陽性が持続しうるため3、単独では急性感染を診断できない。(低=直近の感染、高を示唆)でIgGが最近の感染かかを鑑別し、組み合わせて感染時期を推定する。
  • PCR:CSF検体(主にAIDS/HIV患者)。
  • 生検:リンパ節、脳、心筋、体液からの検体。
  • AIDS患者の脳病変では、との鑑別が臨床上重要になる。

治療と予防

まとめ

  • で、終宿主はのみ)、ヒトを含む他の動物はのみを行う中間宿主。
  • 感染はネコ糞便中の、または加熱不十分な肉中のの経口摂取で成立し、・輸血感染も起こりうる。
  • の時期で予後が真逆になる——早期は(水頭症・脳内石灰化・)、後期は思春期の再活性化による進行性失明。
  • AIDS患者ではを伴う脳症・の最多原因となり、との鑑別が重要。
  • 診断はIgM単独に頼らず、と組み合わせた感染時期の鑑別が中心。妊婦への食事指導(加熱不十分な肉・猫砂を避ける)がの柱。

出典

  1. 1.Congenital Toxoplasmosis(StatPearls Publishing (NCBI Bookshelf)・2023)先天性トキソプラズマ症の古典的三徴は脈絡網膜炎・水頭症・脳内石灰化の3つで、小頭症や精神発達遅滞は三徴そのものには含まれないことを確認した。閲覧 2026-08-03
  2. 2.Significance of a Positive Toxoplasma Immunoglobulin M Test Result in the United States(Journal of Clinical Microbiology・2015)Toxoplasma特異的IgMは急性感染後、数か月〜数年にわたり陽性が持続しうるためIgM単独の陽性は最近感染したことを意味せず、IgGアビディティ試験と組み合わせて解釈する必要があることを確認した。閲覧 2026-08-03
  3. 3.Toxoplasma gondii infection in domestic and wild felids as public health concerns: a systematic review and meta-analysis(Scientific Reports・2021)Toxoplasma gondiiの終宿主は飼いネコに限らず、野生種を含むネコ科動物(Felidae)全般であることを確認した。閲覧 2026-08-03