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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

トキソプラズマ症

Toxoplasmosis

臓器系
感染症
科目
Medical MicrobiologyInternal Medicine
トピック
微生物学 4/22:トキソプラズマ・ゴンディ内科学 S-59:原虫感染症―ジアルジア症・トキソプラズマ症・アメーバ症・マラリア
鑑別疾患
眼トキソカラ症原発性中枢神経系リンパ腫進行性多巣性白質脳症猫ひっかき病脳膿瘍
関連疾患
先天性TORCH感染症
治療薬
スピラマイシンスルファメトキサゾール+トリメトプリムクリンダマイシンロイコボリン
原因微生物
Toxoplasma gondii
症状
発熱筋肉痛リンパ節腫脹頭痛痙攣難聴脈絡網膜炎
画像所見
石灰化リング状増強病変
原因となる疾患
HIV感染症・AIDS
適応薬
サルファジアジンピリメタミン

🧠 全体像を理解する軸は「終宿主はだけ」と「胎盤を越えた時期で予後が真逆になる」の2点である。はネコ科動物の腸管内でしか起こらず、ヒトを含む他のはすべてだけを行う中間宿主にすぎない。そしては、妊娠初期に胎盤を越えると重症の・水頭症・)を残し、に越えると出生時は正常でも思春期に再活性化して進行性の失明を起こす——「いつ越えたか」がすべてを決める。もう1つの顔は、AIDS患者における脳病変の最多原因という感染としての側面である。

病原体と生活環

項目 内容
分類 ——を持たない
終宿主 全般(飼いネコに限らない)。が起こる1
中間宿主 ヒトおよびその他の動物(のみ)
形態① 内の
形態② ——急速増殖型、組織障害の原因
形態③ ——内での緩徐増殖型、の本体
flowchart TD
  A["ネコ科動物が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue cyst'>組織シスト</span>含有の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rodent'>齧歯類</span>を捕食"] --> B["ネコ科動物の腸管内で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sexual'>有性生殖</span>"]
  B --> C["未成熟<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oocyst'>オーシスト</span>が糞便中に排出"]
  C --> D["環境中で3〜4日かけて成熟<br>感染性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sporozoites'>スポロゾイト</span>を持つ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oocyst'>オーシスト</span>に"]
  D --> E["ヒト/動物が経口摂取<br>(または加熱不十分な肉の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue cyst'>組織シスト</span>摂取)"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sporozoites'>スポロゾイト</span>が細胞に感染"]
  F --> G["急速増殖する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tachyzoite'>タキゾイト</span>へ<br>(組織障害)"]
  G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue cyst'>組織シスト</span>内で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bradyzoite'>ブラディゾイト</span>として緩徐増殖<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic infection'>慢性感染</span>として<span class='jp-term jp-term-diagram' title='encystment (to encyst)'>被嚢</span>)"]
  H -.->|"免疫抑制で再活性化"| G

感染経路

  • ネコの糞便に汚染された土壌・水・食物の経口摂取。
  • 加熱不十分な、を含むの肉の摂取。
  • 、輸血感染も起こりうる。

臨床像

免疫正常者

  • 無症状のことが多いが、を呈することもある。
  • 急性感染:発熱筋肉痛リンパ節炎
  • :発疹、肝炎、心筋炎、

妊婦:先天性トキソプラズマ症

⚠️ の「時期」が予後を決める。 汚染された肉やネコの糞との接触による初感染で、が血流を介して胎盤を越え胎児に達する。

⚠️ 年長児のと決めつけない。 の脈絡網膜瘢痕はに由来し出生前後から存在するのに対し、は土壌中の虫卵摂取による後天性の感染で、年長児(8歳前後)にとして現れる点が対照的である。

免疫不全患者(AIDS等)

  • びまん性脳症またはを起こしうる——AIDS患者における中枢神経系疾患の最多原因3
  • 脳画像では多発として描出される。頭痛、発熱、けいれんを呈する。
  • 発症のほとんどは、既感染(IgG陽性)者における潜伏感染()の再活性化による。
flowchart TD
    A["AIDS患者の頭痛・発熱・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='focal neurologic sign'>局在神経徴候</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Toxoplasma'>トキソプラズマ</span>IgG既往確認+脳画像"]
    B --> C{"多発<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ring-enhancing lesion'>リング状増強病変</span>"}
    C -->|"あり・IgG陽性"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='empiric therapy'>経験的治療</span>を開始し治療反応を評価"]
    C -->|"治療反応不良・非典型"| E["原発性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central nervous system lymphoma'>中枢神経系リンパ腫</span>等の<br>他疾患を鑑別"]

⚠️ への反応が乏しい・な例では原発性を鑑別する。 の多発性・辺縁優位の造影パターンとは異なり、同リンパ腫は単発〜少数個の均一な造影病変を呈する傾向がある。鑑別を急ぐあまり診断確定前にステロイドを投与すると、リンパ腫の生検診断を困難にしうる点に注意する。

診断

  • 検査。
  • 血清学:⚠️ 免疫グロブリンM(IgM)陽性は急性感染を意味しない。 Toxoplasma特異的IgMは感染後数か月〜数年にわたり陽性が持続しうるため4、IgM陽性だけで「最近感染した」と判断してはならない。(低は直近3〜5か月以内の感染を、高はそれ以前の感染を示唆する)で免疫グロブリンG(IgG)が最近の感染かかを鑑別し、両者を組み合わせて感染時期を推定する。
  • 妊婦で母体の急性感染が確認された場合は、妊娠18週以降かつ推定感染時期から4週間以上あけてで胎児感染の有無を評価する(これより早い時期の検査は偽陰性になりやすい)5
  • PCR:髄液検体(主にAIDS/HIV患者)。
  • 生検:リンパ節、脳、心筋、体液からの検体。

治療

💡 なぜを併用するのか。 を阻害して原虫のを止めるが、この酵素は宿主にも存在するため骨髄抑制(血球減少)を来しうる。(すでに還元された活性型の葉酸)を補うと、宿主細胞はDHFRを経由せずこの活性型葉酸をそのまま利用できるためから救済されるが、原虫はを取り込む経路を持たないための恩恵を受けられず、抗原虫効果は保たれる。

予防

  • 妊婦・免疫不全者では曝露源の回避がの柱。 肉は中心部まで十分に加熱する、生野菜・果物はよく洗う、猫トイレの処理は他者に委ねるか、避けられない場合は手袋着用と直後の手洗いを徹底する、ガーデニング時も手袋を着用する。
  • 💡 猫砂は毎日交換する。 本ノート冒頭の生活環にあるとおり、糞便中のは排出後3〜4日かけて初めて感染性を獲得するため、その前に取り除けば感染性を持つ前に処分できる。

まとめ

  • で、終宿主は全般のみ()、ヒトを含む他の動物はのみを行う中間宿主。
  • 感染はネコ科動物糞便中の、または加熱不十分な肉中のの経口摂取で成立し、・輸血感染も起こりうる。
  • 免疫正常者では無症状〜が主だが、の時期により重症度が全く異なる(早期=・水頭症・〕、後期=思春期の再活性化による進行性失明)。
  • AIDS患者では潜伏感染の再活性化により多発を伴う脳症・の最多原因となる。
  • 診断はIgM単独に頼らず、IgGと組み合わせた感染時期の鑑別が中心。妊婦の胎児感染評価は妊娠18週以降・母体感染から4週間以上あけたで行う。
  • 治療は・AIDS患者とも拮抗による骨髄抑制をが防ぐ)を基本とし、妊婦(胎児感染未確定)にはを用いる。AIDS患者のにはST合剤を用い、ARTでCD4>200/µLが3か月以上・ウイルス抑制が持続すれば中止を検討する。
  • 予防は加熱不十分な肉の回避、猫トイレの取り扱いなど曝露源の回避が中心で、妊婦・免疫不全者では特に重要。

出典

  1. 1.Congenital Toxoplasmosis(StatPearls Publishing (NCBI Bookshelf)・2023)先天性トキソプラズマ症の古典的三徴は脈絡網膜炎・水頭症・脳内石灰化の3つで、精神発達遅滞や難聴は三徴そのものには含まれないことを確認した。閲覧 2026-08-03
  2. 2.Significance of a Positive Toxoplasma Immunoglobulin M Test Result in the United States(Journal of Clinical Microbiology・2015)Toxoplasma特異的IgMは急性感染後、数か月〜数年にわたり陽性が持続しうるためIgM単独の陽性は最近感染したことを意味せず、IgGアビディティ試験と組み合わせて解釈する必要があることを確認した。閲覧 2026-08-03
  3. 3.Toxoplasma gondii infection in domestic and wild felids as public health concerns: a systematic review and meta-analysis(Scientific Reports・2021)Toxoplasma gondiiの終宿主は飼いネコに限らず、野生種を含むネコ科動物(Felidae)全般であることを確認した。閲覧 2026-08-03
  4. 4.Toxoplasmosis in HIV infection: An overview(Tropical Parasitology・2016)トキソプラズマ症は現在も先進国のHIV/AIDSにおける代表的な日和見感染であり、AIDS患者における巣状脳病変の最多原因であることを確認した。閲覧 2026-08-03
  5. 5.Combination of Clindamycin and Azithromycin as Alternative Treatment for Toxoplasma gondii Encephalitis(Emerging Infectious Diseases・2019)AIDS患者のトキソプラズマ脳炎治療でピリメタミン+クリンダマイシンがピリメタミン+サルファジアジンの代替として位置づけられ、クリンダマイシンはサルファジアジンより副作用が少ないことを確認した。閲覧 2026-08-03
  6. 6.Opportunistic Infections: Prevention (National HIV Curriculum core concept, citing the NIH/CDC/HIVMA Adult and Adolescent OI Guidelines)(National HIV Curriculum, University of Washington・2026)トキソプラズマ脳炎の一次予防はCD4数100/µL未満かつIgG陽性が適応基準であり、中止基準はARTによりCD4数200/µL超が3か月以上かつHIV RNAが検出限界未満に維持されていることであると確認した。閲覧 2026-08-03
  7. 7.Performance of Polymerase Chain Reaction Analysis of the Amniotic Fluid of Pregnant Women for Diagnosis of Congenital Toxoplasmosis: A Systematic Review and Meta-Analysis(PLOS ONE・2016)羊水PCRは妊娠18週未満では推奨されず、母体の推定感染時期から4週間以上あけて実施すべきであることを確認した。閲覧 2026-08-03